株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)の2025年3月期決算を解説|ポケポケは好調なの?

株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)が2025年3月期の決算を発表しました。

売上収益は前期比19.9%増の1,639億9,700万円、営業利益は289億7,300万円(前期は282億7,000万円の損失)と、目覚ましいV字回復を達成しています。この背景には、2024年10月にリリースされ世界的に大ヒットした新規ゲームタイトル『Pokémon Trading Card Game Pocket』(略して『ポケポケ』)と、前期に計上された巨額の減損損失(287億6,400万円)が今期は大幅に縮小(43億8,900万円)したことがあります。

安定した収益源であるスポーツ事業も、観客動員数の増加などで好調をキープし、全体の収益アップに貢献しています。一方で、ライブストリーミング事業は、ユーザー獲得から収益性を重視する戦略へとシフトしている真っ最中。ヘルスケア事業も、将来の成長に向けた投資が引き続き行われている状況です。

このような状況から、DeNAは2026年3月期の連結業績予想については、『ポケポケ』の収益が今後どれだけ続くかや、新しいゲームの開発戦略などを考慮すると、現時点ではっきりとした数字を出すのが難しいとして、発表を見送りました。

この記事では、DeNAの2025年3月期決算の内容を詳しく掘り下げ、各事業の状況、財務の健全性、株主への還元策、そしてこれからの事業展開と戦略について解説していきます。

目次

DeNAの2025年3月期における連結業績の振り返り

2025年3月期のDeNAの連結業績は、前期の大きな赤字から一転し、すべての利益項目で黒字転換を達成しました。売上収益は前期と比べて約2割も増加し、営業利益は約572億4,300万円も改善しています。この結果、親会社の株主に帰属する当期純利益も大幅な黒字となり、1株当たりの当期純利益もプラスに転じました。

連結業績推移について、以下の表にまとめました。

勘定項目2024年3月期実績 (万円)2025年3月期実績 (万円)増減額 (万円)増減率 (%)
売上収益13,673,30016,399,7002,726,40019.9%
営業利益△2,827,0002,897,3005,724,300
税引前利益△2,813,0003,181,7005,994,700
親会社の所有者に帰属する当期純利益△2,868,2002,419,3005,287,500
基本的1株当たり当期純利益 (円)△257.60217.24

このV字回復は、DeNAの収益構造が大きく改善したことを示しており、特に利益面での回復ぶりは注目すべき点です。

業績が大きく変わった理由は?

今期の業績が大きく変動した背景には、いくつかの要因が絡み合っています。

増収の最大の理由は、2024年10月30日に世界中でリリースされた新しいゲームタイトル『ポケポケ』が、市場の予想をはるかに超える大ヒットとなり、順調に収益を伸ばしたことです。このゲーム事業の力強い成長が、全体の売上収益を前期比で272億6,400万円以上も押し上げました。

利益面での大幅な改善は、この増収効果に加えて、前期(2024年3月期)に計上された287億6,400万円という莫大な減損損失が、今期は43億8,900万円へと大幅に減ったことが非常に大きな影響を与えています。つまり、営業利益の約572億4,300万円の改善は、売上増と、前期の特殊要因だった減損損失がなくなったことの合わせ技と言えるでしょう。この構造を理解することは、今期の利益の質を見極める上で重要で、一時的な費用の減少と本業の成長が両輪となって利益水準を押し上げたことを示しています。

一方で、市場の期待値との比較では、2025年3月期の税引前利益318億1,700万円は、アナリスト予想の平均値である387億6,000万円を17.9%下回る結果となりました。
これは、特に『ポケポケ』の成功に対する市場の期待が非常に高かったため、会社の実績がその期待には少し届かなかった可能性を示しています。この市場期待とのギャップは、今後の株価や投資家の心理に影響を与えるかもしれません。

四半期ごとの動きを見ると、特に第4四半期(2025年1月~3月期)の業績改善が顕著でした。この期間の連結最終利益は前年同期比3.3倍の84億3,000万円に急拡大し、売上営業損益率は前年同期の-2.0%から16.9%へと大幅に改善しました。これは、『ポケポケ』の収益貢献が第4四半期に本格化したことを強く示しています。

