多くの人が一度は利用したことがあるであろう「ミスタードーナツ」や、家庭・事業所向けの清掃用品レンタルサービスで知られる株式会社ダスキン。
同社が2025年5月に発表した2025年3月期の決算は、増収増益という好調な結果となりました。
本記事では、ダスキンの最新の連結決算内容からセグメント別の詳細な業績、財務状況、そして今後の事業戦略や株価への影響まで、公式資料を基に徹底的に解説していきます。
ダスキンの2025年3月期における連結決算の振り返り
2025年3月期のダスキンの連結決算は、売上高・各利益ともに前期を上回る結果となりました。
特に親会社株主に帰属する当期純利益は前期比で91.9%増と大幅な伸びを記録しています。
項目 | 2025年3月期実績 | 2024年3月期実績 | 前期比 |
---|---|---|---|
売上高 | 1,887億9,100万円 | 1,787億8,200万円 | +5.6% |
営業利益 | 72億6,800万円 | 50億8,400万円 | +43.0% |
経常利益 | 106億9,700万円 | 78億7,800万円 | +35.8% |
親会社株主に帰属する 当期純利益 | 88億800万円 | 45億8,900万円 | +91.9% |
この好調な業績は、フードグループが大幅な増収を達成したほか、全てのセグメントで増収となったことが大きな要因です。
増収に伴う売上総利益の増加に加え、マット・モップへのRFID(電子タグ)取り付けが前期中にほぼ完了したことによる原価率の改善も利益を押し上げました。
また、政策保有株式の売却を進めたことによる投資有価証券売却益の計上も、純利益の大幅な増加に寄与しています。
ダスキンの2025年3月期セグメント別の業績
ダスキンは事業を「訪販グループ」「フードグループ」「その他」の3つのセグメントに分けて報告しています。
当期は全てのセグメントで増収を達成しました。
セグメント | 売上高 | 営業利益 |
---|---|---|
訪販グループ | 1,084億3,800万円 (前期比+0.9%) | 57億2,100万円 (前期比+38.1%) |
フードグループ | 667億4,700万円 (前期比+14.2%) | 85億5,600万円 (前期比+23.7%) |
その他 | 164億8,600万円 (前期比+5.4%) | 5億1,100万円 (前期比+16.0%) |
訪販グループ
訪販グループは、清掃・衛生用品のレンタルや家事代行サービスなどを展開する事業です。
売上高は、主力のクリーンサービス事業が減収となったものの、ケアサービス事業などが伸びたことで、全体として前期比0.9%の増収となりました。
営業利益は、原材料費の高騰などのマイナス要因があったものの、前期中にほぼ完了したRFID関連の原価が25億円減少したことや、インボイス対応などのシステム費用が8億円減少したことなどにより、前期比38.1%の大幅な増益を達成しました。
- クリーンサービス事業
家庭向け、事業所向けともに減収となりました。
家庭向けでは、営業専任組織の活動やデジタル施策により新規顧客獲得は進み、顧客数の減少幅は縮小しています。 - ケアサービス事業
「サービスマスター」(プロのお掃除)や「メリーメイド」(家事代行)などにおいて価格改定の効果もあり、お客様売上は増加しました。 - その他事業
イベント需要の増加でレントオール事業が増収となったほか、ヘルスレント事業(介護用品レンタル)やレスキューサービス事業(鍵のトラブル対応)なども増収となりました。
フードグループ
フードグループは、ミスタードーナツを中心とした飲食事業です。
売上高は、主力のミスタードーナツが引き続き好調だったことに加え、前期に子会社化したイタリアンレストラン「ナポリの食卓」などを展開する株式会社ボストンハウスの売上が加わったことで、前期比14.2%の大幅な増収となりました。
営業利益も、増収に伴う粗利の大幅な増加(21億円)や、ミスタードーナツの原価率改善(7億円)により、人件費や支払手数料の増加を吸収し、前期比23.7%の増益となりました。
- ミスタードーナツ
商品リニューアルや価格改定を行いましたが、来店客数・客単価ともに前期を上回り、お客様売上は全店ベースで9.3%増加しました。期間限定商品も好調に推移しました。 - ボストンハウス
主力業態「ナポリの食卓」はセットメニューの価格改定などにより、売上は前期を上回りました。 - かつアンドかつ
一部メニューの価格改定により、売上は前期を上回りました。
その他
