商船三井株式会社が2025年4月30日に発表した2025年3月期(2024年度)の決算は、コンテナ船事業や自動車船事業の好調、円安の追い風を受け、前期比で大幅な増益を達成しました。
年間配当は前期から140円増配の360円となります。
一方で、2026年3月期(2025年度)の業績見通しについては、コンテナ船市況の軟化や米国の関税政策による世界経済の停滞懸念などから、減益を見込んでいます。
本記事では、商船三井の2025年3月期の決算内容を詳細に分析するとともに、今後の事業戦略や株価の見通しについて解説します。
商船三井の2025年3月期における連結決算の振り返り
2025年3月期の連結決算は、売上高、各利益項目すべてにおいて前期を上回る結果となりました。
項目 | 2025年3月期 実績 | 2024年3月期 実績 | 前期比 |
---|---|---|---|
売上高 | 1兆7,754億円 | 1兆6,279億円 | +9.1% |
営業利益 | 1,508億円 | 1,031億円 | +46.3% |
経常利益 | 4,197億円 | 2,589億円 | +62.1% |
親会社株主に帰属する 当期純利益 | 4,254億円 | 2,616億円 | +62.6% |
決算説明資料によると、この大幅な増益は主に以下の要因によるものです。
- コンテナ船事業の好調
持分法適用会社であるOcean Network Express Pte. Ltd. (ONE社)において、紅海情勢を背景とした喜望峰経由の輸送継続により船腹需給が引き締まり、運賃が高水準で推移しました。 - 自動車船事業の堅調な需要
完成車輸送需要が堅調に推移し、円安も利益を押し上げました。 - エネルギー事業の貢献
ケミカル船や原油船の市況が堅調に推移したことに加え、2024年3月に買収したFairfield Chemical Carriers社が利益に貢献しました。 - 円安効果
通期平均為替レートが前期の143.43円/USドルから152.79円/USドルへと円安に推移したことも、全体の収益を増加させる要因となりました。
商船三井の2025年3月期におけるセグメント別の業績
商船三井のセグメント別の業績は以下の通りです。製品輸送事業が全体の利益を大きく牽引しました。
セグメント名 | 売上高 | 経常損益 |
---|---|---|
ドライバルク事業 | 4,000億円 | 139億円 |
エネルギー事業 | 5,715億円 | 1,036億円 |
製品輸送事業 | 6,159億円 | 3,029億円 |
ウェルビーイングライフ事業 | 1,147億円 | 81億円 |
関連事業 | 536億円 | 25億円 |
その他 | 194億円 | 6億円 |
調整額 | – | 129億円 |
合計 | 1兆7,754億円 | 4,197億円 |
ドライバルク事業
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ケープサイズ市況は西豪州・ブラジルからの鉄鉱石出荷などが堅調に推移したものの、前期に計上した貸倒引当金戻し入れ益の剥落などがあり、セグメント全体では前期比232億円の減益となりました。
エネルギー事業
タンカー部門では、原油船・石油製品船・ケミカル船のいずれも市況が堅調に推移しました。
特にケミカル船は、地政学リスクによるトンマイル(輸送距離×輸送量)の伸長と、Fairfield Chemical Carriers社の買収効果で大幅増益に貢献しました。
また、FPSO(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)事業も、三井海洋開発株式会社の持分法適用会社化が寄与し増益となりました。
結果として、セグメント全体で前期比367億円の大幅な増益を達成しました。
製品輸送事業
コンテナ船事業を担うONE社の業績が大幅に改善し、セグメント利益を押し上げました。
紅海情勢を背景とした需給の逼迫が運賃を高水準で維持させ、前期比で1,660億円の増益となりました。
自動車船事業も、堅調な輸送需要と円安効果により増益を確保しています。
これらにより、製品輸送事業全体では前期比1,773億円という大幅な増益を記録しました。
ウェルビーイングライフ事業
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不動産事業は、既存物件の安定した賃貸収入に加え、持分法適用会社の投資利益計上により前期比23億円の増益となりました。
商船三井の2025年3月期末時点での財務状況について
資産、負債、純資産の状況は以下の通りです。
船舶を中心とした資産取得により総資産が増加しました。
項目 | 2025年3月末 | 2024年3月末 | 増減 |
---|---|---|---|
総資産 | 4兆9,844億円 | 4兆1,221億円 | +8,623億円 |
負債 | 2兆2,602億円 | 1兆7,524億円 | +5,077億円 |
