フジクラ株式会社が2025年5月13日に発表した2025年3月期(2024年度)の決算は、売上高、各段階利益ともに過去最高を更新する好調な内容となりました。特に、生成AI市場の拡大を背景としたデータセンタ向けビジネスが業績を力強く牽引しています。
本記事では、フジクラが公開した決算短信や説明会資料をもとに、2025年3月期の決算内容を振り返り、セグメント別の業績、財務状況、株主還元策、そして今後の見通しや株価に与える影響まで、詳しく解説していきます。
フジクラの2025年3月期における連結決算の振り返り
2025年3月期の連結決算は、売上高、営業利益、経常利益、そして親会社株主に帰属する当期純利益のすべてにおいて前年度を大きく上回り、過去最高を記録しました。
特に当期純利益は4期連続での最高益更新となります。
項目 | 2025年3月期(2024年度)実績 | 2024年3月期(2023年度)実績 | 前期比 |
---|---|---|---|
売上高 | 9,794億円 | 7,998億円 | +22.5% |
営業利益 | 1,355億円 | 695億円 | +95.0% |
経常利益 | 1,372億円 | 697億円 | +96.8% |
親会社株主に帰属する当期純利益 | 911億円 | 510億円 | +78.6% |
この好調な業績により、「2025年中期経営計画」の最終年度目標を1年前倒しで達成しました。
業績拡大の最大の要因は、情報通信事業におけるデータセンタ関連ビジネスの急成長です。
生成AIの普及を背景にデータセンタ向けの需要が力強く伸長し、当事業の営業利益は前年比で2.4倍に達しました。
加えて、エレクトロニクス事業やエネルギー事業も堅調に推移し、自動車事業も大幅な利益改善を達成するなど、全社的に収益力が向上したことがうかがえます。
フジクラの2025年3月期セグメント別の業績
セグメント別に見ると、特に情報通信事業の著しい成長が全体の業績を牽引したことがわかります。
セグメント名 | 売上高 | 営業利益 |
---|---|---|
情報通信事業 | 4,513億円 | 922億円 |
エレクトロニクス事業 | 1,859億円 | 229億円 |
自動車事業 | 1,771億円 | 58億円 |
エネルギー事業 | 1,452億円 | 119億円 |
不動産事業 | 108億円 | 49億円 |
情報通信事業部門
売上高は前期比51.8%増の4,513億円、営業利益は同135.2%増の922億円と大幅な増収増益を達成しました。
生成AIの普及・拡大を背景としたデータセンタ向けの旺盛な需要が継続したことが主な要因です。
為替の円安効果も利益を押し上げました。
エレクトロニクス事業部門
売上高は前期比12.9%増の1,859億円、営業利益は同37.7%増の229億円となりました。
データセンタ向けHDD(ハードディスクドライブ)の需要増加や、高採算製品を選択して受注する戦略が奏功し、製品構成が良化したことが寄与しました。
為替の影響も増益に貢献しています。
自動車事業部門
売上高は前年度並みの1,771億円でしたが、営業利益は前期比395.6%増の58億円と大幅に改善しました。
生産性の改善や、受注変動に伴うコスト増加分を顧客へ価格転嫁する交渉が進んだことなどが利益の大幅な改善につながりました。
エネルギー事業部門
売上高は前期比4.4%増の1,452億円、営業利益は同37.2%増の119億円と堅調に推移しました。
国内の再開発案件や新工場の建設といった需要が引き続き堅調だったことが背景にあります。
不動産事業部門
売上高は前期比2.9%増の108億円、営業利益は前年度並みの49億円でした。
当社旧深川工場跡地の再開発事業である「深川ギャザリア」からの賃貸収入などが安定的に収益に貢献しており、引き続き堅調に推移しています。
フジクラの2025年3月期末財務状況について
業績の好調を背景に、財務体質も大きく改善しました。
2025年3月期末には、現預金残高が有利子負債残高を上回る「Net Cash」の状態を達成しています。
項目 | 2025年3月31日 | 2024年3月31日 | 増減 |
---|---|---|---|
総資産 | 8,303億円 | 7,239億円 | +1,064億円 |
負債 | 3,950億円 | 3,573億円 | +377億円 |
純資産 | 4,353億円 | 3,666億円 | +687億円 |
自己資本比率 | 49.1% | 47.1% | +2.0ポイント |
