2025年5月14日、ゼネコン大手の一角である鹿島建設株式会社が2025年3月期の決算を発表しました。
発表によると、国内の建築事業や開発事業が好調に推移した結果、4期連続の増収増益を達成しました。
さらに、来期(2026年3月期)は連結当期純利益で過去最高となる1,300億円を見込んでおり、5期連続の増収増益を目指す強気な計画を打ち出しています。
本記事では、鹿島建設の2025年3月期決算の内容を振り返るとともに、セグメント別の詳細な業績、財務状況、そして今後の事業戦略や株価への影響について、決算資料をもとに詳しく解説していきます。
鹿島建設の2025年3月期における連結決算の振り返り
まずは、鹿島建設の2025年3月期連結決算の全体像を見ていきましょう。
項目 | 2024年3月期 (前期) | 2025年3月期 (当期) | 前期比 |
---|---|---|---|
売上高 | 2兆6,651億円 | 2兆9,118億円 | +9.3% |
営業利益 | 1,362億円 | 1,518億円 | +11.5% |
経常利益 | 1,501億円 | 1,606億円 | +7.0% |
親会社株主に帰属する 当期純利益 | 1,150億円 | 1,258億円 | +9.4% |
当期は売上高が前期比9.3%増の2兆9,118億円、親会社株主に帰属する当期純利益は同9.4%増の1,258億円となり、4期連続での増収増益を達成しました。
増収の主な要因は、海外関係会社の売上高が増加したことです。
利益面では、建設事業、開発事業等ともに売上総利益が増加したことが貢献しました。
鹿島建設の2025年3月期セグメント別の業績
続いて、事業ごとの業績をさらに詳しく見ていきましょう。
鹿島建設は「土木事業」「建築事業」「開発事業等」「国内関係会社」「海外関係会社」の5つのセグメントで業績を報告しています。
セグメント | 売上高 | 前期比 | 営業利益 | 前期比 |
---|---|---|---|---|
土木事業 | 4,041億円 | +11.2% | 357億円 | +53.4% |
建築事業 | 1兆534億円 | ▲4.6% | 512億円 | ▲3.9% |
開発事業等 | 1,023億円 | +19.9% | 278億円 | +51.0% |
国内関係会社 | 3,546億円 | ▲3.5% | 164億円 | ▲32.1% |
海外関係会社 | 1兆1,145億円 | +29.6% | 200億円 | +18.6% |
土木事業
売上高は、大型工事が着実に進捗したことにより前期比11.2%増の4,041億円となりました。
売上高の増加に加えて売上総利益率も向上したことから、営業利益は前期比53.4%増の357億円と大幅な増益を達成しています。
建築事業
売上高は、当期が大型工事の施工量が少ない時期であったため、前期比4.6%減の1兆534億円でした。
減収とはなったものの、受注時採算の改善効果などにより売上総利益率が向上したため、営業利益は前期比3.9%減の512億円と、ほぼ前期並みの水準を確保しました。
開発事業等
不動産販売事業において分譲マンションの引き渡しやオフィスビルの販売が計画通りに進んだ結果、売上高は前期比19.9%増の1,023億円、営業利益は同51.0%増の278億円と、大幅な増収増益を記録しました。
国内関係会社
売上高・営業利益ともに前期を下回りました。これは、前期に開発系関係会社が保有する大型の販売用不動産の売却があった反動によるものです。一方で、建設系関係会社は安定的な業績を維持し、連結業績に貢献しています。
海外関係会社
売上高は建設事業、開発事業ともに増加し、前期比29.6%増の1兆1,145億円と1兆円の大台を超えました。
利益面では、東南アジアの建設事業における業績回復や、米国での流通倉庫売却が寄与し、営業利益は前期比18.6%増の200億円となりました。
鹿島建設の2025年3月期末財務状況について
次に、同社の財政状態を見ていきましょう。
項目 | 2024年3月31日 | 2025年3月31日 | 増減 |
---|---|---|---|
総資産 | 3兆1,351億円 | 3兆4,545億円 | +3,194億円 |
負債 | 1兆9,114億円 | 2兆1,766億円 | +2,651億円 |
純資産 | 1兆2,236億円 | 1兆2,779億円 | +543億円 |
自己資本比率 | 38.6% | 36.4% | ▲2.2pt |
有利子負債残高 | 6,126億円 | 7,920億円 | +1,793億円 |
当期末の総資産は、前期末から3,194億円増加し3兆4,545億円となりました。
これは主に、売上債権(受取手形・完成工事未収入金等)や棚卸資産(販売用不動産など)が増加したことによるものです。
負債合計は、有利子負債や工事未払金が増加したことなどから、前期末比で2,651億円増加しました。
