「投資の神様」と呼ばれるウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイは、2019年から三菱商事(8058)を含む日本の5大商社株を買い始めました。2020年には各社5%超の保有を公表し、その後も段階的に買い増しています。三菱商事については、2026年4月30日時点の大量保有報告書(株式を5%を超えて保有した投資家に提出が義務付けられる開示書類)で保有割合11.06%、保有株数4億1,033万9,800株まで増えています。
バフェット氏は「三菱商事だけ」を選んだわけではありません。バークシャーは伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、三井物産、住友商事の5社を一括して長期投資先と位置付けています。バフェット氏自身が株主向け書簡などで語った評価と、三菱商事の現在の事業・株主還元から読み取れる分析は分けて考える必要があります。なぜ買ったのか、保有状況がどう変化したのかを整理すると、バークシャーの投資判断を個人投資家がどう受け止めるべきかも見えてきます。
※本文は2026年9月4日時点で確認できるバークシャー・ハサウェイの開示資料、三菱商事の会社開示、SEC提出書類などを基準にしています。
▼公式サイトはこちらバフェットはなぜ三菱商事株を買った?

投資開始時にバフェット氏が明確に述べているのは、5大商社の財務記録を確認し、株価の低さに驚いたことです。その価格水準に投資機会を見いだしたことが、投資の出発点だったと考えられます。その後、資本配分、経営陣、株主への姿勢、増配や自社株買いといった還元策への評価が高まり、保有を拡大してきました。
2025年に公表されたバークシャーの株主向け書簡で、バフェット氏は2019年7月に5大商社を買い始めた際、各社の財務記録を確認し、株価の低さに驚いたと振り返っています。さらに時間の経過とともに評価が高まり、資本配分、経営陣、投資家に対する姿勢を好意的に見ていると説明しました。
| 評価ポイント | バークシャー側の説明 |
|---|---|
| 割安な株価 | 財務記録を確認し、株価の低さに驚いたと説明 |
| 資本配分 | 利益をどこへ投資し、どこまで株主へ返すかという判断を評価 |
| 株主還元 | 必要に応じた増配や、合理的な価格での自社株買いを評価 |
| 経営陣・投資家への姿勢 | 経営陣と投資家への向き合い方を高く評価 |
| 多角的な事業構造 | 5大商社は多くの事業を持ち、バークシャーに似た特徴があると説明 |
「高配当だから買った」「資源価格が上がると読んだから買った」と一つの理由に絞るのは正確ではありません。少なくとも本人発言から確認できるのは、割安さを入口に、資本配分や経営陣、株主還元など企業経営全体への評価へつながったという流れです。
バークシャーは三菱商事株をどれくらい持っている?
2026年9月時点で確認できる直近の大量保有報告書では、バークシャーの完全子会社National Indemnity Company(ナショナル・インデムニティー・カンパニー)が、三菱商事株を4億1,033万9,800株保有しています。報告義務発生日は2026年4月30日で、株券等保有割合は11.06%です。保有目的は「純投資」(経営支配を目的とせず、投資収益を目的とする保有)とされています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 保有主体 | National Indemnity Company(Berkshire Hathawayの完全子会社) |
| 報告義務発生日 | 2026年4月30日 |
| 保有株数 | 410,339,800株 |
| 株券等保有割合 | 11.06% |
| 直前の報告割合 | 9.67% |
| 保有目的 | 純投資 |
「11.06%」をリアルタイムの保有割合と断定することはできません。大量保有報告書は一定の変動が生じた際に提出されるもので、その後に報告義務が生じない範囲で売買されている可能性があります。最新の保有状況を確認する際は、直近の大量保有報告書を確認する必要があります。
11.06%への上昇は買い増しだけが理由ではない
2026年4月30日の変更報告書では、保有株数そのものが前回報告時の3億8,904万3,900株から4億1,033万9,800株へ増えています。バークシャー側が実際に追加取得したことは確認できます。報告書には2026年4月20日以降の市場内取得も記載されています。
一方、同じ2026年4月30日に三菱商事が自己株式3億1,839万7,611株を消却し、発行済株式総数が減ったことも保有割合を押し上げています。9.67%から11.06%への上昇をすべて「バークシャーが1.39ポイント分買い増した」と捉えるのは正確ではありません。実際の買い増しと、三菱商事側の自己株消却による分母減少の両方が影響しています。