減損損失について

2025年3月期において、DeNAは国際会計基準(IFRS)に基づいた減損テストを行った結果、連結子会社である株式会社データホライゾンののれんに関するものなどを含め、合計で43億8,900万円の減損損失をその他の費用として計上しました。

この金額は、前期に計上された287億6,400万円の減損損失と比べると大幅に減っており、これが今期の利益改善に貢献した一因ともなっています。しかし、依然として40億円を超える減損損失が発生しているという事実は、特にのれんを抱える事業セグメントにおける収益性評価の継続的な重要性を示しています。

具体的には、連結子会社のデータホライゾン単独でも、同社の子会社であるDeSCヘルスケア株式会社ののれん及び固定資産に関連する減損損失として24億4,000万円などが計上されています。
これは、成長の柱として期待されるヘルスケア事業セグメントにおける収益化の難しさや、関連する無形資産の価値評価の厳しさを反映している可能性があります。今後も、これらの事業における投資回収の進み具合や収益性の改善が、減損リスクを抑える上で重要なポイントとなります。

セグメント別の業績はどうだった?

DeNAの事業は多岐にわたっており、2025年3月期は各セグメントで異なる動きを見せました。

ゲーム事業が『ポケポケ』のヒットによって業績全体を力強く引っ張り、大幅な増益を達成した一方で、ライブストリーミング事業は戦略転換の影響で減収減益となりました。スポーツ事業は安定的な成長を続け、増収増益を確保しましたが、ヘルスケア・メディカル事業は増収ながらも先行投資が続き、損失が継続しています。

セグメント別業績 (2025年3月期 通期)の内訳を以下の表にまとめています。

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セグメント名売上収益 (万円)前期比増減率セグメント利益(損失) (万円)前期差 (万円)
ゲーム事業7,809,900+44.6%3,857,700+3,512,100
ライブストリーミング事業4,056,200-4.7%(20,100)(54,000)
スポーツ事業3,130,300+14.8%283,600+71,100
ヘルスケア・メディカル事業1,076,600+8.1%(361,900)+2,100
新規事業・その他361,800+18.4%(112,400)+17,900
注: ヘルスケア・メディカル事業の前期差は損失額の縮小を示す。

各セグメントの詳しい状況を見ていきましょう。

ゲーム事業:『ポケポケ』大ヒットで絶好調!

  • 売上収益: 780億9,900万円 (前期比44.6%増)
  • セグメント利益: 385億7,700万円 (前期比1,016.1%増、前期は34億5,600万円の利益)

ゲーム事業は、2025年3月期におけるDeNAの業績回復の最大の立役者となりました。2024年10月30日にリリースされた『ポケポケ』が国内外で大ヒットし、収益を大幅に押し上げました。

特筆すべきは、このタイトルのユーザー消費額の約6割が海外からもたらされており、DeNAのグローバル市場における開発・運営能力の高さを示しています。第4四半期の『ポケポケ』に関連すると見られるMAU(月間アクティブユーザー数)は約5100万人に達したと報告されています。2025年3月期第3四半期累計時点でも、ゲーム事業は売上収益505億円(前年同期比29.4%増)と好調で、利益率も向上していました。

今後の見通しとして、会社側は『ポケポケ』について長期的な収益貢献を目指した運営を継続する方針を示しつつも、短期的には配信開始当初の急成長からの反動が生じる可能性も認識しています。この単一タイトルへの高い依存構造は、ゲーム事業特有のリスクとも言え、この点が2026年3月期の業績予想非開示の大きな要因の一つと考えられます。

新しいゲームの開発に関しては、2026年3月期以降、当面の間は従来型の大型開発とは異なり、市場の反応を見ながら柔軟に展開できるソフトローンチ戦略などを中心にパイプラインを構築していく方針です。これは、開発リスクを抑えつつ、次のヒット作を生み出すための戦略転換であり、ポートフォリオ再構築の過渡期にあることを示唆しています。

