大手電力会社3社(東京電力・関西電力・中部電力)の2025年3月期決算を比較|収益性、財務状況、株主還元、今期見通しは?

電力業界は、エネルギー価格の変動、脱炭素化への移行、そして電力自由化による競争激化など、大きな変革期にあります。このような状況の中、日本の電力供給を支える大手電力会社はどのような経営状況にあるのでしょうか。

本記事では、国内大手電力会社である東京電力ホールディングス、関西電力、中部電力の3社が公表した2025年3月期(2024年度)の決算内容を徹底比較します。
業績や財務状況、株主還元策から今後の見通しまで、ランキング形式も交えながら分かりやすく解説し、各社の強みと株式投資におけるポイントを探ります。

目次

大手電力会社3社の業績・各指標ランキング形式で比較

まずは、3社の主要な業績や財務指標をランキング形式で見ていきましょう。

2025年3月期 売上ランキング

順位会社名売上高
1位東京電力6兆8,103億円
2位関西電力4兆3,371億円
3位中部電力3兆6,692億円

売上高では、広大な首都圏を供給エリアに持つ東京電力がトップとなりました。

2025年3月期 経常利益ランキング

順位会社名経常利益
1位関西電力5,316億円
2位中部電力2,764億円
3位東京電力2,544億円

経常利益では、原子力発電所の稼働率が上昇した関西電力が他社を大きく引き離して1位となりました。

自己資本比率ランキング

順位会社名自己資本比率
1位中部電力39.1%
2位関西電力31.8%
3位東京電力25.1%

財務の健全性を示す自己資本比率では、中部電力が最も高い水準となっています。

ROEランキング

順位会社名ROE(自己資本利益率)
1位関西電力15.7%
2位中部電力7.5%
3位東京電力4.4%

資本効率を示すROEでは、関西電力が15.7%と高い数値を記録しました。

営業利益率ランキング

順位会社名営業利益率
1位関西電力10.8%
2位中部電力6.6%
3位東京電力3.4%

売上高に対する営業利益の割合を示す営業利益率でも、関西電力がトップでした。

株価の割安性ランキング(2025年7月10日終値基準)

PER(株価収益率)

※低いほど割安とされます

順位会社名PER
1位関西電力3.94倍
2位東京電力5.15倍
3位中部電力6.80倍

PBR(株価純資産倍率)

※1倍割れは割安とされます。

順位会社名PBR
1位東京電力0.30倍
2位中部電力0.49倍
3位関西電力0.62倍

PERでは関西電力、PBRでは東京電力が最も低い数値となり、株価の割安感を示唆しています。3社ともにPBRは1倍を大きく下回る水準です。

今期業績見通しランキング(経常利益)

順位会社名2026年3月期
経常利益見通し
1位関西電力4,000億円
2位中部電力2,300億円
東京電力未定

来期の見通しでは、関西電力が最も高い利益水準を予想していますが、前期比では減益の見込みです。

今期配当利回りランキング

順位会社名今期配当利回り
(予想)
1位中部電力3.85%
2位関西電力3.49%
3位東京電力0%

配当利回りでは、年間70円への増配を予定している中部電力がトップとなりました。

大手電力会社3社の2025年3月期業績を比較

2025年3月期の連結業績は以下の通りです。3社ともに燃料費調整制度の期ずれ影響が収益を左右する大きな要因となりました。

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項目東京電力関西電力中部電力
売上高6兆8,103億円4兆3,371億円3兆6,692億円
経常利益2,544億円5,316億円2,764億円
当期純利益1,612億円4,203億円2,020億円

関西電力は、販売電力料収入が増加したものの、燃料費調整制度による収入の減少などが響き、増収減益となりました。
しかし、原子力利用率が前年度の76.6%から88.5%へ上昇したことなどが寄与し、3社の中で最も高い経常利益を確保しています。

東京電力は、燃料価格の低下による燃料費等調整額の減少が主因で減収。
さらに、燃料費等調整制度の期ずれ影響が悪化したことで、経常利益は前期比で40.2%減となりました。