バフェットによる三菱商事株投資の推移
バークシャーの商社株投資は一度に大きく買ったのではなく、数年かけて段階的に拡大しています。三菱商事について確認できる主な推移は次のとおりです。
| 時点 | 保有割合・状況 | 主な出来事 |
|---|---|---|
| 2019年7月ごろ | 購入開始 | 5大商社株の取得を開始 |
| 2020年8月 | 5.04% | 5大商社で5%超の保有を公表 |
| 2022年11月 | 6.59% | 追加取得により保有拡大 |
| 2023年6月 | 8.31% | 保有比率をさらに引き上げ |
| 2025年3月 | 9.67% | 当初の9.9%上限に接近 |
| 2025年8月 | 議決権比率10.23% | 10%を超え「主要株主」に該当(筆頭株主の地位はそれ以前から) |
| 2025年12月末 | 10.8% | バークシャー年次報告書で公表 |
| 2026年4月末 | 11.06% | 大量保有報告書で4億1,033万9,800株を保有 |
各資料では「株券等保有割合」「議決権比率」「Percentage of Company Owned」など算定基準が異なるため、単純に同一系列の数字として扱うには注意が必要です。大きな流れとして、バークシャーが5大商社への投資を短期売買ではなく長期保有として積み上げてきたことは明確です。
バフェットが5大商社を評価した5つの理由
① 財務内容に対して株価が安かった
最も明確な出発点が割安さです。バフェット氏は2019年に5大商社の財務記録を見て、株価の低さに驚いたと説明しています。商社株は長年、資源価格への依存や複雑な事業構造などから低い評価倍率に置かれやすい銘柄群でした。バークシャーは、その価格と企業価値の差に投資機会を見いだしたとみられます。
これは2019年当時の評価です。その後、商社株は大幅に上昇しています。2025年末時点でバークシャーが保有する三菱商事株の時価は取得原価の2倍を超えており、現在の投資家が同じ価格条件で買えるわけではありません。
② バークシャーと似た多角的な事業構造
バフェット氏は5大商社について、多数の異なる事業を持つ点でバークシャーと似ていると説明しています。バークシャーも保険、鉄道、電力、製造、サービス、小売など幅広い事業を傘下に持つ複合企業です。
三菱商事も天然ガス、金属資源、自動車・モビリティ、食品、電力、インフラ、コンシューマー関連など多様な事業を展開しています。一つの製品だけで稼ぐ会社ではなく、複数事業からキャッシュフローを生み、その資金を次の投資へ再配分する構造は、バークシャーの投資哲学と相性が良いと考えられます。
③ 資本配分を高く評価
バークシャーが繰り返し重視しているのが資本配分です。企業が稼いだ現金を、既存事業への再投資、新規投資、M&A、配当、自社株買いのどこへ振り向けるかによって、長期の1株価値は大きく変わります。
2024年の株主向け書簡で、バフェット氏は5大商社の資本配分を好意的に評価しています。単に利益が大きい企業ではなく、得た利益をどう使うかまで含めて評価している点は、商社株投資を理解するうえで重要です。
④ 増配・自社株買いなど株主還元に積極的
バフェット氏は、5大商社が適切な場合に配当を増やし、自社株買いが合理的なときには株式を買い戻している点にも言及しています。自社株買いは株価が企業価値より低いときに行えば、残る株主の1株価値を高める効果が期待できます。
三菱商事も累進配当を掲げ、2025年4月から2026年3月には約1兆円の自己株式取得を実施しました。こうした現在の還元姿勢は、バークシャーが5大商社について評価してきた資本配分の方向性と重なります。三菱商事の現在の個別施策をバフェット氏が一つずつ評価したとする発言があるわけではありません。
⑤ 経営陣と投資家への姿勢を評価
バフェット氏は、5社の経営陣と投資家への姿勢も評価しています。米国企業と比べて経営トップの報酬が過度に膨らんでいない点にも触れています。バークシャーは企業文化や経営者の資本配分能力を重視するため、この点も長期保有を続ける理由の一つと考えられます。
バークシャーの評価軸から見た三菱商事の特徴
次のポイントは、バフェット氏本人が「三菱商事についてこの点が決め手だった」と明言した内容ではありません。三菱商事の現在の事業や株主還元を、バークシャーが5大商社全体に示している評価軸と照らして考えたものです。
天然ガス・金属資源から非資源まで収益源が広い
三菱商事はLNG(液化天然ガス)を中心とする天然ガス、銅や原料炭などの金属資源に加え、自動車、食品、電力、インフラ、コンシューマー領域まで事業を展開しています。資源価格の影響を大きく受ける会社である一方、非資源分野にも幅広い事業基盤を持つ点が特徴です。
