IHI(7013)は2026年8月5日、2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)の決算を発表しました。売上収益は前年同期比10.9%増の3,745億円、営業利益は250.5%増の732億円となり、表面上は非常に大きな増益です。ただし、営業利益には東京都江東区の不動産譲渡による400億円の売却益が含まれています。
今回の決算を正しく見るには、不動産売却益を除いた本業の利益がどこまで伸びたのかを確認する必要があります。結論から言えば、一過性利益を除いても営業利益は331億円と前年同期から約59%増え、1Qとして過去最高を更新しました。民間航空エンジン、原子力、ライフサイクルビジネス、車両過給機の採算改善など、複数の事業が利益成長に貢献しています。
この記事では、IHIの最新決算について、営業利益732億円の中身、民間航空エンジンとアフターマーケットの成長、防衛・原子力の状況、PW1100G-JM追加検査プログラム、通期上方修正、キャッシュフローまで詳しく解説します。

IHIの最新決算はどうだった?

結論として、2027年3月期1Qは「不動産売却益で報告利益が大きく膨らんだ一方、本業も明確に改善した好決算」と評価できます。営業利益250.5%増という数字をそのまま本業の成長率として扱うことはできませんが、売却益を取り除いても利益率は改善しており、成長事業と安定収益事業の双方で収益力が上向いています。
| 項目 | 2026年3月期1Q | 2027年3月期1Q | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 受注高 | 4,243億円 | 3,607億円 | ▲15.0% |
| 売上収益 | 3,377億円 | 3,745億円 | +10.9% |
| 営業利益 | 208億円 | 732億円 | +250.5% |
| 営業利益率 | 6.2% | 19.5% | +13.3pt |
| 不動産売却除く営業利益 | 208億円 | 331億円 | +123億円 |
| 不動産売却除く営業利益率 | 6.2% | 8.8% | +2.6pt |
| 税引前利益 | 202億円 | 819億円 | +305.3% |
| 親会社帰属利益 | 116億円 | 535億円 | +361.3% |
| EBITDA | 389億円 | 938億円 | +548億円 |
| 営業キャッシュ・フロー | ▲53億円 | ▲432億円 | 379億円悪化 |
売上収益は10.9%増、営業利益は3.5倍
売上収益は前年同期の3,377億円から3,745億円へ367億円増加しました。前期に交通システム事業など複数の事業を譲渡した影響で減収要因があったにもかかわらず、全社では2桁増収を確保しています。
IHIの決算説明資料では、事業譲渡による減収影響が▲112億円あった一方、事業拡大によって+480億円の増収効果があったと説明しています。その内訳は、民間航空エンジン+192億円、防衛+76億円、原子力+72億円、安定収益事業+140億円です。つまり、今回の増収は特定の1事業だけではなく、航空・防衛・原子力と既存設備のサービス事業が同時に伸びた結果です。
営業利益は208億円から732億円へ増えました。もっとも、後述する不動産売却益400億円を含むため、まずは「報告上の営業利益」と「本業の営業利益」を分けて見ることが重要です。
受注高は15%減でも、需要悪化とは限らない
一方、受注高は4,243億円から3,607億円へ15.0%減少しています。ここだけを見ると先行きが弱く見えますが、主因は資源・エネルギー・環境事業で前年に大型案件を受注した反動です。同セグメントの受注高は1,431億円から799億円へ44.2%減りました。
航空・宇宙・防衛の受注高は1,370億円から1,380億円へほぼ横ばいで、民間航空エンジン単体では899億円から1,086億円へ増加しています。1Q末の全社受注残高も1兆7,436億円あり、年間売上規模に近い受注ストックを抱えています。したがって、今回の受注減をそのまま「需要減速」と解釈するのは適切ではありません。
営業利益3.5倍は本当の実力?不動産売却益を除いて確認
今回の営業利益732億円には、東京都江東区の土地・建物などの譲渡に伴う400億円の不動産売却益が含まれています。営業利益の前年差は+523億円なので、増益額の大部分を一過性の売却益が占めています。
