海運大手3社(日本郵船・商船三井・川崎汽船)の2025年3月期決算を比較|収益性、財務状況、株主還元、今期見通しは?

日本の海運業界を牽引する大手3社、日本郵船、商船三井、川崎汽船の2025年3月期(2024年度)の決算が出揃いました。
コロナ禍以降のコンテナ船市況の活況を受け、3社ともに高い利益水準を記録した一方、来期(2026年3月期)は市況の落ち着きを背景に減益を見込むなど、事業環境は変化の局面を迎えています。

本記事では、3社の決算内容を多角的に比較・分析し、各社の強みや今後の見通し、そして株式投資の観点からのポイントを解説します。投資判断の一助として、ぜひご活用ください。

目次

海運大手3社の業績・各指標ランキング形式で比較

まずは、2025年3月期の業績や各種指標をランキング形式で見ていきましょう。各社の立ち位置を大まかに把握することができます。

2025年3月期 売上ランキング

順位企業名売上高
1位日本郵船2兆5,887億円
2位商船三井1兆7,754億円
3位川崎汽船1兆479億円

2025年3月期 経常利益ランキング

順位企業名経常利益
1位日本郵船4,908億円
2位商船三井4,197億円
3位川崎汽船3,080億円

自己資本比率ランキング(2025年3月末)

順位企業名自己資本比率
1位川崎汽船74.6%
2位日本郵船67.6%
3位商船三井53.9%

ROEランキング(2025年3月期)

順位企業名ROE
(自己資本当期純利益率)
1位川崎汽船18.8%
2位日本郵船17.2%
3位商船三井16.9%

営業利益率ランキング(2025年3月期)

順位企業名営業利益率
1位川崎汽船9.8%
2位商船三井8.5%
3位日本郵船8.1%

株価の割安性ランキング(2025年6月20日終値基準)

※PER(株価収益率)が低い順にランキングしています。

順位企業名PER
1位商船三井4.06倍
2位川崎汽船4.40倍
3位日本郵船4.72倍

今期(2026年3月期)業績見通しランキング

※経常利益の予想額でランキングしています。

順位企業名経常利益(見通し)
1位日本郵船2,550億円
2位商船三井1,500億円
3位川崎汽船1,050億円

今期(2026年3月期)配当利回りランキング

※株価は6/20の終値で利回りを計算しています。

順位企業名配当利回り(見通し)
1位川崎汽船5.93%
2位日本郵船4.65%
3位商船三井3.12%

海運大手3社の2025年3月期業績を比較

2025年3月期(2024年度)の業績は、3社とも増収増益となり、好調な結果となりました。

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項目日本郵船商船三井川崎汽船
売上高2兆5,887億円1兆7,754億円1兆479億円
経常利益4,908億円4,197億円3,080億円
親会社株主に帰属する
当期純利益
4,777億円4,254億円3,053億円

売上高、経常利益ともに日本郵船が他2社を大きく上回る結果となりました。
これは、事業規模の大きさに加え、3社が共同出資するコンテナ船事業会社「Ocean Network Express (ONE)」の業績が好調であったことが大きく寄与しています。

ONE社の利益は各社の持分に応じて経常利益に計上されるため、利益を大きく押し上げる要因となりました。

海運大手3社の2025年3月期末財務状況の比較

次に、企業の安定性を示す財務状況を見ていきましょう。

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項目日本郵船商船三井川崎汽船
総資産4兆3,202億円4兆9,844億円2兆2,100億円
純資産2兆9,699億円2兆7,242億円1兆6,774億円
自己資本比率67.6%53.9%74.6%

総資産では商船三井が最も大きいですが、財務の健全性を示す自己資本比率では川崎汽船が74.6%と最も高く、次いで日本郵船が67.6%となっています。
一般的に自己資本比率が高いほど、借入金への依存度が低く、経営の安定性が高いと評価されます。

川崎汽船と日本郵船は、非常に健全な財務体質であると言えます。

海運大手3社の収益性の比較

どれだけ効率的に利益を上げているかを示す収益性の指標を比較します。

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項目日本郵船商船三井川崎汽船
ROE
(自己資本当期純利益率)
17.2%16.9%18.8%
ROA
(総資産経常利益率)
11.5%9.2%14.3%
EPS
(1株当たり当期純利益)
1,070.32円1,186.60円460.11円
営業利益率8.1%8.5%9.8%

株主の投資額に対してどれだけ利益を生み出したかを示すROEは、3社とも15%を超える高い水準ですが、中でも川崎汽船が18.8%と最も高くなっています。

また、営業利益率も川崎汽船が9.8%でトップであり、資本を効率的に活用し、本業でしっかりと利益を上げていることがうかがえます。

海運大手3社の株価の割安性の比較

現在の株価が企業の利益や資産に対して割安か割高かを示す指標です。

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項目日本郵船商船三井川崎汽船
PER
(株価収益率)
4.72倍4.06倍4.40倍
PBR
(株価純資産倍率)
0.75倍0.63倍0.78倍
(注)2025年6月20日終値で算出

PERは企業の利益に対して株価が何倍か、PBRは純資産に対して株価が何倍かを示します。
一般的に、PERは15倍、PBRは1倍が目安とされます。(ただし、業種によって水準が大きく異なるため、同業他社と比較するのが望ましいです

