清水建設株式会社が2025年5月14日に発表した2025年3月期の決算は、売上高が前期比で減少したものの、国内建築工事の採算改善などが寄与し、利益面で大幅な回復を遂げる結果となりました。親会社株主に帰属する当期純利益は前期比284.6%増の660億円に達し、年間配当も前期から18円増配の38円となるなど、株主還元への積極的な姿勢も見られます。
本記事では、清水建設の2025年3月期決算の内容を、セグメント別の業績や財務状況、今後の見通しなど、提供された決算資料をもとに詳しく解説していきます。
清水建設の2025年3月期における連結決算の振り返り
2025年3月期の連結業績は、減収となった一方で、利益は大幅に増加しました。
項目 | 2025年3月期実績 (百万円) | 前期比 |
---|---|---|
売上高 | 1,944,360 | △3.0% |
営業利益 | 71,030 | – (前期は24,685百万円の 損失) |
経常利益 | 71,664 | – (前期は19,834百万円の 損失) |
親会社株主に帰属する 当期純利益 | 66,015 | +284.6% |
2024年度の日本経済は緩やかな回復が続いたものの、物価上昇や不安定な国際情勢が企業活動に影響を及ぼしました。
建設業界では、公共投資が底堅く推移し、民間設備投資にも持ち直しの動きが見られましたが、建設コストの上昇など厳しい経営環境が続きました。
このような状況下で、清水建設グループの売上高は、完成工事高および開発事業等売上高の減少により、前期比3.0%減の1兆9,443億円となりました。
利益面では、国内建築工事の採算が持ち直したことなどから完成工事総利益が増加し、営業利益は710億円(前期は246億円の損失)、経常利益は716億円(前期は198億円の損失)へと大きく改善しました。
また、保有株式の売却益などを特別利益に計上した結果、親会社株主に帰属する当期純利益は前期比284.6%増の660億円となりました。
清水建設の2025年3月期セグメント別の業績
セグメント別の業績は以下の通りです。当社建設事業が利益面で大きく回復しました。
セグメント名 | 売上高 (百万円) | セグメント利益 (百万円) |
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当社建設事業 | 1,380,807 | 56,436 |
当社投資開発事業 | 53,569 | 16,863 |
道路舗装事業 | 164,294 | 9,895 |
その他 | 496,574 | 24,948 |
(注)セグメント間の内部売上高又は振替高を含んで記載されています。
当社建設事業
売上高は前期比5.6%減の1兆3,808億円でしたが、工事採算の改善によりセグメント利益は前期比171.4%増の564億円と大幅な増益を達成しました。
当社投資開発事業
開発物件の売却が減少したことなどにより、売上高は前期比35.2%減の535億円、セグメント利益も前期比38.9%減の168億円となりました。
道路舗装事業
売上高は前期比2.4%増の1,642億円、セグメント利益は前期比26.3%増の98億円と、増収増益を確保しました。
その他
エンジニアリング事業やグリーンエネルギー開発事業などを含む「その他」セグメントは、売上高が前期比4.2%増の4,965億円となった一方、セグメント利益は前期比10.7%減の249億円でした。
清水建設の2025年3月期末財務状況について
2025年3月期末の財務状況は以下の通りです。総資産は前期末から微減し、自己資本比率は0.9ポイント低下しました。
項目 | 2025年3月期末 (百万円) | 2024年3月期末 (百万円) |
---|---|---|
総資産 | 2,523,771 | 2,538,769 |
負債 | 1,599,962 | 1,590,709 |
純資産 | 923,809 | 948,059 |
自己資本比率 | 34.1% | 35.0% |
連結有利子負債残高 | 591,352 | 603,189 |
当期末の総資産は、現金及び現金同等物が増加したものの、受取手形・完成工事未収入金等や投資有価証券の減少により、前期末比で149億円減少しました。
負債は、支払手形・工事未払金等の増加などにより、前期末比で92億円増加しました。
純資産は、保有株式の売却や時価の下落に伴うその他有価証券評価差額金の減少などにより、242億円減少しました。
キャッシュフローの状況
キャッシュフローの状況は以下の通りです。営業活動によるキャッシュフローが大幅に改善しました。
項目 | 2025年3月期 (百万円) | 2024年3月期 (百万円) |
---|---|---|
営業活動による キャッシュ・フロー | 159,094 | △21,253 |
投資活動による キャッシュ・フロー | 7,813 | △5,358 |
財務活動による キャッシュ・フロー | △71,102 | △23,972 |
現金及び現金同等物 期末残高 | 438,144 | 339,240 |
- 営業活動によるキャッシュ・フロー
税金等調整前当期純利益の計上や売上債権の減少などにより、1,590億円の資金増加となりました(前期は212億円の資金減少)。 - 投資活動によるキャッシュ・フロー
事業用固定資産の取得などがあったものの、保有株式の売却などにより78億円の資金増加となりました(前期は53億円の資金減少)。 - 財務活動によるキャッシュ・フロー
自己株式の取得や借入金の返済などにより、711億円の資金減少となりました。
これらの結果、現金及び現金同等物の期末残高は前期末に比べ989億円増加し、4,381億円となりました。
収益性に関する指標(ROEなど)
収益性指標は前期から大きく改善しました。
- 自己資本当期純利益率(ROE): 7.6%(前期2.0%)
- 総資産経常利益率(ROA): 2.8%(前期△0.8%)
- 売上高営業利益率: 3.7%(前期△1.2%)
清水建設の株主還元について
清水建設は、財務体質の強化と安定配当を基本方針とし、1株当たり配当金の下限を年間20円とした上で、連結配当性向40%を目安に利益を還元する方針を掲げています。
2024年度は、増配と自己株式取得を合わせて607億円の株主還元を実施しました。
配当金の状況
2025年3月期の年間配当金は、1株当たり38円(中間17.5円、期末20.5円)となる予定です。
これは前期の20円から18円の大幅な増配です。この場合の連結配当性向は40.1%となります。
また、2026年3月期の配当金は、1株につき年間44円(うち中間配当金22円)と、さらなる増配を予定しています。
自社株買いの発表はあった?