純資産も増加しましたが、負債の増加ペースが上回ったため、自己資本比率は前期末から2.2ポイント低下し、36.4%となっています。
キャッシュフローの状況
項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
---|---|---|
営業活動による キャッシュ・フロー | 1,237億円 | 306億円 |
投資活動による キャッシュ・フロー | ▲629億円 | ▲1,048億円 |
財務活動による キャッシュ・フロー | ▲95億円 | 616億円 |
現金及び現金同等物 期末残高 | 3,500億円 | 3,495億円 |
- 営業活動によるキャッシュ・フローは306億円の収入超過(プラス)でした。
税金等調整前当期純利益の計上などがあった一方、売上債権の増加や法人税等の支払いがあったため、前期より収入額は減少しています。 - 投資活動によるキャッシュ・フローは1,048億円の支出超過(マイナス)となりました。
これは、有形固定資産の取得や貸付けによる支出が主な要因です。 - 財務活動によるキャッシュ・フローは616億円の収入超過(プラス)に転じました。
借入による資金調達が配当金の支払いや自己株式の取得による支出を上回ったためです。
これらの結果、現金及び現金同等物の期末残高は、前期末からほぼ横ばいの3,495億円となりました。
収益性に関する指標(ROEなど)
企業の収益性を測る指標も確認しておきましょう。
- ROE (自己資本利益率):10.2%
株主が出資したお金(自己資本)を使って、どれだけ効率的に利益を上げたかを示す指標です。
2025年度以降も継続して10%を上回る水準を確保する見通しです。 - ROA (総資産経常利益率):4.9%
会社の総資産を使って、どれだけ効率的に経常利益を上げたかを示す指標です。 - 売上高営業利益率:5.2%
売上高に対して、本業の儲けである営業利益がどれくらいの割合かを示す指標です。
ROEは株主資本コスト(7~8%程度と認識)を上回っており、資本を効率的に活用して利益を生み出している状態と言えます。
鹿島建設の株主還元について
鹿島建設は、中期経営計画において「配当性向40%を目安」とすることや「機動的な自己株式取得」を基本方針として掲げており、積極的な株主還元姿勢を示しています。
配当金の状況
2025年3月期の年間配当金は、1株あたり前期から14円増配の104円となる予定です。これにより、配当性向は39.0%となります。
さらに、2026年3月期(来期)は年間112円への増配を予想しており、実現すれば6期連続の増配となります。
来期の予想配当性向は40.6%と、基本方針である40%を超える水準です。
自社株買いの発表はあった?
鹿島建設は2025年5月14日開催の取締役会において、自己株式の取得を決議したことを発表しました。詳細は以下の通りです。
- 取得しうる株式の総数:900万株(上限)
(発行済株式総数に対する割合 約1.91%) - 株式の取得価額の総額:200億円(上限)
この自社株買いは、株主還元の充実と資本効率の向上を目的としており、当面は政策保有株式の売却実績をベースとして機動的に実施する方針です。
鹿島建設の今期見通しと戦略について
鹿島建設は来期(2026年3月期)の連結業績について、5期連続の増収増益と過去最高益の更新を見込む強気な予想を出しています。
- 売上高: 2兆9,500億円 (前期比+1.3%)
- 営業利益: 1,590億円 (前期比+4.7%)
- 親会社株主に帰属する当期純利益: 1,300億円 (前期比+3.3%)
この強気な見通しの背景には、中期経営計画で掲げた目標の前倒し達成があります。
具体的には、2026年度の目標としていた連結当期純利益1,300億円を1年前倒しで達成する見込みです。
さらに、その先の「2030年度の連結当期純利益目標1,500億円以上」についても、前倒しでの達成を目指すとしています。
この成長を支える戦略として、以下の点を挙げています。
- 国内建設事業の利益成長
国内の土木・建築事業において、着実な利益成長を見込んでいます。
特に土木事業では売上総利益率17.5%、建築事業では10%を上回る水準を目指すとしており、収益性の向上が全体の利益を牽引する計画です。 - 国内外開発事業の推進
国内外の開発事業において、これまでの投資の成果を着実に利益に繋げていく方針です。
特に海外では、米国や欧州で時機を捉えた物件売却を推進し、増益を見込んでいます。 - キャッシュアロケーションの更新
利益成長と政策保有株式の売却によって得られた資金を、成長投資(特にAI・デジタル関連や国内外の開発事業)と株主還元に積極的に振り向ける方針を明確にしました。
決算内容や今期の見通しで、鹿島建設の株価はどうなる?
