本記事では、データセクション株式会社が2025年5月27日に発表した2025年3月期の決算内容について、添付の決算説明会資料および決算短信をもとに詳しく解説します。
同社は既存事業の体質改善を進めつつ、AIデータセンターという新たな領域への戦略的投資を加速させています。今回の決算は、その過渡期にある同社の現状と将来への布石を読み解く上で重要な内容となっています。本記事が、データセクションの今後の事業展開や将来性を理解するための一助となれば幸いです。
データセクションの2025年3月期における連結決算の振り返り
2025年3月期の連結決算は、売上高は大きく伸長したものの、新規事業への先行投資が影響し、各利益段階で損失を計上する結果となりました。
勘定科目 | 2025年3月期 実績 | 2024年3月期 実績 | 前期比 |
---|---|---|---|
売上高 | 2,942百万円 | 2,229百万円 | +32.0% |
営業利益 | △496百万円 | △216百万円 | – |
調整後EBITDA | △169百万円 | 47百万円 | – |
経常利益 | △613百万円 | △235百万円 | – |
親会社株主に帰属する 当期純利益 | △654百万円 | △1,261百万円 | – |
売上高は、国内事業全領域における受注の堅調な推移に加え、2024年7月1日付で完全子会社化した株式会社MSSの業績が寄与したことにより、前期比32.0%増の2,942百万円となりました。
一方で、営業損失は496百万円(前期は216百万円の損失)となりました。
これは、新たな成長の柱と位置付けるAIデータセンター事業への先行投資が主な要因です。
具体的には、AIデータセンターの構築や、独自開発のAIクラウドスタック『TAIZA』の開発などに費用が発生しています。
この結果、実質的なキャッシュフロー創出力を示す調整後EBITDAも△169百万円(前期は47百万円)となり、年度ベースで赤字を計上しました。
データセクションの2025年3月期セグメント別の業績
セグメント別に見ると、国内事業・海外事業ともに増収を達成しています。
セグメント名 | 売上高 | セグメント利益(損失) |
---|---|---|
国内事業 | 1,919百万円 | 92百万円 |
海外事業 | 1,023百万円 | 163百万円 |
合計 | 2,942百万円 | 256百万円 |
調整額 | – | △752百万円 |
連結 | 2,942百万円 | △496百万円 |
国内事業
国内事業の売上高は1,919百万円(前期比40.7%増)、セグメント利益は92百万円(前期は18百万円の損失)となりました。
既存のデータサイエンス事業、システムインテグレーション事業、マーケティングソリューション事業がそれぞれ伸長したことに加え、新たに連結子会社となったMSSの業績が上乗せされたことが増収および黒字転換の主な要因です。
海外事業
海外事業の売上高は1,023百万円(前期比18.2%増)となりました。
チリやコロンビアといった主要拠点での受注が堅調に推移したほか、前期に連結子会社化したパナマやスペインの拠点の売上が通年で寄与したことによるものです。
一方で、セグメント利益は163百万円(前期比3.5%減)とわずかに減少しました。
これは、過年度に投資したソフトウェア開発に関する償却負担が主な要因ですが、計画の範囲内での着地となっています。
データセクションの2025年3月期末財務状況について
2025年3月期末の財務状況は、総資産が前期末から増加しました。これは主に、株式会社MSSの買収に伴いのれんが計上されたことによります。
勘定科目 | 2025年3月31日 | 2024年3月31日 |
---|---|---|
総資産 | 4,593百万円 | 3,786百万円 |
負債 | 2,193百万円 | 1,803百万円 |
純資産 | 2,400百万円 | 1,982百万円 |
自己資本 | 2,314百万円 | 1,914百万円 |
自己資本比率 | 50.4% | 50.6% |
- 資産
総資産は前期末比で807百万円増加し、4,593百万円となりました。
主な増加要因は、MSS社の連結に伴う「のれん」の計上(+1,144百万円)などによる固定資産の増加(+1,952百万円)です。
一方で、現金及び預金は1,164百万円減少しました。 - 負債
負債合計は390百万円増加し、2,193百万円となりました。
短期借入金(+350百万円)や未払金(+286百万円)が増加したことが主な要因です。 - 純資産
純資産は417百万円増加し、2,400百万円となりました。
当期純損失の計上(△654百万円)により利益剰余金が減少した一方で、MSS社の連結子会社化などにより資本剰余金が935百万円増加したことや、新株予約権の発行・行使により資本金および資本剰余金が増加したことが主な要因です。
キャッシュフローの状況
