VTuberグループ「にじさんじ」を運営するANYCOLOR株式会社が、2025年6月11日に2025年4月期の通期決算を発表しました。
当期は、主力のコマース事業が全体を力強く牽引し、売上高・利益ともに過去最高を更新。前期比で30%を超える大幅な増収増益を達成しました。
本記事では、ANYCOLORの2025年4月期決算の内容を詳細に分析するとともに、財務状況や今後の事業戦略、そして株価に与える影響について、決算資料をもとに詳しく解説していきます。
ANYCOLORの2025年4月期における決算の振り返り
まずは、ANYCOLORの2025年4月期通期決算の全体像を見ていきましょう。
勘定科目 | 2025年4月期 実績 | 2024年4月期 実績 | 前期比 |
---|---|---|---|
売上高 | 42,876百万円 | 31,995百万円 | +34.0% |
営業利益 | 16,279百万円 | 12,361百万円 | +31.7% |
経常利益 | 16,214百万円 | 12,341百万円 | +31.4% |
当期純利益 | 11,510百万円 | 8,725百万円 | +31.9% |
2025年4月期は、売上高が428億7,600万円(前期比34.0%増)、営業利益が162億7,900万円(前期比31.7%増)と、非常に好調な結果となりました。
売上・利益ともに過去最高を更新し、高い成長性を維持しています。
この好業績の主な要因は、VTuberのIP(知的財産)を活用したグッズ販売などを行うコマース事業が大幅に成長し、会社全体の売上を牽引したことです。
また、大型イベントの成功によるイベント事業の伸長や、プロモーション事業の堅調な推移も増収増益に貢献しました。
ANYCOLORのビジネス領域別の業績
ANYCOLORは単一セグメント(動画コンテンツ関連事業)ですが、事業を4つのビジネス領域に分けて業績を開示しています。
ここでは各領域の状況を詳しく見ていきます。
ビジネス領域 | 2025年4月期 売上高 | 2024年4月期 売上高 |
---|---|---|
ライブストリーミング | 5,056百万円 | 4,994百万円 |
コマース | 27,842百万円 | 18,937百万円 |
イベント | 2,821百万円 | 1,907百万円 |
プロモーション | 7,059百万円 | 5,885百万円 |
コマース
コマース領域の売上高は278億4,200万円と、前期比で約47%の大幅な増収となり、成長の最大の牽引役となりました。
所属VTuberの高い人気と、ファンの心を掴む魅力的なグッズ企画が奏功し、施策数および各施策での売上が増加しました。
特に、第4四半期に実施された「にじさんじ 7th Anniversary」記念グッズなどの大型施策が想定を大きく上回る反響を呼び、四半期ベースで過去最高の売上高を記録する原動力となっています。
ライブストリーミング
ライブストリーミング領域の売上高は50億5,600万円と、前期比でほぼ横ばいとなりました。
収益源であるYouTubeのメンバーシップや広告収益は堅調に推移したものの、スーパーチャット(投げ銭)による収益が減少したことが影響しました。
VTuberビジネスの根幹となる領域だけに、今後の動向が注目されます。
イベント
イベント領域の売上高は28億2,100万円と、前期比で約48%の大幅増収を達成しました。
これは、前年度に比べて大型イベントの開催数が増加したことが主な要因です。
「にじさんじフェス2025」の開催などが寄与し、オンラインでの視聴チケット販売も好調で、収益を大きく押し上げました。
プロモーション
プロモーション領域の売上高は70億5,900万円と、前期比で約20%の増収となり、堅調に推移しました。
企業におけるVTuberの認知度が向上したことを背景に、タイアップ広告やIPライセンスなどの案件数、平均案件単価がともに上昇しました。
大型IPとのコラボレーション施策も実施され、安定的な収益基盤として機能しています。
ANYCOLORの2025年4月期末財務状況について
次に、ANYCOLORの2025年4月期末時点での財政状態を示す貸借対照表とキャッシュフローの状況を確認します。
勘定科目 | 2025年4月期末 | 2024年4月期末 |
---|---|---|
総資産 | 29,143百万円 | 25,076百万円 |
負債合計 | 7,175百万円 | 5,359百万円 |
純資産 | 21,968百万円 | 19,716百万円 |
自己資本比率 | 75.4% | 78.6% |
総資産は前期末比で約40億円増加し、291億円となりました。
これは主に、売上増に伴う売掛金の増加や、新スタジオ開設に伴う有形固定資産の増加によるものです。
純資産も、115億円の当期純利益を計上したことで約22億円増加しました。
