東京電力ホールディングスの2025年3月期決算を解説|燃料費等調整制度の期ずれで大幅な減収減益に!

東京電力ホールディングスの2025年3月期決算は、燃料価格の低下などを背景に減収となり、経常利益・純利益ともに前期から大幅な減少となりました。
一方で、純資産は増加し自己資本比率も改善するなど、財務基盤の強化が進んでいる側面も見られます。

福島第一原子力発電所の廃炉・賠償という重い課題を背負いながら、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働準備や、再生可能エネルギー・DXといった成長分野への投資も進めています。

本記事では、東京電力ホールディングスの2025年3月期の決算内容を詳しく解説し、今後の事業戦略や株価に与える影響について、決算資料をもとに分析していきます。

目次

東京電力ホールディングスの2025年3月期における連結決算の振り返り

2025年3月期(2024年度)の連結決算の概要は以下の通りです。

勘定科目2025年3月期
実績
2024年3月期
実績
前期比
売上高6兆8,103億円6兆9,183億円▲1.6%
営業利益2,344億円2,788億円▲15.9%
経常利益2,544億円4,255億円▲40.2%
親会社株主に帰属する
当期純利益
1,612億円2,678億円▲39.8%
出典:東京電力ホールディングス株式会社「2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)

2025年3月期は、燃料価格の低下などに伴い燃料費等調整額が減少したことなどから、売上高は前期比1.6%減の6兆8,103億円となりました。

経常利益は、主に燃料費等調整制度の期ずれ影響が悪化したことなどにより、前期比40.2%減の2,544億円となりました。

また、特別利益に原子力損害賠償・廃炉等支援機構からの資金交付金873億円を計上した一方、特別損失に原子力損害賠償費803億円や災害特別損失626億円を計上した結果、親会社株主に帰属する当期純利益は1,612億円の利益となりました。

東京電力ホールディングスのセグメント別の業績

セグメント別の業績は以下の通りです。

セグメント名売上高経常損益
ホールディングス (HD)7,962億円▲507億円
フュエル&パワー (FP)37億円577億円
パワーグリッド (PG)2兆3,452億円549億円
エナジーパートナー (EP)5兆5,598億円2,879億円
リニューアブルパワー (RP)2,121億円536億円
出典:東京電力ホールディングス株式会社「2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)

ホールディングス (HD)

ホールディングスセグメントの収益は、主に子会社からの配当収入や廃炉等負担金収益、経営サポート料、原子力の卸電力販売などから構成されています。

費用は、原子力発電設備の修繕費や減価償却費、原子力損害賠償・廃炉等支援機構への負担金などが主です。
当期は、特別負担金の減少などにより、前期から764億円の増益(損失が減少)となりました。

フュエル&パワー (FP)

このセグメントの損益は、主に火力発電事業などを手掛ける株式会社JERAの需給収支などによる持分法投資損益で構成されます。
当期は、JERAにおける燃料費等調整制度の期ずれ影響が悪化したことなどにより、前期比1,171億円の大幅な減益となりました。

パワーグリッド (PG)

送配電事業を担うこのセグメントの売上は、主に託送収益で構成されます。

当期は、需給調整に係る費用や送配電設備の修繕費が増加したことなどにより、前期比1,018億円の大幅な減益となりました。

エナジーパートナー (EP)

電力・ガスの小売事業を担うこのセグメントの売上は、主に電気料金収入です。

当期は、燃料費等調整制度の期ずれ影響が悪化したことなどにより、前期比382億円の減益となりました。

リニューアブルパワー (RP)

水力発電や再生可能エネルギー発電を担うこのセグメントの売上は、主に卸電力販売です。

当期は、修繕費が増加した一方で、卸電力販売が増加したことなどにより、前期比84億円の増益となりました。

東京電力ホールディングスの財務状況について

2025年3月期末時点の財務状況は以下の通りです。

スクロールできます
項目2025年3月期末2024年3月期末
総資産14兆9,869億円14兆5,954億円
純資産3兆7,861億円3兆5,380億円
自己資本比率25.1%24.1%
有利子負債6兆5,097億円6兆3,005億円
出典:東京電力ホールディングス株式会社「2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)

