大地震が発生すると、日本株全体がリスク回避で売られるだけでなく、工場停止や設備損傷、部品不足、店舗休業などを通じて、特定企業の株価が大きく下落することがあります。
ただし、「地震に弱い業種だから必ず下がる」というほど単純ではありません。製造業では、どの地域に重要工場があるか、その工場が全社生産のどの程度を担うか、代替生産や物流ルートを確保できるかによって影響が大きく変わります。鉄道・航空・観光・小売・電力・保険なども、地震の影響が業績へ伝わる経路はそれぞれ異なります。
この記事では、2026年7月に発生した令和8年熊本地震の最新事例を確認したうえで、全国の「地域×産業×工場」を整理し、大地震で影響を受けやすい業種、過去に実際に売られた銘柄、地震後に下落した株を買うときの判断ポイントまで解説します。
この記事のポイント
地震リスクは「銘柄名」だけでなく、
①重要拠点の所在地、
②拠点集中度、
③サプライチェーン、
④復旧までの日数、
⑤会社が示す業績影響
の5点で見ることが重要です

2026年熊本地震ではどんな株が下がった?

2026年7月28日16時27分ごろ、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1(速報値)の地震が発生し、熊本県内で最大震度7を観測しました。地震は東証の通常取引終了後に発生したため、7月29日以降の株式市場が最初の本格的な反応となりました。
ここで注意したいのは、地震で操業停止や店舗休業が発生した企業が、すべて同じように株価下落したわけではないことです。決算、地合い、直前までの株価トレンドも同時に作用します。そのため本章では、「事業活動にどのような影響が出たか」と「株価がどう受け止めたか」を分けて整理します。
| 銘柄 | 地震による主な影響 | リスクのタイプ |
|---|---|---|
| ルネサスエレクトロニクス(6723) | 川尻工場・錦工場を停止 | 半導体・直接被災 |
| ソニーグループ(6758) | 熊本の半導体拠点を一時停止 | 半導体・安全点検 |
| ホンダ(7267) | 熊本製作所を停止 | 自動車・直接被災 |
| アイシン(7259) | 熊本工場の稼働に影響 | 自動車部品・供給網 |
| 日本製紙(3863) | 八代工場で大きな設備被害 | 素材・設備損傷 |
| イオン九州(2653) | 熊本県内で多数店舗を一時休業 | 小売・店舗被害 |
| トヨタ自動車(7203) | 九州の複数工場を停止 | 部品・物流 |
| 日産自動車(7201) | 部品・物流を確認し一部操業に影響 | サプライチェーン |
| 三菱自動車(7211) | 九州の部品供給問題が岡山にも波及 | サプライチェーン |
ルネサスエレクトロニクス(6723)
ルネサスエレクトロニクス(6723)は、熊本県内の川尻工場と錦工場の操業を停止しました。Reutersによると、天井パネルの落下、壁のひび、一部の漏水が確認されており、単なる安全確認だけではなく、建屋・設備周辺に実際の被害が出たケースです。
半導体工場はクリーンルーム、電力、純水、ガス、微細な製造装置を安定して使えることが前提です。建屋が致命的に損傷していなくても、装置の位置ずれや異物混入がないかを確認しなければ生産を再開できません。地震後に同社株へ売りが出た場面はありましたが、直前から株価が弱含んでいたため、下落を地震だけで説明するのは適切ではありません。
重要なのは復旧速度です。短期間で設備を再立ち上げでき、会社が全社業績への影響を軽微と判断するなら、操業停止がそのまま長期的な企業価値の毀損につながるとは限りません。
ソニーグループ(6758)
ソニーグループ(6758)傘下の熊本テクノロジーセンターでも従業員を退避させ、生産活動を一時停止しました。同拠点はイメージセンサーなどを手掛ける半導体拠点であり、地震時には生産装置とクリーンルームの点検が重要になります。
一方、ソニーグループはゲーム、音楽、映画、金融、半導体など複数事業を持つ巨大企業です。そのため、熊本拠点の停止が短期間で済む場合、グループ全体の業績インパクトは限定的になりやすく、株価も「工場停止」という見出しだけで決まるわけではありません。
2016年熊本地震では同じ熊本テクノロジーセンターの生産再開が未定となり、イメージセンサー供給への懸念から株価が大きく売られました。2026年の反応を考える際にも、「停止したか」より「復旧見通しが見えるか」が重要です。
ホンダ(7267)
ホンダ(7267)は熊本製作所の操業を停止しました。同製作所は二輪車などを生産する重要拠点で、今回の地震では工場内の損傷箇所の修理と安全確認が必要になりました。