清水建設は2025年5月14日開催の取締役会において、自己株式の取得を決議しました。
- 取得上限株式数: 900万株 (2025年3月31日時点の発行済株式総数(自己株式を除く)の約1.32%に相当)
- 取得価額の上限: 100億円
- 期間: 決算短信には詳細な期間の記載はありませんが、「自己株式取得に係る事項の決定に関するお知らせ」で公表するとしています。
清水建設の今期の見通しと戦略について
2025年度の日本経済は緩やかな回復の継続が期待されるものの、海外経済の不確実性や建設コストの上昇、担い手不足といった懸念材料も残る見込みです。
このような環境下、清水建設は2026年3月期の連結業績を以下の通り見込んでいます。
項目 | 2026年3月期予想 (百万円) | 前期比 |
---|---|---|
売上高 | 1,910,000 | △1.8% |
営業利益 | 78,000 | +9.8% |
経常利益 | 73,000 | +1.9% |
親会社株主に帰属する 当期純利益 | 75,000 | +13.6% |
売上高は微減を見込むものの、営業利益、経常利益、純利益はいずれも増益を予想しており、引き続き堅調な利益成長を目指す計画です。
中期経営計画と投資戦略
清水建設は、中期経営計画〈2024-2026〉に基づき、持続的な成長に向けた投資を積極的に進めています。
3ヶ年で総額3,600億円の投資を計画しており、2024年度には698億円を実行しました。
主な投資分野は以下の通りです。
- 人材: 400億円(高度人材の獲得・育成など)
- 生産性向上・研究開発: 850億円(最先端技術・デジタル関連投資など)
- 不動産開発: 2,000億円(国内アセットの多様化、海外ビジネスモデル転換など)
- グリーンエネルギー開発: 300億円(再エネ発電事業の拡大など)
このほか、M&Aなどのための別枠投資も設けており、2024年度は海外内装工事会社の取得などに180億円を投じました。
また、資本効率の向上を目指し、政策保有株式の縮減も加速させています。
連結純資産に対する比率を2026年3月末までに20%以下、2027年3月末までに10%以下とする目標を掲げています。
決算内容や今期の見通しで、清水建設の株価はどうなる?
今回の決算内容と今期の見通しには、株価にとってポジティブな要因とネガティブな要因の両方が含まれています。
株価にポジティブな影響を与える要因
- 大幅な利益回復
営業利益、経常利益が黒字転換し、親会社株主に帰属する当期純利益が前期比284.6%増と、収益性が大きく改善したことは好材料です。 - 堅調な来期見通し
来期も増益予想となっており、特に親会社株主に帰属する当期純利益は13.6%増を見込んでいることから、成長の継続が期待されます。 - 積極的な株主還元
前期比18円の大幅な増配、来期のさらなる増配計画、そして100億円を上限とする自己株式取得の決議は、株主還元への強い意志を示すものであり、株価を支える要因となり得ます。 - 営業キャッシュフローの大幅な改善
営業キャッシュフローが前期のマイナスから1,590億円のプラスへと大幅に改善しており、本業で稼ぐ力が回復していることを示しています。
株価にネガティブな影響を与える要因
- 減収
2025年3月期の売上高が前期比で減少し、来期の見通しも減収となっている点は懸念材料です。特に、これまで収益を支えてきた投資開発事業の減収減益が影響しています。 - 外部環境の不確実性
建設コストの上昇や担い手不足といった建設業界特有のリスクは依然として存在し、今後の業績への下押し圧力となる可能性があります。 - 自己資本比率の低下
自己資本比率が前期の35.0%から34.1%へと低下しており、財務の健全性がわずかに後退しています。
決算から分かる清水建設の強みは?
今回の決算からは、清水建設の以下のような強みが読み取れます。
収益性の高い多様な事業ポートフォリオ
主力の建設事業に加え、投資開発事業、道路舗装事業、エンジニアリング事業など、多角的な事業を展開しています。
2025年3月期は投資開発事業が減益となりましたが、建設事業の採算改善が全体の利益を大きく押し上げました。
このように、特定の事業環境の変化に左右されにくい安定した収益基盤を持っていることが強みです。
健全な財務基盤とキャッシュ創出力
総資産2.5兆円、純資産9,238億円という強固な財務基盤を有しています。
有利子負債は前期末から減少し、営業活動によるキャッシュフローは大幅なプラスに転じるなど、安定した財務運営とキャッシュ創出力を維持しています。
将来の成長に向けた積極的な投資姿勢
中期経営計画に基づき、生産性向上、研究開発、不動産開発、グリーンエネルギーといった成長分野へ積極的に投資しています。
特に、人手不足が課題となる建設業界において、デジタル技術などを活用した生産性向上への投資は、将来の競争力を高める上で重要な強みとなります。
まとめ
清水建設の2025年3月期決算は、売上こそ減少したものの、本業である建設事業の収益性改善により、利益面で力強い回復を見せました。
積極的な株主還元策と、増益を見込む来期の業績予想は、市場からポジティブに評価される可能性があります。
一方で、建設コストの上昇など外部環境の不確実性は依然として残ります。
中期経営計画に沿った成長投資を着実に実行し、建設事業の収益性を維持・向上させながら、新たな収益の柱を育てていくことができるか、今後の展開が注目されます。
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