2025年5月13日に発表された大林組の2025年3月期決算は、売上高・利益ともに前期を大幅に上回る増収増益となりました。国内建設事業が好調だったことに加え、海外事業も業績を押し上げました。
この記事では、大林組の2025年3月期の決算内容を詳しく解説します。セグメント別の業績や財務状況、株主還元策、そして来期の見通しまですべての情報を網羅的に紹介し、今後の株価の動向についても分析していきます。
大林組の2025年3月期における連結決算の振り返り
2025年3月期の連結業績は、売上高が前期比12.7%増の2兆6,201億円、営業利益は前期比80.7%増の1,434億円と、大幅な増収増益を達成しました。
項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 前期比 |
---|---|---|---|
売上高 | 2兆3,251億円 | 2兆6,201億円 | +12.7% |
営業利益 | 793億円 | 1,434億円 | +80.7% |
経常利益 | 915億円 | 1,533億円 | +67.6% |
親会社株主に帰属する 当期純利益 | 750億円 | 1,460億円 | +94.6% |
(単位:百万円未満切り捨て)
この好調な業績は、主に国内建設事業における大型工事の進捗や採算性の良い案件への移行、海外土木事業における子会社化などが要因です。
また、政策保有株式の売却を進めたことで、親会社株主に帰属する当期純利益は前期比94.6%増と、ほぼ倍増する結果となりました。
大林組の2025年3月期セグメント別の業績
セグメント別に見ると、主力の建設事業が全体の収益を力強く牽引したことが分かります。
セグメント | 売上高 | 営業利益 |
---|---|---|
建設事業 | 2兆4,968億円 | 1,250億円 |
(国内建築) | (1兆3,371億円) | (627億円) |
(海外建築) | (4,987億円) | (134億円) |
(国内土木) | (4,022億円) | (405億円) |
(海外土木) | (2,586億円) | (82億円) |
不動産事業 | 729億円 | 161億円 |
その他 | 502億円 | 22億円 |
合計 | 2兆6,201億円 | 1,434億円 |
(単位:百万円未満切り捨て)
建設事業
売上高は前期比13.1%増の2兆4,968億円、営業利益は前期比109.3%増の1,250億円と大幅な増収増益でした。
国内建設事業において大型工事が進捗したことや、採算性の良い案件への入れ替え、追加請負金の獲得などが利益を押し上げました。
また、海外土木事業におけるMWH社の連結子会社化も増収に貢献しています。
不動産事業
売上高は前期比9.0%増の729億円でしたが、営業利益は前期比11.7%減の161億円となりました。
その他
その他の事業については、売上高は前期比2.4%減の502億円、営業利益は前期比64.7%増の22億円でした。
大林組の2025年3月期末財務状況について
2025年3月期末の財務状況は以下の通りです。
総資産は前期末から増加し、3兆円を超えています。自己資本比率は前期末と同水準を維持しました。
項目 | 2024年3月期末 | 2025年3月期末 | 増減 |
---|---|---|---|
総資産 | 3兆191億円 | 3兆427億円 | +236億円 |
純資産 | 1兆1,952億円 | 1兆2,102億円 | +149億円 |
自己資本 | 1兆1,516億円 | 1兆1,582億円 | +66億円 |
自己資本比率 | 38.1% | 38.1% | – |
(単位:百万円未満切り捨て)
総資産は、政策保有株式の売却などにより「投資有価証券」が減少した一方で、工事代金債権や「現金預金」が増加したことなどから、前期末比で236億円増加しました。
負債合計は、有利子負債が増加したことなどにより、前期末比で87億円増加しています。
純資産合計は、親会社株主に帰属する当期純利益の計上に伴い「利益剰余金」が増加したことなどから、149億円の増加となりました。
キャッシュフローの状況
当期のキャッシュフローの状況は以下の通りです。
営業活動によるキャッシュフローが大幅に増加し、投資活動によるキャッシュフローもプラスに転じています。
項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 増減 |
---|---|---|---|
営業活動による キャッシュ・フロー | 503億円 | 856億円 | +352億円 |
投資活動による キャッシュ・フロー | △844億円 | 95億円 | +940億円 |
財務活動による キャッシュ・フロー | △519億円 | △505億円 | +13億円 |
現金及び現金同等物 期末残高 | 3,266億円 | 3,801億円 | +534億円 |
(単位:百万円未満切り捨て)
- 営業活動によるキャッシュ・フロー: 主に国内の建設事業収支が堅調に推移したことなどから、856億円のプラスとなりました。
- 投資活動によるキャッシュ・フロー: 事業用不動産の取得等による支出があったものの、政策保有株式の売却等により95億円のプラスに転じました。
- 財務活動によるキャッシュ・フロー: 借入金や社債が増加したものの、自己株式の取得や配当金の支払等により505億円のマイナスとなりました。
収益性に関する指標(ROEなど)
2025年3月期の収益性指標は、利益の増加に伴い前期から大きく改善しました。
指標 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
---|---|---|
ROE(自己資本当期純利益率) | 7.0% | 12.6% |
ROA(総資産経常利益率) | 3.3% | 5.1% |
売上高営業利益率 | 3.4% | 5.5% |
特に、資本効率を示すROEは12.6%となり、一般的な目安である8〜10%を上回る水準となっています。
大林組の株主還元について
大林組は、自己資本配当率(DOE)5%程度を目安とした安定配当を基本方針としつつ、特別配当や自己株式取得を機動的に実施することで、株主還元を強化する方針を掲げています。
配当金の状況
2025年3月期の年間配当金は、1株当たり81円となり、前期の75円から6円の増配となりました。
配当性向は39.7%です。
さらに、2026年3月期の配当予想は、1株当たり82円(中間41円、期末41円)と、さらなる増配を見込んでいます。
期 | 中間配当金 | 期末配当金 | 年間配当金 | 配当性向 (連結) |
---|---|---|---|---|
2024年3月期 | 21.00円 | 54.00円 | 75.00円 | 71.6% |
2025年3月期 | 40.00円 | 41.00円 | 81.00円 | 39.7% |
2026年3月期(予想) | 41.00円 | 41.00円 | 82.00円 | 57.7% |
自社株買いの発表はあった?