ホンダの場合、熊本製作所の存在感は大きいものの、四輪事業を含めたグループ全体の売上規模はさらに大きいため、数日の停止と長期停止では意味が大きく異なります。投資判断では、停止期間、未出荷台数、代替生産の可否、会社が通期業績へ反映するかを確認したいところです。
アイシン(7259)
アイシン(7259)はトヨタグループの大手自動車部品メーカーです。熊本地震では現地拠点の稼働に影響が出ましたが、同社は2016年熊本地震での被災経験を受け、吊りものの落下対策や自家発電などBCPを強化してきました。
この点は「地震リスクは工場所在地だけでは測れない」ことを示す好例です。同じ地域に工場があっても、設備固定、地盤対策、予備電源、代替生産体制が整っていれば、停止期間と供給影響を小さくできる可能性があります。
日本製紙(3863)
日本製紙(3863)の八代工場では、今回の地震で煙突の倒壊など大きな設備被害が発生しました。安全点検を目的とした一時停止とは異なり、物理的な設備損傷が確認された企業は、復旧工事費や生産停止損失が業績へ波及する可能性が高くなります。
大型工場は設備の一部を直せば即日フル生産へ戻れるとは限りません。復旧工程、代替供給、固定費負担、特別損失の計上有無を追う必要があります。地震後の株価を見る際も、被害写真や見出しだけではなく、会社の続報を確認することが重要です。
イオン九州(2653)
イオン九州(2653)は熊本県内の店舗で一時休業が発生しました。Reutersは熊本県内40店舗のうち17店舗が閉鎖されたと報じており、イオンモール熊本では地震後の爆発・建物被害も発生しました。
小売業は製造業と違い、店舗を開けられない期間がそのまま売上機会の喪失につながりやすいのが特徴です。ただし、生活必需品を扱うスーパーは復旧後に需要が戻りやすく、全社業績への影響は店舗数、休業期間、被災地域の売上構成によって大きく変わります。
トヨタ自動車(7203)などは自社工場が無傷でも影響
大地震で最も厄介なのが、工場そのものは壊れていないのに生産が止まるケースです。トヨタ自動車(7203)は宮田・苅田・小倉の九州3工場を停止し、日産自動車(7201)や三菱自動車(7211)でも部品供給や物流への影響が確認されました。
三菱自動車(7211)のように、震源地から離れた岡山県の生産にも影響が及ぶことがあります。自動車は数万点の部品で構成され、一つの重要部品が届かないだけでも完成車を生産できません。したがって、地震リスクを考えるときは「自社工場の場所」だけでは不十分で、主要サプライヤーの所在地まで見る必要があります。
地震で下がる可能性がある業種は?
地震の影響は、被災地域と業種によって大きく異なります。製造業は工場・供給網、鉄道は線路、航空・観光は需要、小売は店舗、電力・ガスは設備、損害保険は保険金支払いというように、業績へ伝わる経路が違います。
| 業種 | 主な地震リスク |
|---|---|
| 製造業 | 工場停止・設備損傷・部品不足・サプライチェーン寸断 |
| 鉄道 | 線路・橋梁・駅の被害、長期運休、復旧費用 |
| 航空 | 空港閉鎖・欠航・旅行需要の減少 |
| ホテル・観光 | 宿泊キャンセル・風評被害・交通寸断 |
| 小売 | 店舗休業・建物被害・物流停止 |
| 電力・ガス | 発電・送配電・ガス管の被害、復旧費用 |
| 損害保険 | 保険金支払い増。ただし政府再保険制度あり |
| 不動産 | 建物損傷・修繕費・賃料減少・休業 |
| 物流 | 道路・港湾・倉庫の被害、配送遅延 |
製造業は「地域×産業」で見ることが重要
製造業の地震リスクは、「半導体株だから危ない」「自動車株だから危ない」と業種だけで判断するより、どの地域に重要な工場が集中しているかを見る方が実践的です。大地震が起きた地域にどの産業クラスターがあるかを把握すれば、影響を受けやすい銘柄を早く絞れます。
北海道|先端半導体・自動車部品・鉄鋼
| 企業・グループ | 主な拠点 | 所在地 | 主な製品 |
|---|---|---|---|
| Rapidus(未上場) | IIM-1 | 北海道千歳市 | 先端ロジック半導体 |
| トヨタ自動車(7203)系 | トヨタ自動車北海道 | 北海道苫小牧市 | CVT・ハイブリッド用駆動ユニット等 |
| 日本製鉄(5401) | 北日本製鉄所 室蘭地区 | 北海道室蘭市 | 特殊鋼棒鋼・線材 |
