株式会社マックハウスが2025年4月11日に発表した2025年2月期(2024年3月1日~2025年2月28日)の決算は、減収となり、営業損失・経常損失・当期純損失ともに赤字幅が拡大する厳しい結果となりました。
一方で、販売管理費の削減やEC事業の成長といった既存事業の改善努力に加え、2025年6月には金融・投資事業への参入という大きな戦略転換を発表しました。
本記事では、マックハウスの2025年2月期決算の内容を詳細に分析するとともに、新たな事業戦略が今後の見通しや株価に与える影響について解説します。
マックハウスの将来性について、以下の動画で解説しています。興味のある方はぜひ参考にしてください。
マックハウスの2025年2月期における非連結決算の振り返り
2025年2月期の非連結決算の概要は以下の通りです。
勘定科目 | 2025年2月期実績 (百万円) | 2024年2月期実績 (百万円) | 前期比 |
---|---|---|---|
売上高 | 13,119 | 15,409 | 14.9%減 |
営業利益 | △1,213 | △910 | – |
経常利益 | △1,161 | △854 | – |
当期純利益 | △1,472 | △1,151 | – |
当期のマックハウスは、円安や原材料価格の上昇による物価高騰が個人消費に影響を与える中、売上高は前期比14.9%減の13,119百万円となりました。
主力商品として機能性を訴求したプライベートブランド商品の展開に注力したものの、既存店売上高が前期比で4.9%減少したことや、不採算店舗31店舗を閉鎖したことなどが影響しました。
利益面では、販売費及び一般管理費を前期比で11.0%削減するなどのコストコントロールに努めましたが、売上総利益の減少をカバーするには至らず、営業損失は1,213百万円(前期は910百万円の損失)、当期純損失は1,472百万円(前期は1,151百万円の損失)となり、それぞれ損失が拡大しました。
マックハウスの2025年2月期 商品別の業績
マックハウスは「衣料品等小売事業」の単一セグメントで事業を展開しており、セグメント別の業績開示はありません。
ここでは、開示されている商品別の売上高について解説します。
商品別 | 2025年2月期 売上高 (百万円) | 2024年2月期 売上高 (百万円) | 前年同期比 |
---|---|---|---|
メンズトップス | 4,372 | 5,053 | 86.5% |
メンズボトムス | 2,672 | 3,030 | 88.2% |
レディーストップス | 2,250 | 2,675 | 84.1% |
レディースボトムス | 1,381 | 1,492 | 92.6% |
キッズ | 1,202 | 1,516 | 79.3% |
その他 | 1,239 | 1,640 | 75.6% |
合計 | 13,119 | 15,409 | 85.1% |
全てのカテゴリーで前年割れ
当期の売上は、すべての商品カテゴリーにおいて前事業年度の実績を下回る結果となりました。
特に「キッズ」や「その他(インナー・雑貨等)」の落ち込みが大きくなっています。これは、物価高による消費者の節約志向の高まりや、天候不順などが影響していると考えられます。
マックハウスの2025年2月期末時点での財務状況について
2025年2月期末時点でのマックハウスの財務状況は以下の通りです。
勘定科目 | 2025年2月期末 (百万円) | 2024年2月期末 (百万円) | 増減 (百万円) |
---|---|---|---|
総資産 | 7,303 | 8,375 | △1,072 |
純資産 | 1,234 | 2,707 | △1,473 |
自己資本比率 | 16.9% | 32.3% | △15.4ポイント |
期末の総資産は、前期末比で1,072百万円減少し7,303百万円となりました。
主な要因は、商品の減少(1,010百万円減)や、店舗閉鎖に伴う敷金及び保証金の減少(192百万円減)などです。
負債合計は、買掛金の減少(583百万円減)などがあった一方で、新たに長期借入金を900百万円計上したことなどにより、前期末比で402百万円増加し6,069百万円となりました。
キャッシュフローの状況
当期のキャッシュフローの状況は以下の通りです。
勘定科目 | 2025年2月期 (百万円) | 2024年2月期 (百万円) |
---|---|---|
営業活動による キャッシュ・フロー | 548 | △1,211 |
投資活動による キャッシュ・フロー | 80 | 54 |
財務活動による キャッシュ・フロー | 888 | △11 |
現金及び現金同等物 期末残高 | 1,961 | 1,540 |
営業活動によるキャッシュ・フローは548百万円のプラスとなりました(前期は1,211百万円のマイナス)。
これは、税引前当期純損失を計上したものの、棚卸資産(在庫)の減少(1,010百万円)などが大きく寄与したためです。