大林組は、2025年2月10日開催の取締役会において、自己株式の取得を決議しています。
2025年3月期の連結キャッシュ・フロー計算書を見ると、「自己株式の取得による支出」として122億1,700万円が計上されており、実際に取得が進められていることがわかります。
大林組の今期見通しと戦略について
2026年3月期の連結業績は、売上高2兆5,600億円(前期比2.3%減)、営業利益1,220億円(前期比14.9%減)、親会社株主に帰属する当期純利益1,000億円(前期比31.5%減)と、減収減益を見込んでいます。
項目 | 2026年3月期(通期予想) | 前期比 |
---|---|---|
売上高 | 2兆5,600億円 | △2.3% |
営業利益 | 1,220億円 | △14.9% |
経常利益 | 1,260億円 | △17.9% |
親会社株主に帰属する 当期純利益 | 1,000億円 | △31.5% |
これは、前期に計上した政策保有株式売却益のような大規模な特別利益がなくなることなどが主な要因と考えられます。
一方で、大林組は持続的な成長に向けた戦略も明確にしています。
- 積極的な投資
人材、DX、技術への投資や生産力拡充のための投資を強化し、競争優位を確立できる領域での成長投資を積極的に実行する方針です。 - 政策保有株式の縮減
中期経営計画において、2027年3月末までに政策保有株式の残高を連結純資産の20%以内とする目標を掲げており、着実に縮減を進めています。
売却で得られた資金は、成長投資や株主還元に充当するとしています。
決算内容や今期の見通しで、大林組の株価はどうなる?
今回の決算発表と今期の見通しが、大林組の株価に与える影響をポジティブな要因とネガティブな要因に分けて分析します。
株価にポジティブな影響を与える要因
- 好調な当期実績
2025年3月期の営業利益が前期比80.7%増という大幅な増益を達成したことは、企業の収益力を示す上で非常にポジティブな材料です。 - 積極的な株主還元
前期からの増配(75円→81円)に加え、来期も82円への増配を予定していること、さらに自己株式取得の実施は、株主還元への積極的な姿勢を示すものであり、株価にとって好材料です。 - 収益性指標の改善
ROEが12.6%と高い水準に達したことは、資本効率の良さを示しており、投資家からの評価を高める可能性があります。
株価にネガティブな影響を与える要因
- 来期の減収減益予想
2026年3月期が減収減益の見通しであることは、短期的な株価の上値を抑える要因となる可能性があります。
特に、親会社株主に帰属する当期純利益が31.5%減と大幅な減少を見込んでいる点が懸念材料です。 - 外部環境の不確実性
米国の通商政策の影響による景気下振れリスクや、原材料・エネルギー価格の高騰といった外部環境の不確実性は、建設業界全体の先行きに対する懸念につながる可能性があります。
決算から分かる大林組の強みは?
今回の決算からは、大林組のいくつかの強みが見て取れます。
安定した受注・収益基盤
国内の建築・土木事業を中心に、大型案件を着実に受注・施工し、収益につなげる力は同社の大きな強みです。
2025年3月末時点の個別次期繰越高(受注残高)は2兆7,793億円と、前期末から16.0%増加しており、将来の安定した収益基盤が確保されています。
健全な財務体質と資本効率への意識
自己資本比率38.1%という安定した財務基盤を維持しつつ、政策保有株式の売却を進めるなど、資本効率を意識した経営を行っている点も強みです。
これにより創出された資金を成長投資や株主還元に振り向ける好循環が期待できます。
多角的な事業展開
主力の建設事業に加え、安定した収益が見込める不動産事業などを展開しており、事業環境の変化に対応できるリスク分散の取れたポートフォリオを構築しています。
まとめ
大林組の2025年3月期決算は、売上・利益ともに前期を大きく上回る好調な結果となりました。積極的な株主還元策も発表され、株主にとっては魅力的な内容であったと言えるでしょう。
来期は減収減益を見込んでいるものの、これは前期の特殊要因がなくなる影響が大きく、本業の受注は堅調に推移しています。中期的な成長戦略のもと、資本効率の改善と持続的な成長に向けた取り組みを継続しており、今後の動向にも注目が集まります。
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