一方で、後述する大規模な自己株式の取得・消却を行ったため、増加額は利益計上額よりは小さくなっています。
自己資本比率は75.4%と非常に高い水準を維持しており、財務基盤の健全性がうかがえます。
キャッシュフローの状況
勘定科目 | 2025年4月期 実績 | 2024年4月期 実績 |
---|---|---|
営業活動によるCF | 11,184百万円 | 6,903百万円 |
投資活動によるCF | △2,277百万円 | △658百万円 |
財務活動によるCF | △9,379百万円 | △2,437百万円 |
現金及び現金同等物期末残高 | 15,818百万円 | 16,291百万円 |
(出典:ANYCOLOR株式会社 2025年4月期 決算短信)
- 営業活動によるキャッシュフローは、111億8,400万円のプラスとなりました。
税引前当期純利益が162億円と高水準だったことが主な要因です。 - 投資活動によるキャッシュフローは、22億7,700万円のマイナスとなりました。
これは主に、事業拡大を目的とした新スタジオ開設に伴う有形固定資産の取得による支出(21.5億円)が要因です。 - 財務活動によるキャッシュフローは、93億7,900万円のマイナスとなりました。
自己株式の取得による支出(75.1億円)と配当金の支払い(19.7億円)が主な要因であり、積極的な株主還元を行ったことがわかります。
主要財務指標(ROEなど)
- ROE(自己資本当期純利益率): 55.2%
- ROA(総資産経常利益率): 59.8%
- 売上高営業利益率: 38.0%
ROE(株主資本からどれだけ効率的に利益を生み出したかを示す指標)は55.2%と、驚異的な高さを誇ります。
これは、同社が株主から集めた資金を非常に効率よく使って大きな利益を上げていることを意味します。
また、売上高営業利益率も38.0%と多業種と比較しても極めて高い水準であり、同社のビジネスモデルが持つ高い収益性を物語っています。
ANYCOLORの株主還元(配当・自社株買い)について
ANYCOLORは、配当と自社株買いによる積極的な株主還元を行っています。
配当金の状況
第2四半期末 | 期末 | 年間合計 | |
---|---|---|---|
2025年4月期(実績) | 32円50銭 | 32円50銭 | 65円00銭 |
2026年4月期(予想) | 35円00銭 | 35円00銭 | 70円00銭 |
2025年4月期の配当金は、1株当たり65円(配当性向34.5%)となりました。
そして、2026年4月期の配当予想は1株当たり70円と、前期から5円の増配を予定しています。
さらに、2026年4月期より「配当性向30%以上を目安とする」という方針を新たに開示しており、今後の継続的な増配にも期待が持てます。
自社株買いの発表はあった?
2025年4月期においては、総額75億円の自己株式取得を実施しました。
これは株主への大きな還元策となります。
今回の決算発表で新たな自社株買いの発表はありませんでしたが、会社は今後の基本方針として「余剰資金を原資として、機動的な自社株買いによる株主還元」を掲げており、財務状況に応じて今後も実施される可能性があります。
ANYCOLORの今期見通しと戦略について
ANYCOLORは、2026年4月期の業績予想をレンジ形式で開示しています。
勘定科目 | 2026年4月期 業績予想 | 対前期増減率 |
---|---|---|
売上高 | 490億~510億円 | +14.3% ~ +18.9% |
営業利益 | 190億~200億円 | +16.7% ~ +22.9% |
経常利益 | 190億~200億円 | +17.2% ~ +23.3% |
当期純利益 | 131.8億~138.7億円 | +14.5% ~ +20.5% |
来期も増収増益を見込んでおり、特に利益の伸び率が売上を上回る計画となっています。
これは、コスト改善などを通じて収益性をさらに高めていくという意思の表れと見られます。
今後の戦略
ANYCOLORの決算説明資料からは、以下の戦略を読み取ることができます。
- 質の高いVTuberの継続的な輩出
「バーチャル・タレント・アカデミー(VTA)」などを通じて、多様な個性を持つVTuberを継続的にデビューさせ、新たなファン層を開拓する。 - コマース・イベント領域の強化
コマースではVTuberユニットを軸とした企画を強化し、イベントでは「にじさんじ7周年記念ライブツアー」など大型企画でさらなる盛り上がりを創出する。 - 事業基盤の強化
開設した新スタジオを最大限に活用し、コンテンツの質と量を向上させる。また、VTuberのプロデュース体制も強化する。 - VTuber一人あたりの収益拡大
ユニット展開の推進や大型企画を通じて、所属VTuber一人ひとりの収益力を高めていく。
ANYCOLORが発表した決算内容や今期の見通しで、株価はどうなる?