北海道は従来、鉄鋼や自動車部品の重要拠点でしたが、千歳市でRapidusの先端半導体拠点整備が進み、産業構造が変わりつつあります。Rapidusは未上場のため「下がる株」として紹介する対象ではありませんが、北海道で大地震が起きたときに半導体サプライチェーンへ影響が波及する可能性を考えるうえで重要な存在です。
苫小牧のトヨタ自動車北海道は駆動ユニットを国内外へ供給し、室蘭の日本製鉄(5401)は自動車の重要保安部品などに使われる特殊鋼を生産しています。北海道の地震でも、地域内だけでなく本州の完成車生産へ影響が及ぶ可能性があります。
九州|半導体・自動車・電子機器の一大集積地
| 県 | 企業・グループ | 主な拠点 | 主な製品 |
|---|---|---|---|
| 熊本 | ソニーグループ(6758)系 | 熊本テクノロジーセンター | イメージセンサー等 |
| 熊本 | ルネサス(6723) | 川尻工場・錦工場 | 半導体 |
| 熊本 | ホンダ(7267) | 熊本製作所 | 二輪車等 |
| 福岡 | トヨタ自動車(7203)系 | 宮田・苅田・小倉 | 完成車・エンジン・HV部品 |
| 福岡 | 日産自動車(7201)系 | 日産自動車九州など | 完成車 |
| 長崎 | ソニーグループ(6758)系 | 長崎テクノロジーセンター | 半導体 |
| 大分 | ソニーグループ(6758)系 | 大分テクノロジーセンター | 半導体 |
| 大分 | キヤノン(7751)系 | 安岐・大分・日田・杵築 | カメラ・映像機器 |
| 大分 | 日本製鉄(5401) | 九州製鉄所 大分地区 | 熱延鋼板・厚鋼板 |
九州は「シリコンアイランド」と呼ばれる半導体集積地ですが、自動車、カメラ・映像機器、鉄鋼などの製造拠点も多くあります。日本製鉄(5401)の大分地区は約700万平方メートルの大規模製鉄拠点で、熱延鋼板・厚鋼板の重要供給基地です。
2026年熊本地震では、半導体工場だけでなく自動車の部品・物流にも影響が広がりました。九州で大地震が起きた場合は、熊本の直接被害だけでなく、福岡・長崎・大分を含めた広域の工場と港湾・道路網を見る必要があります。
東海|自動車・自動車部品の一大集積地
| 県 | 企業 | 主な拠点 | 主な製品 |
|---|---|---|---|
| 愛知 | トヨタ自動車(7203) | 元町・高岡・堤など | 完成車 |
| 愛知 | デンソー(6902) | 安城・西尾・高棚など | 自動車部品・半導体等 |
| 愛知 | アイシン(7259) | 愛知県内の複数工場 | 駆動系・車体部品等 |
| 静岡 | スズキ(7269) | 湖西工場など | 完成車 |
| 三重 | ホンダ(7267) | 鈴鹿製作所 | 完成車 |
| 愛知 | 日本製鉄(5401) | 名古屋製鉄所 | 自動車用鋼板等 |
東海地方は、日本の自動車産業の中枢です。完成車メーカーだけでなく、デンソー(6902)やアイシン(7259)などTier1部品メーカー、その先の素材・部品メーカーまで集積しています。
南海トラフ巨大地震を考える際に特に重要なのは、一つの工場の被害が「その会社だけ」で終わらない点です。専用部品の供給が止まれば、別県の完成車工場まで生産停止する可能性があります。名古屋港や高速道路の機能低下も、自動車輸出・部品輸送へ大きな影響を与えます。
東北|半導体・電子部品の重要拠点
| 県 | 企業・グループ | 主な拠点 | 主な製品 |
|---|---|---|---|
| 岩手 | キオクシアHD(285A) | 北上工場 | NAND型フラッシュメモリ |
| 宮城 | アルプスアルパイン(6770) | 古川第2工場 | 車載モジュール・電子部品 |
| 宮城 | 村田製作所(6981)系 | 仙台村田製作所 | SAWフィルタ等 |
| 福島 | 村田製作所(6981)系 | 東北村田製作所 | 二次電池等 |
東北には半導体・電子部品の重要拠点があります。キオクシアホールディングス(285A)の北上工場はNAND型フラッシュメモリの大規模拠点で、宮城にはアルプスアルパイン(6770)や村田製作所(6981)系の電子部品工場があります。
2011年の東日本大震災では、東北の直接被害が全国・海外の製造業へ波及しました。電子部品は小さな部品でも代替が難しい場合があり、特定工場の停止が完成品メーカーの生産制約になる点に注意が必要です。
北陸|電子部品・材料メーカーの工場が集中
| 県 | 企業・グループ | 主な拠点 | 主な製品 |
|---|---|---|---|
| 石川 | 村田製作所(6981)系 | 金沢事業所・能美工場 | 高周波製品・センサ・基板等 |
