イビデンという社名を、AIや半導体、NVIDIA、株価上昇のニュースをきっかけに知った人も多いでしょう。一方で、消費者向けの商品を店頭で見かける会社ではないため、「何を作っている会社なのか」「半導体メーカーなのか」「なぜAI関連企業として注目されているのか」が分かりにくい企業でもあります。
結論から言うと、イビデンは、CPUやGPUなどの高性能半導体に使われるICパッケージ基板を主力とし、自動車・半導体製造向けのセラミック製品なども手がけるBtoBメーカーです。半導体チップそのものを作る会社ではなく、チップと外部の電子回路をつなぐ部材を供給しています。AIサーバー向けのICパッケージ基板で高いシェアを持つと会社が説明しており、最大の販売先もNVIDIAです。そのため、AI関連企業として注目されています。
この記事では、イビデンの事業内容、主力製品の役割、AIとの関係、市場シェア、競合、主要顧客、販売地域、収益構造、強みまで順に解説します。最後に、今後の決算やニュースを見るときに確認したい数字も整理します。
※本記事は2026年9月29日時点の開示資料をもとに作成しています。
イビデンは何の会社?

イビデンは、高性能な半導体に使うICパッケージ基板を主力とする技術開発型メーカーです。電子事業のほかに、自動車や半導体製造で使われるセラミック製品、建設・建材などの事業も持っています。
本社は岐阜県大垣市にあり、1912年創立の100年以上の歴史を持つ企業です。
主力は半導体向けのICパッケージ基板
イビデンの主力製品は、ICパッケージ基板です。ICは集積回路のことで、CPUやGPUなどの半導体チップを指します。ICパッケージ基板は、こうしたチップをパソコンやサーバーで使える形にするための部品です。
GPUは大量の計算を同時に処理するのが得意な半導体で、生成AIの学習(大量のデータでAIを作る処理)や推論(できあがったAIが答えを出す処理)にも使われます。CPUはコンピューター全体の処理を担う中心的な半導体です。
現在のイビデンの業績は、ICパッケージ基板の売れ行きで大きく変わります。2026年3月期は、ICパッケージ基板を中心とする電子事業が連結売上高の58.5%を占めました。
半導体そのものではなく、半導体を支える部材を作っている
「半導体関連企業」と聞くと、NVIDIAのように半導体を設計する会社や、半導体チップを製造する会社を思い浮かべる人もいるでしょう。イビデンは半導体チップそのものを作る会社ではなく、チップを載せて外部の電子回路につなぐICパッケージ基板を供給しています。
半導体産業は、設計、ウエハー上への回路形成、チップの切り出し・組み立て、機器への実装などを複数の企業が分担しています。イビデンは、完成した半導体チップと機器側の回路をつなぐ部分を担う会社です。
もともとは水力発電会社として創業した
イビデンの出発点は水力発電です。1912年に「揖斐川電力株式会社」として設立され、揖斐川水系の水力を使って発電事業を始めました。その後、発電した電気を使う電気化学・カーボン製品へ進み、さらに電子回路やICパッケージ基板へ事業を広げています。
| 年 | 主な出来事 |
|---|---|
| 1912年 | 揖斐川電力株式会社を設立 |
| 1917年 | 大垣電化工場を開設し、カーバイドの生産を開始 |
| 1919年 | カーボン製品の生産・販売を開始 |
| 1942年 | 電力供給事業を廃止し、電気化学工業を経営の主体に変更 |
| 1970年代 | プリント配線板へ進出し、1973年に電子回路事業部を発足 |
| 1982年 | 社名を「イビデン株式会社」に変更 |
| 1987年 | プラスチックICパッケージ基板の営業を開始 |
| 1988年 | 河間工場(現在の河間事業場)でICパッケージ基板の生産を開始 |