今回の決算発表が株価に与える影響を、ポジティブ・ネガティブ両面から分析します。
株価にポジティブな影響を与える要因
株価にポジティブな影響を与える要因として、以下の4点が考えられます。
- 好調な業績と高い成長性
売上・利益ともに30%を超える成長を達成した実績は、成長企業としての魅力を強く印象付けます。
来期も2桁成長を見込んでおり、成長期待が株価を押し上げる可能性があります。 - 圧倒的な収益性
営業利益率38.0%、ROE55.2%という驚異的な数値は、同社のビジネスモデルの優位性を示しており、投資家から高く評価される要因です。 - 積極的な株主還元
70円への増配予想や、今後の機動的な自社株買いへの期待は、株主還元の魅力を高め、株価の下支え要因となります。 - 明確な中期経営目標
2027年4月期に売上高600億円、営業利益240億円を目指すという明確な目標を掲げており、長期的な成長ストーリーを描きやすい点もポジティブです。
株価にネガティブな影響を与える要因
株価にネガティブな影響を与える要因として、以下の3点が考えられます。
- 成長率の鈍化懸念
2025年4月期に34%だった売上高成長率に対し、来期の予想は14~19%程度と鈍化しています。
市場の期待値が非常に高い場合、この成長率鈍化が「期待外れ」と捉えられ、売り材料となるリスクがあります。 - ライブストリーミング事業の停滞
VTuberビジネスの根幹である同事業が横ばいとなっている点は懸念材料です。
今後の成長性に疑問符がつく可能性があります。 - 高い市場期待値
既に株価が今回の好決算を織り込み済みである可能性も考えられます。
その場合、「材料出尽くし」として、決算発表後に株価が下落する展開も想定されます。
決算から分かる同社の強みは?
今回の決算からは、ANYCOLORの以下の強みが明確に読み取れます。
① 強力なIP(VTuber)創出・育成システム
同社は「バーチャル・タレント・アカデミー(VTA)」という育成機関を通じて、継続的に質の高いVTuberをデビューさせる仕組みを構築しています。
単なる個人の人気に頼るのではなく、組織としてスターを生み出し続ける力は、持続的な成長の源泉となっています。
② 多様な収益源を持つ強力なエコシステム
ライブ配信を起点としながら、売上の65%を占めるコマース事業を筆頭に、イベント、プロモーションと多角的に収益を上げるビジネスモデルを確立しています。
この収益の多角化により、安定した事業運営が可能となっています。
特に、熱量の高いファンがグッズを購入するコマース事業が強力な収益の柱となっている点が最大の強みです。
③ 高収益・高効率な経営体質
営業利益率38.0%、ROE55.2%という数字が示す通り、極めて収益性が高く、資本効率の良い経営を行っている点が強みです。
これにより生み出された潤沢なキャッシュを、新規事業投資や株主還元に振り向ける好循環が生まれています。
まとめ
ANYCOLORの2025年4月期決算は、コマース事業を主軸とした力強い成長により、売上・利益ともに過去最高を更新する素晴らしい内容でした。
高い収益性と健全な財務基盤、そして積極的な株主還元姿勢は、投資家にとって非常に魅力的です。
一方で、来期の成長率鈍化の見通しや、根幹事業であるライブストリーミングの停滞には注意が必要です。
株価は、既に織り込まれた高い期待と、今後の成長ストーリーとのバランスを見ながら推移していくことになるでしょう。
同社が持つ強力なIP創出力とビジネスエコシステムを武器に、今後もエンターテイメント業界でどのような「魔法のような、新体験」を提供していくのか、引き続き注目が集まります。
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