| 石川 | 村田製作所(6981)系 | ハクイ村田製作所 | 圧電・センサ関連 |
| 石川 | 村田製作所(6981)系 | 小松村田製作所 | モジュール・RFID・SAW等 |
| 富山 | 村田製作所(6981)系 | 富山村田製作所・氷見工場 | 圧電部品・樹脂多層基板等 |
北陸は電子部品メーカーの生産拠点が多く、特に村田製作所(6981)グループの存在感が大きい地域です。2024年能登半島地震では、石川県・富山県の工場稼働状況が市場で強く意識されました。
電子部品はスマートフォン、自動車、通信機器など幅広い製品へ使われます。被災地域の売上規模だけを見るのではなく、世界シェアの高い部品を一つの工場が担っていないかを確認することが重要です。
関東|半導体・化学・鉄鋼・物流の巨大集積地
| 県 | 企業・グループ | 主な拠点 | 主な製品・役割 |
|---|---|---|---|
| 茨城 | ルネサス(6723) | 那珂工場 | 半導体 |
| 茨城 | 信越化学工業(4063) | 鹿島工場 | 塩化ビニル樹脂・合成石英 |
| 群馬 | 信越化学工業(4063) | 群馬事業所 磯部工場 | シリコーン・半導体シリコン等 |
| 群馬 | 信越化学工業(4063) | 伊勢崎工場 | 半導体露光材料等 |
| 千葉 | JFE HD(5411)系 | JFEスチール東日本製鉄所 千葉地区 | 薄板・自動車用鋼板・鋼管等 |
関東は製造業だけでなく、人口、物流、商業機能が巨大に集中しています。ルネサス(6723)の那珂工場、信越化学工業(4063)の半導体・化学材料拠点、JFEホールディングス(5411)系の臨海製鉄所など、重要な生産拠点があります。
首都直下地震や茨城・千葉沖の大地震では、工場損傷に加え、従業員が出勤できない、首都高速や湾岸物流が止まる、港湾の荷役が低下するといった二次的な影響も大きくなります。
瀬戸内・西日本沿岸|鉄鋼・化学・自動車など大型設備
| 県 | 企業・グループ | 主な拠点 | 主な製品 |
|---|---|---|---|
| 岡山 | 三菱自動車(7211) | 水島製作所 | 完成車・関連部品 |
| 岡山 | JFE HD(5411)系 | 西日本製鉄所 倉敷地区 | 鉄鋼製品 |
| 岡山 | 村田製作所(6981)系 | 岡山村田製作所 | セラミック原料・電子部品 |
| 愛媛 | ルネサス(6723) | 西条工場 | 半導体 |
瀬戸内・西日本沿岸は、自動車、鉄鋼、化学など大型設備産業が集積しています。大型装置産業は設備の損傷が大きい場合、点検・補修・再立ち上げに時間がかかりやすいのが特徴です。
沿岸部では地震そのものに加えて、津波、液状化、港湾停止も重要なリスクです。原料を船で大量に受け入れる製鉄・化学工場では、工場が無傷でも港が使えなければ操業制約が生じる可能性があります。
鉄道は長期運休と復旧費用が業績を圧迫する
鉄道会社は、線路、高架、橋梁、駅、電力設備が広い範囲に点在しているため、大地震では直接被害と運休による収入減が同時に発生します。東日本大震災ではJR東日本(9020)が、2011年3月期に震災による営業収益減を約590億円、復旧などに関する特別損失を約587億円と見積もりました。合計すると財務影響は約1,200億円規模です。
鉄道株を見る際は、被災路線が全社の輸送収入に占める割合と、復旧までの期間が重要です。新幹線や都市圏の幹線が長期停止する場合は業績インパクトが大きくなりやすい一方、短期間で再開できれば株価への影響も限定的になりやすくなります。
航空は空港閉鎖と旅行需要減少の影響を受ける
航空会社は、空港設備が直接被災しなくても、旅行需要の落ち込みで業績が悪化する場合があります。東日本大震災後のANAホールディングス(9202)では、2011年度第1四半期に国内線旅客収入が前年同期比6.2%減少し、グループ全体では営業損失81億円を計上しました。会社は震災後の旅客数急減を主因の一つとして説明しています。
航空株では、欠航便数だけでなく、インバウンド需要、国内レジャー需要、被災地域以外への旅行自粛まで確認する必要があります。日本航空(9201)やANAホールディングス(9202)のような全国ネットワーク型企業では、一つの空港停止より需要減少の広がりが大きな材料になる場合があります。
ホテル・観光は被災していなくても売上が落ちる
観光業の特徴は、ホテル自体に被害がなくてもキャンセルが発生することです。2016年熊本地震では、熊本県内のホテル・旅館で発災後約1カ月の宿泊キャンセルが33万人を超えました。交通寸断だけでなく、「余震が怖い」「被災地へ観光に行くのを自粛する」といった心理的要因も需要を押し下げます。