中部電力は、販売電力量の増加などにより増収となりましたが、燃料価格等の変動が電力販売価格に反映されるまでの期ずれ差益が前期の1,380億円から120億円へと大幅に減少したことなどから、経常利益は前期比で45.7%の減益となりました。

大手電力会社3社の財務状況の比較

各社の財務健全性を総資産、純資産、自己資本比率から比較します。

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項目東京電力関西電力中部電力
総資産14兆9,869億円9兆6,526億円7兆1,248億円
純資産3兆7,861億円3兆1,074億円2兆8,585億円
自己資本比率25.1%31.8%39.1%

中部電力自己資本比率が39.1%と最も高く、財務の安定性が際立っています。
同社は最適資本構成の目安として自己資本比率30%台半ば~後半を掲げており、健全な財務基盤を維持しています。

関西電力も31.8%と安定した水準を確保しています。

一方で東京電力は25.1%と他の2社に比べて低い水準にあります。
これは福島第一原子力発電所の事故に伴う賠償や廃炉費用などが財務上の重しとなっているためです。

大手電力会社3社の収益性の比較

企業の「稼ぐ力」を示す収益性に関する指標を比較します。

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項目東京電力関西電力中部電力
ROE(自己資本利益率)4.4%15.7%7.5%
ROA(総資産利益率)1.7%6.1%3.9%
EPS(1株当たり利益)100.67円436.09円267.41円
営業利益率3.4%10.8%6.6%

関西電力が全ての収益性指標でトップに立っています。特にROEは15.7%と高く、株主資本を効率的に活用して大きな利益を生み出していることが分かります。
これは高水準の利益を計上したことが大きく影響しています。

中部電力もROE7.5%と堅実な収益性を示しています。
東京電力は、利益水準が他社より低いことから、各収益性指標も低めの結果となりました。

大手電力会社3社の株価の割安性の比較

株価が企業の利益や資産に対して割安か割高かを示すPERとPBRを比較します(2025年7月10日終値基準)。

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項目東京電力関西電力中部電力
PER(株価収益率)5.15倍3.94倍6.80倍
PBR(株価純資産倍率)0.30倍0.62倍0.49倍

3社ともPBRが1倍を大きく下回っており、株価が純資産に対して割安な水準にあることを示唆しています。
特に東京電力はPBRが0.30倍と極めて低い水準です。ただし、これは将来の廃炉費用などのリスクが株価に織り込まれているためと考えられます。

PERでは関西電力が3.94倍と最も低く、利益水準から見ると他社に比べて株価が割安である可能性を示しています。

大手電力会社3社の株主還元の比較

配当金や自社株買いといった株主還元策について比較します。

配当金の比較

2025年3月期(2024年度)の実績配当金と配当性向は以下の通りです。

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項目東京電力関西電力中部電力
年間配当金(実績)0円60円60円
配当性向(連結)13.8%22.4%

関西電力中部電力はともに年間60円の配当を実施しました。関西電力は2024年度の期末配当を30円とし、年間配当を60円としています。
中部電力も同様に年間60円の配当です。

一方、東京電力は福島第一原発事故以降、継続して無配となっています。

自社株買いの比較

今回発表された決算において、3社いずれも新たな大規模な自己株式取得の発表はありませんでした。

大手電力会社3社の今期(2026年3月期)見通しの業績について比較

今期の業績見通しと配当予想を比較し、各社の先行きを探ります。

業績の比較

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項目東京電力関西電力中部電力
売上高未定4兆円(-7.8%)3兆5,500億円(-3.2%)
経常利益未定4,000億円(-24.8%)2,300億円(-16.8%)
当期純利益未定2,950億円(-29.8%)1,850億円(-8.5%)
()内は前期比増減率

東京電力は、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働時期を見通せないことから、業績予想を「未定」としています。

関西電力中部電力は、いずれも減収減益の見通しです。
関西電力は原子力利用率の低下や諸経費・修繕費の増加が減益の主な要因です。
中部電力も、燃料費調整額等の減少やパワーグリッドの設備関係費増加などにより減益を見込んでいます。

