5大製薬会社(武田薬品工業、大塚ホールディングス、アステラス製薬、第一三共、中外製薬)の2024年度決算を比較

日本の株式市場を牽引する巨大産業の一つである製薬業界。
その中でも特に影響力の大きい武田薬品工業、大塚ホールディングス、アステラス製薬、第一三共、中外製薬の5社について、2024年度(2025年3月期または2024年12月期)の決算が出揃いました。

各社が新薬開発やグローバル展開にしのぎを削る中、その業績や財務状況、そして今後の見通しにはどのような違いがあるのでしょうか。

本記事では、5大製薬会社の決算データを多角的に比較・分析し、各社の現状と強み、そして株式投資の観点からの魅力を探ります。

この記事の内容を解説したYouTubeもあります。音声で聴きたい方はこちらをどうぞ。

目次

5大製薬会社の業績・各指標ランキング形式で比較

まずは、各社の2024年度決算における主要な指標をランキング形式で見ていきましょう。

2024年度 売上ランキング

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順位企業名売上収益
1位武田薬品工業4兆5,816億円
2位大塚ホールディングス2兆3,299億円
3位アステラス製薬1兆9,123億円
4位第一三共1兆8,863億円
5位中外製薬1兆1,706億円

売上収益では、グローバルな事業展開と幅広い製品ポートフォリオを持つ武田薬品工業が頭一つ抜けています。

2024年度 経常利益(税引前利益)ランキング

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順位企業名税引前利益
1位中外製薬5,430億円
2位第一三共3,556億円
3位大塚ホールディングス3,359億円
4位武田薬品工業1,751億円
5位アステラス製薬312億円

利益面では、高い創薬力とロシュとのアライアンスを背景に高収益体質を誇る中外製薬がトップに立ちました。

自己資本比率ランキング

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順位企業名自己資本比率
1位中外製薬86.1%
2位大塚ホールディングス73.1%
3位武田薬品工業48.7%
4位第一三共47.0%
5位アステラス製薬45.3%

財務の健全性を示す自己資本比率では、中外製薬が86.1%と極めて高い水準を誇っています。

ROE(自己資本利益率)ランキング

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順位企業名ROE
1位中外製薬22.0%
2位第一三共17.9%
3位大塚ホールディングス13.4%
4位アステラス製薬3.3%
5位武田薬品工業1.5%

資本効率を示すROEでは、中外製薬と第一三共が高い数値を示しており、効率的な経営が行われていることがうかがえます。

営業利益率ランキング

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順位企業名営業利益率
1位中外製薬46.3%
2位第一三共17.6%
3位大塚ホールディングス13.9%
4位武田薬品工業7.5%
5位アステラス製薬2.1%

本業での稼ぐ力を示す営業利益率では、中外製薬が46.3%という驚異的な高さを記録しています。

株価の割安性ランキング(PER、2025年6月27日終値基準)

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順位企業名PER(株価収益率)
1位大塚ホールディングス11.18倍
2位第一三共21.14倍
3位中外製薬31.93倍
4位アステラス製薬49.45倍
5位武田薬品工業63.87倍

株価の割安さを示すPERでは、大塚ホールディングスが最も低い数値となりました。

今期業績見通しランキング(経常利益増減率)

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順位企業名税引前利益増減率
(前期比)
1位アステラス製薬+380.2%
2位武田薬品工業+75.3%
3位大塚ホールディングス+10.2%
4位第一三共+4.0%
中外製薬非公開
※中外製薬はIFRSベースの税引前利益予想を公表していません。

アステラス製薬が前期の減損損失の反動もあり、大幅な増益を見込んでいます。

今期配当利回りランキング(2025年6月27日終値基準)

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順位企業名配当利回り
1位アステラス製薬5.56%
2位武田薬品工業4.58%
3位中外製薬3.33%
4位第一三共2.37%
5位大塚ホールディングス1.69%
※中外製薬は創業100周年記念配当150円を含みます。

