多くの投資家が注目する大手電力会社、中部電力株式会社が2025年3月期の決算を発表しました。
本記事では、公開された決算短信と決算説明資料をもとに、中部電力の2025年3月期の業績、セグメント別の詳細、財務状況、そして今後の見通しに至るまで、投資判断に役立つ情報を網羅的に解説します。
増配が発表されるなど株主還元に積極的な姿勢を見せる一方、来期の見通しはどうなのか、この記事を読めば中部電力の「今」と「これから」が分かります。
中部電力の2025年3月期における連結決算の振り返り
2025年3月期の中部電力の連結決算は、増収減益となりました。
項目 | 2025年3月期 実績 | 2024年3月期 実績 | 前期比 |
---|---|---|---|
売上高 | 3兆6,692億円 | 3兆6,104億円 | +1.6% |
営業利益 | 2,420億円 | 3,433億円 | △29.5% |
経常利益 | 2,764億円 | 5,092億円 | △45.7% |
親会社株主に帰属する 当期純利益 | 2,020億円 | 4,031億円 | △49.9% |
売上高は、燃料費調整額などが減少したものの、販売電力量の増加などにより前期比で588億円の増収となりました。
この結果、親会社株主に帰属する当期純利益も前期比2,010億円の減少となりました。
中部電力の2025年3月期セグメント別の業績
中部電力グループは、「ミライズ」「パワーグリッド」「JERA」の3つを報告セグメントとしています。2025年3月期のセグメント別の業績は以下の通りです。
セグメント名 | 売上高 | 経常損益 (前期比) |
---|---|---|
ミライズ | 2兆9,622億円 | 1,170億円 (△867億円) |
パワーグリッド | 9,632億円 | 475億円 (△480億円) |
JERA | — (*1) | 673億円 (△1,115億円) |
その他 | 7,859億円 | 814億円 (+380億円) |
合計 | 3兆6,692億円 | 2,764億円 (△2,328億円) |
*1 JERAは持分法適用会社のため、売上高は計上されません。
ミライズ
ミライズは、電力・ガスの販売と各種サービスの提供を行うセグメントです。
売上高は、燃料費調整額などの減少はあったものの、販売電力量が増加したことなどから、前期比2.5%増の2兆9,622億円となりました。
経常損益は、電源調達ポートフォリオの組み替えによる費用削減効果などが減少したことにより、前期から867億円減少し1,170億円の利益となっています。
期ずれの影響を除いた経常損益は1,250億円程度と試算されています。
パワーグリッド
パワーグリッドは、電力ネットワークサービスの提供を行うセグメントです。
売上高は、再生可能エネルギーの卸電力取引市場への販売単価が上昇したことなどから、前期比6.3%増の9,632億円でした。
JERA
JERAは、燃料の上流・調達から発電、電力・ガスの販売までを手掛ける、中部電力の持分法適用会社です。
経常損益は、期ずれ差益が1,050億円減少したことなどが主な要因となり、前期に比べ1,115億円減少し673億円の利益となりました。
期ずれ影響を除いた経常損益は470億円程度と試算されています。
中部電力の2025年3月期末財務状況について
2025年3月期末の財務状況は、自己資本比率が改善するなど、安定性が向上しています。
項目 | 2025年3月末 | 2024年3月末 | 増減 |
---|---|---|---|
総資産 | 7兆1,248億円 | 7兆1,086億円 | +161億円 |
負債 | 4兆2,662億円 | 4兆4,135億円 | △1,472億円 |
純資産 | 2兆8,585億円 | 2兆6,950億円 | +1,634億円 |
自己資本比率 | 39.1% | 36.4% | +2.7ポイント |
有利子負債残高 | 3兆778億円 | 3兆791億円 | △12億円 |
総資産は、関係会社への長期投資が増加したことなどから前期末比で微増しました。
一方で負債は、有利子負債は増加したものの、連結子会社が関連会社になった影響などで減少し、純資産は当期純利益の計上などにより増加しました。
この結果、自己資本比率は39.1%となり、財務の健全性が高まっています。
キャッシュフローの状況
当期のキャッシュフローの状況は以下の通りです。
項目 | 2025年3月期 | 2024年3月期 | 増減 |
---|---|---|---|
営業活動によるCF | 3,013億円 | 3,440億円 | △427億円 |
投資活動によるCF | △3,917億円 | △3,883億円 | △34億円 |
財務活動によるCF | △276億円 | 870億円 | △1,147億円 |
フリー・ キャッシュ・フロー | △904億円 | △442億円 | △461億円 |