そのため、ホテル・旅行関連株では被災施設数だけを見るのではなく、予約キャンセル率、観光客数、航空・鉄道の復旧状況、風評被害がどの程度長引いているかを見ることが重要です。
小売は店舗休業と物流停止が売上に直結する
小売業は店舗が閉まれば売上を計上できず、物流が止まれば営業再開後も商品を補充できません。東日本大震災ではイオングループでも東北地区の約65%の店舗が一時休業を余儀なくされました。
一方、スーパーやドラッグストアは災害後に生活必需品需要が増える面もあります。したがって、地震=小売株に一律マイナスではなく、被災店舗の比率、休業期間、在庫供給力、復旧後の需要を総合的に見る必要があります。2026年熊本地震のイオン九州(2653)は、店舗集中度を確認する重要性を示す最新例です。
電力・ガスは設備被害と復旧費用に注意
電力・ガス会社は社会インフラを担うため、地震後も復旧対応を続けなければなりません。発電設備、送配電網、ガス管に被害が出れば、設備復旧費に加えて販売量の減少や代替調達コストが発生する場合があります。
東日本大震災では東京ガスの供給区域でも安全確保のため一部地域の供給を停止しました。一方、東京電力ホールディングス(9501)は福島第一原発事故を伴ったことで、通常の設備復旧とは比較できないほど深刻な財務影響を受けました。東京電力の事例は後半で詳しく扱いますが、すべての地震で電力株が同じように下がるわけではありません。
損害保険は保険金支払いが増えるが単純ではない
大地震では、東京海上ホールディングス(8766)、MS&ADインシュアランスグループホールディングス(8725)、SOMPOホールディングス(8630)など損害保険株が「保険金支払い増」を意識して売られることがあります。
ただし、日本の住宅向け地震保険は民間損保だけがすべての損失を負担する仕組みではありません。政府が再保険を引き受けており、1回の地震等に対する官民合計の総支払限度額は12兆円です。したがって、「大地震=損保会社が巨額赤字」と単純に考えるのは不正確です。企業向け保険や自動車保険など地震保険以外の損害、各社の再保険、準備金も合わせて確認する必要があります。
不動産は建物被害・修繕費・賃料減少に注意
不動産会社は、保有物件の損傷、修繕費、テナント休業、ホテル稼働率低下など複数の経路で影響を受けます。特に被災地域へ商業施設やホテル、オフィスを集中保有している企業は、資産集中リスクが高くなります。
一方、大手総合不動産会社は東京・大阪など複数地域に資産を分散しているため、一地域の地震が全社業績に与える影響は限定的な場合もあります。地震後に不動産株を見るときは、物件数ではなく被災物件の簿価・賃料収入・保険カバーまで確認したいところです。

大地震で株価が下がる主な理由

ここまでの事例を整理すると、地震が企業価値へ影響する経路は大きく6つに分けられます。株価が下落したときは、どの経路が当てはまるのかを確認すると、悪材料が短期的か構造的かを判断しやすくなります。
工場・店舗・設備が直接被災する
建物、製造装置、煙突、倉庫、店舗などが物理的に損傷するケースです。修理費だけでなく、停止期間中の固定費や売上機会の喪失も発生します。被害が主要設備に及んだ場合は、最も業績への影響が長引きやすいタイプです。
安全確認だけでも操業停止が必要になる
半導体工場や化学工場などでは、外見上の大きな損傷がなくても安全点検のため操業を停止します。数日で再開できれば影響は限定的ですが、精密装置の再立ち上げに時間がかかると出荷へ影響します。
サプライチェーン寸断で無傷の工場まで止まる
自動車のように部品点数が多い業種では、取引先の一工場が停止しただけでも完成品を生産できない場合があります。2016年・2026年の熊本地震は、震源地から離れた工場へ影響が波及するリスクを示しました。
道路・港湾・鉄道停止で物流が止まる
工場が無傷でも原材料が届かない、完成品を出荷できないという問題があります。沿岸部の大型工場では港湾機能、九州や東海の自動車工場では高速道路・部品輸送網が重要です。
旅行キャンセルや消費減少で売上が落ちる
航空、ホテル、観光、小売では、設備被害がなくても需要そのものが減ります。余震への不安や旅行自粛は被災県外にも波及するため、影響地域を地図だけで限定しないことが重要です。
復旧費・特別損失・保険金支払いが増える
設備復旧費や災害損失の計上によって利益が減少するケースです。電力・鉄道・不動産では復旧費、損害保険では保険金支払いが注目されます。株価は売上減より一時的な特別損失へ強く反応することもあります。