総資産は、主に情報通信事業部門の需要増に伴う売上債権および棚卸資産の増加により、1,064億円増加しました。
負債も同様の理由で支払債務が増加しましたが、純資産は当期純利益の計上により687億円増加し、結果として自己資本比率は2.0ポイント改善し49.1%となりました。
キャッシュフローの状況
営業活動によるキャッシュ・フローは、好調な業績を反映して前期から215億円増加し、1,159億円の収入となりました。
これにより創出されたキャッシュを原資に、財務体質の強化や戦略的な投資を進めています。
項目 | 2025年3月期 | 2024年3月期 |
---|---|---|
営業活動によるCF | 1,159億円 | 944億円 |
投資活動によるCF | △209億円 | △215億円 |
財務活動によるCF | △574億円 | △360億円 |
現金及び現金同等物 期末残高 | 1,842億円 | 1,470億円 |
- 営業CF: 税金等調整前当期純利益が1,214億円にのぼるなど、本業での力強いキャッシュ創出が収入増の主な要因です。
- 投資CF: 設備投資を中心に209億円の支出となりました。
- 財務CF: 借入金の返済や配当金の支払いを中心に574億円の支出となりました。
収益性に関する指標(ROEなど)
資本効率を示す指標であるROE(自己資本利益率)とROIC(投下資本利益率)は、2025年中期経営計画の目標を大幅に上回る高い水準を達成しました。
指標 | 2025年3月期 | 2024年3月期 | 25中期計画 最終年度目標 |
---|---|---|---|
ROE (自己資本利益率) | 24.4% | 16.7% | 16.5% |
ROA (総資産経常利益率) | 17.7% | 10.1% | – |
営業利益率 | 13.8% | 8.7% | 10.3% |
ROIC (投下資本利益率) | 19.0% | – | 12.8% |
フジクラの株主還元について
好調な業績とキャッシュ創出力の向上を背景に、株主還元の強化を打ち出しています。
配当金の状況
2025年3月期の年間配当金は、1株当たり100円(中間33.5円、期末66.5円)となりました。
これは前期の55円から大幅な増配です。
さらに、2026年3月期(2025年度)の配当予想は、過去最高の1株当たり130円(中間65.0円、期末65.0円)となる見込みです。
配当性向については、これまで30%を目安としていましたが、2026年3月期は40%に引き上げる方針です。
自社株買いの発表はあった?
今回の決算発表(2025年5月13日)において、新たな自己株式取得(自社株買い)に関する発表はありませんでした。
フジクラの今期見通しと戦略について
2026年3月期の連結業績予想は、売上高9,570億円(前期比2.3%減)、営業利益1,220億円(同10.0%減)、親会社株主に帰属する当期純利益900億円(同1.2%減)と、減収減益を見込んでいます。
これは、為替(想定レート:1ドル=140円)や米国の関税政策といった外部環境の影響を保守的に織り込んでいるためです。
これらの影響を除くと、実質的には増益基調が続いていると会社側は説明しています。
事業別では、情報通信事業は引き続きデータセンタ向け需要が伸長し増収増益を見込む一方、エレクトロニクス事業や自動車事業は減収減益を予想しています。
戦略
2025年度は、「2025年中期経営計画」から切り離し、次期中期経営計画につながる布石を打つ重要な年と位置付けています。主な戦略は以下の通りです。
- インフラ向けビジネスの拡大
世界的な光ブロードバンド需要に対応するため、戦略製品であるSWR®/WTC®の生産を強化します。
特に、欧州・中東・アフリカ市場への供給体制を強化するため、モロッコの自動車事業拠点を活用した新たな生産ラインを構築します。 - データセンタ向けビジネスの拡大
米国市場での更なるシェア拡大を目指し、次世代の小型多心コネクタの生産能力を増強します。
また、日本や欧州、アジア市場での需要取り込みに向け、ソリューション提案を強化します。 - Beyond2025
2025年度以降の収益の柱を育てるため、「核融合発電」向けの高温超電導線材、「半導体加工」などをターゲットとしたファイバレーザ、「EV」向けの超急速充電ケーブルシステムの3分野において、事業立ち上げを加速させます。
決算内容や今期の見通しで、フジクラの株価はどうなる?