現在のイビデンは、創業時とは大きく異なる製品で稼いでいます。電気炉で素材を作る技術がカーボンやセラミックに、配線板の技術がICパッケージ基板につながり、時代ごとの需要に合わせて主力事業を変えてきました。
本社・売上高・従業員数などの基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | イビデン株式会社 |
| 創立 | 1912年11月25日 |
| 本社 | 岐阜県大垣市神田町2-1 |
| 代表者 | 代表取締役社長 河島 浩二 |
| 証券コード | 4062 |
| 連結売上高 | 4,162億円(2026年3月期) |
| 連結従業員数 | 11,105人(2026年3月末) |
| 連結子会社 | 29社(国内12社・海外17社) |
| 主な事業 | 電子、セラミック、その他 |
イビデンは、半導体メーカーや自動車関連企業などへ部材を供給するBtoBビジネスが中心です。そのため、売上規模が大きくても、一般消費者には社名が見えにくい会社です。
イビデンは何を作っている?3つの事業を解説
イビデングループの事業は、「電子」「セラミック」「その他」の3つに分かれます。まず、それぞれが何を作り、どこで使われているのかを見ていきます。
| 事業 | 主な製品・サービス | 主な用途 |
|---|---|---|
| 電子 | ICパッケージ基板 | CPU・GPU・ASIC・スイッチICなど。AIサーバー、データセンター、パソコンなど |
| セラミック | SiC-DPF、触媒担体保持・シール材、グラファイト、高温断熱ウール、EVバッテリー用安全部材など | 自動車の排ガス浄化、半導体製造、高温設備、EVバッテリーなど |
| その他 | 設備工事、建材、法面・造園工事、樹脂加工、食品、情報サービス、物流など | 住宅・商業施設、工場、インフラ、グループ支援など |
電子事業の中心はICパッケージ基板
電子事業の中心はICパッケージ基板です。用途はパソコンからデータセンターのサーバーへ広がっており、生成AI向けGPU、サーバー向けCPU、特定用途に特化したASIC、スイッチICなどに使われます。
スイッチICは、サーバー間およびデータセンター間の高速通信を支える半導体です。AIデータセンターの処理速度は、演算用のGPUだけが速くても、サーバー同士の通信が遅ければ上がりません。そのため、ネットワーク用の半導体も高性能化しています。
ASICは「Application Specific Integrated Circuit」の略で、特定の用途に合わせて設計する専用半導体です。ハイパースケーラーと呼ばれる巨大なデータセンターを運営する企業は、自社のAI処理に合わせたASICの開発を進めています。イビデンはGPUやCPUに加え、ASIC向けでも販売先を広げています。
セラミック事業は自動車の排ガス浄化や半導体製造向けの部材が中心
セラミック事業の代表製品がSiC-DPFです。DPFは「Diesel Particulate Filter」の略で、ディーゼル車の排気ガスに含まれる粒子状物質を捕集するフィルターです。イビデンは炭化ケイ素(SiC)を使ったDPFを展開してきました。
触媒担体保持・シール材は、自動車の排ガスを浄化する触媒をケース内で安定して保持する部材です。高温や振動がある環境でも触媒を守る役割を持ちます。
グラファイトは特殊炭素製品で、高温に強く、高純度化しやすい性質を生かして半導体製造などで使われます。高温断熱ウールやEVバッテリー用安全部材も扱っており、排ガス浄化製品以外の成長分野も育成しています。
その他事業には建材や設備工事などがある
その他事業には、設備の設計・施工、住宅設備機器やメラミン化粧板、法面工事・造園工事などが含まれます。樹脂加工、食品、情報サービス、物流、石油製品販売なども手がけています。
2026年3月期のその他事業の売上高は約903億円でした。
主力のICパッケージ基板は半導体の中でどんな役割を持つ?