純資産 | 2兆7,242億円 | 2兆3,696億円 | +3,545億円 |
自己資本比率 | 53.9% | 57.1% | -3.2ポイント |
総資産は、主に船舶の増加により、前期末比で8,623億円増加しました。
負債は、主に長期借入金の増加により5,077億円増加。
純資産は、利益剰余金の増加が主な要因となり3,545億円増加しました。
この結果、自己資本比率は53.9%となりました。
キャッシュフローの状況
当期のキャッシュフローの状況は以下の通りです。
項目 | 2025年3月期 | 2024年3月期 |
---|---|---|
営業活動による キャッシュ・フロー | 3,604億円 | 3,142億円 |
投資活動による キャッシュ・フロー | △4,508億円 | △3,528億円 |
財務活動による キャッシュ・フロー | 1,170億円 | 497億円 |
現金及び現金同等物 期末残高 | 1,559億円 | 1,155億円 |
それぞれの項目の概要は以下のとおりです。
- 営業活動によるキャッシュ・フロー
税金等調整前当期純利益が4,527億円となったことなどから、3,604億円の収入となりました。 - 投資活動によるキャッシュ・フロー
船舶を中心とする固定資産の取得などにより、4,508億円の支出となりました。 - 財務活動によるキャッシュ・フロー
長期借入による収入などにより、1,170億円の収入となりました。
主要財務指標
当期の主要な財務指標は以下の通りです。利益の増加に伴い、収益性指標が改善しています。
指標 | 2025年3月期 | 2024年3月期 |
---|---|---|
ROE(自己資本当期純利益率) | 16.9% | 12.2% |
ROA(総資産経常利益率) | 9.2% | 6.7% |
売上高営業利益率 | 8.5% | 6.3% |
商船三井の2025年3月期における株主還元について
商船三井は、経営計画「BLUE ACTION 2035」において、連結配当性向30%を目安とし、1株当たり150円の下限配当を設定しています。
配当金の状況
第2四半期末 | 期末 | 年間合計 | |
---|---|---|---|
2024年3月期 | 110.00円 | 110.00円 | 220.00円 |
2025年3月期 | 180.00円 | 180.00円 | 360.00円 |
2026年3月期(予想) | 75.00円 | 75.00円 | 150.00円 |
2025年3月期は好調な業績を背景に、期末配当を前回予想から20円増配し180円とする予定です。
中間配当180円と合わせて、年間配当は1株当たり360円となり、前期の220円から大幅な増配となります。
一方で、2026年3月期の配当予想は、下限配当である年間150円(中間75円、期末75円)を予定しています。
自社株買いの発表はあった?
2024年11月から2025年10月までの期間で、取得総額1,000億円を上限とする自己株式取得を実施中です。
2025年3月31日時点での取得実績は以下の通りです。
- 取得株式総数: 13,329,000株
- 取得総額: 699億9,920万円
2025年度は残り300億円(上限)の取得を予定しています。
商船三井の2026年3月期見通しと戦略について
2026年3月期の連結業績は、コンテナ船市況の軟化や円高進行を見込み、減収減益を予想しています。
項目 | 2026年3月期 見通し | 2025年3月期 実績 | 前期比 |
---|---|---|---|
売上高 | 1兆7,000億円 | 1兆7,754億円 | △4.3% |
営業利益 | 1,000億円 | 1,508億円 | △33.7% |
経常利益 | 1,500億円 | 4,197億円 | △64.3% |
親会社株主に帰属する 当期純利益 | 1,700億円 | 4,254億円 | △60.0% |
この見通しの主な前提は以下の通りです。
- 為替・燃料価格
為替レートは140.78円/USドル(前期実績152.79円)、燃料油価格(VLSFO)は525ドル/MT(前期実績607ドル)を想定。 - コンテナ船事業
新造船の供給圧力と米国の関税政策の影響による運賃市況の軟化を想定し、大幅な減益を見込んでいます。 - エネルギー事業
石油製品船やケミカル船は需要の弱まりから減益を見込むものの、原油船やLNG船などは底堅い市況や長期契約により安定収益を確保する見通しです。 - 自動車船事業
新造船の大量竣工や米国の関税政策による輸送台数減を想定し、減益を見込んでいます。
戦略面では、経営計画「BLUE ACTION 2035」に基づき、海運市況の変動に左右されにくい安定収益型事業へのポートフォリオ転換を引き続き推進します。
Phase 1(2023-2025年度)の投資計画1.34兆円に対し、既に1.88兆円の投資を意思決定しており、計画を上回るペースで非海運事業や安定収益型事業への投資を強化しています。
決算内容や今期の見通しで、商船三井の株価はどうなる?