そのため、「営業利益が前年の3.5倍になったから、本業の収益力も3.5倍になった」という理解は誤りです。IHI自身も決算資料で不動産売却を除く営業利益を別に表示し、本業と資産売却を分けて説明しています。
売却益を除いても営業利益は約59%増
ただし、一過性利益を除けば決算が弱かったわけでもありません。不動産売却を除く営業利益は208億円から331億円へ123億円増え、増加率は約59%です。利益率も6.2%から8.8%へ2.6ポイント改善しました。
会社は、この331億円について「不動産売却益を除いても第1四半期では過去最高益」と説明しています。今回の決算は、「売却益で数字だけ良く見えた」のではなく、売却益で報告利益が大きく伸びたうえで、本業の収益力も過去最高水準まで改善したと整理するのが実態に近いでしょう。
通期でも不動産売却益930億円を見込む
IHIは2027年3月期通期で930億円の不動産売却益を見込んでいます。1Qでは江東区の複数物件などで計400億円を計上し、2Q以降も江東区の土地やその他の不動産の売却を予定しています。
| 区分 | 売却益 | 時期 |
|---|---|---|
| 1Q売却実績 | 400億円 | 2026年度1Q |
| 2Q以降の売却見込 | 530億円 | 2026年度中 |
| 通期見込 | 930億円 | 2027年3月期 |
通期営業利益2,500億円に対して不動産売却益930億円は約37%を占めます。このため通期予想を見る場合も、報告営業利益2,500億円だけでなく、不動産売却を除く営業利益1,570億円を併せて確認する必要があります。
不動産売却には成長投資の原資を作る狙いもある
不動産売却は会計上、一過性利益として本業と分けて考えるべきです。一方、経営戦略としては単なる利益のかさ上げではありません。IHIは2026〜2028年度を将来の成長に向けた先行投資期間と位置づけ、研究開発費を含めて総額6,500億円の投資を計画しています。
その主な投資原資として、研究開発費を除く営業キャッシュ・フロー5,100億円以上に加え、不動産売却収入など1,000億円以上を想定しています。豊洲地区を中心とした保有不動産を現金化し、民間航空エンジン、防衛、原子力、宇宙など、成長余地の大きい分野へ資本を移す考えです。
したがって投資家としては、売却益そのものを継続利益とみなさず、売却で得た資金が将来の高収益事業へどのように再投資されるかまで確認することが重要です。
本業の営業利益が123億円増えた理由
不動産売却を除く営業利益は、前年同期の208億円から331億円へ123億円増えました。会社資料では、増減要因を事業環境、ライフサイクルビジネス、コスト構造、為替、販管費などに分解しています。
| 主な要因 | 営業利益への影響 |
|---|---|
| 事業環境の変化など | +32億円 |
| ライフサイクルビジネス(LCB)の拡大 | +46億円 |
| コスト構造の強化 | +36億円 |
| 為替の変動 | +32億円 |
| 研究費・人件費など販管費増 | ▲44億円 |
| その他 | +21億円 |
| 不動産売却益 | +400億円(報告利益のみ) |
民間航空エンジンと原子力の需要拡大
事業環境面では、民間航空エンジンと原子力の需要拡大が利益を押し上げました。航空会社の運航便数が増え、航空機の稼働率が高まると、新製エンジンだけでなくスペアパーツや整備需要も増えます。IHIの民間航空エンジン事業は、この回復局面の恩恵を受けています。
原子力では、国内の再稼働・再処理などに関するライフサイクル需要が続いており、前期に受注した案件の工事進捗が売上へつながっています。資源・エネルギー・環境セグメントは前年1Qの営業損失33億円から営業利益28億円へ黒字転換しました。
ライフサイクルビジネスの拡大で46億円増益
IHIの資料で頻繁に出てくる「LCB」は、Life Cycle Business(ライフサイクルビジネス)のことです。設備や製品を納入して終わりではなく、その後の保守、部品交換、改修、更新、長期サービスなどから継続的に収益を得るビジネスを指します。
今回の決算では、国内カーボンソリューションや原動機などでLCBが拡大し、全社営業利益を46億円押し上げました。大型プラントの新設受注は年度による変動が大きい一方、既設設備の保守・更新需要はストック型の性格が強く、IHIがこれらを「安定収益事業」と位置づけている理由でもあります。
車両過給機は売上より採算改善が効いた
産業システム・汎用機械は売上収益が1,046億円から1,023億円へ2.2%減りましたが、営業利益は3億円から55億円へ大きく改善しました。売上拡大ではなく、利益率改善で稼ぐ力を高めたセグメントです。