ICパッケージ基板は、半導体チップとマザーボードの間に入り、チップに電力を届け、外部と信号をやり取りする部品です。高性能な半導体ほど多くの信号と電力を扱うため、ICパッケージ基板にも細かな配線や大きな面積、多くの配線層が求められます。
半導体チップとマザーボードの間にある部品
CPUやGPUなどの半導体チップは、ICパッケージ基板を間に挟んでマザーボードに取り付けられます。マザーボードは、パソコンやサーバーの中で主要な電子部品を載せる大きな基板です。
半導体チップ側には極めて細かな接続端子があります。一方、マザーボード側の配線はそれより大きいため、ICパッケージ基板が両者の大きさの違いをつなぎます。「橋渡し役」と考えると位置関係をつかみやすくなります。

半導体チップへ電力を届け、外部との信号をつなぐ
ICパッケージ基板は、半導体チップを載せる台であると同時に、チップへ電力を届ける役割を持ちます。メモリーやネットワークなどの周辺回路と信号をやり取りする配線も形成されています。
半導体チップの計算性能が高くても、電力や信号を適切に運べなければ、パソコンやサーバーの中で性能を発揮できません。ICパッケージ基板の品質や電気特性も、システム全体の性能に関わります。
半導体が高性能になるほどICパッケージ基板にも高い性能が求められる
AI向けGPUや高性能CPUは、計算の性能が上がるほど大量のデータを高速にやり取りし、大きな電力を安定して受け取る必要があります。半導体の性能向上に合わせて、ICパッケージ基板側も進化しなければなりません。
ICパッケージ基板には、「大型化」「高多層化」「微細化」の3つの変化が求められています。
AI半導体向けの基板は大きく、層も多くなり、作るのが難しくなる
| 変化 | 何が変わる? | なぜ製造が難しくなる? |
|---|---|---|
| 大型化 | チップや周辺部品を載せる面積が広がる | 面積が広がるほど反りや寸法ずれの影響が大きくなり、全体を均一に作る難易度が上がる |
| 高多層化 | 配線層が増え、より多くの信号・電力を基板内部で通す | 各層の位置を合わせ、層同士を正確につなぐ加工が増える |
| 微細化 | より細かな配線を高密度に形成する | 異物やわずかな加工誤差が不良につながりやすく、歩留まりを維持しにくい |
イビデンは2026年5月の決算説明会資料で、基板サイズの大型化を示すロードマップを公表しています。2025年(暦年)の80×80mmから、2026年に90×90mm、2028年に110×110mm、2030年以降に130×130mm超へ大きくなる想定です。
イビデンは2025年5月の決算説明会で、GPUの世代交代に伴って基板の大型化と高多層化が進んでいると説明しました。次世代製品では、同じ個数を作る場合でも、細かな配線を作る工程の生産能力が従来の約2倍必要になるとしています。
高性能なICパッケージ基板を安定して量産できるメーカーが重要になる
最先端のICパッケージ基板で求められるのは、試作品を作る技術に加え、同じ品質のものを大量に作り続ける力です。量産では、製品のばらつきを抑え、不良率を低く保ち、顧客が必要とする数量を納期どおりに供給します。
このとき使われる指標が「歩留まり」です。歩留まりとは、作った製品のうち品質基準を満たして出荷できる割合を指します。歩留まりが低いと、同じ設備・材料・時間を使っても販売できる製品が減り、コストが上がります。
AI向けのICパッケージ基板は、製造難易度が高く、需要も強い分野です。微細な配線を作る技術、高い歩留まり、量産能力、顧客の新製品に合わせて設備を準備する速さが競争力になります。
なぜイビデンはAI関連企業として注目されている?
生成AI向けサーバーへの投資が増えると、GPUやASICなどのAI半導体の需要が増えます。AI半導体の世代交代に伴ってICパッケージ基板が大型化・高多層化し、1個を作るために必要な生産能力も増えるため、イビデンの受注機会が広がります。

生成AI向けサーバー投資の拡大でAI半導体の需要が増えている
生成AIの学習や推論には大量の計算処理が必要で、データセンターではAI向けGPUやASICの導入が増えています。イビデンは、こうした半導体に使うICパッケージ基板を供給しています。
イビデンは2026年5月の決算説明会で、GPUとASICに加えて汎用サーバー向けCPUの需要も拡大すると見込みました。サーバー間・データセンター間の高速通信を支えるスイッチICについても需要拡大を見込んでいます。
半導体の高性能化で1個当たりの生産負荷も増える
イビデンは2026年5月の決算説明会資料で、AIサーバー向けICパッケージ基板の生産負荷の見通しを示しました。2024年(暦年)を1.0とすると、2026年(暦年)は1.8倍、2028年(暦年)は2.5倍です。販売する個数が同じでも、基板が大きく複雑になるほど、必要な設備は増えます。
2026年8月時点でも需要が業界の供給能力を上回る状況が続いている
イビデンは2026年8月の第1四半期決算(2027年3月期)の説明会資料で、需要が業界全体の供給能力を上回る状況が続いていると説明しました。足りないのは、イビデン1社の工場能力に限らず、最先端のICパッケージ基板を作れる業界全体の能力です。
2027年3月期から2029年3月期までの3年間で約5,000億円を投資
イビデンは2026年2月、ICパッケージ基板の生産能力を増やす大型投資を発表しました。2027年3月期から2029年3月期までの3年間で、電子事業へ総額約5,000億円を投じる計画です。投資先の中心は、イビデンの工場である河間事業場と大野事業場です。
| 主な投資先 | 投資額 | 稼働予定 | 主な生産品目 |
|---|---|---|---|
| 河間事業場など | 約2,200億円 | 2028年3月期から順次稼働・量産開始 | AI向けASIC用ICパッケージ基板 |
| 大野事業場など | 約2,800億円 | 2028年3月期から順次稼働・量産開始 | AI向けGPU用ICパッケージ基板 |
2026年3月期の連結売上高は4,162億円です。3年間の投資総額は1年分の全社売上高を上回る規模で、イビデンがAI・高性能サーバー向けのICパッケージ基板を今後の成長の中心に置いていることが分かります。
ICパッケージ基板市場でイビデンはどんな立ち位置?