大型新作の不在期間が長引けば成長の持続性に影響が出る可能性も否定できませんが、一方で『ポケポケ』の成功で証明された海外収益の拡大とグローバル運営能力は、国内市場が成熟する中での今後の成長ポテンシャルを示す上で非常に重要な要素です。

スポーツ事業:DeNAベイスターズが好調で安定収益の柱になりつつある

  • 売上収益: 313億300万円 (前期比14.8%増)
  • セグメント利益: 28億3,600万円 (前期比33.5%増)

スポーツ事業は、主力の横浜DeNAベイスターズが好調を維持し、増収増益を達成しました。主催試合の観客動員数は球団史上最多を記録し、安定した収益基盤としての存在感を増しています。また、資料には「2024 JERA クライマックスシリーズ セ」、「SMBC日本シリーズ2024」での優勝が業績に貢献したとの記述があります。第3四半期時点でも、観客動員数の増加がスポーツ事業の好調を支えていると報告されていました。

重要な点として、スポーツ事業の業績は新型コロナウイルス感染症拡大以前の2020年3月期と比較しても成長しており、一過性ではない持続的な成長力を示しています。これは、スタジアムを中心としたエンターテイメント体験の提供、ファンエンゲージメントの強化、そして横浜という地域に根差した球団運営による地域社会との共創モデルが確立されつつあることを示唆しており、変動の大きいゲーム事業を補完する安定収益源としての役割が期待されます。

ライブストリーミング事業:戦略転換の過渡期、これからどうなるのか?

  • 売上収益: 405億6,200万円 (前期比4.7%減)
  • セグメント損失: 2億100万円 (前期は3億3,900万円の利益)

ライブストリーミング事業は、減収かつ営業損失を計上し、厳しい事業環境に直面しています。

主力サービスである国内の「Pococha」は、2025年3月期の上期においてTVCMなどの積極的なマーケティング投資を実施しましたが、下期からは収益性の確保をより重視した事業運営へと方針を転換しました。この戦略シフトが、短期的な売上減少と利益悪化につながった主な要因と考えられます。
一方で、VTuber向けの「IRIAM」は引き続き成長を維持したとされています。第3四半期時点でも、ライブストリーミング事業全体として、新規ユーザー獲得数よりも既存ユーザーの収益性向上を優先する方針が明確に示されていました。

今後の戦略としては、既存ユーザーのマネタイズ強化(投げ銭やサブスクリプションモデルの最適化)、ライバー支援プログラムの充実などが第3四半期時点で挙げられていました。中長期的には、AI技術の活用によるサービス向上、メタバースとの連携、成長著しいゲーム実況市場への展開など、新たな収益機会の創出も視野に入れている模様です。

しかし、現在の収益性重視への戦略転換が成功し、持続的な黒字化を達成できるかどうかが当面の最大の課題です。競争の激しい市場であり、IRIAMの成長がPocochaの落ち込みをカバーできるか、また新たな収益モデル(例えば広告収益モデルの導入検討)が早期に軌道に乗るかが、事業の将来を左右する重要なポイントとなるでしょう。

ヘルスケア・メディカル事業:成長への投資は続く

  • 売上収益: 107億6,600万円 (前期比8.1%増)
  • セグメント損失: 36億1,900万円 (前期は36億4,000万円の損失)

ヘルスケア・メディカル事業は、売上収益こそ前期比で増加したものの、セグメント損失はほぼ横ばいとなり、依然として投資フェーズが継続していることを示しています。

ヘルスケア領域においては、主に地方自治体などが策定するデータヘルス計画の策定年度に該当しなかったことが影響し、前期と比較して減収となりました。
一方で、メディカル領域では、医療関係者間のコミュニケーションアプリ「Join」の導入施設数は引き続き増加しており、ポータブル医療機器とJoinを組み合わせた「Join Mobile Clinic」を活用したプロジェクトなども進捗を見せています。第3四半期時点の報告でも、ヘルスケア・メディカル分野は売上微減で赤字幅が拡大傾向にあるとされていました。