「その他」セグメントには、海外事業やダスキンヘルスケアなどの国内子会社が含まれます。
売上高は、国内子会社、海外事業ともに前期を上回り、全体で5.4%の増収となりました。
営業利益も、ダスキン共益が増収増益となったことなどから、16.0%の増益を達成しています。
- 海外事業
中国やマレーシアの事業が円安効果で増収となったほか、シンガポールと香港で展開するミスタードーナツが好調で、国内からのドーナツ原材料売上が大きく増加しました。
ダスキンの2025年3月期末財務状況について
2025年3月期末のダスキンの財務状況は以下の通りです。
項目 | 2025年3月期末 | 2024年3月期末 | 前期末比増減 |
---|---|---|---|
総資産 | 2,033億1,800万円 | 2,020億9,400万円 | +12億2,300万円 |
純資産 | 1,515億4,200万円 | 1,544億6,800万円 | △29億2,600万円 |
自己資本比率 | 74.4% | 76.3% | △1.9ポイント |
有利子負債 | 2億2,000万円 | 9億1,600万円 | △6億9,600万円 |
総資産は前期末から微増となりました。
政策保有株式の一部売却により投資有価証券が43億6,700万円減少した一方で、現金及び預金が36億6,100万円増加しています。
純資産は、配当金の支払いや自己株式の取得などを実施した結果、利益剰余金が減少し、全体としても29億2,600万円の減少となりました。
自己資本比率は74.4%と、引き続き高い水準を維持しています。
キャッシュフローの状況
当期のキャッシュフローの状況は以下の通りです。
項目 | 2025年3月期 | 2024年3月期 | 前期比増減 |
---|---|---|---|
営業活動によるCF | 166億8,300万円 | 110億9,300万円 | +55億8,900万円 |
投資活動によるCF | △50億7,400万円 | △166億400万円 | +115億3,000万円 |
財務活動によるCF | △107億5,300万円 | △57億4,300万円 | △50億900万円 |
現金及び現金同等物 期末残高 | 209億8,500万円 | 200億2,400万円 | +9億6,000万円 |
- 営業活動によるキャッシュフロー
増収による利益増、RFID原価の減少、投資有価証券売却益の計上などにより、前期から55億円以上増加しました。 - 投資活動によるキャッシュフロー
前期にJPホールディングス株式の取得という大きな支出があった反動で、当期の支出は大幅に減少しました。 - 財務活動によるキャッシュフロー
自己株式の取得(約50億円)や配当金の支払い(約55億円)など、株主還元の増加に伴い、支出が増加しました。
収益性に関する指標(ROEなど)
当期の主な収益性指標は以下の通りです。
指標 | 2025年3月期 | 2024年3月期 |
---|---|---|
ROE (自己資本利益率) | 5.8% | 3.0% |
総資産経常利益率 | 5.3% | 3.9% |
売上高営業利益率 | 3.9% | 2.8% |
当期純利益が大幅に増加したことにより、ROEは前期の3.0%から5.8%へと大きく改善しました。
営業利益率も改善しており、収益性が向上していることが分かります。
ダスキンの株主還元について
ダスキンは、株主への利益還元を経営の重要課題と位置づけています。
中期経営方針2022の期間(2023年3月期~2025年3月期)においては、3年間累計の総還元性向100%以上を目標として掲げ、配当と機動的な自己株式取得を積極的に実施してきました。
3年間の累計総還元性向は119.0%に達しました。
配当金の状況
配当金は、業績の向上を反映して増配が続いています。
期 | 中間配当 | 期末配当 | 年間配当 | 配当性向(連結) |
---|---|---|---|---|
2024年3月期(実績) | 35円 | 65円 ※ | 100円 | 104.9% |
2025年3月期(実績) | 50円 | 62円 | 112円 | 60.3% |
2026年3月期(予想) | 50円 | 65円 | 115円 | 60.0%(予想) |
※2024年3月期の期末配当金には、創業60周年記念配当20円が含まれます。
2025年3月期の年間配当は1株あたり112円となり、前期の記念配当を除いた普通配当(80円)から大幅な増配となりました。2026年3月期はさらに増配し、年間115円の配当が予想されています。
自社株買いの発表はあった?