イビデンは、最先端のICパッケージ基板で世界トップシェアだと説明しています。AIサーバー向けの自社シェアは70〜80%程度とみています。
シェアの数字は、どの範囲の市場で数えるかによって変わります。ICパッケージ基板全体と、AIサーバー向けに絞った市場では、同じ会社でもシェアが大きく違います。
最先端のICパッケージ基板で世界トップシェアと会社は説明
イビデンは統合報告書2025で、最先端の半導体に使うICパッケージ基板について「世界トップシェア」と説明しています。高性能CPUやGPU向けなど、技術難易度の高い領域で有力な供給企業であることを示す表現です。
一方、統合報告書ではICパッケージ基板市場全体の固定したシェア率までは示していません。具体的なシェアを見るときは、AIサーバー向けなど対象市場が明示された会社説明を確認する必要があります。
AIサーバー向けの自社シェアを会社は70〜80%程度とみている
イビデンは2025年5月の決算説明会で、AIサーバー向けICパッケージ基板について、競合のシェアは最大でも3割程度との見方を示しました。
2026年2月の2026年3月期第3四半期決算の質疑応答では、自社のAIサーバー向けシェアを70〜80%程度とみていると説明しています。2025年5月の説明とあわせると、会社はAIサーバー向けで高いシェアを持つという見方を続けています。
競合には新光電気工業・Unimicron Technology・AT&Sなどがいる
高性能CPU・GPUなどに使われるICパッケージ基板市場には、イビデン以外にも複数の有力メーカーがあります。市場調査会社テクノシステムリサーチの2026年版レポートでは、次の企業が主要な供給会社として分析されています。
| 国・地域 | 主な競合企業 |
|---|---|
| 日本 | 新光電気工業株式会社、京セラ株式会社、TOPPAN株式会社 |
| 台湾 | Unimicron Technology、Kinsus Interconnect Technology、Nan Ya Printed Circuit Board、Zhen Ding Technology |
| 韓国 | Samsung Electro-Mechanics |
| オーストリア | AT&S |
各社で、得意な用途、顧客、ICパッケージ基板のサイズ、量産能力は異なります。イビデンは2025年5月の決算説明会で、最先端品は作るのが特に難しく、自社の強みを生かせると説明しました。一方、少し難易度の低い製品では競合の技術が追いつき、競争が厳しくなるとみています。
イビデンのシェアは、次世代製品の立ち上げ直後にほぼ100%になることもある

イビデンは2026年5月の決算説明会で、次世代製品が立ち上がった直後は100%に近いシェアを獲得し、3カ月〜半年ほど経つと競合が量産を始めると説明しました。
会社資料の表現は「シェアが2割から3割程度落ちる」です。100%近い水準から2〜3割落ちると、70〜80%程度になります。
イビデンが顧客の新製品に合わせていち早く量産を始め、その後に競合が追いつく、という流れです。高いシェアの背景には、次世代製品を競合より早く量産へ移す力があります。
イビデンはどんな企業に製品を販売している?