過去の大地震ではどんな株が下がった?
実際の個別株を見ると、「地震が起きたから下がった」というより、投資家が将来の利益減少をどの程度織り込んだかで下落幅が変わります。ここでは、下落理由が比較的分かりやすい代表例を確認します。
東日本大震災|東京電力ホールディングス(9501)
2011年3月の東日本大震災では、東京電力ホールディングス(9501)の株価が急落しました。
福島第一原子力発電所の事故により、発電能力の喪失だけでなく、巨額の損害賠償、除染、廃炉費用、資本増強への懸念が生じたためです。震災から約1カ月後には株価が震災前から約8割下落したと報じられています。
ただし、これは「大地震が起きれば電力株が8割下がる」という事例ではありません。原発の重大事故と巨額賠償を伴った極めて特殊なケースです。通常の地震では、発電・送配電設備の被害、復旧費、販売量への影響を個別に判断する必要があります。
2016年熊本地震|ソニーグループ(6758)
2016年熊本地震では、ソニーグループ(6758)の熊本テクノロジーセンターが生産停止となり、4月18日の取引で株価は一時7.8%安まで売られました。熊本拠点がイメージセンサーを生産しており、生産再開時期が未定だったことから、顧客への供給影響が懸念されたためです。
この事例が示すのは、「半導体工場が止まった」こと以上に「いつ再開できるか分からない」ことが大きな悪材料になる点です。その後、他拠点の稼働や復旧状況が明らかになるにつれて、投資家は実際の供給影響を判断できるようになりました。
2016年熊本地震|トヨタ自動車(7203)
同じ2016年熊本地震では、トヨタ自動車(7203)が部品不足のため全国の完成車組立ラインを段階的に停止しました。4月18日の株式市場ではトヨタ株が4.8%安となり、自動車株全体にも売りが広がりました。
重要なのは、トヨタの全国工場が直接地震で壊れたわけではないことです。九州のサプライヤー被災によって部品が届かず、全国生産へ波及しました。自動車株の地震リスクを考える際に、工場所在地だけでなくサプライヤー網を確認すべき理由が分かる事例です。
2024年能登半島地震|村田製作所(6981)・KOKUSAI ELECTRIC(6525)
2024年1月1日の能登半島地震後、最初の取引となった1月4日には、北陸に工場を持つ製造業へ売りが先行しました。Bloombergによると、村田製作所(6981)は一時5.5%安、KOKUSAI ELECTRIC(6525)は富山事業所の一部被害が意識され、一時9%安まで下落しました。
ただし、その後は被害状況や復旧見通しが分かるにつれて買い戻しも入りました。村田製作所(6981)では石川・富山の一部工場の再開に時間を要した一方、グループ全体への影響は各製品の在庫や代替生産能力によって異なります。この事例も「初日の株価下落率」と「最終的な業績影響」は別物であることを示しています。
地震に弱い企業を見分けるポイント
地震が起きる前から企業の災害リスクを確認することは可能です。重要なのは「工場があるか」ではなく、その拠点が止まった場合に会社全体へどれだけ波及するかです。
重要工場が特定地域に集中していないか
主要製品を一地域だけで生産している企業は、その地域の大地震で業績が一気に悪化するリスクがあります。拠点一覧だけでなく、主力製品と工場の対応関係を確認します。
その工場が全社生産の何割を占めるか
同じ「主力工場」でも全社生産の10%と70%では影響が全く違います。会社資料で生産能力や主要製品の供給割合が開示されていれば確認したい項目です。
代替生産できる工場があるか
別地域・海外に同じ製品を作れる工場があれば、被災拠点が停止しても供給を継続できます。逆に一拠点専用品は復旧まで売上が止まりやすくなります。
特定サプライヤーへの依存度が高くないか
自社工場のBCPが強くても、重要部品を単一サプライヤーへ依存していれば生産は止まります。自動車・電子機器では二次、三次サプライヤーまで影響が波及します。
物流ルートが分散されているか
工場から港・高速道路までのルートが一本しかない場合、工場が無傷でも出荷できません。沿岸部では港湾、山間部では道路寸断が重要なリスクになります。
BCP・耐震対策が進んでいるか
耐震補強、設備固定、予備電源、在庫、復旧訓練などは停止期間を短くします。アイシン(7259)のように過去の震災を教訓に対策を強化している企業は、同じ地域に拠点があっても被害を抑えられる可能性があります。
操業停止が何日続くか
