ディスコの2025年3月期決算を解説|生成AI関連の需要が好調で過去最高益に!

半導体製造装置メーカーの株式会社ディスコが、2025年4月17日に2025年3月期の通期決算を発表しました。
当期は生成AI関連の旺盛な需要を背景に、売上高、各利益ともに過去最高を更新する好調な結果となりました。

本記事では、ディスコの2025年3月期決算の内容を紐解き、同社の業績、財務状況、そして今後の見通しや株価への影響について、発表された決算短信と決算説明資料をもとに詳しく解説します。

目次

ディスコの2025年3月期における連結決算の振り返り

2025年3月期の連結決算は、売上高が前期比27.9%増の3,933億13百万円、営業利益が同37.3%増の1,668億34百万円となり、5期連続で過去最高の売上高を更新し、各利益においても過去最高を記録しました。

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項目2025年3月期実績2024年3月期実績前期比
売上高393,313 百万円307,554 百万円+27.9%
営業利益166,834 百万円121,490 百万円+37.3%
経常利益168,943 百万円122,393 百万円+38.0%
親会社株主に帰属する
当期純利益
123,891 百万円84,205 百万円+47.1%
出典:株式会社ディスコ「2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)

決算期を通じて、スマートフォンやPCの最終製品需要に本格的な回復は見られなかったものの、EV向けパワー半導体や、特に生成AI関連の高性能半導体向けの設備投資が好調に推移しました。

この市場環境のもと、付加価値の高い精密加工装置や、顧客の高い設備稼働率に連動した精密加工ツールの出荷が高水準で推移したことが、過去最高業績の主な要因です。

ディスコの製品群・地域別業績

ディスコは精密加工装置および精密加工ツール等の製造・販売事業の単一セグメントで事業を展開しており、セグメント情報を開示していません。
ここでは、製品群別と地域別の業績を解説します。

製品群別の売上高

製品群別に見ると、主力の「精密加工装置」が前期比26%増、「精密加工ツール」が同25%増と、いずれも大幅な増収を達成しました。

これは、生成AI関連需要などを背景に装置の出荷が増加したことに加え、顧客の設備稼働率の高さを背景に消耗品であるツールの需要も堅調であったことを示しています。

地域別の売上高

顧客の所在地に基づく地域別売上高では、引き続きアジア地域が全体の売上の中心を占めています。特に中国と台湾での売上増が顕著です。

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地域2025年3月期 売上高2024年3月期 売上高
日本41,043 百万円37,545 百万円
中国125,375 百万円110,545 百万円
韓国42,341 百万円27,224 百万円
台湾74,404 百万円36,616 百万円
アジア(その他)33,888 百万円25,511 百万円
米州48,383 百万円40,418 百万円
欧州27,876 百万円29,692 百万円
合計393,313 百万円307,554 百万円
出典:株式会社ディスコ「2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)

ディスコの2025年3月期末財務状況について

2025年3月期末の財務状況は以下の通りです。

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項目2025年3月期末2024年3月期末
総資産654,087 百万円556,058 百万円
純資産492,703 百万円406,560 百万円
自己資本比率75.1%72.9%
出典:株式会社ディスコ「2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)

総資産は、主に現金及び預金、棚卸資産の増加や、研究開発用の土地建物への設備投資により有形固定資産が増加したことから、前期末比で980億29百万円増加しました。
純資産の増加に伴い、自己資本比率は75.1%と、前期末から2.2ポイント上昇し、財務の健全性がさらに高まっています。

キャッシュフローの状況

当期のキャッシュフローの状況は以下の通りです。

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項目2025年3月期2024年3月期
営業活動による
キャッシュ・フロー
120,364 百万円97,524 百万円
投資活動による
キャッシュ・フロー
△68,002 百万円△16,403 百万円
財務活動による
キャッシュ・フロー
△38,150 百万円△30,938 百万円
現金及び現金同等物
期末残高
229,167 百万円215,486 百万円
出典:株式会社ディスコ「2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)
  • 営業活動によるキャッシュ・フローは、好調な業績を反映した税金等調整前当期純利益の計上などにより、1,203億64百万円の収入となりました。
  • 投資活動によるキャッシュ・フローは、主に研究開発用の土地建物の取得による支出が大きく、680億2百万円の支出となりました。
  • 財務活動によるキャッシュ・フローは、主に配当金の支払いにより381億50百万円の支出となりました。

これらの結果、「営業CF」と「投資CF」を合算したフリー・キャッシュ・フローは約523億円のプラスとなっています。

収益性に関する指標(ROEなど)

過去最高の利益を達成したことに伴い、収益性指標も大きく向上しています。

  • 自己資本利益率 (ROE): 27.6% (前期比5.2ポイント上昇)
  • 総資産利益率 (ROA): 20.5% (前期比4.1ポイント上昇)
  • 売上高営業利益率: 42.4% (前期は39.5%)
  • 売上総利益率 (GP率): 70.6% (前期は67.8%)

特に、ROEは過去最高を記録し、売上高営業利益率も42.4%と極めて高い水準を維持しており、同社の高い収益力を示しています。

ディスコの株主還元について

ディスコは、業績に連動した配当を基本方針として掲げています。

配当金の状況

2025年3月期の年間配当金は、中間配当124円、期末配当289円をあわせ、1株当たり413円となりました。
これは前期の307円から大幅な増配であり、過去最高の配当額です。
配当性向(連結)は36.1%でした。

なお、2026年3月期の配当予想については、現時点では未定としています。

自社株買いの発表はあった?