イビデンの主な販売先は、NVIDIAやIntelなどの大手半導体企業です。2026年3月期は、この2社で連結売上高の47.5%と、ほぼ半分を占めました。
| 顧客 | 2025年3月期 | 売上比率 | 2026年3月期 | 売上比率 |
|---|---|---|---|---|
| NVIDIA | 約751億円 | 20.3% | 約1,225億円 | 29.4% |
| Intel | 約767億円 | 20.8% | 約753億円 | 18.1% |
| Advanced Micro Devices(AMD) | 約407億円 | 11.0% | 10%以上の主要顧客としては未開示 | — |
有価証券報告書の「主要な顧客ごとの情報」では、連結売上高の10%以上を占める販売先が開示対象になります。2026年3月期に名前が出たのはNVIDIAとIntelの2社です。前期はAMDも11.0%を占めていましたが、2026年3月期は10%以上の主要顧客として名前が出ていません。したがって、開示だけからAMDとの取引の有無や売上規模を判断することはできません。
NVIDIA向け売上高は約1,225億円で、全社売上高の29.4%
NVIDIAはAI向けGPUで大きなシェアを持つ半導体企業です。前期はIntel向けの売上高が最も多かったものの、2026年3月期はNVIDIA向けが大きく増え、最大の販売先になりました。NVIDIAのAI半導体の売れ行きは、イビデンの売上高を直接左右します。
Intel向け売上高は約753億円で、全社売上高の18.1%
Intelはパソコンやサーバー向けCPUを長年供給してきた大手半導体企業で、イビデンにとって長期の主要顧客です。
大手顧客から大きな注文を取り込める一方、NVIDIAやIntelの製品サイクルや調達方針がイビデンの業績へ与える影響も大きくなります。
ASIC向けで、ハイパースケーラーなど新しい顧客を増やしている
イビデンはNVIDIAやIntel以外の顧客拡大も進めています。特に注目されるのが、ハイパースケーラーなどが開発するASIC向けです。
イビデンは2025年10月の中間決算説明会で、ハイパースケーラーなどからASIC向けの引き合いや開発が進んでいると説明しました。2027年3月期には、ASIC関連が電子事業の売上高の10%を超えると予測しています。
顧客の広がりは、GPU・CPUだけでなくASICやスイッチICからも成長を取り込めることを意味します。NVIDIAやIntelへの依存度が高い現状で、新しい大口顧客を増やせるかは中長期の収益構造を左右します。
イビデンはどの地域で事業を展開している?
2026年3月期の連結売上高を顧客所在地で分けると、海外向けが約73%を占めました。地域別売上高は販売した相手先の所在地を基準に集計されます。そのため、米国企業のアジア拠点へ販売した分は、アジア向け売上として計上されます。
| 地域 | 2026年3月期売上高 | 構成比 |
|---|---|---|
| 日本 | 1,128.7億円 | 27.1% |
| アジア | 2,178.5億円 | 52.3% |
| 北米 | 492.6億円 | 11.8% |
| 欧州 | 251.6億円 | 6.0% |
| その他 | 110.7億円 | 2.7% |
売上高の約73%は海外向け
日本向けは27.1%なので、海外向けは約72.9%です。岐阜県に本社と主要工場を持つ日本企業ですが、売上の中心は海外の半導体・自動車関連サプライチェーンにあります。
海外比率が高いため、世界のデータセンター投資や半導体需要、自動車市場の変化、為替などが業績へ影響します。
アジア向けが52.3%で最も大きい
地域別ではアジア向けが2,178.5億円、全社売上高の52.3%で最大です。内訳では台湾向けが約1,115億円、マレーシア向けが約524億円あります。
台湾やマレーシアには半導体の製造・組み立て関連企業が集まっています。イビデンの地域別売上は、最終製品がどこで消費されるかより、半導体サプライチェーンのどの拠点へ納入しているかを強く反映します。
生産・販売拠点も世界に展開している
イビデンの連結子会社は2026年3月末で29社あり、国内12社・海外17社です。電子事業では米国、シンガポール、台湾、中国、韓国などに販売機能を持ち、フィリピンやマレーシアにも製造拠点があります。
海外拠点を持つことで、顧客の開発・生産拠点に近い場所で営業や技術サポートを行えます。生産面でも、製品や工程に応じて日本と海外の工場を使い分けられる体制を作っています。
イビデンは何で稼いでいる?電子事業が利益の中心
現在の収益構造では、ICパッケージ基板を扱う電子事業が売上高・利益の中心です。利益率でも電子事業がほかの事業を明確に上回っています。
| 事業 | 売上高 | 売上構成比 | セグメント利益 | 利益率 | 3事業の利益の合計に占める比率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 電子 | 2,433.2億円 | 58.5% | 452.5億円 | 約18.6% | 約73.1% |