投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産の売却や敷金及び保証金の回収により、80百万円のプラスとなりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、長期借入金の増加(900百万円)により、888百万円のプラスとなっています。
これらの結果、現金及び現金同等物の期末残高は前期末から420百万円増加し、1,961百万円となりました。
主要財務指標(ROEなど)
指標 | 2025年2月期 | 2024年2月期 |
---|---|---|
自己資本当期純利益率(ROE) | △74.7% | △35.1% |
総資産経常利益率(ROA) | △14.8% | 48.9% |
売上高営業利益率 | △9.2% | 5.9% |
当期純損失の拡大と自己資本の減少により、ROEは△74.7%と前期の△35.1%から大幅に悪化しました。
ROA、売上高営業利益率もマイナスとなり、収益性の改善が急務であることが示されています。
マックハウスの株主還元について
厳しい業績が続く中、マックハウスの株主還元策は抑制的な状況です。
配当金の状況
2025年2月期の配当金は、前期に引き続き無配(0円)となりました。
また、2026年2月期の配当予想についても無配を予定しており、株主への利益還元は当面見送られる見通しです。
7期連続の営業赤字という状況下で、まずは経営再建を優先する方針です。
自社株買いの発表はあった?
2025年2月期において、大規模な自己株式取得(自社株買い)の発表はありませんでした。
当期中の自己株式の増加は、単元未満株式の買取による148株のみとなっています。
マックハウスの今期の見通しと戦略について
マックハウスは2026年2月期の業績予想を公表しています。
勘定科目 | 2026年2月期予想 (百万円) | 2025年2月期実績 (百万円) | 前期比 |
---|---|---|---|
売上高 | 13,200 | 13,119 | 0.6%増 |
営業利益 | △550 | △1,213 | – |
経常利益 | △550 | △1,161 | – |
当期純利益 | △650 | △1,472 | – |
決算発表時点での2026年2月期の見通しは、売上高が前期比0.6%増の13,200百万円と微増を見込むものの、営業損失550百万円、経常損失550百万円、当期純損失650百万円と、依然として赤字が続く厳しい計画となっています。
この状況を打開するため、既存のアパレル事業の改革に加え、新たな事業の柱を立てる戦略を打ち出しています。
在庫効率アップ
過剰在庫の抑制とシーズン持ち越し在庫(キャリー在庫)の削減を徹底します。
販売数と在庫数のモニタリングを強化し、仕入れをコントロールするほか、キャリー在庫の消化率目標を85%に設定し、キャッシュフローの改善と売り場の鮮度アップを図ります。
コアアイテムの開発と育成
プライベートブランド(PB)による重点販売商品を「コアアイテム」と位置づけ、開発と育成に注力します。
「毎日はきたくなるデニム」をコンセプトにした「マイデニ」や、はっ水・防風などの機能性を持つ「シャットアウター」などを軸に、安定的な売上と収益基盤の強化を目指します。
継続的な集客策とEC事業の成長
280万人のモバイル会員や54万人のLINE友だちといったデジタル顧客基盤を活用し、販促を強化します。
また、成長著しいEC事業、特にZOZOTOWNでの売上拡大を引き続き推進します。
ECサイトで購入した商品を店舗で受け取れるサービスも好調で、ECとリアル店舗の連携による利便性向上を図ります。
金融・投資事業への新規参入
マックハウスは2025年6月12日、新たな成長戦略として金融・投資事業を開始することを発表しました。
これは、主力のアパレル事業に加え、新たな収益機会の創出と財務体質の強化を目的としたものです。
具体的な投資対象として、以下の3つを挙げています。
- 暗号資産
長期的な資産保全の手段として、ビットコインなどを保有します。 - 上場企業
国内外の上場株式や債券に投資し、キャピタルゲインおよびインカムゲインを狙います。 - ベンチャー企業およびM&A
事業シナジーが見込めるベンチャー企業への出資や、M&Aを推進します。
そのため「M&A推進室」を新設し、将来的にはM&Aアドバイザリー業務への着手も視野に入れています。
この新事業のために、当初5億円程度の支出を想定していました。
しかし、2025年6月19日に完了した第三者割当による新株予約権の発行が、当初の想定を大幅に上回る23億9,100万円の資金調達に成功したことを発表しました。
これを受け、当初の暗号資産購入資金8億円に加え、超過調達分から最大9億1,500万円を充当し、合計で最大17億1,500万円をビットコインなどの暗号資産購入資金とする方針を明らかにしています。
決算内容や今期の見通しで、マックハウスの株価はどうなる?