当連結会計年度末の総資産は、関係会社長期投資の増加などにより、前期末比で3,915億円増加しました。
負債は、有利子負債の増加などにより1,434億円増加しています。

純資産は、親会社株主に帰属する当期純利益1,612億円を計上したことなどにより、2,481億円増加しました。
この結果、自己資本比率は前期末から1.0ポイント上昇し、25.1%へと改善しました。

キャッシュフローの状況

キャッシュフローの状況は以下の通りです。

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項目2025年3月期2024年3月期
営業活動によるCF3,612億円6,730億円
投資活動によるCF▲8,592億円▲6,987億円
財務活動によるCF1,941億円5,414億円
現金及び現金同等物
期末残高
9,264億円1兆2,351億円
出典:東京電力ホールディングス株式会社「2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)
  • 営業活動によるキャッシュ・フローは、未払費用の減少などにより、前期比で収入が減少し3,612億円のプラスとなりました。
  • 投資活動によるキャッシュ・フローは、固定資産の取得による支出が増加したことなどから、支出が拡大し8,592億円のマイナスとなりました。
  • 財務活動によるキャッシュ・フローは、短期借入れによる収入が減少したことなどにより、前期比で収入が減少し1,941億円のプラスとなりました。

これらの結果、現金及び現金同等物の期末残高は、前期末に比べ3,086億円減少し、9,264億円となりました。

収益性に関する指標(ROEなど)

当期の収益性に関する主な指標は以下の通りです。

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指標2025年3月期2024年3月期
ROE
(自己資本当期純利益率)
4.4%8.1%
ROA
(総資産経常利益率)
1.7%3.0%
売上高営業利益率3.4%4.0%
EPS
(1株当たり当期純利益)
100.67円167.18円
出典:東京電力ホールディングス株式会社「2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)

当期は減益となったことから、ROE、ROA、売上高営業利益率といった各指標は前期に比べて悪化しました。

東京電力ホールディングスの株主還元について

配当金の状況

2025年3月期(2024年度)の期末配当は、前期に引き続き無配(0円)となりました。

また、2026年3月期(2025年度)の配当予想についても、中間・期末ともに無配(0円)とされています。

当期純利益は1,612億円の黒字を計上しましたが、配当性向は0%となります。

自社株買いの発表はあった?

決算短信において、新たな大規模な自己株式取得(自社株買い)の発表はありませんでした。

なお、2025年3月期の連結株主資本等変動計算書によると、21百万円の自己株式の取得が記録されています。
これは、単元未満株の買取請求などに応じたものと考えられます。

期末の自己株式数は前期末から約3.2万株増加し、4,941,929株となっています。

東京電力ホールディングスの今期見通しと戦略について

2026年3月期(2025年度)の連結業績予想については、売上高・各利益ともに「未定」としています。
これは、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働時期を見通せないことが主な理由です。

今後、業績見通しが示せる状況となった段階で速やかに公表する方針です。

業績予想は未定ですが、将来の成長に向けた戦略は示されています。

  • 電力需要の増加への対応
    データセンターや半導体工場の新増設により、東電PGエリアの電力需要は今後10年間で段階的に増加し、2034年度時点では約400万kWの需要増が見込まれています。
    この需要増加に対応していくことが重要な戦略となります。
  • 資本効率を意識した経営
    資本コストや株価を意識した経営を実現するため、ROIC(投下資本利益率)を経営管理指標として導入することを検討しています。
    これにより、各事業の生産性向上と企業価値向上を目指す方針です。
  • アライアンスによる事業拡大
    他社との連携を積極的に進めています。
    NTTと共同出資するTNクロス株式会社を通じて、学校への再生可能エネルギー導入事業を手掛けるほか、国内外の企業と連携し、電力系統の安定化や新たなサービス開発に取り組んでいます。
  • 原子力事業の推進と安全対策
    柏崎刈羽原子力発電所について、7号機は燃料装荷後の健全性確認を完了し、6号機も再稼働に向けた準備を進めています。
    一方で、安全対策の観点から特定重大事故等対処施設(特重設)の工事完了時期は、7号機で2029年8月、6号機で2031年9月(仮置き)へと変更されています。

決算内容や今期の見通しで、東京電力ホールディングスの株価はどうなる?