今回の決算内容と今期の見通しが株価に与える影響について、ポジティブな要因とネガティブな要因を整理します。
※以下の内容は資料に基づく分析であり、株式の購入を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
株価にポジティブな影響を与える要因
- 傑出した業績と成長性
4期連続の過去最高純利益達成や中期経営計画の1年前倒し達成は、企業の高い実行能力と成長性を示しています。
特に、今後も市場拡大が見込まれるデータセンタ関連ビジネスが力強く成長している点は大きな魅力です。 - 株主還元の劇的な強化
年間配当を100円から130円へ大幅に増配する計画や、配当性向を40%へ引き上げる方針は、株主への利益還元姿勢を明確に示しており、投資家から高く評価される可能性があります。 - 健全な財務体質
有利子負債を上回る現預金を持つ「Net Cash」化を達成したことで財務リスクが大幅に低下し、経営の安定性が増しています。 - 将来への成長投資
「Beyond2025」として掲げる超電導やファイバレーザなどの分野は、将来的に大きな成長が期待される領域であり、長期的な企業価値向上への期待につながります。
株価にネガティブな影響を与える要因
- 今期業績予想の減収減益
2026年3月期が減収減益予想であることは、短期的な視点ではネガティブに捉えられる可能性があります。 - 外部環境の不確実性
会社側がリスクとして認識している為替変動や米国の関税政策が想定以上に業績に悪影響を及ぼす可能性があります。 - 一部事業の懸念材料
エレクトロニクス事業のサプライマネジメント懸念や、自動車事業の受注プログラムの端境期による納入数量の減少など、一部セグメントに不透明な要素も存在します。
決算から分かるフジクラの強みは?
今回の決算からは、フジクラの以下のような強みが浮き彫りになりました。
情報通信分野における高い技術力と市場シェア
生成AIという巨大な市場トレンドを的確に捉え、データセンタ向けビジネスを急拡大させた実行力は、同社の大きな強みです。
また、SWR®/WTC®のような独自開発の製品をグローバルに展開し、世界トップクラスの通信事業者から認証を得るなど、高い技術力と顧客基盤を併せ持っています。
高い収益性とポートフォリオマネジメント能力
2025年3月期には13.8%という高い営業利益率を達成しました。
これは、成長分野に経営資源を集中投下する一方で、各事業で採算改善を着実に進めるポートフォリオマネジメントが機能している証拠です。
特に、厳しい事業環境が続いていた自動車事業で大幅な利益改善を実現した点は、同社の収益改善能力の高さを示しています。
健全な財務体質とキャッシュ創出力
好調な事業が生み出す潤沢なキャッシュフローを背景に、財務体質を大幅に改善させ、「Net Cash」を達成しました。
この強固な財務基盤があるからこそ、将来の成長に向けた積極的な投資と、株主への大幅な利益還元の両立が可能となっています。
まとめ
フジクラの2025年3月期決算は、データセンタ市場という大きな追い風に乗り、過去最高の業績を達成するという非常に力強い内容でした。
2026年3月期は外部環境の不透明さから減益予想となっているものの、実質的な成長は続いており、創出したキャッシュを成長投資と大幅な株主還元に振り向けるという、自信に満ちた経営方針を示しています。
今後は、引き続きデータセンタ関連ビジネスの動向が短期的な業績を左右する一方で、中長期的には「Beyond2025」として掲げる新領域が新たな成長ドライバーとして立ち上がってくるかどうかが、企業価値をさらに高める上での鍵となりそうです。
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