イビデン(4062)が2026年8月4日に発表した2027年3月期第1四半期決算は、売上高・利益ともに大きく伸び、会社が通期業績予想を大幅に引き上げる強い内容でした。特に好調だったのが、生成AIサーバーや汎用サーバー向けの高機能ICパッケージ基板です。
今回の決算で重要なのは、単に「AI需要で増益した」という点だけではありません。大野事業場の量産が安定し、既存設備の活用も進んだことで販売数量が想定を上回ったうえ、高付加価値製品の販売価格も高水準で推移しました。その結果、電子事業は売上高37.7%増、営業利益52.4%増となり、全社の利益成長をけん引しています。
本記事では、決算数値の確認だけでなく、なぜ利益が伸びたのか、AIサーバー需要がどのようにICパッケージ基板へ波及するのか、大型設備投資やキャッシュフローをどう見るべきかまで掘り下げます。

イビデンの最新決算はどうだった?

結論から言えば、2027年3月期1Qは市場予想を大きく上回る好決算です。売上高は前年同期比26.4%増の1,232億円、営業利益は52.4%増の269億円、経常利益は57.8%増の275億円となりました。親会社株主に帰属する四半期純利益も40.8%増の179億円です。
| 項目 | 2027年3月期1Q | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,232億円 | +26.4% |
| 営業利益 | 269億円 | +52.4% |
| 営業利益率 | 21.8% | +3.7pt |
| 経常利益 | 275億円 | +57.8% |
| 親会社株主帰属純利益 | 179億円 | +40.8% |
| 1株利益(分割調整後) | 64.14円 | 前年45.59円 |
売上高は26.4%増、営業利益は52.4%増
今回の特徴は、増収率以上に利益が伸びたことです。売上高は前年同期から約258億円増えましたが、営業利益は約92億円増加し、営業利益率は18.1%から21.8%へ上昇しました。売上が増えただけでなく、利益率まで改善しているため、決算の「質」も強いと評価できます。
背景には、高採算の電子事業が大きく伸びたこと、大野事業場の生産が安定したこと、高付加価値製品の販売価格が高水準で推移したことがあります。円安も追い風でしたが、会社は上方修正理由として販売数量・製品価格・稼働率を明確に挙げています。
売上増に対して販管費の伸びは小さい
| 項目 | 前年1Q | 今回1Q |
|---|---|---|
| 売上高 | 975億円 | 1,232億円 |
| 売上総利益 | 351億円 | 449億円 |
| 売上総利益率 | 約36.0% | 約36.4% |
| 販管費 | 174億円 | 180億円 |
| 販管費率 | 約17.9% | 約14.6% |
売上高は約26%増えた一方、販売費及び一般管理費は174億円から180億円への増加にとどまりました。販管費率は約17.9%から14.6%へ低下しています。売上増加を既存の間接費構造で吸収できたことで、営業利益率が大きく改善しました。
製造業では、生産数量が増えて工場の稼働率が上がると、建物・設備・人員などの固定費をより多くの製品に配分できます。イビデンの1Qは、まさに数量増と稼働率改善によるオペレーティングレバレッジが働いた決算と考えられます。
1Q経常利益は市場コンセンサスを約39%上回った
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 1Q経常利益実績 | 274.7億円 |
| 決算前IFISコンセンサス | 198.0億円 |
| コンセンサス比 | 約38.7%上振れ |
決算前時点で市場もイビデンの好業績を期待しており、IFISの1Q経常利益コンセンサスは198億円でした。それでも実績は274.7億円となり、約39%上回っています。期待値が低かったために見栄えが良くなったのではなく、高い期待をさらに上回った点は今回の重要なポイントです。