配当見通しの比較

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項目東京電力関西電力中部電力
年間配当金(予想)0円60円70円
配当利回り(予想)0%3.49%3.85%
配当性向(予想)22.7%28.6%

配当では中部電力が前期から10円増配の年間70円を予定しており、配当利回りは3.85%となります。関西電力は前期と同額の60円配当を維持する方針で、利回りは3.49%です。

東京電力は引き続き無配を予想しています。

株式投資をする上でのポイントは?

これまでの比較を踏まえ、投資スタイル別に各社の魅力をまとめます。

  • 業績が良い企業に投資するなら?
    2025年3月期の実績、2026年3月期の見通しともに、関西電力が最も高い利益水準を誇ります。
    原子力発電所の安定稼働が続く限り、高い収益性が期待できます。
  • 配当利回りで選ぶなら?
    中部電力が最も高い配当利回り(3.85%)を予想しています。
    安定した配当収入(インカムゲイン)を重視する投資家にとって魅力的な選択肢と言えるでしょう。
  • 株価の割安感を重視するなら?
    PBR(0.30倍)では東京電力、PER(3.94倍)では関西電力が最も割安な水準です。
    特に東京電力は、将来的に柏崎刈羽原発の再稼働が実現し、財務状況が改善されれば、株価水準が見直される(キャピタルゲイン)可能性がありますが、不確実性も高い点に注意が必要です。
  • 資本効率を重視するなら?
    ROE(15.7%)が突出して高い関西電力が、資本を最も効率的に利益へ転換している企業と言えます。

決算から分かる各社の強みは?

最後に、大手電力会社の強みについて、各社分析していきます。

東京電力:首都圏の巨大需要と原発再稼働のポテンシャル

最大の強みは、日本の経済の中心である首都圏を事業エリアとし、巨大な電力需要を抱えている点です。

また、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働が実現すれば、燃料費の大幅な削減につながり、収益性が劇的に改善する可能性があります。

ただし、再稼働の時期は依然として不透明です。

また、2027年度にもデータセンター(DC)事業に本格参入することを発表しており、新たな収益源として期待が高まります。

関西電力:高稼働の原子力がもたらす高い収益性

関西エリアを基盤とし、現在、3社の中で最も高い収益性を誇ります。

その源泉は、再稼働した原子力発電所の高い利用率(2024年度実績88.5%)です。
燃料価格の変動に左右されにくい安定した収益構造が強みですが、今後の定期検査などによる利用率の低下が業績に与える影響には注意が必要です。

中部電力:バランスの取れた事業と安定した財務

中部エリアを基盤とし、財務の健全性が3社の中で最も高いのが特徴です。
東京電力と共同で設立した火力発電事業会社「JERA」の持分法投資利益が収益の大きな柱であるほか、送配電事業(パワーグリッド)、小売事業(ミライズ)がそれぞれ安定した事業を展開しています。

不動産事業など非エネルギー分野の育成にも注力しており、バランスの取れた事業ポートフォリオが強みです。

まとめ

大手電力会社3社の2025年3月期決算は、燃料費調整制度や原子力発電の稼働状況に大きく左右される結果となりました。

  • 関西電力は高い原子力利用率を背景に圧倒的な利益を上げ、収益性の高さを示しました。
  • 中部電力は安定した財務基盤とバランスの取れた事業運営が強みで、株主還元にも積極的です。
  • 東京電力は依然として福島第一原発の問題を抱え財務・収益性で見劣りしますが、首都圏という巨大市場と原発再稼働という大きなポテンシャルを秘めています。

電力業界は今後も、GX(グリーン・トランスフォーメーション)の進展や電力需要の動向など、多くの変動要因を抱えています。

各社の強みと課題、そして今後の戦略を理解することが、電力株への投資を考える上で不可欠と言えるでしょう。

関連:電力会社の2025年3月期決算まとめ

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