営業活動によるキャッシュフローは、パワーグリッドにおける需給調整費用の支出増加などにより、前期比で427億円の減少となりました。
投資活動によるキャッシュフローは、固定資産への支出が増加したことなどから、支出額が34億円増加しています。
財務活動によるキャッシュフローは、資金調達による収入が減少したことなどから、1,147億円の大幅な減少となりました。
収益性に関する指標(ROEなど)
当期の収益性に関する主な指標は以下の通りです。
項目 | 2025年3月期 | 2024年3月期 |
---|---|---|
自己資本利益率 (ROE) | 7.5% | 17.4% |
総資産経常利益率 (ROA) | 3.9% | 7.5% |
売上高営業利益率 | 6.6% | 9.5% |
当期純利益が大幅に減少したことを受け、ROEは前期の17.4%から7.5%へと低下しました。
また、ROAや売上高営業利益率も同様に低下しています。
決算説明資料では、期ずれ影響を除いたROEは7.0%程度、ROAは4.1%、ROICは3.8%と示されています。
中部電力の株主還元について
中部電力は、安定的な配当の継続を基本としつつ、利益の成長を踏まえた還元に努め、連結配当性向30%以上を目指すことを方針として掲げています。
配当金の状況
2025年3月期(2024年度)の期末配当金は、1株当たり30円を予定しており、これにより年間配当金は60円となる見込みです。
これは前期の55円から5円の増配となります。この場合の連結配当性向は22.4%です。
さらに、2026年3月期(2025年度)の配当については、2024年度から10円増配となる年間70円(中間35円、期末35円)を見込んでいます。
この配当予想は、同社の年度決算が始まった昭和53年度以降で最高額となります。
なお、燃料価格変動のタイムラグ(期ずれ)影響を補正した後の連結配当性向は、2025年3月期で24.1%、2026年3月期(予想)で32%程度となる見込みです。
自社株買いの発表はあった?
今回の決算発表において、新たな自己株式取得に関する発表はありませんでした。
連結株主資本等変動計算書には「自己株式の取得」として15億9百万円が計上されていますが、これは主に株式報酬制度に関連するものと考えられ、株価への影響を意図した大規模な自社株買いプログラムではありません。
中部電力の今期見通しと戦略について
2026年3月期の連結業績は、2期連続での減収減益を見込んでいます。
項目 | 2026年3月期予想 | 2025年3月期実績 | 前期比 |
---|---|---|---|
売上高 | 3兆5,500億円 | 3兆6,692億円 | △3.2% |
経常利益 | 2,300億円 | 2,764億円 | △16.8% |
親会社株主に帰属する 当期純利益 | 1,850億円 | 2,020億円 | △8.5% |
売上高は、燃料価格の下落や円高に伴う燃料費調整額の減少などにより、約1,190億円の減収となる見込みです。
経常利益は、期ずれ差益の拡大やJERAの利益増はあるものの、ミライズの費用削減効果の減少や、パワーグリッドの設備関係費の増加などにより、約460億円の減益が予想されています。
ただし、期ずれ影響を除いた経常利益は2,100億円程度と、中期経営計画の目標(2,000億円以上)を上回る水準を見込んでいます。
中期経営計画の進捗と今後の戦略
中部電力は、中期経営計画の達成に向けて着実に前進していると評価しています。
特に、エネルギー事業を中心に稼ぐ力がつき、経常利益目標の達成を見込んでいます。
今後の戦略としては、以下の点が挙げられます。
- 事業ポートフォリオの最適化
ROIC(投下資本利益率)などの管理指標を事業別に展開し、資産の入れ替えを推進します。 - キャッシュ・アロケーション
電力の安定供給に必要な投資を継続しつつ、成長領域への戦略的投資を実施します。株主還元も重要な配分先と位置づけています。 - 不動産事業の強化
2025年4月に不動産事業本部を設置し、中電不動産と日本エスコンの連携を強化。「地域と共生し、永く活きるまちづくり」を推進し、2025年度には200億円の利益を目指します。
PBR向上に向けた具体的な取り組み
PBR(株価純資産倍率)が1倍を大きく下回っている現状に対し、ROE(自己資本利益率)とPER(株価収益率)に分解して向上策を進めています。
- ROE向上策
事業ポートフォリオの組み替え(政策保有株式の売却など)や、事業別の目標管理の高度化(セグメント別ROAの開示など)を進めます。 - PER向上策
浜岡原子力発電所の再稼働に向けた取り組みや、不動産事業などの新成長領域について、より定量的な情報を開示することで、市場の成長期待を高めることを目指します。
決算内容や今期の見通しで、中部電力の株価はどうなる?