市場予想との比較は集計日時や提供元によって変動しますが、少なくとも決算直前のIFISデータでは、1Qの利益は明確な上振れでした。
営業利益が52%増えた最大の理由は電子事業
全社業績をけん引したのは、生成AIサーバーなどに使われる高機能ICパッケージ基板を手掛ける電子事業です。電子事業の売上高は775億円、営業利益は214億円となり、前年同期比でそれぞれ37.7%増、52.4%増でした。
| 電子事業 | 前年1Q | 今回1Q | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 563億円 | 775億円 | +37.7% |
| 営業利益 | 140億円 | 214億円 | +52.4% |
| 営業利益率 | 24.9% | 27.6% | +2.7pt |
電子事業は全社売上高の約63%を占め、営業利益では約80%を稼ぎました。つまり、今回の「イビデン全体の好決算」は、かなりの部分が電子事業の成長によって説明できます。
AIサーバー向けICパッケージ基板が成長をけん引
ICパッケージ基板は、GPUやCPUなどの半導体チップとマザーボードを電気的・物理的につなぐ重要部品です。生成AI用GPUでは大量のデータを高速で処理する必要があり、チップ自体が大型化・高性能化するだけでなく、周辺のパッケージ基板にも高密度配線、高い信頼性、大型化・多層化への対応が求められます。
イビデンは、高性能サーバー向けICパッケージ基板を成長領域と位置付けています。会社の説明では、AIサーバー向けGPUの世代交代に伴って基板の大型化・多層化が進み、生産工程への負荷も増しているとされています。これは逆に言えば、製造難易度が上がるほど高い技術力と生産能力を持つメーカーの付加価値が高まりやすいことを意味します。
今回の1Qでは、生成AIサーバー向けだけでなく、データセンター向け汎用サーバー用の高機能ICパッケージ基板も堅調でした。AI用途に限定されず、サーバー市場全体の高性能化がイビデンの需要を押し上げています。
汎用サーバー向けも当初想定を上回った
上方修正資料で会社は、AIサーバー向け製品に加えて「汎用サーバー向け製品の需要も想定を上回った」と明記しています。これは業績の持続性を考えるうえで重要です。
AIサーバーだけが突出している場合、ハイパースケーラーのAI投資サイクルに業績が左右されやすくなります。一方、汎用サーバーにも需要回復が広がれば、成長の裾野は広くなります。
データ量の増大や省電力ニーズを背景に、サーバー全体で処理能力の高度化が求められています。AI投資に加えて企業・クラウド事業者の通常サーバー更新需要も取り込めれば、電子事業の高稼働を長く維持しやすくなります。
大野事業場の安定稼働で販売数量が増加
利益成長のもう一つの重要な要因が、大野事業場の安定稼働です。大野事業場は前年度に量産稼働を開始した新しい生産拠点で、1Qでは生産が安定的に推移しました。さらに、既存生産能力の有効活用も進んだことで、販売数量が会社の期初想定を上回っています。
新工場は立ち上げ初期に固定費や減価償却費の負担が先行しやすく、歩留まりや生産効率も既存工場より不安定になりがちです。量産が安定し、生産量が増えるほど固定費を吸収しやすくなるため、売上高以上に利益が伸びます。電子事業の営業利益率が24.9%から27.6%へ上がった背景には、この稼働率改善もあると考えられます。
高付加価値製品の販売価格も高水準
会社は上方修正理由として、高付加価値製品を中心に販売価格が高水準で推移したことも挙げています。AI向けGPUや高性能CPUに使われる基板は、一般的な製品より大型・多層で製造難易度が高くなります。単に生産数量が増えただけではなく、高付加価値品の構成比と価格の両方が利益を押し上げた点が重要です。
数量・稼働率・製品ミックス・価格のすべてが同じ方向に働いたことで、売上37.7%増に対して営業利益52.4%増という高い利益成長につながりました。
AIサーバー需要は今後も続く?
