関西電力の2025年3月期決算が発表されました。
本記事では、連結決算の概況からセグメント別の詳細、財務状況、株主還元策、そして今後の見通しに至るまで、提供された決算短信および決算説明資料をもとに、株価への影響も含めて多角的に分析します。
関西電力の2025年3月期における連結決算の振り返り
2025年3月期(2024年度)の連結決算は、増収減益となりました。
売上高は前期比で増加したものの、営業利益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益はいずれも前期を下回る結果となりました。
項目 | 2025年3月期実績 (百万円) | 2024年3月期実績 (百万円) | 前期比増減額 (百万円) | 前期比増減率 (%) |
---|---|---|---|---|
売上高 | 4,337,111 | 4,059,378 | +277,733 | +6.8 |
営業利益 | 468,877 | 728,935 | -260,058 | -35.7 |
経常利益 | 531,686 | 765,970 | -234,283 | -30.6 |
親会社株主に帰属する 当期純利益 | 420,364 | 441,870 | -21,506 | -4.9 |
増収の主な要因は、販売電力料収入の増加です。
一方で、原子力利用率の上昇があったものの、他社からの電力購入料の増加や燃料費調整制度による収入の減少などが影響し、利益面では前期を下回りました。
関西電力の2025年3月期セグメント別の業績
セグメント別の業績は以下の通りです。
「生活・ビジネスソリューション事業」が増益となった一方で、「エネルギー事業」「送配電事業」「情報通信事業」は減益となりました。
セグメント名 | 外部顧客への売上高 (百万円) | セグメント利益 (経常利益) (百万円) | 前期比増減額 (百万円) |
---|---|---|---|
エネルギー事業 | 3,540,779 | 411,321 | -172,546 |
送配電事業 | 389,120 | 55,794 | -68,288 |
情報通信事業 | 223,584 | 46,945 | -547 |
生活・ビジネスソリューション事業 | 183,626 | 26,208 | +3,819 |
エネルギー事業
販売電力料収入の増加などにより、外部顧客への売上高は前期比で2,050億99百万円の増収となりました。
しかし、他社からの電力購入料が増加したことや、燃料費調整制度による収入の減少が響き、セグメント利益は前期比で1,725億46百万円の減益となりました。
原子力利用率の上昇による増益効果(+610億円)があったものの、為替・燃料価格等の変動影響(-2,660億円)がそれを大きく上回りました。
送配電事業
エリア需要の増加などによる託送収益の増加により、外部顧客への売上高は前期比472億40百万円の増収となりました。
支出面では、需給調整取引に伴う費用や修繕費が増加したことなどから経常費用が増加し、セグメント利益は前期比682億88百万円の大幅な減益となりました。
特に、容量拠出金(-223億円)や修繕費の増加(-138億円)が利益を圧迫しました。
情報通信事業
子会社のオプテージにおいて、eo電気の燃料費調整額が減少したことなどから、外部顧客への売上高は前期比で17億85百万円の減収となりました。
また、同社において容量拠出金や委託費等の販売管理費が増加したこともあり、セグメント利益は前期比5億47百万円の減益となりました。
生活・ビジネスソリューション事業
関電不動産開発の住宅分譲事業において、引き渡し戸数の増加や販売単価が向上したことなどから、外部顧客への売上高は前期比271億78百万円の増収となりました。
同事業の商品原価等の売上原価は増加したものの、増収効果が上回り、セグメント利益は前期比38億19百万円の増益を確保しました。
関西電力の2025年3月期末財務状況について
2025年3月期末の財務状況は、資産・純資産ともに増加し、自己資本比率も改善するなど、財務の健全性が向上しています。