決算資料から読み取れる情報を基に、今後の株価に影響を与えうるポジティブな要因とネガティブな要因をまとめました。
株価にポジティブな影響を与える要因
- 積極的な株主還元
2026年3月期の年間配当予想を過去最高額の70円とするなど、株主還元への強い意欲は投資家にとって魅力的です。
連結配当性向30%以上という明確な目標も安心材料となります。 - 財務の安定性
自己資本比率が39.1%まで向上し、有利子負債も減少傾向にあり、財務基盤が安定している点は評価されます。 - PBR向上への本気度
PBR向上のための具体的な取り組みとKPI(ROE、PER)を開示しており、資本コストを意識した経営への転換が期待されます。 - 新成長領域の利益貢献
不動産事業が2025年度に200億円の経常利益を見込むなど、電力事業以外の収益源が育っていることは、事業の多角化と安定成長につながります。
株価にネガティブな影響を与える要因
- 2期連続の減益見通し
2026年3月期も減収減益の予想となっており、成長性の鈍化が懸念される可能性があります。 - 外部環境の不確実性
米国の関税政策が中部エリアの主力産業である自動車産業に影響を与え、電力需要が減少するリスクが指摘されています。
また、金利の変動も支払利息を通じて収益を圧迫する要因となり得ます。 - ROE目標の未達見込み
中期経営計画の目安としていたROE7%程度に対し、2025年度の見通しは6%程度と未達の見込みであり、資本効率の改善が道半ばであることが示されています。 - 浜岡原発再稼働の不透明感
収益向上に大きく寄与する浜岡原発の再稼働ですが、審査は進んでいるものの、具体的な再稼働時期はまだ見通せず、不確実性として残っています。
決算から分かる中部電力の強みは?
今回の決算からは、中部電力のいくつかの強みが読み取れます。
安定した財務基盤とキャッシュ創出力
自己資本比率が約40%に迫る水準にあり、財務の安定性は非常に高いと言えます。
また、減益局面でも営業キャッシュフローは3,013億円を確保しており、安定してキャッシュを生み出す力は大きな強みです。
多様な事業ポートフォリオによる収益源の多角化
電力小売の「ミライズ」、送配電の「パワーグリッド」という安定した基盤事業に加え、JERAを通じた上流から発電までのエネルギー事業、そして近年利益貢献が拡大している不動産事業など、収益源が多角化されている点は、リスク分散と新たな成長機会の創出という面で強みとなります。
株主還元への積極的な姿勢
東日本大震災後、厳しい経営環境にありながらも着実に復配を進め、いち早く震災前の配当水準に戻した実績があります。
今回、過去最高額への増配予想を発表したことからも、株主を重視する企業文化が根付いていることがうかがえ、長期的な投資家からの信頼につながる強みと言えるでしょう。
まとめ
中部電力の2025年3月期決算は、販売電力量の増加で増収となったものの、期ずれ影響の剥落などにより大幅な減益という結果でした。2026年3月期の見通しも減収減益と、足元の業績は厳しい状況です。
しかし、その一方で財務の健全性は向上しており、中期経営目標の達成も見えています。特に、過去最高額となる年間70円への増配予想は、株主還元への強い意志を示すものであり、市場からポジティブに評価される可能性が高いでしょう。
今後は、PBR向上策として掲げた事業ポートフォリオの最適化や、不動産事業などの成長領域をいかに伸ばしていけるか、そして依然として不透明な浜岡原発の再稼働に向けた進捗が、企業価値向上と株価形成の鍵を握ることになりそうです。
コメント