会社は2Q以降についても、AIサーバー向けと汎用サーバー向けの需要が堅調に推移すると予想しています。さらに、今後はスイッチIC向け製品の需要拡大も見込んでいます。
スイッチIC向けが新たな成長源になる可能性
AIデータセンターでは、GPUの演算性能だけでなく、GPU同士やサーバー同士を高速で接続するネットワーク性能が重要です。ネットワークスイッチに搭載される高性能スイッチICの処理能力も急速に高まっており、こうした高性能ICにも高度なパッケージ基板が必要になります。
イビデンは、AI GPU・CPUだけでなくスイッチIC向けの需要拡大まで見込んでいます。AIデータセンター投資の恩恵が「演算チップ」だけでなく「ネットワーク側」に広がれば、電子事業の需要源をさらに分散できます。
3年間で約5,000億円を電子事業へ投資
イビデンは2026年度から2028年度までの3年間で、電子事業に約5,000億円を投資する計画です。高性能サーバー向けICパッケージ基板の生産能力を拡大し、2027年度以降の需要を取り込む狙いがあります。
第1弾として河間事業場(Cell6)などを中心に約2,200億円を投じ、2027年度から順次量産を開始する計画です。会社は顧客と方向性を共有したうえで投資を進めており、大野事業場についても追加的な能力増強を検討しています。
この投資額の大きさは、会社が高性能ICパッケージ基板の需要を短期的なブームではなく、中長期の成長機会と見ていることを示します。既存能力だけでは取り切れない需要を新設備で取り込めれば、売上・利益のさらなる拡大につながります。
大型投資は成長機会である一方、最大のリスクでもある
ただし、大型設備投資は需要が想定どおり伸びることを前提とします。工場や製造装置は稼働後に減価償却費が発生するため、AIデータセンター投資が急減した場合や顧客の製品世代移行が遅れた場合には、稼働率低下と固定費増加が同時に利益を圧迫します。
そのため今後は、「設備投資額が大きいから危険」と見るのではなく、新設備がどの程度の稼働率で立ち上がり、高付加価値製品の受注をどこまで売上へ転換できるかを見ることが重要です。AIサーバーに加えて汎用サーバーやスイッチICへ需要源を広げられるかも、投資回収の確度を高める材料になります。
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| セラミック事業 | 前年1Q | 今回1Q | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 196億円 | 244億円 | +24.3% |
| 営業利益 | 21億円 | 32億円 | +53.6% |
| 営業利益率 | 10.7% | 13.2% | +2.5pt |
セラミック事業も1Qは売上高24.3%増、営業利益53.6%増と好調でした。ただし、電子事業とは異なり、会社は通期ではセラミック事業の営業減益を予想しています。1Qの数字をそのまま年間へ延長しないことが重要です。
DPFは一時的な受注増加が寄与
ディーゼル車の排ガス中の粒子状物質を除去するDPFは、一時的な受注増加と円安によって増収増益となりました。決算短信で会社自身が「一時的な受注の増加」と説明しているため、構造的な成長要因として強く評価しすぎるべきではありません。
特殊炭素製品は半導体製造装置需要が回復
特殊炭素製品(FGM)は、半導体市場の好調を背景に半導体製造装置向け売上が緩やかな回復基調となり、売上・利益ともに増加しました。ICパッケージ基板とは製品が異なりますが、半導体投資の回復がセラミック側にも波及していることが分かります。
EVバッテリー用安全部材も増収増益
EVバッテリー用安全部材(NEV)は販売・生産数量の増加により増収増益でした。イビデンは利益面では電子事業への依存度が高いものの、セラミック事業には自動車・半導体製造装置・EV関連など複数の需要源があります。
一方、AFPは資材価格高騰で減益
触媒担体保持・シール材(AFP)は自動車販売台数の回復で売上が増えましたが、資材価格の高騰によって営業利益は減少しました。数量が増えても原材料コストを吸収できなければ利益が伸びないため、セラミック事業では価格転嫁や原価改善も確認する必要があります。
| セラミック | 1Q実績 | 通期予想 |
|---|---|---|
| 売上成長率 | +24.3% | +1.8% |
| 営業利益成長率 | +53.6% | ▲15.0% |
通期予想では、セラミック事業の売上高は前期比1.8%増の840億円、営業利益は15.0%減の65億円です。1QにはDPFの一時的な受注増が含まれているため、会社も後半に反動が出る前提で見ていると考えられます。
通期業績予想を大幅に上方修正
| 項目 | 期初予想 | 修正後 | 増額率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 5,000億円 | 5,500億円 | +10.0% |