決算発表と同時に新たな自社株買いの発表はありませんでした。
しかし、ダスキンは機動的な自己株式取得を株主還元方針の一つとして掲げています。
2025年3月期には、1,328千株、総額49億9,900万円の自己株式取得を実施しました。
これは2025年3月期末の発行済株式数(自己株式を除く)の約2.8%に相当します。
今後も財務状況などを勘案しながら、機動的に自己株式の取得を行う方針です。
ダスキンの今期見通しと戦略について
ダスキンは2026年3月期も増収増益を見込んでいます。
項目 | 2026年3月期 (予想) | 2025年3月期 (実績) | 前期比 |
---|---|---|---|
売上高 | 1,950億円 | 1,887億9,100万円 | +3.3% |
営業利益 | 79億円 | 72億6,800万円 | +8.7% |
経常利益 | 116億円 | 106億9,700万円 | +8.4% |
親会社株主帰属 当期純利益 | 90億円 | 88億800万円 | +2.2% |
原材料高や人件費高騰の影響は続くと想定されるものの、全セグメントでの増収や、RFIDの本格稼働による効果などで吸収し、各段階で増益を計画しています。
中期経営方針2028について
ダスキンは、2026年3月期から始まる新たな「中期経営方針2028」を策定しました。
この計画では、最終年度の2028年3月期に連結売上高2,078億円、営業利益106億円、ROE7.0%以上という目標を掲げています。
この目標達成のため、以下の4つの経営テーマを軸に事業を展開します。
- 新たな事業への「新化」 (Innovation)
M&Aやスタートアップ投資、海外事業の拡大などを通じて、未来の新たな価値を創造します。
具体的には、子育て領域での新規事業開発や、アジアの未展開国への進出を目指します。 - 周辺事業への「進化」 (Expansion)
ビジネスモデルの変革により、新たな顧客価値を生み出します。
ハウスメンテナンス領域への発展や、新たな飲食ブランドの開発を進めます。 - 既存事業の「深化」 (Development)
顧客との関係を強化し、既存事業の価値向上を図ります。
ミスタードーナツの新店舗形態での出店や、RFIDを活用した生産性向上などに取り組みます。 - 経営基盤の強化
上記3つの「シンカ」を支えるため、挑戦する人材の育成やデジタル化の加速、サステナビリティ活動を推進します。
新たな株主還元方針
中期経営方針2028の開始に合わせ、株主還元方針も変更されました。
配当方針は、従来の「DOE(自己資本配当率)2.5%」から「DOE 3.0%」に引き上げられ、「連結配当性向60%」とのいずれか高い額を配当する方針となります。
これにより、株主への利益還元をさらに強化する姿勢を示しています。
決算内容や今期の見通しで、株価はどうなる?
今回の決算内容と今後の見通しには、株価にとってポジティブな要因とネガティブな要因の両方が含まれていると考えられます。
株価にポジティブな影響を与える要因
- 好調な業績と増益見通し
2025年3月期の大幅な増益達成と、2026年3月期の増益見通しは、企業の成長性を示す上で好材料です。 - フードグループの力強い成長
ミスタードーナツのブランド力と収益性は依然として高く、会社全体の業績を牽引しています。 - 株主還元の強化
増配の継続と、DOE目標を引き上げた新たな配当方針は、株主を重視する姿勢として市場から高く評価される可能性があります。 - ROEの改善
収益性指標であるROEが前期の3.0%から5.8%に大きく改善したことは、資本効率の向上を示しておりポジティブです。 - 中期経営方針への期待
M&Aや海外展開を含む積極的な成長戦略は、将来の企業価値向上への期待感を高める要因となり得ます。
株価にネガティブな影響を与える要因
- 主力のクリーンサービス事業の減収
訪販グループの根幹であるクリーンサービス事業が家庭向け・事業所向けともに減収となっている点は、今後の懸念材料と見なされる可能性があります。 - 原材料・人件費の高騰
今後も継続が予想されるコスト上昇圧力が、計画通りの利益成長を阻害するリスクがあります。 - 売上高の予想未達
2025年3月期の売上高は、会社が期中に公表した予想をわずかに下回りました。
これは、計画達成の確実性に対する懸念を生むかもしれません。
決算から分かるダスキンの強みは?
今回の決算資料からは、ダスキンの揺るぎない事業基盤とブランド力が改めて浮き彫りになりました。
高い市場シェアとブランド力
ダスキンは、主要事業において圧倒的な市場シェアを誇っています。
- ダストコントロール(家庭市場): 約90%
- ダストコントロール(事業所市場): 約52%
- ミスタードーナツ: 約88%
これらの高いシェアは、長年にわたって築き上げてきた信頼とブランド力の証です。
この強力な顧客基盤が、安定した収益を生み出す源泉となっています。
全国に広がる強固なフランチャイズ網
全国に広がる地域密着型のフランチャイズ加盟店網は、ダスキンならではの大きな強みです。
- クリーンサービス営業拠点: 約1,800拠点
- ミスタードーナツ営業拠点: 1,041拠点
この広範なネットワークを通じて、全国どこでも均一で質の高い商品・サービスを提供できる体制が整っています。
このネットワークは、新規事業やクロスセリングを展開する上でも大きなアドバンテージとなります。
まとめ
ダスキンの2025年3月期決算は、フードグループの好調と全セグメントでの増収に支えられ、大幅な増益を達成するという力強い内容でした。
株主還元も強化されており、新たな中期経営方針では更なる成長への意欲が示されています。
一方で、主力のクリーンサービス事業の立て直しやコスト高への対応など、課題も残されています。
圧倒的なブランド力と事業基盤という強みを活かし、これらの課題を克服して中期経営方針の目標を達成できるか、今後の動向が注目されます。
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