項目 | 2025年3月期末 (百万円) | 2024年3月期末 (百万円) | 前期末比増減 |
---|---|---|---|
総資産 | 9,652,655 | 9,032,917 | +619,737 |
負債 | 6,545,202 | 6,699,669 | -154,466 |
(うち有利子負債) | (4,471,794) | (4,580,482) | (-108,688) |
純資産 | 3,107,452 | 2,333,248 | +774,204 |
自己資本比率 | 31.8% | 25.2% | +6.6ポイント |
- 資産
設備投資額が減価償却費を上回ったことや、現金及び預金が増加したことなどから、前期末に比べて6,197億37百万円増加しました。 - 負債
有利子負債が減少したことなどから、前期末に比べて1,544億66百万円減少しました。 - 純資産
親会社株主に帰属する当期純利益(4,203億64百万円)の計上に加え、新株式発行及び自己株式の処分(3,787億87百万円)を実施したことなどから、前期末に比べて7,742億4百万円増加しました。 - 自己資本比率
純資産の増加により、前期末から6.6ポイント上昇し、31.8%となりました。
キャッシュフローの状況
2025年3月期のキャッシュフローは以下の通りです。
項目 | 2025年3月期 (百万円) | 2024年3月期 (百万円) | 前期比増減 (百万円) |
---|---|---|---|
営業活動による キャッシュ・フロー | 575,299 | 1,154,990 | -579,690 |
投資活動による キャッシュ・フロー | -342,353 | -428,049 | +85,695 |
財務活動による キャッシュ・フロー | 137,673 | -488,906 | +626,580 |
現金及び現金同等物 期末残高 | 941,432 | 564,427 | +377,004 |
- 営業活動によるキャッシュ・フロー
法人税等の支払いが増加したことや、売掛金などが増加したことにより、収入は前期比で5,796億90百万円減少しました。 - 投資活動によるキャッシュ・フロー
投融資の回収収入が増加したことなどから、支出は前期比で856億95百万円減少しました。 - 財務活動によるキャッシュ・フロー
新株式発行及び自己株式の処分を実施したことや、有利子負債の返済額が減少したことにより、前期の支出から一転し、1,376億73百万円の収入となりました。
収益性に関する指標(ROEなど)
当期の収益性に関する主要な指標は以下の通りです。利益の減少に伴い、各指標は前期を下回りました。
指標 | 2025年3月期 | 2024年3月期 |
---|---|---|
自己資本当期純利益率 (ROE) | 15.7% | 21.8% |
総資産経常利益率 (ROA) | 5.7% (決算短信) 6.1% (決算説明資料) | 8.6% (決算短信) 8.9% (決算説明資料) |
売上高営業利益率 | 10.8% | 18.0% |
投下資本利益率 (ROIC) | 6.0% | 8.8% |
注:ROAの数値は、算出方法の違いにより資料間で差異があります。
関西電力の株主還元について
関西電力は、財務体質の健全性を確保した上で、安定的に配当を実施することを株主還元方針としています。
配当金の状況
2024年度の期末配当は1株当たり30円とされ、中間配当30円と合わせて年間配当は60円となります。
これは前期の年間50円から10円の増配です。
また、2025年度(2026年3月期)の配当予想も、中間・期末ともに30円ずつの年間60円を予定しています。
2024年3月期 (実績) | 2025年3月期 (実績) | 2026年3月期 (予想) | |
---|---|---|---|
中間配当金 (円) | 25.00 | 30.00 | 30.00 |
期末配当金 (円) | 25.00 | 30.00 | 30.00 |
年間配当金合計 (円) | 50.00 | 60.00 | 60.00 |
配当性向 (連結) (%) | 10.1 | 13.8 | 22.7 |
自社株買いの発表はあった?