| セラミック | 825.5億円 | 19.8% | 76.5億円 | 約9.3% | 約12.4% |
| その他 | 903.3億円 | 21.7% | 89.6億円 | 約9.9% | 約14.5% |
※セグメントは会社が事業を分けて管理・開示する区分です。利益率は「セグメント利益÷売上高」、利益構成比は3事業の利益の合計を100%として計算しています。連結営業利益には事業間取引の消去などの調整があるため、単純な連結営業利益の構成比とは異なります。
電子事業は売上の伸び以上に利益が伸びた
2026年3月期の電子事業は、売上高が前期比23.4%増えたのに対し、セグメント利益は68.5%増えました。利益の伸びが売上の伸びを大きく上回り、利益率はほかの事業の約2倍になっています。
販売数量と、高付加価値製品の比率で利益が変わる
電子事業の業績は、ICパッケージ基板の販売数量と、どの製品が売れたかの両方で決まります。高付加価値製品とは、大型で層が多く、作るのが難しいぶん価格も高いICパッケージ基板を指します。
成熟したパソコン向けと、AIサーバー向けの最先端製品では、基板の大きさ、層数、配線の細かさが異なります。AI向けなど難易度の高い製品の比率が上がると、販売価格や利益率も変わります。
イビデンは2026年5月の決算説明会で、AI関連需要が想定以上に強まり、高付加価値製品の出荷比率が上昇したことが利益率の見通しを引き上げたと説明しました。
セラミック事業とその他事業も、合わせて約1,729億円の売上高がある
2026年3月期は、セラミック事業が約826億円、その他事業が約903億円の売上高を計上しました。2事業を合わせると約1,729億円です。
セラミック事業では、自動車の排ガス浄化製品に加え、グラファイトやEVバッテリー用安全部材など新しい需要を育成しています。グラファイトは、パワー半導体(電気自動車などで電力を制御する半導体)の製造関連などにも使われます。
イビデンの強みは何?
イビデンの強みは大きく4つあります。細かな配線を作る技術、高い歩留まりとコスト競争力、顧客の次世代製品に早くから関われる関係、顧客の前払いを受けながら大規模な増産を進められる体制です。
| 強み | 中身 |
|---|---|
| 細かな配線を作る技術 | SAP(セミアディティブ法)を使った微細配線や、層間をつなぐマイクロビアの加工 |
| 歩留まり・コスト・使いやすさ | 製品歩留まりとコストで優位性があり、顧客の組み立て工程でも使いやすいとの認識 |
| 顧客の次世代製品への早期関与 | 新製品のロードマップ共有や問い合わせを優先的に受けると会社が説明 |
| 顧客の前払いを受けた増産 | 投資相当額を顧客が負担し、その一部を前払いで受けながら大規模な設備増強を進める |
細かな配線を作る技術(会社は世界トップクラスと説明)
イビデンは公式の製品ページで、SAP(セミアディティブ法)と呼ばれる配線の作り方を中心に、世界トップクラスの微細配線を実現していると説明しています。
半導体の端子が高密度になるほど、ICパッケージ基板にも細かな配線を正確に作る技術が必要です。各配線層をつなぐ小さな穴「マイクロビア」も、位置ずれや接続不良を抑えながら加工しなければなりません。
AI向けでは基板の面積が広がる一方で配線は細かくなるため、大きな面積の中に微細な構造を高精度で作る力が競争力になります。
歩留まり・コスト・使いやすさで優位性があると会社は説明
イビデンは2025年5月の決算説明会で、競合と比べた強みについて、製品歩留まりでは自社が優れている感触があり、コスト面でも優位に立っていると説明しました。
顧客がチップをICパッケージ基板に載せて組み立てる工程の歩留まりについても、イビデン製品の方が使いやすいとの評価を得ている印象だとしています。基板単体の品質だけでなく、顧客の量産工程で不良を抑えやすいことも競争力になります。
顧客の次世代製品ロードマップに早い段階から関われる
先端半導体は世代交代が速いため、顧客が完成した仕様を発表してから設備を準備していては量産開始に間に合わないことがあります。ICパッケージ基板メーカーも、次世代製品の設計段階から基板構造や生産設備を準備する必要があります。
イビデンは2025年5月の決算説明会で、新しい製品開発では、顧客から優先的にロードマップの共有や問い合わせを受けていると説明しました。将来の製品仕様を早く把握できれば、必要な技術開発や設備投資を競合より先に進めやすくなります。
顧客の前払いを受けながら、生産能力を大きく増やしている
イビデンは、設備投資に相当する額を基本的に顧客に負担してもらい、その一部を前払いで受け取る方針です。2026年2月と5月の決算説明会の質疑応答で、設備投資資金についてこの考え方を示しています。