会社は車両過給機について、販売価格の改善とコスト削減が採算改善に寄与したと説明しています。全社のコスト構造強化+36億円のうち、車両過給機の改善は主要因の一つです。IHIの決算では航空・防衛が注目されやすいものの、こうした低採算事業の立て直しも全社利益の底上げに効いています。
研究費・人件費の増加は44億円の減益要因
一方、研究開発費や人件費などの先行投資は44億円の減益要因となりました。民間航空エンジン、防衛、原子力などで今後の需要増加に対応するには、生産能力だけでなく人材や技術開発への投資も必要です。
短期的には利益を押し下げますが、会社は2026〜2028年度を「2029年度以降の営業利益・営業CF、2032年度以降のFCFの大幅拡大を見据えた先行投資期間」と位置づけています。今後は先行コストの増加以上に、売上・アフターマーケット収益を伸ばせるかがポイントになります。
民間航空エンジンが今回の決算で最も重要な理由
民間エンジン売上は前年同期比27%増
今回の決算で中長期の成長を見るうえで最も重要なのが、民間航空エンジン事業です。PW1100G-JM追加検査問題の影響を除いた民間エンジンの売上収益は、前年1Qの858億円から1,094億円へ27%増となりました。
新製エンジンとアフターマーケットの両方が増収しています。IHIは小型機から大型・超大型機まで複数のベストセラーエンジンプログラムに参画しており、航空旅客需要の増加と航空機生産の回復が売上拡大につながっています。
2026年度は民間エンジン売上4,800億円を計画
| 年度 | 民間航空エンジン売上収益 |
|---|---|
| 2022年度 | 2,014億円 |
| 2023年度 | 2,530億円 |
| 2024年度 | 3,507億円 |
| 2025年度 | 3,836億円 |
| 2026年度予想 | 4,800億円 |
2022年度から2026年度予想までで売上規模は2倍を超える計画です。1Qだけの一時的な回復ではなく、世界の航空機稼働・新造機需要と連動した構造的な拡大局面に入っていると見ることができます。
なお、2026年度の航空・宇宙・防衛セグメント全体の売上予想は8,700億円、営業利益予想は1,370億円です。今回の1Q実績を踏まえ、会社は売上を100億円、営業利益を70億円上方修正しました。全社上方修正の中心もこのセグメントです。
航空エンジンの「アフターマーケット」とは?
IHIの航空エンジン事業を理解するには、「新製エンジン」と「アフターマーケット」を分けて考える必要があります。航空エンジンは一度販売して終わりではなく、航空会社が長期間運航する間に部品交換や整備が繰り返し発生します。
アフターマーケットはスペアパーツ+MRO
IHIがいうアフターマーケットは、主にスペアパーツとMROで構成されます。MROはMaintenance, Repair and Overhaulの略で、エンジンの保守・修理・オーバーホールを行う事業です。
航空機の運航時間が積み上がるほど、寿命部品の交換や定期整備が必要になります。そのため、過去に納入したエンジンの搭載機数が増え、世界の航空便が多く飛ぶほど、将来のアフターマーケット需要が積み上がる構造です。
2026年度売上の約67%をアフターマーケットが占める
| 売上構成 | 2026年度見通し |
|---|---|
| スペアパーツ | 60% |
| 新製エンジン | 33% |
| MRO | 7% |
| アフターマーケット合計 | 67% |
新製エンジンの比率は33%に対し、スペアパーツとMROを合わせたアフターマーケットは67%です。IHIは「新しい飛行機が毎年大量に売れ続けなければ稼げない会社」ではなく、既に市場へ出たエンジンから長期的に収益を得るストック型の要素を持っています。
スペアパーツ売上は1Qで15%増、取扱高はCAGR20%超
1Qのスペアパーツ売上収益は前年同期比15%増となりました。また、会社資料では2022〜2025年度のアフターマーケット取扱高の年平均成長率(CAGR)が20%超とされています。PW1100G-JMを中心に、スペアパーツ需要は着実に拡大しています。
中東情勢についても、8月5日時点ではアフターマーケットに顕著な影響は確認されておらず、会社は売上拡大見通しを変更していません。短期的な地政学リスクはありますが、航空機の稼働が続く限り整備・交換需要が発生する点は、IHIの中長期収益を考えるうえで大きな強みです。
航空・宇宙・防衛の利益率が下がったのは悪いこと?