さらに、前述の通り、連結子会社であるデータホライゾンにおいてのれんの減損損失が計上されており、この事業セグメントにおける収益化への道のりが依然として険しいことを物語っています。データヘルス計画の策定年度サイクルによる収益の変動性や、子会社における減損の発生は、事業構造上の課題や外部環境の影響を受けやすい側面を露呈しています。

「Join」の導入拡大はポジティブな進捗ですが、これが事業全体の黒字化に結びつくにはまだ相当の時間を要すると考えられます。DeNAがこの事業にどのような戦略的意義を見出し、どこまで投資を継続するのか、あるいは事業モデルの転換や外部パートナーとの連携戦略をどのように描いていくのかが、今後の注目点となります。社会的な貢献性は高いものの、投資家からは収益性改善に向けたより具体的な道筋の提示が求められるでしょう。

新規事業・その他:将来への投資段階

  • 売上収益: 36億1,800万円 (前期比18.4%増)
  • セグメント損失: 11億2,400万円 (前期は13億300万円の損失)

このセグメントには、中長期的な視点での事業ポートフォリオ強化を目指した各種取り組みや、EC(電子商取引)事業におけるサービスが含まれています。売上収益は増加し、セグメント損失額も若干改善しましたが、依然として投資育成フェーズにあることに変わりはありません。

このセグメントに含まれる具体的な取り組み内容や、将来的にDeNAのどの事業の柱へと繋がっていくのかについての詳細な情報開示は限定的です。過去に大きな存在感を示していたEC事業の現在の状況や、その他「各種取り組み」が具体的に何を指すのかなど、より透明性の高い情報開示がなされることで、投資家もこのセグメントの将来性を評価しやすくなるでしょう。

財務状況とキャッシュフロー:体力は十分?

2025年3月期末におけるDeNAの連結財政状態は、総資産が3,941億8,800万円、純資産が2,528億7,500万円、自己資本比率は61.3%となりました。

2024年12月末(第3四半期末)時点では、総資産3,540億円、純資産2,393億円、自己資本比率67.6%と報告されていました。通期末では総資産および純資産は増加しましたが、自己資本比率はやや低下しています。

これは、第4四半期における事業活動の活発化や投資活動の増加などを反映している可能性がありますが、依然として60%を超える自己資本比率を維持しており、財務の安定性は比較的高い水準にあると言えます。

勘定項目2024年3月期末 (万円)2025年3月期末 (万円)
総資産33,570,80039,418,800
純資産22,002,50025,287,500
自己資本比率62.30%61.30%
注: 純資産は株主資本とその他の包括利益累計額等の合計、自己資本比率は純資産/総資産として計算。厳密なIFRS上の定義と異なる可能性あり。

キャッシュフローの状況:お金の流れはどうなってるの?

2025年3月期のキャッシュフローの状況は、本業の稼ぐ力を示す営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)が大幅なプラスに転じたことが特徴です。

  • 営業活動によるキャッシュフロー (営業CF): 389億9,900万円の収入 (前期は108億3,900万円の支出)
  • 投資活動によるキャッシュフロー (投資CF): 122億8,000万円の支出 (前期は126億2,900万円の支出)
  • フリーキャッシュフロー (FCF): 267億1,900万円の収入 (営業CF + 投資CF)
  • 現金及び現金同等物期末残高: 928億300万円

第3四半期累計時点では、営業CFは65億円の収入、投資CFは70億円の支出でした。

通期では営業CFが大幅に改善しており、これは主に『ポケポケ』のヒットによる利益増がキャッシュとして実現した結果と考えられます。この営業CFの大幅な改善により、フリーキャッシュフローも潤沢なプラスとなり、企業が自由に使える資金が増加したことを示しています。これは、今後の新たな事業投資や株主還元への余力が生まれたことを意味します。

投資CFが継続してマイナスであることは、DeNAが将来の成長に向けた投資を継続している姿勢を示しています。

勘定項目2024年3月期 (万円)2025年3月期 (万円)
営業活動によるキャッシュフロー△1,083,9003,899,900
投資活動によるキャッシュフロー△1,262,900△1,228,000
フリーキャッシュフロー△2,346,8002,671,900
現金及び現金同等物期末残高7,139,6009,280,300

主要財務指標(ROEなど):資本に対して効率よく稼げてるのか?