3社ともこれらの目安を大きく下回っており、株価は「割安」な水準にあると判断できます。

特に商船三井はPERが4.06倍、PBRが0.63倍と、3社の中で最も割安な指標となっています。

海運大手3社の株主還元の比較

3社とも好調な業績を背景に、配当や自社株買いといった株主還元に積極的な姿勢を示しています。

配当金の比較

2025年3月期の実績配当金は以下の通りです。

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項目日本郵船商船三井川崎汽船
2025年3月期
年間配当金
325円360円100円

自社株買いの比較

各社の自己株式取得の状況です。

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企業名取得金額
(上限)
取得枠の発行済株式
総数に対する割合
備考
日本郵船1,500億円11.1%2025年5月9日~2026年4月30日の期間で新たに設定。
商船三井1,000億円2024年11月~2025年10月の期間で実施中。
川崎汽船500億円以上を検討2025年度から機動的な追加還元として検討。

日本郵船は、2023年度以降に約3,300億円の自社株買いを実施した上で、新たに1,500億円という大規模な取得枠を設定しており、株主還元への強い意欲が見られます。

自社株買いは1株当たりの価値向上につながるため、株主にとってポジティブな材料です。

海運大手3社の今期(2026年3月期)見通しの業績について比較

今期の業績は、3社とも前期の好調から一転して大幅な減益を見込んでいます。これは主に、コンテナ船市況がピークアウトし、落ち着きを取り戻すことが要因です。

業績の比較

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項目日本郵船商船三井川崎汽船
売上高見通し(前期比)2兆3,800億円 (-8.1%)1兆7,000億円 (-4.3%)9,500億円 (-9.3%)
経常利益見通し(前期比)2,550億円 (-48.1%)1,500億円 (-64.3%)1,050億円 (-65.9%)
当期純利益見通し(前期比)2,500億円 (-47.7%)1,700億円 (-60.0%)1,000億円 (-67.3%)

配当見通しの比較

減益予想の中でも、各社は株主還元を重視する姿勢を崩していません。

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項目日本郵船商船三井川崎汽船
今期年間配当見通し235円150円120円
配当利回り(6/20終値)4.65%3.12%5.93%

配当利回りでは、川崎汽船が5.93%と非常に高い水準にあります。
日本郵船も、減益予想にもかかわらず配当性向を30%から40%へ、下限配当を100円から200円へと引き上げる方針を発表しており、安定した株主還元を目指す姿勢が明確です。

海運大手3社に株式投資をする上でのポイントは?

これまでの比較を踏まえ、投資スタイル別に各社の魅力をまとめました。

  • 業績が良い企業に投資するなら?
    日本郵船が選択肢となります。2025年3月期の実績、2026年3月期の見通しともに、売上・利益の絶対額で他社を圧倒しています。
    バランスの取れた事業ポートフォリオと業界トップの規模が魅力です。
  • 配当利回りで選ぶなら?
    川崎汽船が最も魅力的です。今期見通しの配当利回りは5.93%と高水準です。
    安定したインカムゲインを狙う投資家に向いています。
  • 株価の割安感を重視するなら?
    商船三井に注目です。PER、PBRともに3社の中で最も低い水準にあり、株価の割安感が際立っています。
    今後の業績回復や市況の変化によって、株価が見直される可能性があります。
  • 資本効率を重視するなら?
    川崎汽船が優れています。
    ROEは18.8%と3社の中で最も高く、株主資本を効率的に使って利益を上げていることが示されています。

決算から分かる各社の強みは?

最後に、各社の強みをまとめていますので、今後の投資判断の参考にしてください。

日本郵船:業界のリーダーとしての総合力と株主還元

日本郵船の強みは、その圧倒的な事業規模とバランスの取れたポートフォリオにあります。

LNG船や自動車船といった安定収益事業を中核に据えつつ、新規事業への投資も積極的に行っています。

また、総額4,800億円を超える大規模な自己株式取得計画など、株主還元への強いコミットメントも大きな特徴です。

商船三井:多角化によるポートフォリオ変革

商船三井は、ドライバルクやエネルギーといった伝統的な海運事業に強みを持つ一方、不動産事業などの非海運事業にも力を入れ、市況変動に強い事業ポートフォリオの構築を進めています。

経営計画「BLUE ACTION 2035」では、2035年に向けて海運と非海運の資産比率を60:40にすることを目指しており、長期的な安定成長が期待されます。

川崎汽船:高い収益性と健全な財務基盤

川崎汽船は、高い資本効率(ROE)と自己資本比率が示す通り、収益性と財務健全性を両立している点が強みです。

中計では鉄鋼原料、自動車船、LNG輸送船を「成長を牽引する役割」と位置づけ、これらの分野への投資を強化しています。

株主還元も積極的で、特に今期の配当利回りの高さは魅力的です。

まとめ

海運大手3社は、2025年3月期にコンテナ船市況の恩恵を受けて好決算を達成しました。
しかし、今期(2026年3月期)は市況の正常化により、3社そろって大幅な減益を見込んでいます。

一方で、各社は財務基盤を強化し、積極的な株主還元策を打ち出しています。
また、脱炭素化という大きな潮流を捉え、LNG燃料船やアンモニア燃料船、洋上風力発電支援船といった次世代の成長分野への投資を加速させています。

短期的な業績変動は避けられないものの、中長期的な視点で見れば、各社はそれぞれの強みを生かした成長戦略を描いています。
投資を検討する際は、本記事で比較した「規模の日本郵船」「多角化の商船三井」「高収益の川崎汽船」といった各社の特徴と、ご自身の投資スタイルを照らし合わせて判断することが重要となるでしょう。

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