| 項目 | 2026年3月期1Q | 2027年3月期1Q |
|---|---|---|
| 売上収益 | 1,279億円 | 1,547億円 |
| 営業利益 | 279億円 | 291億円 |
| 営業利益率 | 21.9% | 18.9% |
航空・宇宙・防衛は売上が21.0%増え、営業利益も279億円から291億円へ増加しました。ただし営業利益率は21.9%から18.9%へ3ポイント低下しています。数字だけを見ると収益性が悪化したように見えますが、背景を確認すると必ずしもネガティブな低下ではありません。
新製エンジン増加と先行投資が利益率を押し下げ
会社の増減分析では、PW1100GやGE系の新製エンジン台数増加が▲30億円、研究費・人件費などの先行投資が▲29億円の減益要因となりました。一方、アフターマーケットの販売増が+43億円、為替が+29億円寄与しています。
新製エンジンは将来のアフターマーケットを作るために重要ですが、販売時点の採算がスペアパーツやMROほど高くないケースがあります。また、需要拡大に備えて人員・設備を先に増やせば、売上が十分に立ち上がるまで利益率は低くなります。
新製エンジンの増加が将来の高収益売上を作る
重要なのは、新製エンジンの販売増が将来のアフターマーケット需要を増やすことです。新しいエンジンを納入し、その航空機が世界で運航されるほど、数年後以降のスペアパーツやMROの対象母数が増えます。
IHIの成長戦略は、2026〜2028年度に新製エンジンの増産や整備能力の拡張へ先行投資し、その後アフターマーケットの拡大によって利益とキャッシュを大きく伸ばす考え方です。したがって、現時点では利益率の一時低下だけでなく、搭載エンジン数とアフターマーケット売上の成長をセットで確認する必要があります。
為替を除いた実力でも利益拡大基調
1Qの航空・宇宙・防衛営業利益291億円には円安の追い風があります。会社は為替影響やPW1100G関連の為替影響を調整した比較も示しており、145円/USDベースに調整した営業利益は223億円としています。
一方、2026年度2〜4Qの平均は調整後で359億円を計画しており、アフターマーケットの拡大を背景に利益拡大基調を維持する想定です。円安だけで航空事業が伸びているわけではない一方、為替が利益を押し上げていることも分けて評価する必要があります。
PW1100G-JM問題はどうなった?
追加検査プログラムの影響見積総額に変更なし
IHIの航空エンジンを見るうえで、PW1100G-JM追加検査プログラムは引き続き重要です。今回の1Q資料では、追加検査プログラムの影響見積総額(米ドルベース)に変更はないとしています。
つまり、1Q決算で新たな大規模損失を上乗せしたわけではありません。過去に認識した問題が再び拡大している状況ではない点は安心材料です。
ただし現金支出は続いている
一方、会計上の損失見積りと実際の現金支出は別です。PW1100G-JM追加検査プログラム関連のキャッシュ支出は、前年1Qの▲84億円から今回▲113億円へ増えました。
追加損失の計上がなくても、検査・整備・補償などに伴うキャッシュアウトは今後も続きます。利益面だけで「問題は終わった」と考えず、関連支出がピークアウトする時期と、整備能力の改善を確認していく必要があります。
防衛事業は今回の決算でどうだった?