大きなキャッシュフローを投資と還元へ配分できる
三菱商事は「経営戦略2027」で大型投資を進めながら、累進配当と機動的な自己株式取得を組み合わせる方針です。2027年3月期は純利益1兆1,000億円を見込み、年間配当は125円を予定しています。大きなキャッシュフローを成長投資と株主還元の双方へ振り向けられることは、長期投資家にとって重要な評価材料です。
自社株買いを実際に大規模実施している
三菱商事は2025年4月から2026年3月までに約1兆円の自己株式取得を実施し、取得した3億1,839万7,611株を2026年4月30日に全株消却しました。一般に、株価が企業価値を下回る局面で自社株買いを行うことは、残る株主の1株当たり価値を高める資本配分になり得ます。こうした考え方はバークシャー自身も重視しています。
バークシャーの商社株投資を支える円建て資金調達
バークシャーの日本商社株投資を考えるうえでは、企業選びだけでなく資金調達方法も重要です。バークシャーは日本で円建て債を発行し、商社株の取得原価とおおむね同規模の円建て負債を持つことで、円建て資産と円建て負債を対応させています。
2025年末時点では、日本への投資原価におおむね相当する金額を円で借り入れ、平均調達コストは約1.2%でした。2024年の株主向け書簡では、2025年に5大商社から受け取る配当を約8.12億ドル、円建て債務の利払いを約1.35億ドルと見込んでおり、配当収入が利払いを大きく上回る構造を示していました。
円建て調達にも、商社株の価格下落、配当減少、金利上昇などのリスクがあります。円建て調達はバークシャー側の投資設計の話であり、三菱商事そのものの企業価値とは分けて考える必要があります。
バークシャーは三菱商事投資でどれくらい利益が出ている?
2025年末時点のバークシャー年次報告書では、三菱商事株の取得原価は42.48億ドル、時価は92.07億ドルでした。時価は取得原価の約2.17倍で、単純差額は約49.59億ドルです。2025年には三菱商事から2.73億ドルの配当を受け取っています。
| 2025年12月31日時点 | 三菱商事 |
|---|---|
| バークシャーの保有割合 | 10.8% |
| 取得原価 | 42.48億ドル |
| 時価 | 92.07億ドル |
| 時価-取得原価 | 約49.59億ドル |
| 2025年受取配当 | 2.73億ドル |
時価と取得原価の差は含み益であり、すべて確定利益になったわけではありません。バークシャーは円建て負債も組み合わせているため、投資全体の損益を三菱商事株の値上がりだけで評価することもできません。
それでも、取得原価から大きく上昇した後も追加取得しており、投資開始時の持ち分を単に維持しているわけではありません。
なぜ三菱商事株を10%以上まで保有するようになった?
2020年に5大商社への投資を公表した際、バークシャーは各社の保有割合を9.9%までに抑え、それを超えて取得する場合は投資先企業の取締役会から承認を得ると説明していました。
その後、保有比率が上限へ近づく中で、5社は保有上限を緩やかに引き上げることに同意しました。バフェット氏も2024年の株主向け書簡で、今後5社への保有が少しずつ増える可能性を示していました。実際に三菱商事では2025年8月に議決権比率が10%を超え、2026年4月の大量保有報告書では株券等保有割合11.06%となっています。
保有目的は現在も「純投資」です。10%を超えたことだけを根拠に、バークシャーが三菱商事の経営支配や買収を狙っていると考えるのは飛躍があります。バークシャー自身は長期保有と取締役会の支援、将来的な協業機会への期待を繰り返し示しています。
▼公式サイトはこちらバフェット退任後も三菱商事株を持ち続ける?
バークシャーでは2026年1月1日、グレッグ・アベル氏がCEOに就任し、バフェット氏はCEOを退任して取締役会議長に残りました。今後の商社株投資を「バフェット個人の投資」とだけ捉えることはできません。
実際、アベルCEOは2026年9月のインタビューでも、日本の5大商社への長期的なコミットメントを改めて示しています。バークシャーは各商社への保有を10%超へ拡大しており、今後も長期投資として維持する姿勢です。
バフェット氏自身もCEO交代前から、アベル氏やその後の経営陣が日本の商社株を何十年にもわたって保有すると予想していました。三菱商事への投資はバフェット氏個人の判断に依存したものではなく、バークシャー全体の長期的な資本配分戦略として引き継がれていることが確認できます。アベルCEOは2026年9月2日のインタビューでも、5大商社を今後何十年も保有する長期投資であると改めて説明し、現在は5社すべてで10%超を保有していることも明らかにしています。
バークシャーの買い増しで三菱商事の株価は上がった?