| 営業利益 | 900億円 | 1,270億円 | +41.1% |
| 経常利益 | 900億円 | 1,270億円 | +41.1% |
| 親会社株主帰属純利益 | 580億円 | 840億円 | +44.8% |
今回の決算で特にインパクトが大きいのが通期業績予想の上方修正です。売上高は10%の増額ですが、営業利益・経常利益は41.1%、純利益は44.8%も引き上げました。
売上以上に利益予想を大きく引き上げ
売上高の修正幅500億円に対し、営業利益は370億円も増額されています。会社は理由として、AIサーバー・汎用サーバー向けICパッケージ基板の需要上振れ、大野事業場と既存設備の活用による販売数量増、高付加価値製品の高い販売価格、円安を挙げています。
高収益の電子事業が想定以上に伸びることで、売上構成そのものが利益率の高い方向へ変化します。単なる為替前提の変更だけでは説明できない上方修正です。
修正後の会社予想は決算前コンセンサスも大幅に上回る
| 項目 | 決算前コンセンサス | 修正後会社予想 | 差 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 約5,187億円 | 5,500億円 | 約+6% |
| 営業利益 | 約1,029億円 | 1,270億円 | 約+23% |
| 経常利益 | 約1,032億円 | 1,270億円 | 約+23% |
| 純利益 | 約723億円 | 840億円 | 約+16% |
決算前のIFISコンセンサスでは、通期経常利益は1,031.8億円と、会社の期初予想900億円を大きく上回っていました。つまり市場はすでに会社計画より強気でした。それでもイビデンは今回、経常利益を1,270億円へ引き上げ、市場予想を約23%上回る水準まで会社計画を引き上げています。
前提から市場が強気だった企業では、「上方修正したか」だけでなく「上方修正後の数字が市場期待を超えたか」が重要です。今回のイビデンは、その点でもかなり強い内容でした。
第2四半期も高い利益水準が続く見通し
会社は上期予想も大幅に引き上げています。修正後の上期売上高は2,535億円、営業利益545億円、経常利益540億円、純利益340億円です。ここから1Q実績を差し引くと、Q2単独の会社計画を確認できます。
| 項目 | 1Q実績 | Q2単独計算値 | 前Q比 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,232億円 | 約1,303億円 | +5.7% |
| 営業利益 | 269億円 | 約276億円 | +2.8% |
| 経常利益 | 275億円 | 約265億円 | ▲3.4% |
| 純利益 | 179億円 | 約161億円 | ▲10.3% |
| 営業利益率 | 21.8% | 約21.2% | ▲0.6pt |
Q2は売上高・営業利益とも1Qを上回る計画で、営業利益率も21%台を維持する見通しです。会社は1Qの好調を一過性とは見ておらず、AIサーバー、汎用サーバー、スイッチIC向けの需要を背景に高い設備稼働率が続くと想定しています。
再上方修正につながる条件
- AIサーバー向けICパッケージ基板の需要が修正計画をさらに上回る
- 汎用サーバー市場の回復が加速する
- スイッチIC向け製品が想定以上のペースで立ち上がる
- 高付加価値製品の販売価格が高水準を維持する
- 大野事業場と既存設備が高稼働を維持する
- 為替が会社の通期前提より円安で推移する
- セラミック事業の通期減益幅が会社予想より小さくなる
逆に、AI設備投資の減速や高付加価値製品の価格低下、新工場の稼働率低下が起きれば、修正後予想の達成確度は下がります。次回決算では売上高だけでなく、電子事業の利益率を最優先で確認したいところです。
電子事業への利益依存度はさらに高まる
| 通期予想 | 金額 | 全社に占める割合 |
|---|---|---|
| 電子事業売上高 | 3,750億円 | 約68% |
| 全社売上高 | 5,500億円 | 100% |
| 電子事業営業利益 | 1,100億円 | 約87% |
| 全社営業利益 | 1,270億円 | 100% |
通期予想では、電子事業の売上高は3,750億円、営業利益は1,100億円です。全社売上の約68%、営業利益の約87%を電子事業が占める計算になります。前期比では電子事業営業利益が143.1%増となる見通しで、会社の利益成長はほぼ高機能ICパッケージ基板が中心です。
高収益事業に経営資源を集中することで利益率を大きく高められる一方、半導体サイクルや特定顧客の設備投資計画に対する感応度も高まります。今後はAIサーバー需要の有無だけでなく、汎用サーバー・スイッチIC・ASICなど新しい用途へ顧客基盤を広げられるかが重要です。