IHIは防衛関連銘柄として注目されることが多い企業ですが、今回1Qは「防衛だけで利益が急増した決算」ではありません。防衛は中長期の成長分野である一方、1Qの受注は前年を下回っており、会社は下期に案件が拡大すると見ています。
防衛向け受注は1Qで減少、通期は2,800億円を計画
| 防衛向け航空エンジン・装備品 | 受注高 | 売上収益 |
|---|---|---|
| 2025年度1Q | 300億円 | 289億円 |
| 2026年度1Q | 172億円 | 366億円 |
| 2026年度通期予想 | 2,800億円 | 3,000億円 |
1Q受注は300億円から172億円へ減少しています。ただし防衛案件は契約時期によって四半期ごとの振れが大きく、会社は航空エンジンやロケットモーターについて下期に受注・売上が拡大する見通しを示しています。
売上は289億円から366億円へ増えており、過去に受注した案件の工事・納入は進んでいます。防衛については1Q受注の数字だけで需要の強弱を判断せず、通期2,800億円の受注計画が下期にどの程度積み上がるかを見る方が重要です。
防衛は今後の設備投資対象でもある
IHIは防衛予算の増加を背景に需要拡大が見込まれるとして、生産能力の強化と必要な技術開発を進める方針です。航空エンジンと同様、防衛でも需要そのものより「増えた需要を処理する生産能力」が成長の制約になり得ます。
今後は受注高だけでなく、工場の増産投資、人員確保、採算性を含めて確認すると、IHIの防衛成長をより正確に捉えられます。
原子力事業も利益成長を支えている
| 資源・エネルギー・環境 | 2025年度1Q | 2026年度1Q | 2026年度通期予想 |
|---|---|---|---|
| 受注高 | 1,431億円 | 799億円 | 3,600億円 |
| 売上収益 | 709億円 | 888億円 | 3,900億円 |
| 営業利益 | ▲33億円 | 28億円 | 330億円 |
| 営業利益率 | ▲4.7% | 3.2% | 8.5% |
資源・エネルギー・環境は前年の営業赤字33億円から28億円の黒字へ転換しました。原子力だけでなく原動機、カーボンソリューションなど複数の事業が改善しています。
原子力売上は40億円から112億円へ増加
原子力の売上収益は前年1Qの40億円から112億円へ約2.8倍となりました。前期に受注した案件の工事が順調に進んでおり、会社は下期にかけてさらに工事進捗が進み、2026年度通期で750億円の売上を見込んでいます。
IHIは国内の原発再稼働・再処理に関するライフサイクル需要を安定収益源としつつ、将来的には海外の新設需要も取り込む方針です。民間航空エンジンほど現在の売上規模は大きくありませんが、中長期の成長事業の一つとして投資対象になっています。
原動機・カーボンソリューションのLCBも増収
原動機の売上は170億円から244億円、カーボンソリューションは248億円から301億円へ増加しました。いずれも既設設備の保守・改修などライフサイクルビジネスの拡大が寄与しています。
資源・エネルギー・環境は受注高が大きく減っているため一見弱く見えますが、売上と利益は改善しています。大型EPC案件の受注タイミングと、既設設備から得る継続収益を分けて見ることが重要です。
産業システム・汎用機械は採算改善、社会基盤は赤字継続
産業システム・汎用機械は減収でも利益が大幅改善
| 項目 | 2025年度1Q | 2026年度1Q |
|---|---|---|
| 受注高 | 1,127億円 | 1,181億円 |
| 売上収益 | 1,046億円 | 1,023億円 |
| 営業利益 | 3億円 | 55億円 |
| 営業利益率 | 0.3% | 5.5% |
売上は2.2%減っているのに営業利益は3億円から55億円まで増えています。今回のIHI決算では「売上が増えたから利益が増えた」事業だけでなく、低採算事業の価格・コスト構造を改善して利益を増やした事業もあります。
車両過給機での販売価格改善とコスト削減が中心で、今後も営業利益率5〜6%台を維持できれば、航空・防衛以外の全社利益の底上げにつながります。
社会基盤は売上減少・赤字継続
社会基盤は売上収益が291億円から204億円へ30%減少し、営業損失は▲17億円から▲18億円と赤字が続きました。前年に交通システム事業やコンクリート建材事業を譲渡した影響に加え、シールドシステムで前期案件の反動が出ています。
通期では売上1,100億円、営業利益70億円を計画しているため、1Q赤字からの改善が必要です。会社全体が好決算でも、全セグメントが一様に強いわけではない点は押さえておきたいところです。
通期業績予想を上方修正
| 項目 | 前回予想 | 今回予想 | 修正額 |
|---|---|---|---|