このため、イビデンが設備投資の資金を全額自社で先に用意する場合より、資金の負担を抑えながら増産を進められます。
最先端のICパッケージ基板は、新製品の量産開始に設備が間に合うかどうかで受注機会が変わります。資金を確保しながら早く設備を増やせることは、次世代製品の立ち上げ時に先行供給するうえで有利に働きます。
イビデンの業績を見るときに確認したいポイント
決算やニュースを見るときは、AI需要の強弱だけでなく、現在の数字と次回の開示を比べると変化をつかみやすくなります。
| 確認すること | 見る資料 | 今の基準 |
|---|---|---|
| AI向けの需要が供給能力を上回る状態が続いているか | 決算説明会資料・質疑応答 | 2026年8月時点で、需要が業界の供給能力を上回る状況が継続 |
| 主要顧客への売上比率 | 有価証券報告書(年1回) | 2026年3月期:NVIDIA 29.4%、Intel 18.1% |
| 利益の出る製品が増えているか | 決算資料の事業別売上・利益 | 2026年3月期:電子事業の利益率 約18.6% |
| AIサーバー向けのシェア | 決算説明会の質疑応答 | 2026年2月時点:会社は70〜80%程度とみている |
| ASIC向けの売上 | 決算説明会資料・質疑応答 | 2027年3月期:電子事業の売上高の10%超を予測 |
| 投資した設備の稼働 | 決算説明会資料 | 約5,000億円を2027年3月期〜2029年3月期に投資。2028年3月期から順次稼働予定 |
| 競合の量産開始後のシェア | 決算説明会の質疑応答 | 2026年5月:立ち上げ直後のほぼ100%から2〜3割落ちる見通し |
| セラミック事業の利益率 | 決算資料の事業別売上・利益 | 2026年3月期:約9.3% |
AI・データセンター向けの需要と供給能力
次回以降の決算では、AIサーバー向けなどの需要が供給能力を上回る状態を会社が引き続き見込んでいるかを確認します。
需要が落ち着けば、新しく増やす設備の稼働率にも影響します。反対に、AI向けGPU、ASIC、CPU、スイッチICで需要超過が続けば、増産した設備を高い稼働率で使える可能性が高まります。
主要顧客の売上比率と、AIサーバー向けのシェア
主要顧客の新製品や出荷数量はイビデンの売上に直結します。ただし、顧客の半導体売上が伸びても、競合のICパッケージ基板が採用されればイビデンの取り分は変わります。
主要顧客への売上比率とAIサーバー向けのシェアを組み合わせて確認します。あわせて、ASIC向けの売上が会社の計画どおり広がっているかを見ると、顧客分散が進んでいるかも分かります。
電子事業の利益率と高付加価値製品の比率
会社は、高付加価値製品の出荷比率が上がったことを電子事業の利益率改善の要因として説明しています。
売上高だけでなく電子事業の利益率を見ると、難易度が高く価格の高い製品が増えているか、その効果が利益へつながっているかを確認できます。
設備投資が稼働・利益につながるか
河間事業場や大野事業場の設備が予定どおり立ち上がり、顧客認定(顧客が製品を評価し、量産採用を認めること)を経て量産へ移れるかを確認します。売上が増え始める目安になるのは、工場の完成時期より、認定後に出荷数量が増え始める時期です。
新しい設備の立ち上げ初期は、減価償却費や人件費が先に増えることがあります。量産開始後に稼働率と歩留まりが上がるかを見ると、設備投資が利益へつながっているかを確認できます。
※減価償却費:設備の購入額を、使う年数に分けて毎年計上する費用
競合が量産を始めた後もシェアと価格を維持できるか
イビデンは2025年5月の決算説明会で、2030年まで現在と同じ有利な状況が続くとは考えておらず、一定の競争原理が働くとの見方を示しました。
次世代製品では先行して高いシェアを取れても、競合が量産を始めればシェアは下がります。競合参入後も歩留まり、コスト、品質、販売価格で優位を保てるかが、利益率の持続性を左右します。
セラミック事業の需要と新製品
自動車の電動化でディーゼル車向けDPFの市場構造が変わる一方、セラミック事業ではグラファイトやEVバッテリー用安全部材などの新製品を広げています。
電子事業以外の収益源が育っているかを見るため、セラミック事業の売上高・利益率と、新製品の販売の伸びも確認します。
まとめ
イビデンは、半導体チップをパソコンやサーバーなどの機器につなぐICパッケージ基板を主力とするメーカーです。
- AI向けの半導体はICパッケージ基板を大きく複雑にするため、作れる会社が限られ、先行するイビデンの売上と利益が伸びている
- 売上高の約半分をNVIDIAとIntelが占めており、主要顧客の製品サイクルと競合の追い上げが業績を左右する
- AIサーバー向けの自社シェアを会社は70〜80%程度とみており、次世代製品の立ち上げ直後にはほぼ100%になることもある