地震後の最重要情報の一つです。安全確認のため1~2日止まるケースと、設備損傷で数週間~数カ月止まるケースでは業績への影響が大きく異なります。
会社が業績影響をどう説明しているか
適時開示やニュースリリースで「影響は軽微」「精査中」「特別損失を計上」「通期予想を修正」などの表現を確認します。株価の値動きより会社の業績評価を優先することが重要です。
地震で下がった株は買い場になる?
地震直後に株価が急落すると、「悪材料は一時的だから買い場では」と考えたくなります。実際、安全点検だけで短期間に再開できる企業では、過度な売りが戻るケースがあります。しかし、主力工場の損壊や長期供給停止なら、下落は企業価値の低下を正しく織り込んでいる可能性があります。
一時的な下落になりやすいケース
- 停止理由が安全確認中心で、設備損傷が確認されていない
- 数日以内に操業再開の予定が示されている
- 別工場で代替生産できる
- 在庫が十分あり顧客への供給影響が小さい
- 会社が通期業績への影響を「軽微」と説明している
この場合、市場が最悪シナリオを先に織り込んで株価が急落していれば、被害状況の判明とともに買い戻される可能性があります。
下落が長期化しやすいケース
- 主力工場・大型設備そのものが大きく損傷している
- 生産再開時期が未定
- 同じ製品を作れる代替工場がない
- 主要サプライヤーや物流網の復旧に時間がかかる
- 多額の復旧費・特別損失が発生する
- 会社が通期業績を下方修正する
このケースでは「地震前より株価が安い」という理由だけで買うのは危険です。業績予想が下がれば、株価が下がってもPERなどのバリュエーションが必ずしも割安にならないことがあります。
株価下落率より業績への実害を見る
最も重要なのは、「株価が何%下がったか」ではなく「将来利益がどれだけ減るのか」です。10%下落した企業でも業績影響がほぼゼロなら過度な売りかもしれません。一方、5%しか下がっていなくても主力工場が長期停止し、利益が大幅に減るなら割安とは言えません。
地震後に買い場を探すなら、①復旧予定日、②代替生産、③売上・利益への影響、④特別損失、⑤通期予想の修正、の順に確認すると判断しやすくなります。
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地震で下がる株は、地震の場所によって変わります。製造業では「地域×産業×工場」で見ることが重要で、九州なら半導体・自動車、東海なら自動車、北陸なら電子部品、北海道なら先端半導体・自動車部品・鉄鋼など、地域ごとに異なる産業集積があります。
また、自社工場が無傷でもサプライチェーンや物流網を通じて生産が止まることがあります。鉄道・航空・観光・小売・電力・保険・不動産も、それぞれ異なる経路で業績に影響を受けます。
過去の事例を見ると、株価が大きく下がりやすいのは「復旧時期が見えない」「重要拠点が集中している」「代替生産できない」「巨額損失が発生する」といったケースです。地震後の下落を買い場と判断するときは、株価下落率ではなく、企業の将来利益がどれだけ傷んだかを確認しましょう。
出典
- 気象庁|緊急地震速報(警報)発表状況・2026年7月28日熊本県熊本地方の地震
https://www.data.jma.go.jp/eew/data/nc/pub_hist/2026/07/20260728162718/reachtime/reachtime.html - 首相官邸|熊本県熊本地方を震源とする地震についての会見
https://www.kantei.go.jp/jp/105/statement/2026/0728kaiken.html - Reuters|Companies with operations disrupted by Japan’s Kumamoto quake
https://www.reuters.com/business/retail-consumer/strong-quake-hits-japans-production-hub-disrupts-business-operations-2026-07-29/ - Reuters|Japan earthquake rocks auto and chip manufacturing supply chain in Kyushu
https://www.reuters.com/world/asia-pacific/toyota-halt-operations-3-southern-japan-plants-through-friday-after-earthquake-2026-07-29/ - イオン九州|熊本地震による臨時休業のご案内