決算資料の情報からは、株価に対してポジティブな要因とネガティブな要因の両方が読み取れます。

株価にポジティブな影響を与える要因

  • 財務基盤の強化
    当期純利益の計上により純資産が増加し、自己資本比率が1.0ポイント改善して25.1%となったことは、財務の安定性向上を示すポジティブな材料です。
  • 将来の需要増への期待
    データセンターや半導体工場の新増設に伴い、東電エリアの電力需要は2034年度にかけて年平均+1.1%で増加する見通しです。
    これは将来の収益基盤の拡大につながる可能性があります。
  • 企業価値向上への意識
    ROIC管理の導入を検討するなど、資本効率を意識した経営への転換を図ろうとしている点は、投資家から評価される可能性があります。
  • 柏崎刈羽原子力発電所の再稼働期待
    再稼働の時期は未定ですが、7号機・6号機ともに再稼働に向けた準備は着実に進んでいます。
    再稼働が実現すれば、火力燃料費の大幅な削減につながり、収益性が劇的に改善する可能性があります。

株価にネガティブな影響を与える要因

  • 大幅な減益決算
    経常利益が前期比で40.2%減、親会社株主に帰属する当期純利益が39.8%減という大幅な減益は、株価にとって明確なネガティブ要因です。
  • 業績予想の不透明性
    今期の業績予想が「未定」であることは、投資家にとって将来の収益を見通すことを困難にし、不確実性を高める要因となります。
  • 継続する原子力リスク
    • 福島第一原子力発電所の廃炉は前例のない取り組みであり、計画通りに進捗しない可能性があります。
    • 柏崎刈羽原発の再稼働時期が依然として不透明であることや、安全対策工事の完了時期が延期されていることもリスクです。
    • 今後も原子力損害賠償費が発生する可能性があり、特別損失として計上されています。
  • 株主還元の不在
    利益を計上しているにもかかわらず無配が継続しており、株主還元を重視する投資家からは敬遠される可能性があります。
  • 株式の希薄化懸念
    原子力損害賠償・廃炉等支援機構が保有する優先株式が、将来的に普通株式に転換される可能性があり、その場合は1株当たりの価値が希薄化するリスクがあります。

決算から分かる東京電力ホールディングスの強みは?

厳しい経営環境にある一方、決算資料からは同社ならではの強みも見て取れます。

首都圏を支える強固な事業基盤

最大の強みは、日本の経済の中心である首都圏エリアにおいて、独占的な送配電網(パワーグリッド)を保有・運営していることです。
総資産は約15兆円にのぼり、この巨大なインフラは安定した収益基盤であり、他社が容易に参入できない高い参入障壁を築いています。

国策企業としての安定性

福島第一原発事故以降、原子力損害賠償・廃炉等支援機構法という法律に基づき、国から継続的に資金援助(資金交付金や負担金)を受けています。
これは、同社の事業が国策と一体であり、事業継続性に対する国の強力なバックアップがあることを示しており、経営の安定性につながっています。

多様な事業ポートフォリオと成長への布石

ホールディングス体制の下、発電(火力・再エネ)、送配電、小売といった多様な事業ポートフォリオを構築しています。

近年では、再生可能エネルギー電源の開発や、NTTとの提携による新たなエネルギーサービスの創出など、脱炭素社会の実現やDXの進展といった社会の変化を捉えた成長分野への投資を積極的に行っており、将来の収益源を多角化しようとしています。

まとめ

東京電力ホールディングスの2025年3月期決算は、燃料費等調整制度の期ずれ影響などから前期比で大幅な減収減益となりました。しかしその一方で、利益計上によって自己資本比率が改善するなど、財務基盤の強化も進んでいます。

今後の株価や企業価値を左右する最大の要因は、依然として柏崎刈羽原子力発電所の再稼働の行方です。再稼働が実現すれば収益性は飛躍的に向上しますが、時期は依然として不透明です。また、福島第一原発の廃炉・賠償という長期的な課題への対応も続きます。

こうした中、データセンター需要の拡大といった追い風を捉え、ROIC導入による資本効率の改善や、他社とのアライアンスによる新規事業創出など、企業価値向上に向けた取り組みも進められています。多くのリスクと不確実性を抱えながらも、巨大な事業基盤を背景に、次なる成長に向けた変革を進めているのが現状と言えるでしょう。

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