2026年5月12日15時32分、National Indemnity Companyによる三菱商事株11.06%保有の変更報告書が提出されました。東京市場の取引終了後の開示です。翌5月13日の三菱商事株は、前日終値5,500円から5,864円へ上昇し、前日比6.6%高となりました。出来高も約1,694万株まで膨らんでいます。
バークシャーの追加保有が株価材料の一つになった可能性がありますが、6.6%の上昇すべてをこの材料だけに帰属させることはできません。5月12日にも株価は4.7%上昇しており、当時の業績見通しや商社株全体の需給など他の要因も株価に影響します。
バークシャーの買い増しは三菱商事株にとって評価材料の一つですが、恒久的に株価を押し上げる保証ではありません。長期では最終的に利益、キャッシュフロー、資本配分が株価を左右します。
バフェットが持っているなら三菱商事株を買うべき?
バークシャーが11%前後まで保有を増やしている事実は、三菱商事に対する長期的な評価を考えるうえで無視できない材料です。「バフェットが買ったから自分も買う」という判断だけでは不十分です。
第一に、バークシャーが投資を始めた2019年と現在では株価水準が大きく違います。2025年末にはバークシャーの三菱商事株の時価が取得原価の2倍を超えていました。バフェット氏が「株価が安い」と感じた当時と同じ割安さが現在も残っているとは限りません。
第二に、バークシャーには円建てで低コストの長期資金を調達し、巨大なポートフォリオの一部として保有できるという個人投資家にはない条件があります。投資期間、資金調達、税制、投資規模も異なります。
三菱商事株を検討する場合は、バークシャーの保有を評価材料の一つとしつつ、現在のPER(株価収益率)・PBR(株価純資産倍率)・配当利回り、利益成長、全社のキャッシュ創出力、成長投資、自社株買いなどを改めて確認することが重要です。
- バークシャーの保有拡大は長期評価のプラス材料
- ただし2019年当時と現在では株価水準が違う
- バフェット本人の取得価格を自分の買値として再現することはできない
- 最終的には現在の業績・還元・株価指標で判断する
まとめ|バークシャーは三菱商事を長期投資先として高く評価
バークシャーが三菱商事を含む5大商社へ投資した出発点は、財務記録を確認し、株価の低さに驚いたことでした。その後、バフェット氏は5社の資本配分、経営陣、投資家への姿勢、増配や自社株買いを高く評価し、保有を段階的に拡大してきました。
三菱商事については、2026年4月30日時点の大量保有報告書でNational Indemnity Companyの保有株数が4億1,033万9,800株、株券等保有割合が11.06%となっています。保有割合の上昇には実際の追加取得に加え、三菱商事自身の自己株消却による発行済株式数の減少も影響している点には注意が必要です。
2026年からCEOとなったグレッグ・アベル氏も日本の5大商社への長期投資姿勢を維持しています。バークシャーの保有は三菱商事への評価材料ですが、その事実をそのまま買いシグナルにすることはできません。現在の株価水準と業績、キャッシュフロー、配当、自社株買いを確認したうえで、自分の投資条件に合うかを判断する必要があります。
▼公式サイトはこちら出典
Berkshire Hathaway「Berkshire Hathaway acquires 5% passive stakes in each of five leading Japanese trading companies」
https://www.berkshirehathaway.com/news/aug3020.pdf
Berkshire Hathaway「2023 Shareholder Letter」
https://www.berkshirehathaway.com/letters/2023ltr.pdf
Berkshire Hathaway「2024 Shareholder Letter」
https://www.berkshirehathaway.com/letters/2024ltr.pdf
Berkshire Hathaway「2025 Shareholder Letter / Annual Report」
https://www.berkshirehathaway.com/letters/2025ltr.pdf
三菱商事「主要株主である筆頭株主の異動に関するお知らせ」
https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/news/release/2025/20250828002.html
M&A Online「National Indemnity Companyによる三菱商事の変更報告書」(2026年5月12日)
https://maonline.jp/db/shareholding_reports/S100Y33F
IRBANK「National Indemnity Companyの三菱商事保有割合」
https://irbank.net/E02529/share?e=E35979
SEC「Berkshire Hathaway 2025 Form 10-K」
https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1067983/000119312526083899/brka-20251231.htm
Reuters「Berkshire CEO Abel says AI to help power growth」
トレーダーズ・ウェブ「三菱商事 時系列」
https://traders.co.jp/stocks/61_8058/historical/2
三菱商事「株主還元・配当」
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