今回の決算発表と来期の見通しは、鹿島建設の株価にどのような影響を与えるでしょうか。決算資料から読み取れるポジティブな要因とネガティブな要因をまとめました。
株価にポジティブな影響を与える要因
- 好調な業績と強気な見通し
4期連続の増収増益達成と、来期の5期連続増収増益および過去最高益更新の見通しは、企業の成長性を示す強いシグナルです。 - 積極的な株主還元
6期連続となる増配計画や200億円規模の自社株買いの発表は、株主への利益還元に前向きな姿勢として評価されるでしょう。 - 高い資本収益性
株主資本コストを上回るROE10%超の水準を維持する見通しであり、資本効率の良い経営が期待されます。 - ガバナンス改革の進展
政策保有株式の縮減目標を前倒しで達成したことや、役員報酬にROEを導入するなどの取り組みは、企業価値向上への意識の高さを示しています。
株価にネガティブな影響を与える要因
- 建設コストの上昇
資機材価格の高止まりや労務費の上昇は、依然として建設業界全体の課題であり、利益を圧迫するリスク要因です。 - 建設受注高の減少
2024年度の建設受注高は前期を下回り、2025年度も減少する予想です。
特に国内建設受注は大幅な減少が見込まれており、将来の売上高への影響が懸念される可能性があります。 - 海外経済の不確実性
各国の金融政策や地政学的リスクなど、海外経済の先行き不透明感は、海外事業の収益に影響を与える可能性があります。 - 有利子負債の増加
事業拡大に伴い有利子負債が増加しており、今後の金利動向によっては財務負担が増す可能性があります。
決算から分かる鹿島建設の強みは?
今回の決算資料からは、鹿島建設の以下のような強みが浮かび上がってきます。
圧倒的な技術力に裏打ちされた国内建設事業
国内の土木・建築事業は、同社の収益の根幹をなす強固な基盤です。
特に土木事業では15%を超える高い利益率を誇り、来期は17.5%を目指すなど、他社の追随を許さない収益性を確立しています。
また、業界に先駆けて開発・導入を進める自動化施工技術「A4CSEL®」は、ダムやトンネル工事などで着実に実績を積み上げており、生産性向上と競争力強化に大きく貢献しています。
成長ドライバーとしての国内外開発事業
建設事業で培ったノウハウを活かした不動産開発事業も、大きな強みです。
国内では首都圏のプライムエリアを中心に多数の優良プロジェクトを手がけ、海外では1980年代から続く米国での流通倉庫開発事業(Core5)を中核に、欧州やアジアへも事業を拡大しています。
特に「物件着手から売却まで3年程度の短期回転型」というビジネスモデルを確立している点は、高い収益性と効率的な資金運用を可能にしています。
重点分野における優位性の確立
近年の社会的な需要の高まりを受け、半導体工場などの「生産施設」分野に注力しています。
過去3年間の累計受注高は1.2兆円を超え、次世代半導体の国産化を目指すRapidus社の工場建設も順調に進捗させるなど、この分野での確固たる地位を築いています。
まとめ
鹿島建設の2025年3月期決算は、国内建築・開発事業の好調と海外事業の拡大に支えられ、4期連続の増収増益という力強い結果となりました。
来期(2026年3月期)に向けては、過去最高益の更新という極めて強気な見通しを立てており、その背景には、収益性の高い国内建設事業と、国内外で着実に成長を続ける開発事業への自信がうかがえます。
6期連続増配や大規模な自社株買いといった積極的な株主還元策も打ち出しており、市場からの評価を高めようという強い意志が感じられます。
一方で、建設コストの上昇や受注高の減少といった懸念材料も存在します。これらのリスクを巧みにコントロールし、自動化施工技術の展開や開発事業の投資・回収サイクルを加速させることで、計画通りの、あるいはそれを上回る成長を遂げられるか。鹿島建設の今後の動向に、引き続き注目が集まります。
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