今回の決算内容と今後の見通しは、マックハウスの株価に多面的な影響を与えると考えられます。
株価にポジティブな影響を与える要因
- コスト削減の進展
販管費を前期比で11.0%削減しており、収益体質改善への強い意志がうかがえます。 - EC事業の好調
EC売上は上半期で前年比142%と大きく成長しており、特にZOZOTOWNでの拡大が顕著です。
今後の成長ドライバーとして期待されます。 - 新たな成長戦略への期待
金融・投資事業への参入は、アパレル事業への依存度を下げ、新たな収益源を確保する多角化戦略として期待感があります。
特に、ビットコイン保有などの積極的な財務戦略は、企業価値向上に繋がる可能性があります。 - 順調な資金調達と市場の評価
新株予約権の行使による資金調達が、当初予定額を大幅に上回って完了しました。
これは、同社の事業戦略や成長性に対して市場が高い評価をしていることの表れと見ることもできます。
株価にネガティブな影響を与える要因
- 7期連続の営業赤字
根本的な収益力に依然として大きな課題を抱えており、「継続企業の前提に関する重要事象」が記載されている状況です。 - 財務健全性の悪化
赤字継続により純資産が大きく減少し、自己資本比率が16.9%まで低下しています。 - 無配の継続
2026年2月期も無配予想であり、配当を重視する投資家からの買いは期待しにくい状況です。 - 株式の希薄化懸念
新株予約権の発行は、将来的な株式数の増加につながり、1株あたりの価値が希薄化する懸念があります。 - ハイリスクな投資への懸念
暗号資産は価格変動が非常に大きく、投資元本を毀損するリスクがあります。
本業が厳しい中でのハイリスク投資は、会社の財政状態をさらに悪化させる可能性もはらんでおり、懸念材料となり得ます。
決算から分かるマックハウスの強みは?
厳しい決算状況の中にも、マックハウスが持つ強みが見て取れます。
PB商品の開発力
「シャットアウター」や「マイデニ」など、顧客のニーズを捉えた機能性やデザイン性を持つプライベートブランド商品を自社で開発できる力は大きな強みです。
これらのコアアイテムが育てば、他社との差別化と収益性の改善につながります。
EC事業の成長性
特にZOZOTOWNを軸としたEC事業の成長は目覚ましく、新たな顧客層の獲得に成功しています。
店舗受け取りサービスなど、全国250店舗(2025年2月末時点)のリアル店舗網とECを連携させるオムニチャネル戦略を推進できる基盤も強みと言えるでしょう。
デジタル顧客基盤
280万人のモバイル会員という顧客基盤は、大きな資産です。
この基盤を活用して顧客の購買データを分析し、的確な商品開発や販促活動につなげることができれば、業績回復の強力な武器となります。
積極的な財務戦略と多角化への挑戦
7期連続の営業赤字という厳しい経営環境にありながら、現状維持に甘んじることなく、大胆な打ち手を講じている点は強みと評価できます。
新株予約権の発行により大規模な資金調達を成功させ、その資金を元手に「金融・投資」という全く新しい分野へ挑戦する姿勢は、経営陣の変革への強い意志と行動力を示しています。
主力のアパレル事業の立て直しと並行して、事業ポートフォリオの多角化を図り、企業として持続的な成長を目指す戦略的な動きは、今後のマックハウスを評価する上で重要なポイントとなるでしょう。
まとめ
マックハウスの2025年2月期決算は、減収と赤字拡大という厳しい結果に終わりました。
財務状況も悪化しており、「継続企業の前提に関する重要事象」が記載されるなど、依然として予断を許さない状況が続いています。
しかしその一方で、コスト削減の徹底、EC事業の急成長といった既存事業の改善努力に加え、金融・投資事業への参入という大胆な多角化戦略を打ち出しました。
成功すれば新たな収益の柱となり得ますが、暗号資産投資などが持つ高いリスクも内包しています。
今後は、アパレル事業の再建を着実に進めるとともに、新たな金融・投資事業をいかに軌道に乗せ、企業価値の向上に繋げていけるか、その手腕が問われることになるでしょう。
コメント