株主還元への期待が高まる中、アステラス製薬と武田薬品工業が4%を超える高い配当利回りとなっています。

5大製薬会社の2024年度の業績を比較

2024年度は、各社で明暗が分かれる結果となりました。
売上規模では武田薬品が圧倒的ですが、利益面では中外製薬と第一三共が強さを見せました。

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企業名売上収益税引前利益当期純利益
(親会社帰属)
武田薬品工業4兆5,816億円1,751億円1,079億円
大塚ホールディングス2兆3,299億円3,359億円3,431億円
アステラス製薬1兆9,123億円312億円507億円
第一三共1兆8,863億円3,556億円2,958億円
中外製薬1兆1,706億円5,430億円3,873億円

武田薬品は、売上収益で5社中トップを維持しましたが、利益面では他社に及びませんでした。
これは、ADHD治療剤「VYVANSE」の独占販売期間満了などが影響しています。

第一三共は、抗がん剤「エンハーツ」の売上拡大が大きく貢献し、売上収益・利益ともに大幅に伸長しました。

中外製薬は、売上収益こそ5社で最も低いものの、血液凝固第VIII因子機能代替製剤「ヘムライブラ」のロシュ向け輸出が好調で、高い利益率を確保し、税引前利益ではトップとなりました。

大塚ホールディングスは、医療関連事業とニュートラシューティカルズ関連事業がともに成長し、堅調な業績を記録。
米国子会社の一過性税務調整もあり、当期利益は大幅な増益となりました。

アステラス製薬は、重点戦略製品が売上を伸ばしたものの、米国外の「IZERVAY」などに関する無形資産の減損損失を計上したことが響き、利益は伸び悩みました。

5大製薬会社の財務状況の比較

企業の安定性を示す財務状況では、各社の戦略の違いが表れています。

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企業名総資産資本合計自己資本比率
武田薬品工業14兆2,483億円6兆9,360億円48.7%
大塚ホールディングス3兆7,393億円2兆7,782億円73.1%
アステラス製薬3兆3,395億円1兆5,133億円45.3%
第一三共3兆4,561億円1兆6,234億円47.0%
中外製薬2兆2,084億円1兆9,015億円86.1%

中外製薬の自己資本比率86.1%は極めて高く、非常に安定した財務基盤を誇ります。
大塚ホールディングスも73.1%と高い水準です。

一方、大型買収などを手掛けてきた武田薬品アステラス製薬第一三共は50%を下回る水準となっていますが、一般的には問題ない水準とされており、各社とも健全な範囲内と言えるでしょう。

5大製薬会社の収益性の比較

企業の「稼ぐ力」を示す収益性指標では、中外製薬が他を圧倒しています。

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企業名ROEROAEPS(円)営業利益率
武田薬品工業1.5%0.76%68.367.5%
大塚ホールディングス13.4%9.18%633.7613.9%
アステラス製薬3.3%1.52%28.352.1%
第一三共17.9%8.56%155.9617.6%
中外製薬22.0%17.54%235.3946.3%

中外製薬は、営業利益率46.3%、ROE22.0%、ROA17.54%といずれの指標でもトップクラスの数値を叩き出しています。
これは、自社の高い創薬力とロシュとの戦略的アライアンスを活かした、効率的で高収益なビジネスモデルの成果と言えます。

第一三共もROE17.9%と高く、資本を効率的に活用して利益を上げていることが分かります。
大塚ホールディングスもROE13.4%と堅調な収益性を示しています。

5大製薬会社の株価の割安性の比較

株価が企業の価値に対して割安か割高かを示す指標を見てみましょう。

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企業名PER(倍)PBR(倍)
武田薬品工業63.870.99
大塚ホールディングス11.181.39
アステラス製薬49.451.66
第一三共21.143.79
中外製薬31.936.50
※2025年6月27日終値基準で算出