| 受注高 | 1兆7,600億円 | 1兆7,700億円 | +100億円 |
| 売上収益 | 1兆8,300億円 | 1兆8,400億円 | +100億円 |
| 不動産売却除く営業利益 | 1,500億円 | 1,570億円 | +70億円 |
| 不動産売却益 | 900億円 | 930億円 | +30億円 |
| 営業利益 | 2,400億円 | 2,500億円 | +100億円 |
| 税引前利益 | 2,300億円 | 2,400億円 | +100億円 |
| 親会社帰属利益 | 1,650億円 | 1,720億円 | +70億円 |
| EBITDA | 3,200億円 | 3,300億円 | +100億円 |
IHIは1Q実績を受け、2027年3月期の業績予想を上方修正しました。営業利益は2,400億円から2,500億円、親会社帰属利益は1,650億円から1,720億円へ引き上げています。会社は前期に続き、通期で過去最高益を更新する見通しです。
上方修正の中心は航空・宇宙・防衛
セグメント別では、航空・宇宙・防衛の通期受注を8,100億円から8,200億円、売上を8,600億円から8,700億円、営業利益を1,300億円から1,370億円へ修正しました。
他の主要セグメントの営業利益予想は据え置かれており、今回の本業上方修正はほぼ航空・宇宙・防衛の強さを反映したものと見ることができます。民間航空エンジンの新製・アフターマーケット需要が会社想定を上回ったことが大きいでしょう。
不動産売却を除く利益も70億円上方修正
営業利益100億円の上方修正のうち、不動産売却益の増額は30億円です。残り70億円は不動産売却を除く営業利益の上方修正であり、本業側の見通しも改善しています。
「2,500億円のうち930億円が不動産売却益だから、今回の上方修正も全部一過性」というわけではありません。報告利益と本業利益を分けたうえで、両方が上方修正されている点を確認する必要があります。
為替前提は1ドル145円で据え置き
2Q以降の為替前提は1ドル145円で据え置かれています。1Qの平均為替は160.52円と前提より大幅な円安でした。会社が示す為替感応度は、PW1100G-JM関連の影響を除き、2〜4Qで1円の円安につき営業利益約15億円です。
仮に2Q以降も145円より円安で推移すれば、会社計画に対して為替が追加的な上振れ要因になります。一方、航空エンジンの実需成長と為替効果は分けて評価した方が、決算の実力を把握しやすくなります。

通期進捗率はどう評価する?
| 項目 | 1Q実績 | 通期予想 | 進捗率 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 3,745億円 | 1兆8,400億円 | 約20.4% |
| 営業利益 | 732億円 | 2,500億円 | 約29.3% |
| 不動産売却除く営業利益 | 331億円 | 1,570億円 | 約21.1% |
| 親会社帰属利益 | 535億円 | 1,720億円 | 約31.1% |
| 受注高 | 3,607億円 | 1兆7,700億円 | 約20.4% |
報告営業利益29%進捗は売却益の影響が大きい
報告営業利益は通期計画の約29%まで進んでいますが、1Qに不動産売却益400億円を計上しているため、この進捗率だけで「通期計画を大幅に上回る」と判断するのは早計です。不動産売却を除く営業利益の進捗率は約21%です。
ただし、防衛は下期に受注・売上が拡大する想定で、原子力も工事進捗が下期に強まる計画です。民間エンジンも年間を通じた売上拡大を見込んでいます。事業ごとの季節性を考えると、単純に四半期25%という基準だけで良し悪しを判断するのは適切ではありません。
再上方修正につながる条件
- 民間航空エンジン売上4,800億円計画を上回る
- スペアパーツ・MROのアフターマーケット需要が想定以上に伸びる
- 防衛の下期大型受注が計画どおり積み上がる
- 原子力の工事進捗が会社計画を上回る
- 車両過給機の採算改善が継続する
- 2Q以降も1ドル145円より円安で推移する
- 200億円のリスクバッファーを使わずに済む
通期予想には200億円のリスクバッファーも残している
IHIの通期見通しでは、調整額に▲200億円のリスクバッファーが含まれています。現時点では、エネルギー海外子会社の構造改革に備えて維持するとしています。
この200億円を使わずに済めば利益上振れ余地になりますが、最初から「200億円すべて利益に戻る」と考えるべきではありません。裏を返せば、海外エネルギー事業には会社が一定のリスクを見込んでいるということでもあります。
次回以降の決算では、リスクバッファーを維持するのか、実際の損失に充てるのか、あるいは解除するのかが通期営業利益を考えるうえで重要な確認材料になります。
営業キャッシュフロー▲432億円は問題?