収益性の回復は、資本効率を示す主要な財務指標にも明確に表れています。

  • ROE (自己資本利益率): 10.73% (前期は-13.31%)
  • ROA (総資産利益率): 6.14% (前期は-8.54%)

ROEが前期のマイナスから10%を超える水準へと劇的に改善したことは、株主資本を活用して効率的に利益を生み出せるようになったことを意味し、投資家にとって非常にポジティブなシグナルです。ROAも同様に大幅に改善しており、総資産全体に対する収益性が向上したことを示しています。

ただし、この高いROEの水準が、現時点では『ポケポケ』という単一のヒット作の貢献に大きく依存している側面も考慮に入れる必要があります。このヒットの持続性については会社側も慎重な見方を示しており、来期以降もこの高い資本効率を維持できるかどうかが、今後の重要な評価ポイントとなります。

株主への還元:配当は増える?

DeNAは、2025年3月期の期末配当として、1株当たり65円を実施することを発表しました。これは、前期(2024年3月期)の配当金20円から大幅な増配となります。この増配は、当期のV字回復による利益水準の向上とキャッシュフローの改善を株主に還元する姿勢の表れと評価できます。

一方で、2026年3月期の年間配当予想については「未定」としています。これは、2026年3月期の連結業績予想自体を開示していないことと連動した判断と考えられます。業績の持続性に対する会社側の慎重な見方を反映しているとも解釈でき、安定的な配当を期待する投資家にとっては、今後の配当政策の方向性を見極める上でやや不透明感が残る状況と言えるでしょう。

DeNA今後の見通しと戦略は?

DeNAは、2026年3月期の連結業績予想を開示しませんでした。

その主な理由として、会社側は、大ヒット中のゲームタイトル『ポケポケ』の今後の収益貢献の動向を含め、現時点では合理的な業績見通しを立てることが困難であるため、と説明しています

『ポケポケ』は足元で堅調に推移しているものの、配信開始当初の急激な成長からの反動が生じる可能性も考慮しているとのことです。また、新規タイトル開発に関しても、従来型の大型開発とは異なるソフトローンチ戦略など、新たな試みを中心としたパイプラインを想定しており、具体的な収益貢献を見通せる段階に至っていないことも影響していると考えられます。

このような業績予想の非開示は、市場の不確実性を高める要因となり得るとの指摘もあります。大ヒット作のライフサイクルや収益貢献度の持続性を見極めることの難しさは、ゲーム業界特有のヒット作依存のリスクと、その反動減への警戒を示すものです。

また、新規開発戦略の転換も、短期的な収益予測を困難にしています。この慎重な姿勢は、投資家に対して透明性の点で課題を残すものの、一方で無理な計画を公表しないという現実的かつ責任ある経営判断と評価することもできるでしょう。

各事業の今後の注目ポイントと中長期戦略

2026年3月期以降の各事業における注力ポイントや中長期的な戦略の方向性については、以下のように推察されます。

  • ゲーム事業
    • 最優先事項は『ポケポケ』の長期的な収益貢献を目指した運営体制の構築と、ユーザーエンゲージメントの維持・向上です。
    • 新規タイトル開発においては、ソフトローンチ戦略などを活用し、開発リスクをコントロールしながら市場のニーズを的確に捉えた作品を継続的に創出していく方針です。第3四半期時点では、引き続き有力なIP(知的財産)の活用や、成長が期待される海外市場の開拓が戦略として挙げられていました。
  • ライブストリーミング事業
    • 国内の「Pococha」においては、引き続き収益性を重視した事業運営を進めると考えられます。
    • 成長を続ける「IRIAM」については、その勢いを維持し、さらなるユーザー基盤の拡大と収益化を図ることが期待されます。
    • 第3四半期時点での戦略としては、既存ユーザーのマネタイズ強化(投げ銭機能やサブスクリプションモデルの最適化)、広告収益モデル導入の検討、AI技術を活用したライバー支援や視聴体験の向上、メタバースやVR技術との融合による新たなエンターテイメントの提供、そして成長著しいゲーム実況市場への本格的な展開などが挙げられていました。
  • スポーツ事業
    • 横浜DeNAベイスターズを中心としたスポーツ事業は、引き続きファンエンゲージメントの強化と、スタジアムを核とした魅力的なエンターテイメント体験の提供を通じて、安定的な収益基盤としての役割を担っていくと考えられます。
  • ヘルスケア・メディカル事業
    • 医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」の導入施設拡大や、新たなサービスの開発・普及を通じて、事業基盤の構築を継続していく方針です。
    • 第3四半期時点では、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)など将来性の高い分野において、先行的な優位性を確立することが期待されていました。ただし、収益化への道のりは依然として長く、継続的な投資と事業モデルの検証が求められます。