一般的にPERは15倍、PBRは1倍が基準とされます。

大塚ホールディングスPERが11.18倍と5社の中で最も低く、株価が利益水準に対して割安である可能性を示唆しています。

武田薬品はPBRが0.99倍と1倍を割れており、資産価値の観点からは割安と見ることができます。
ただし、PERは63.87倍と高くなっており、これは当期の利益が低かったことによる一時的な影響と考えられます。

第一三共中外製薬は、高い成長期待を背景にPBRがそれぞれ3.79倍、6.50倍と高めの水準になっています。

5大製薬会社の株主還元の比較

各社とも株主還元に積極的な姿勢を見せていますが、その方法は異なります。

配当金の比較

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企業名2024年度
年間配当金(円)
配当性向(%)
武田薬品工業196.00286.7
大塚ホールディングス120.0018.9
アステラス製薬74.00261.1
第一三共60.0038.5
中外製薬98.0041.6

武田薬品アステラス製薬は、当期利益を上回る配当を実施しており(配当性向100%超)、安定配当への強い意志がうかがえます。

一方で、大塚ホールディングス第一三共中外製薬は利益の範囲内で安定した配当を行っています。

自社株買いの比較

株主還元のもう一つの方法である自社株買いについては、各社で対応が分かれました。

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企業名自己株式取得の総額
(上限)
取得株式数の割合
(対発行済)
武田薬品工業1,000億円1.48%
大塚ホールディングス500億円1.05%
アステラス製薬実施なし
第一三共2,500億円2.76%
中外製薬実施なし

第一三共が2,500億円という大規模な自社株買いを実施しており、株主価値向上への積極的な姿勢が際立っています。

武田薬品大塚ホールディングスもそれぞれ1,000億円、500億円規模の自社株買いを行いました。

5大製薬会社の今期(2025年度)見通しの業績について比較

今期の業績見通しは、各社の戦略と成長ドライバーを占う上で重要です。

業績の比較

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企業名売上収益税引前利益当期純利益
(親会社帰属)
武田薬品工業4兆5,300億円
(△1.1%)
3,070億円
(+75.3%)
2,280億円
(+111.3%)
大塚ホールディングス2兆3,800億円
(+2.2%)
3,700億円
(+10.2%)
2,750億円
(△19.9%)
アステラス製薬1兆9,300億円
(+0.9%)
1,500億円
(+380.2%)
1,300億円
(+156.2%)
第一三共2兆0,000億円
(+6.0%)
3,700億円
(+4.0%)
3,000億円
(+1.4%)
中外製薬1兆1,900億円 (+1.7%)*非公開非公開
()内は前期比増減率。*中外製薬の売上収益はCoreベースの見通し。

売上収益は各社とも堅調な推移を見込んでいます。特に第一三共は6.0%の増収と力強い成長が続く見通しです。

利益面では、前期に減損損失を計上したアステラス製薬武田薬品が大幅な回復を見込んでいます。
一方で、前期に一過性の税務調整益があった大塚ホールディングスは減益予想となっています。

配当見通しの比較

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企業名2025年度
年間配当金(円)
配当利回り(%)配当性向(%)
武田薬品工業200.004.58138.1
大塚ホールディングス120.001.6923.4
アステラス製薬78.005.56107.4
第一三共78.002.3748.5
中外製薬250.003.33100.0
(Coreベース)
※2025年6月27日終値基準で算出

配当利回りではアステラス製薬が5.56%と非常に高い水準を予想しており、インカムゲインを重視する投資家にとって魅力的です。武田薬品も4.58%と高利回りです。

中外製薬は創業100周年記念配当150円を含む250円の配当を予定しており、こちらも注目されます。

5大製薬会社に株式投資をする上でのポイントは?