利益面は好調でしたが、キャッシュフローを見ると印象が変わります。営業キャッシュ・フローは前年1Qの▲53億円から▲432億円へ悪化しました。利益が増えたのに現金が出ていった理由を確認する必要があります。
| キャッシュフロー項目 | 2025年度1Q | 2026年度1Q | 増減 |
|---|---|---|---|
| 税引前利益 | 202億円 | 819億円 | +617億円 |
| 減価償却費 | 181億円 | 206億円 | +25億円 |
| 不動産売却益 | ― | ▲400億円 | ▲400億円 |
| PW1100G関連支出 | ▲84億円 | ▲113億円 | ▲29億円 |
| 運転資本増減 | +392億円 | ▲694億円 | ▲1,086億円 |
| 税金支出 | ▲573億円 | ▲195億円 | +378億円 |
| 営業CF | ▲53億円 | ▲432億円 | ▲379億円 |
| 投資CF | ▲156億円 | +236億円 | +392億円 |
| FCF | ▲209億円 | ▲196億円 | +13億円 |
最大の悪化要因は運転資本
営業CF悪化の最大要因は運転資本です。前年1Qは+392億円のキャッシュ増加要因でしたが、今回は▲694億円となり、前年差は▲1,086億円に達しました。会社は、前年の前受金増加の反動と、売上拡大に向けた運転資本の増加を理由に挙げています。
民間エンジン増産に備えて棚卸資産が502億円増加
棚卸資産は前期末の5,042億円から1Q末には5,544億円へ502億円増えました。民間航空エンジンの増産に対応するため、部品や仕掛品などの在庫水準を引き上げていることが背景です。
需要拡大に備えた在庫なら、将来の売上へ転換できれば問題は小さくなります。一方、予定どおり出荷できない場合は現金が在庫に固定され、キャッシュフローを圧迫します。IHI自身も年度末に向けて運転資本の改善を図る方針を示しており、今後の重要なKPIです。
投資CFがプラスなのは不動産売却収入のため
投資キャッシュ・フローは+236億円の収入超過でしたが、設備投資を止めたわけではありません。設備投資向けの支出は▲180億円あり、不動産売却による収入によって投資CF全体がプラスになっています。
その結果、フリーキャッシュ・フローは▲196億円です。1Qの利益成長とCFの弱さが同居しているため、今後は「利益が増えたか」だけでなく、増産した航空エンジンの在庫を売上へ転換して営業CFを改善できるかが重要です。
財務体質は改善している
| 項目 | 2026年3月末 | 2026年6月末 |
|---|---|---|
| 総資産 | 2兆4,285億円 | 2兆4,612億円 |
| 現金及び現金同等物 | 1,550億円 | 1,170億円 |
| 棚卸資産 | 5,042億円 | 5,544億円 |
| 有利子負債 | 4,898億円 | 4,871億円 |
| 親会社所有者帰属持分比率 | 26.9% | 28.3% |
| D/Eレシオ | 0.72倍 | 0.67倍 |
不動産売却を含む利益の積み上げによって資本が増え、親会社所有者帰属持分比率は26.9%から28.3%へ、D/Eレシオは0.72倍から0.67倍へ改善しました。有利子負債もわずかながら減少しています。
一方、現金は380億円減っています。今後3年間で6,500億円の投資を計画していることを考えると、利益成長だけでなく営業CFを確保しながら投資を進めることが重要です。不動産売却による資金で一時的に財務を補うだけでなく、成長事業から現金を生み出す段階へ移れるかが中期的なポイントになります。

IHIの決算で注意したいポイント
報告営業利益の半分以上が不動産売却益
営業利益732億円のうち400億円は不動産売却益です。通期も2,500億円のうち930億円を売却益が占めます。株価やバリュエーションを考える場合は、一過性利益を継続的な収益力として扱わず、不動産売却を除く利益1,570億円を基準に本業の伸びを見る必要があります。
航空事業は先行投資で利益率が一時低下
民間航空エンジンは売上が強い一方、新製エンジンの増産と研究費・人員などの先行投資で、航空・宇宙・防衛の1Q利益率は低下しました。将来的にアフターマーケット売上が増えれば利益率回復が期待できますが、そのシナリオが計画どおり進むかを確認する必要があります。
PW1100G関連のキャッシュ流出は続く
追加検査プログラムの損失見積総額に変更はありませんが、1Qだけで113億円の関連支出が発生しています。問題が追加損失として再燃していないことはプラスですが、キャッシュアウトがゼロになったわけではありません。
営業CFと在庫の改善が必要
棚卸資産は3カ月で502億円増え、営業CFは▲432億円でした。増産に伴う正常な在庫積み増しであっても、最終的に納入・回収できなければ現金化できません。今後の決算では売上成長だけでなく、運転資本とCFの改善を確認する必要があります。
IHIエアロスペースのJAXA競争参加資格停止
IHIの連結子会社IHIエアロスペースは、JAXAとの機材装置の保全業務に関する契約などで、事実と異なる報告に基づく費用請求が確認されたとして、2026年6月2日に5カ月間の競争参加資格停止処分を受けました。
会社はコンプライアンス・組織風土改革を進めるとし、業績への影響が発生する場合は速やかに見通しへ反映するとしています。現時点で具体的な業績影響額は示されていないため、金額を推測するのではなく、今後の開示を確認するのが適切です。
配当は年間23円を予想
2027年3月期の配当予想は、中間11.5円、期末11.5円の年間23円で据え置かれています。IHIは2025年10月1日に1株を7株へ分割しているため、前年の配当と比較する際は分割調整が必要です。
2026年3月期の年間配当は分割調整後で20円相当なので、今期予想23円は実質3円の増配です。通期利益を上方修正しましたが、今回の1Q発表では配当予想の追加修正はありませんでした。
次回決算はいつ?