今後の焦点は、約5,000億円の増産投資が予定どおり稼働し、売上と利益の成長につながるかどうかです。AIや半導体のニュースでイビデンの名前を見かけたときは、主要顧客の動きと増産投資の進み具合をあわせて確認してみてください。そのニュースがイビデンの業績にどう関わるのかを判断する手掛かりになります。
出典
イビデン株式会社「会社情報」
https://www.ibiden.co.jp/company/profile/info
イビデン株式会社「事業・製品」
https://www.ibiden.co.jp/product
イビデン株式会社「ICパッケージ基板」
https://www.ibiden.co.jp/product/electronics/merchandise/fliptippkg
イビデン株式会社「製品情報(セラミック)」
https://www.ibiden.co.jp/product/ceramics/merchandise
イビデン株式会社「沿革」
https://www.ibiden.co.jp/company/profile/ayumi
イビデン株式会社「1932~(沿革)」
https://www.ibiden.co.jp/company/profile/ayumi1945-1959
イビデン株式会社「1972~(沿革)」
https://www.ibiden.co.jp/company/profile/ayumi1980-1999
イビデン株式会社「統合報告書2025」
https://www.ibiden.co.jp/ir/items/IntegratedReport2025.pdf
イビデン株式会社「2024年度決算説明会 主な質疑応答」
https://www.ibiden.co.jp/ir/items/QA_FY2024.pdf
イビデン株式会社「2025年度中間決算説明会 主な質疑応答」
https://www.ibiden.co.jp/ir/items/QY20251st.pdf
イビデン株式会社「2025年度第3四半期決算 主な質疑応答」
https://www.ibiden.co.jp/ir/items/QA_FY2025Q3.pdf
イビデン株式会社「2025年度決算説明会 主な質疑応答」
https://www.ibiden.co.jp/ir/items/QA_FY25Q4.pdf
イビデン株式会社「2025年度決算説明会資料」
https://www.ibiden.co.jp/ir/items/kessannsetsumeiFY2025.pdf
イビデン株式会社「2026年度第1四半期決算説明会資料」
https://www.ibiden.co.jp/ir/items/kessannsetsumei2026Q1.pdf
イビデン株式会社「高機能ICパッケージ基板向け設備投資計画に関するお知らせ」
https://www.ibiden.co.jp/company/2026/02/post-83.html
イビデン株式会社「有価証券報告書」
https://www.ibiden.co.jp/ir/library/securities
EDINET DB「イビデン株式会社の主要販売先」
https://edinetdb.jp/company/E00775/main-customers
テクノシステムリサーチ「2026年版 FC-BGA基板市場のマーケティング分析」
新光電気工業株式会社「会社概要」
https://www.shinko.co.jp/corporate/profile
Unimicron Technology Corp.(台湾経済部 会社登記情報)
https://findbiz.nat.gov.tw/fts/company/23535435?fhl=en
Kinsus Interconnect Technology「Global Locations」
https://www.kinsus.com.tw/en/html/global_locations/index
Nan Ya Printed Circuit Board「Company Overview」
https://www.nanyapcb.com.tw/nypcb/english/AboutNanYaPCB/CompanyProfile/Company
Samsung Electro-Mechanics「Company Information」
https://www.sem.samsung.co.kr/global/about-us/company/overview.do
AT&S「Company」
Zhen Ding Tech. Group「About Us」
https://www.zdtco.com/en/about/profile
京セラ株式会社「会社概要」
https://www.kyocera.co.jp/company/company_profile.html
TOPPANホールディングス株式会社「会社概要」
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