ここまでの分析を踏まえ、投資スタイル別に注目すべき企業をまとめます。

  • 業績が良い企業に投資するなら?
    • 第一三共
      ADC(抗体薬物複合体)技術を核とした「エンハーツ」の急成長が続いており、今後も高い増収増益が見込まれます。
      がん領域での圧倒的な強みが魅力です。
    • 中外製薬
      独自の創薬力とロシュとのアライアンスにより、業界トップクラスの利益率を誇ります。
      安定的に高い収益を上げ続ける力は、長期的な成長を期待する投資家にとって安心材料です。
  • 配当利回りで選ぶなら?
    • アステラス製薬
      5.56%という高い配当利回りは5社の中でトップです。
      株価が低迷している今、高配当を享受しながら将来の株価回復を待つという戦略が考えられます。
    • 武田薬品工業
      こちらも4.58%と高水準の利回りです。
      累進配当を掲げており、安定したインカム収入を重視する投資家に適しています。
  • 株価の割安感を重視するなら?
    • 大塚ホールディングス
      PERが11.18倍と低く、PBRも1.39倍と比較的落ち着いているため、割安感があります。
      医療とNC事業のバランスの取れたポートフォリオも魅力です。
    • 武田薬品工業
      PBRが1倍を割れており、資産面からの割安さが際立ちます。
      巨額の有利子負債は懸念材料ですが、財務改善が進めば株価の見直しが期待できます。
  • 資本効率を重視するなら?
    • 中外製薬
      ROE22.0%という高い数値は、自己資本を非常に効率的に使って利益を生み出している証拠です。
    • 第一三共
      ROE17.9%も高い水準であり、成長投資と株主還元のバランスを取りながら、効率的な経営を続けています。

決算から分かる各社の強みは?

最後に、株式投資をする上で重要となる、各社の強みを分析していきます。

武田薬品工業

世界的な販売網と多様な製品ポートフォリオが強みです。

特に潰瘍性大腸炎・クローン病治療剤「ENTYVIO」などの成長製品・新製品が業績を牽引しています。

また、全社的な効率化プログラムを着実に進めており、将来的な利益率の改善が期待されます。

大塚ホールディングス

「医療関連事業」と「ニュートラシューティカルズ(NC)関連事業」という二つの柱を持つユニークな事業構造が特徴です。

精神・神経領域の「レキサルティ」「エビリファイ メンテナ」や腎領域の「ジンアーク」といった大型製品を持つ一方、NC事業では「ポカリスエット」や「ネイチャーメイド」などがグローバルに成長しており、安定した収益基盤を築いています。

アステラス製薬

「XTANDI」の独占販売期間満了後を見据え、「PADCEV」「IZERVAY」「VEOZAH」といった重点戦略製品へのシフトを進めています。

研究開発では、特定の疾患領域や技術に経営資源を集中させる「Focus Areaアプローチ」を推進しており、標的タンパク質分解誘導剤「ASP3082」などで成果が出始めています。

第一三共

独自のADC(抗体薬物複合体)技術が最大の強みです。

特に抗HER2 ADC「エンハーツ」は驚異的なスピードで売上を伸ばしており、同社の成長を牽引しています。

アストラゼネカや米国メルクとの戦略的提携により、開発・販売を加速させており、がん領域におけるグローバルリーダーとしての地位を確立しつつあります。

中外製薬

独自のサイエンスと技術力に裏打ちされた高い創薬力と、ロシュとの戦略的アライアンスが強固な経営基盤を形成しています。

このビジネスモデルにより、業界トップクラスの営業利益率(46.3%)を達成。
自社創製品である「ヘムライブラ」「アクテムラ」「アレセンサ」などがグローバルで成功を収めており、安定した成長を実現しています。

まとめ

2024年度の決算は、5大製薬会社がそれぞれ異なる戦略と強みを持ち、多様な成長ストーリーを描いていることを示しました。

  • 成長性で選ぶなら、ADC技術で世界を席巻する第一三共
  • 収益性と安定性を重視するなら、高利益体質を誇る中外製薬
  • 高配当利回りに魅力を感じるなら、株価が調整局面にあるアステラス製薬武田薬品工業
  • 割安感と事業の多角化を評価するなら、独自のポジションを築く大塚ホールディングス

各社の決算資料を深く読み解くことで、それぞれの企業の現在地と未来像が見えてきます。
本記事が、製薬業界への投資を検討する上での一助となれば幸いです。

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