キャッシュフローは大幅改善したが、前受金の影響が大きい
| キャッシュフロー | 2027年3月期1Q |
|---|---|
| 営業キャッシュフロー | +959億円 |
| 投資キャッシュフロー | ▲161億円 |
| 単純差引フリーCF | 約+798億円 |
| 現金・現金同等物期末残高 | 3,705億円 |
営業キャッシュフローは959億円と、前年同期の約96億円から大幅に増加しました。投資キャッシュフローは161億円の支出だったため、営業CFから投資CFを単純に差し引いたフリーキャッシュフローは約798億円の黒字です。
営業CF急増の主因は前受金736億円増
| 項目 | 3月末 | 6月末 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 前受金 | 810億円 | 1,545億円 | +736億円 |
| 現金・預金 | 2,957億円 | 3,734億円 | +777億円 |
| 建設仮勘定 | 1,118億円 | 1,208億円 | +91億円 |
ただし、営業CFが急増した最大の理由は前受金です。キャッシュフロー計算書では前受金の増加が735.75億円の資金増加要因となっています。税前利益265億円や減価償却費176億円の増加も寄与しましたが、営業CF959億円を「本業利益だけで生み出した現金」と捉えるのは適切ではありません。
前受金は、製品・設備などの提供前に顧客から受け取った資金です。資金繰りにはプラスですが、将来の納入や契約履行に伴って売上へ転換される性質があります。今回の前受金増加は会社の受注・投資プロジェクトの進展を示す可能性がありますが、資料上で顧客や案件の内訳は示されていないため、AI基板関連と断定することは避けます。
今後は設備投資と減価償却費の増加にも注目
| 項目 | 1Q実績 | 通期計画 |
|---|---|---|
| 設備投資 | 201億円 | 2,100億円 |
| うち電子部門 | 172億円 | 2,000億円 |
| 減価償却費 | 176億円 | 810億円 |
1Qの設備投資額は201億円で、通期計画2,100億円に対する進捗率は約10%です。通期投資のうち2,000億円を電子部門に振り向ける計画であり、2Q以降に投資支出が大きく増える見通しです。
そのため、1Qのフリーキャッシュフロー約798億円をそのまま年間へ延長することはできません。今後は河間事業場などへの大型投資が本格化し、投資キャッシュフローの支出が増える可能性があります。
投資が利益へ変わるかが中長期の焦点
設備投資は成長のための支出なので、投資CFの赤字自体は悪材料ではありません。重要なのは、投資した設備が高い稼働率で立ち上がり、高付加価値のICパッケージ基板を生産して十分な利益を稼げるかです。
新設備が稼働すれば減価償却費も増加します。会社は2027年3月期の減価償却費を810億円と見込んでおり、1Qだけでも176億円を計上しています。今後は売上・営業利益だけでなく、電子事業の営業利益率、設備稼働率、ROICなどから投資効率を確認する必要があります。
決算の懸念点
AI・高性能サーバー向けへの利益依存度が高い
電子事業は高収益で成長性も高い一方、通期では全社営業利益の約87%を占める見通しです。AIデータセンター投資が減速した場合、全社利益への影響は大きくなります。
ただし、会社は汎用サーバーやスイッチIC向け需要も見込んでおり、「AI GPUだけの一本足」という状況ではありません。今後、用途・顧客の広がりを確認できれば、依存リスクを抑えながら成長を続けられる可能性があります。
巨額設備投資による固定費増加
2026〜2028年度に約5,000億円の電子事業投資を予定しているため、今後は減価償却費や固定費が増えます。
需要が強ければ高稼働で吸収できますが、需要が弱まると利益率が急低下しやすい構造です。新工場の立ち上げ時期と受注のタイミングがずれないかを確認する必要があります。
円安の追い風も含まれている
1Qの平均為替レートは1ドル158円、1ユーロ183円で、前年同期の1ドル145円、1ユーロ161円から円安が進みました。一方、通期予想の前提は1ドル152円、1ユーロ181円です。1Qは通期前提より円安だったため、為替も業績を押し上げています。
今回の上方修正は数量・販売価格・稼働率が主要因ですが、円高に振れれば為替の追い風は弱まります。決算を評価するときは、AI需要の強さと為替効果を分けて見る必要があります。
セラミック事業の1Q好調は一時要因を含む
セラミック事業は1Qで営業利益53.6%増でしたが、DPFには一時的な受注増が含まれ、AFPでは資材価格高騰が利益を圧迫しています。会社は通期営業利益を前期比15%減と予想しているため、セラミック事業を1Qの伸び率で年間評価しないことが重要です。
株式分割と配当はどうなった?