今回の決算発表において、新たな自己株式取得(自社株買い)の発表はありませんでした。
決算短信には自己株式の取得(5億95百万円)と処分(974億43百万円)の実績が記載されていますが、これらは過去に実施されたものです。
関西電力の今期見通しと戦略について
2026年3月期(2025年度)の連結業績は、売上高4兆円(前期比7.8%減)、経常利益4,000億円(前期比24.8%減)と、減収減益を見込んでいます。
項目 | 2026年3月期予想 (百万円) | 前期比増減率 (%) |
---|---|---|
売上高 | 4,000,000 | -7.8 |
営業利益 | 380,000 | -19.0 |
経常利益 | 400,000 | -24.8 |
親会社株主に帰属する 当期純利益 | 295,000 | -29.8 |
減益の主な要因として、エネルギー事業における原子力利用率の低下(88.5%→80%程度)、送配電事業におけるエリア需要の減少、インフレ影響なども受けた諸経費や修繕費の増加を挙げています。
戦略面では、中期経営計画に基づき、原子力利用率の向上やコスト構造改革を継続するとともに、成長事業への投資(2025年度までに3,000億円程度)を通じて、EPS(1株当たり利益)の着実な成長を目指す方針です。
特に、情報通信、不動産、海外電力、分散型エネルギーなどの非エネルギー事業を成長ドライバーと位置づけています。
決算内容や今期の見通しで、関西電力の株価はどうなる?
今回の決算内容と今期の見通しには、株価にとってポジティブな要因とネガティブな要因が混在しています。
株価にポジティブな影響を与える要因
- 増配と配当維持
2025年3月期に前期比10円の増配(年間60円)を実施し、減益予想の2026年3月期も同水準の年間60円配当を維持する方針を示したことは、株主還元への積極的な姿勢として評価される可能性があります。 - 財務体質の改善
新株発行や利益の蓄積により自己資本比率が31.8%まで大幅に改善し、2026年3月期末には34%程度まで向上する見通しであり、財務の安定性が高まっています。 - 資本収益性
2025年3月期のROIC(投下資本利益率)は6.0%となり、2026年3月期も4.5%程度と、中期経営計画の目標である4.3%以上を達成する見込みである点も好材料です。
株価にネガティブな影響を与える要因
- 減益決算と減益予想
2025年3月期が減益で着地し、さらに2026年3月期も大幅な減益が見込まれている点は、株価にとって最大の懸念材料です。 - 原子力利用率の低下
収益の大きな柱である原子力発電の利用率が、前期の88.5%から今期は80%程度に低下する見通しであることが、減益の大きな要因となっています。 - コスト増加
諸経費や修繕費の増加が利益を圧迫する構造となっており、今後のコストコントロールが課題となります。
決算から分かる関西電力の強みは?
今回の決算からは、関西電力の以下のような強みが読み取れます。
高い競争力を持つ原子力発電
2025年3月期における原子力利用率は88.5%に達し、総発電電力量の48%を原子力が占めています。
これは燃料費の変動を受けにくい安定した低コスト電源であり、同社のコスト競争力の源泉となっています。
原子力利用率1%の上昇が経常利益を約53億円押し上げる効果があり、その影響力の大きさがうかがえます。
強化された財務基盤
2024年11月の公募増資などにより、自己資本比率は25.2%(2024年3月末)から31.8%(2025年3月末)へと大きく改善しました。
有利子負債も着実に減少させており、安定した財務基盤は将来の成長投資や安定配当の支えとなります。
多角的な事業ポートフォリオ
主力のエネルギー事業、送配電事業に加え、「情報通信事業」や「生活・ビジネスソリューション事業」といった非エネルギー事業が安定的に利益を創出している点も強みです。
特に生活・ビジネスソリューション事業は当期増益を確保しており、事業の多角化が経営の安定に寄与しています。
まとめ
関西電力の2025年3月期決算は、増収減益という結果でした。
販売電力料の増加はあったものの、燃料費調整制度の影響やコスト増が利益を圧迫しました。
今期(2026年3月期)も原子力利用率の低下などから減益を見込んでおり、事業環境は厳しい状況が続きます。
一方で、増配の実施と配当維持の方針、そして公募増資による財務基盤の大幅な強化は、株主にとってポジティブな要素です。
今後は、コスト構造改革を進めつつ、非エネルギー分野への成長投資によって収益源を多様化し、持続的な成長軌道に戻れるかが焦点となります。
株価は当面の減益見通しと、中長期的な成長戦略および株主還元策との綱引きになる展開が予想されます。
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