これらの各事業における戦略の方向性からは、DeNAが全社的な視点で事業ポートフォリオの最適化を進めようとしている様子がうかがえます。

特にゲーム事業における開発戦略の見直しや、ライブストリーミング事業における明確な収益性重視へのシフトは、その兆候と言えるでしょう。ヘルスケア事業は依然として投資フェーズが継続していますが、損失が続いている状況です。これらの動きは、各事業の成長フェーズや市場環境の変化に柔軟に対応し、経営資源の配分を最適化しようとする「選択と集中」の初期段階にあるのかもしれません。

まとめ

2025年3月期のDeNAは、新規ゲームタイトル『ポケポケ』の記録的な大成功と、前期に計上された巨額の減損損失という特殊要因がなくなったことにより、見事なV字回復を達成しました。これは、同社の開発力や運営力といった経営努力の成果であると同時に、単一のヒット作に業績が大きく左右されるゲーム事業のビジネスモデルの特性も改めて浮き彫りにしたと言えます。

今後のDeNAの持続的な成長を占う上で、以下の点が注目されます。

  • 『ポケポケ』はどこまで続くのか?
    今後の業績を左右する最大のカギは、『ポケポケ』が長期にわたり安定的な収益貢献を継続できるか否かです。会社側も配信開始当初の勢いからの反動を警戒しており、これが最大の不確定要素となっています。
  • 次の収益的な柱は?
    『ポケポケ』に続く新たなヒット作をゲーム事業で生み出せるか、そしてライブストリーミング事業の黒字化と再成長、ヘルスケア・メディカル事業の早期収益化が急務です。特にヘルスケア事業は、社会的な意義は大きいものの、赤字が継続しており、これが長期的な投資負担となるリスクも抱えています。
  • チーム全体の力を見せられるか?
    スポーツ事業は安定的な収益貢献を果たしていますが、ゲーム事業以外のセグメントが確固たる収益の柱として確立されることが、DeNA全体の企業価値向上には不可欠です。

投資家が考えるべきこととしては、以下の点が挙げられます。

  • 短期的な業績は、引き続き『ポケポケ』のダウンロード数、アクティブユーザー数、課金状況などの動きに大きく左右されるため、関連情報の収集と分析が重要です。
  • 2026年3月期の連結業績予想が非開示であるため、四半期ごとの業績発表や会社側からの経営状況に関するアップデートが、例年以上に重要な判断材料となります。
  • 中長期的な視点では、各事業セグメントにおける戦略の遂行状況、特にライブストリーミング事業とヘルスケア・メディカル事業の収益性改善の進捗、そしてゲーム事業における新たなヒット作を生み出すためのパイプライン構築の状況に注目すべきです。

アナリストによる投資判断のコンセンサスは「買い」または「中立」が優勢で、目標株価も現状よりやや上方に設定されているケースが見られますが、一方で2025年3月期決算がアナリスト予想を下回ったという事実は覚えておくべき点です。

総括すると、DeNAは大きな事業転換のチャンスを得ており、今回のV字回復で得た成果を元手に、いかにして持続的な成長軌道へと事業ポートフォリオを再構築し、企業価値を高めていくことができるか、経営陣の戦略実行能力と手腕が問われる重要な局面にあると言えるでしょう。

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