次回は2027年3月期第2四半期(中間期)決算です。2026年8月5日時点で、IHI公式IRカレンダーには2026年度2Qの正式な発表日は掲載されていません。
前年の2025年度2Q決算は2025年11月6日、その前の2024年度2Qも2024年11月6日に発表されています。過去の日程から見ると2026年11月上旬が一つの目安ですが、確定日時はIHIの公式IRカレンダーを優先してください。
次回決算で確認したいポイント
- 民間航空エンジン売上4,800億円計画の進捗
- スペアパーツ・MROなどアフターマーケットの成長率
- 航空・宇宙・防衛の営業利益率が回復するか
- PW1100G-JM追加検査プログラム関連支出の推移
- 防衛向け航空エンジン・ロケットモーターの大型受注
- 原子力の工事進捗と通期売上750億円計画
- 車両過給機の採算改善が継続するか
- 棚卸資産と営業キャッシュ・フローの改善
- 200億円のリスクバッファーの扱い
- 1ドル145円の会社前提と実際の為替との差
- 通期営業利益2,500億円の再上方修正の有無
- 不動産売却930億円計画の進捗
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IHIの2027年3月期1Qは、売上収益が10.9%増、営業利益が250.5%増となりました。報告営業利益732億円のうち400億円は不動産売却益ですが、売却益を除く営業利益も331億円と前年から約59%増え、1Qとして過去最高を更新しています。
本業では、民間航空エンジン、原子力、ライフサイクルビジネス、車両過給機の採算改善が増益に寄与しました。特に民間航空エンジンは1Q売上が27%増え、2026年度は4,800億円まで拡大する計画です。新製エンジンの増加で短期的に利益率は押し下げられていますが、搭載エンジンが増えることで将来のスペアパーツ・MRO需要が積み上がる構造は、IHIの中長期成長を考えるうえで重要です。
会社は通期営業利益を2,500億円へ上方修正し、不動産売却を除く営業利益も1,570億円へ引き上げました。一方で、営業CFは▲432億円、棚卸資産は502億円増加しており、増産に向けて投入した運転資本を年度後半に売上・現金へ転換できるかは確認が必要です。
次回以降は、航空エンジンのアフターマーケット成長、防衛の下期受注、原子力の工事進捗、そしてキャッシュフロー改善がIHIの業績を判断する中心材料になります。
出典
IHI「2027年3月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」
https://www.ihi.co.jp/ir/library/statements/_cms_conf01/__icsFiles/afieldfile/2026/08/05/2027_3_1Q_KT_1.pdf
IHI「2026年度(2027年3月期)第1四半期決算説明資料(IFRS)」
https://www.ihi.co.jp/ir/library/statements/_cms_conf01/__icsFiles/afieldfile/2026/08/05/2026FY_1Q_KS_1.pdf
IHI「2025年度(2026年3月期)決算説明会 中長期の方向性・経営概況」
https://www.ihi.co.jp/ir/library/management_plan/_cms_conf01/__icsFiles/afieldfile/2026/05/08/FY2026-management_1.pdf
IHI「IRカレンダー」
https://www.ihi.co.jp/ir/event/calendar/
IHI「株主・投資家情報」
https://www.ihi.co.jp/ir/

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