今回の決算発表において、新たな自己株式取得(自社株買い)の発表はありませんでした。

ディスコの今期見通しと戦略について

ディスコは、需要予測の困難さから、業績予想は1四半期先までを開示する方針をとっています。

2026年3月期第1四半期(2025年4月1日~6月30日)の連結業績予想は以下の通りです。
売上高は前年同期比で49.4%増を見込むなど、引き続き好調な滑り出しを想定しています。

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項目2026年3月期
第1四半期予想
売上高75,000 百万円
営業利益23,800 百万円
経常利益23,800 百万円
親会社株主に帰属する
四半期純利益
16,700 百万円
出典:株式会社ディスコ「2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)

また、今後の戦略として、中長期的な半導体需要の増加を見据え、積極的な投資を継続する方針です。具体的には、以下の大型投資を計画しています。

  • 羽田R&Dセンター 新棟建設
    2025年着工予定。投資額は約130億円。
  • 広島事業所 新工場建設
    2026年2月着工予定。
    精密加工ツールの生産能力向上とBCM(事業継続管理)対応力強化を目的とし、第一期工事の建築費用として330億円を計画しています。

決算内容や今期の見通しで、ディスコの株価はどうなる?

今回の決算発表は、ディスコの株価に多角的な影響を与える可能性があります。

株価にポジティブな影響を与える要因

  • 過去最高の業績
    売上高、各利益ともに過去最高を更新したことは、同社の成長性を示す非常にポジティブな材料です。
  • 高い収益性
    売上高営業利益率42.4%、GP率70.6%という世界トップクラスの収益性は、同社の競争力の高さを証明しています。
  • 大幅な増配
    年間配当を過去最高の413円としたことは、株主還元への積極的な姿勢として評価されます。
  • 好調な短期見通し
    2026年3月期第1四半期の出荷額見通しを1,020億円と予想しており、足元の需要が強いことを示唆しています。
  • 積極的な将来への投資
    新工場の建設など、中長期的な成長に向けた大規模な投資計画は、将来の業績拡大への期待を高めます。

株価にネガティブな影響を与える要因

  • 一部市場の需要減速
    PC・スマホ向け需要の本格回復には至っておらず、またEVシフトの鈍化を背景にパワー半導体向けの投資意欲が減退している点は懸念材料です。
  • 需要の不確実性
    会社自身が「需要予測が困難」と認めているように、半導体市場は変動が激しく、今後の見通しには不透明感が伴います。
  • 前四半期比での減益予想
    2026年3月期第1四半期の業績予想は、前年同期比では大幅な増収増益ですが、直前の2025年3月期第4四半期の実績(売上高1,207億円、営業利益517億円)と比較すると減収減益となる見込みです。

決算から分かるディスコの強みは?

今回の決算からは、ディスコの以下のような強みが改めて浮き彫りになりました。

圧倒的な高収益性

売上総利益率(GP率)70.6%、営業利益率42.4%という極めて高い利益率は、同社の最大の強みです。

これは、技術的に優位性のある高付加価値製品を提供できていることの証左と言えます。

強固な財務基盤と豊富なキャッシュ

自己資本比率75.1%、期末の現金及び現金同等物残高が約2,291億円と、財務基盤は極めて強固です。

この安定した財務が、景気変動に左右されずに研究開発や設備投資を継続する原動力となっています。

将来を見据えた積極的な成長投資

当期の研究開発費は316億円、設備投資(CAPEX)は698億円に上り、さらに来期以降も広島での新工場建設などに大規模な投資を計画しています。

目先の需要だけでなく、中長期的な半導体市場の拡大を見据えて積極的に投資を実行する戦略的な姿勢も、同社の大きな強みです。

まとめ

株式会社ディスコの2025年3月期決算は、生成AI関連の力強い需要に牽引され、売上・利益ともに過去最高を達成する素晴らしい内容でした。
世界トップクラスの収益性と強固な財務基盤を背景に、大幅な増配も実現しています。

今後の見通しとしては、足元の需要は堅調である一方、一部市場の需要減速やマクロ経済の不確実性も存在します。
しかし、同社は広島の新工場建設をはじめとする積極的な投資を継続し、中長期的な成長を目指す姿勢を明確にしています。

今回の決算は、ディスコの圧倒的な競争力と将来性を示すものと言えるでしょう。

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