イビデンは決算と同時に、2026年10月1日を効力発生日とする1対2の株式分割も発表しました。株式分割そのものは業績を変えるものではありませんが、最低投資金額を引き下げ、投資家層の拡大と市場流動性の向上を図る目的です。
| 株式分割 | 内容 |
|---|---|
| 分割比率 | 1株→2株 |
| 基準日 | 2026年9月30日 |
| 効力発生日 | 2026年10月1日 |
| 分割前発行済株式数 | 281,944,019株 |
| 分割後発行済株式数 | 563,888,038株 |
イビデンは2026年1月1日にも1対2の株式分割を行っています。そのため、2025年末以前から継続保有している株主の場合、今回の分割まで含めると株数は分割前の4倍になります。
分割調整後では年間17.5円の配当予想
| 年度 | 分割調整後の年間配当 |
|---|---|
| 2026年3月期 | 15.0円 |
| 2027年3月期予想 | 17.5円 |
2回の株式分割を反映した基準では、2027年3月期の年間配当は17.5円相当で、前期15円から実質増配です。会社は配当性向20%を目安とし、原則として減配せず維持または増配する累進配当を採用しています。今回の株式分割に伴う配当方針の文言変更は、分割比率に合わせた調整であり実質的な方針変更ではありません。
次回決算はいつ?
次回は2027年3月期第2四半期(中間期)決算です。2026年8月4日時点で会社のIRカレンダーには正式な発表日はまだ掲載されていません。
前年の2Q決算は2025年10月30日に発表されているため、例年どおりであれば2026年10月末が有力ですが、正式な日時はイビデンのIRカレンダーで確認してください。
次回決算で確認したいポイント
- Q2単独売上高約1,303億円、営業利益約276億円を達成できるか
- 電子事業の営業利益率27%前後を維持できるか
- AIサーバー向けICパッケージ基板の需要が高水準を維持しているか
- 汎用サーバー向け需要の回復が続くか
- スイッチIC向け製品の需要がどの程度立ち上がっているか
- 大野事業場と既存設備の稼働率・生産効率が改善しているか
- 高付加価値製品の販売価格が高水準を維持しているか
- 前受金の増加が売上・キャッシュフローへどう転換するか
- 2Q以降の設備投資が計画どおり進んでいるか
- 減価償却費の増加を利益成長で吸収できているか
- 通期営業利益1,270億円を再び上方修正する余地があるか
- セラミック事業の通期減益幅が会社計画より改善するか

まとめ
イビデンの2027年3月期1Qは、売上高26.4%増、営業利益52.4%増となり、市場予想も大きく上回る好決算でした。特に電子事業は、生成AIサーバー・汎用サーバー向けの高機能ICパッケージ基板が好調で、大野事業場の安定稼働や高付加価値製品の高い販売価格も利益を押し上げています。
会社は通期営業利益予想を900億円から1,270億円へ41.1%引き上げました。決算前の市場コンセンサスは約1,029億円とすでに会社計画より強気でしたが、修正後会社予想はその市場予想も約23%上回っています。今回の上方修正は、単に会社の慎重な計画を修正しただけではなく、市場期待そのものを上回った点が大きなポイントです。
一方で、今後3年間に電子事業へ約5,000億円を投資するため、需要が弱まった場合の減価償却負担・稼働率低下リスクは大きくなります。1Qの営業キャッシュフロー急増も前受金の増加による影響が大きいため、今後は受注・前受金を実際の売上と利益へ転換できるかを確認する必要があります。
次回決算では、AIサーバー需要だけでなく、汎用サーバー・スイッチIC向けの需要拡大、大野事業場の高稼働、高付加価値製品の価格維持、設備投資の進捗を確認したいところです。これらが想定以上に進めば、通期業績の再上方修正も視野に入ります。
出典
イビデン株式会社「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」
https://www.ibiden.com/ir/news/financial/
イビデン株式会社「業績予想の修正に関するお知らせ」
https://www.ibiden.com/ir/news/financial/
イビデン株式会社「株式分割、株式分割に伴う定款の一部変更、転換価額の調整及び期末配当予想の修正並びに配当方針の変更に関するお知らせ」
https://www.ibiden.com/ir/news/financial/
イビデン株式会社「株式分割に関するよくあるご質問」
https://www.ibiden.com/ir/stock/
イビデン株式会社「Notice Regarding Capital Investment Plan for High-Performance IC Package Substrates」
https://www.ibiden.com/company/2026/02/notice-regarding-capital-investment-plan-for-high-performance-ic-package-substrates.html
イビデン株式会社「Top Message(高性能ICパッケージ基板・AIサーバー需要)」
https://www.ibiden.com/esg/message/
イビデン株式会社「IR Calendar」
https://www.ibiden.com/ir/calendar/
IFIS株予報「イビデン(4062)業績進ちょくと決算スケジュール」
https://kabuyoho.ifis.co.jp/index.php?bcode=4062&sa=report_chg
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