https://tenpo.aeon-kyushu.info/detail/otsu/event-news/1870899/ - 東京エレクトロン|熊本県熊本地方を震源として発生した地震について
https://www.tel.co.jp/news/disaster/2026/20260728_001.html - 荏原製作所|令和8年熊本地震による当社の状況について
https://ebara.com/jp-ja/newsroom/2026/20260729-01/ - アイシン|リスクマネジメント
https://www.aisin.com/jp/sustainability/governance/risk/ - トヨタ自動車北海道|会社概要・事業内容
https://www.tmh.co.jp/profile/ - 日本製鉄|北日本製鉄所 室蘭地区
https://www.nipponsteel.com/works/north-nippon/muroran/product/ - 大分キヤノン|会社概要/沿革
https://oita.canon/corporation/outline.html - 日本製鉄|九州製鉄所 大分地区
https://www.nipponsteel.com/works/kyushu/oita/outline/ - デンソー|Japan Global Network
https://www.denso.com/global/en/about-us/corporate-info/global-network/japan/ - 信越化学工業|工場・グローバルネットワーク
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https://www.jfe-steel.co.jp/works/east/chiba/index.html - JR東日本|2011 Annual Report
https://www.jreast.co.jp/e/investor/ar/2011/pdf/ar_2011_all.pdf - ANA|Financial Results for the First Quarter of FY2011
https://www.ana.co.jp/eng/aboutana/press/2011/110729.html - 熊本県|平成28年熊本地震からの復旧・復興プラン
https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/15259.pdf - イオン|東日本大震災後の営業再開に向けた取り組み
https://www.aeon.info/company/library/hotpress_backnumbers/394/index.html - 東京ガスネットワーク|3.11 東日本大震災の対応
https://www.tokyo-gas.co.jp/network/anzen/correspondence/index.html - 財務省|地震保険制度の概要
https://www.mof.go.jp/policy/financial_system/earthquake_insurance/jisin.htm - ソニーグループ|平成28年(2016年)熊本地震の影響について
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/News/Press/201604/16-039/ - Bloomberg|2016年熊本地震でソニー株が下落
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-04-18/O5T2BI6K50XU01 - トヨタ自動車|熊本地震による国内完成車組立ラインの稼働停止
https://global.toyota/en/detail/11811622/ - Bloomberg|能登半島地震を受けた関連株、朝方は売り先行
https://www.bloomberg.com/jp/news/articles/2024-01-04/S6PQV6T0AFB400 - EE Times Japan|令和6年能登半島地震 半導体/電子部品各社への影響
https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2402/21/news004.html
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