今回の決算発表と来期の見通しは、株価にプラスとマイナスの両側面から影響を与える可能性があります。
株価にポジティブな影響を与える要因
株価にポジティブな影響を与える要因として、以下の3点が挙げられます。
- 2025年3月期の大幅増益実績
経常利益が前期比62.1%増の4,197億円と、市場の予想を上回る可能性のある好決算は、ポジティブに評価される要因です。 - 積極的な株主還元
年間配当を360円へ大幅に増配したことや、総額1,000億円規模の自社株買いの継続は、株主還元姿勢が評価され、株価を支える要因となります。 - 安定収益ポートフォリオへの転換
LNG船や海洋事業、不動産といった安定収益型事業への投資を着実に進めており、将来の収益安定化への期待が株価の下支えとなる可能性があります。
株価にネガティブな影響を与える要因
一方で、株価にネガティブな影響を与える要因もいくつか考えられます
- 2026年3月期の大幅な減益見通し
経常利益が64.3%減の1,500億円となる見通しは、先行きの不透明感から株価の上値を抑える要因となり得ます。 - コンテナ船市況の軟化懸念
収益の大きな柱であるコンテナ船事業が、新造船の供給増や荷動きの鈍化によりピークアウトするとの見方が広がれば、売り圧力につながる可能性があります。 - 地政学・マクロ経済リスク
米国の関税政策やそれに伴う世界経済の停滞懸念、円高への反転リスクは、海運市況全体にとってマイナス要因であり、株価の重しとなる可能性があります。 - 大幅な減配予想
今期見通しの配当金は360円から150円の大幅減配が予想されています。
配当利回りが大幅に低下するため、配当収入を重視する投資家にとっては魅力が薄れ、売り圧力につながる可能性があります。
決算から分かる商船三井の強みは?
今回の決算からは、同社の以下のような強みがうかがえます。
- 多様な事業ポートフォリオ
同社はドライバルク、エネルギー、製品輸送(コンテナ船、自動車船)、ウェルビーイングライフ(不動産、フェリー等)と、多岐にわたる事業を展開しています。
これにより、特定の市況が悪化しても他の事業でカバーできるリスク分散体制が構築されています。
2025年3月期はコンテナ船が全体を牽引しましたが、来期はエネルギー事業の安定収益が下支えする構図が予想されます。 - 財務基盤の安定性
自己資本比率が53.9%と高い水準を維持しており、財務的な安定性が確保されています。
これにより、市況の変動期においても、戦略的な投資や安定した株主還元を継続する体力が備わっています。 - 将来を見据えた戦略的投資
経営計画「BLUE ACTION 2035」のもと、短期的な市況変動に左右されない安定収益型事業への資産の入れ替えを計画的に進めています。
特にLNG船やFSRU(浮体式LNG貯蔵再ガス化設備)、洋上風力発電関連などの脱炭素分野への投資は、将来の成長ドライバーとして期待されます。
まとめ
商船三井の2025年3月期決算は、コンテナ船事業と円安を追い風に記録的な好業績となりました。積極的な株主還元も好感される内容です。
しかし、来期は主力事業の市況軟化やマクロ経済の不透明感を背景に大幅な減益を見込んでおり、事業環境は転換点を迎えています。
中長期的には、多様な事業ポートフォリオと安定収益型事業への戦略的シフトが、市況の波を乗り越える上での強みとなるでしょう。今後の経営計画の進捗と、変化する事業環境への対応力が、企業価値向上と株価動向の鍵を握ることになりそうです。
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