当期のキャッシュフローは、新規事業への投資により投資キャッシュフローが大幅なマイナスとなりました。
勘定科目 | 2025年3月期 | 2024年3月期 |
---|---|---|
営業活動によるCF | △83百万円 | 333百万円 |
投資活動によるCF | △1,192百万円 | △569百万円 |
財務活動によるCF | 163百万円 | 382百万円 |
現金及び現金同等物 期末残高 | 505百万円 | 1,659百万円 |
- 営業活動によるキャッシュフロー
△83百万円(前期は333百万円のプラス)となりました。
これは主に、税金等調整前当期純損失(△630百万円)を計上したことによるものです。 - 投資活動によるキャッシュフロー
△1,192百万円(前期は△569百万円)となりました。
これは主に、AIデータセンター事業に関連するソフトウェアなどの無形固定資産の取得による支出(927百万円)があったためです。 - 財務活動によるキャッシュフロー
163百万円のプラス(前期は382百万円のプラス)となりました。
短期借入金の増加(351百万円)や新株予約権の行使による収入(87百万円)があった一方で、長期借入金の返済による支出(251百万円)がありました。
収益性に関する指標(ROEなど)
当期は最終損失を計上したため、収益性指標はマイナスとなっています。
指標 | 2025年3月期 | 2024年3月期 |
---|---|---|
自己資本当期純利益率 (ROE) | △27.4% | △57.6% |
総資産経常利益率 (ROA) | △13.7% | △5.8% |
売上高営業利益率 | △16.9% | △9.7% |
AIデータセンター事業への先行投資フェーズにあるため、これらの指標が改善されるのは、新規事業が収益貢献を開始してからになると考えられます。
データセクションの株主還元について
データセクションの配当金や自社株買いの状況を確認していきましょう。
配当金の状況
2025年3月期の配当金は、前期に引き続き無配(0.00円)となりました。
また、2026年3月期の配当予想についても無配(0.00円)としています。
自社株買いの発表はあった?
今回の決算発表において、新たな自社株買いの発表はありませんでした。
データセクションの今期の見通しと戦略について
データセクションは、2026年3月期の連結業績予想を「非開示」としています。
これは、AIデータセンター事業における1プロジェクトあたりの契約金額が大きく、現段階では1プロジェクトの成約の有無が業績に著しい影響を及ぼすためです。
プロジェクトの受注が確定した段階で、速やかに業績予想を公表する方針です。
業績予想は非開示であるものの、今期はAIデータセンター事業が本格的に立ち上がる「成長フェーズ」と位置づけられており、その戦略は明確に示されています。
AIデータセンター事業の本格始動
今期(2026年3月期)の最重要戦略は、AIデータセンター事業の立ち上げです。
- 第1号案件
日本国内でNVIDIA社の次世代GPU「B200」を5,000個配備する案件が契約協議中であり、これを第1号案件として本年度内の立ち上げを目指しています。
この案件は、金融機関からの融資確保などにより自己資金で投資し収益を最大化する「直接投資型」のストラクチャーを想定しています。 - 大規模案件のパイプライン
上記に加えて、同規模のB200を5,000個使用する案件も契約協議中であるほか、B200を2万~4万個規模、さらには次世代の「GB200」を数万個~10万個規模で導入する、より大型の案件にも複数取り組んでいます。 - 技術的優位性
大規模なGPUクラスターの運用を可能にする自社開発のクラウドスタック『TAIZA』が、グローバル顧客によるテストで高い評価を受けており、これが事業の競争優位性を牽引すると見込んでいます。
グローバルなパートナーシップ戦略
事業実現のために、グローバルなパートナーシップを積極的に構築しています。
- GPU確保
世界的に需要が逼迫するGPUサーバーを確保するため、NVIDIA社のパートナーである台湾の大手サーバーメーカー4社(Inventec, Wistron, GIGA COMPUTING, Quanta Computer)と業務提携の基本合意を締結しています。 - データセンター構築・運営
データセンターの設計・建設・運営においては、実績豊富な株式会社信越科学産業(SSI)や、NVIDIA認定パートナーであるCUDO Ventures(英国)と提携しています。
これらの戦略を通じて、今期中に国内外で複数の案件を同時に進め、業界における圧倒的な競争優位性を確立することを目指しています。
決算内容や今期の見通しで、データセクションの株価はどうなる?
本決算の内容と今後の戦略は、株価に対してポジティブな側面とネガティブな側面の両方を含んでいます。
株価にポジティブな影響を与える要因
- AIデータセンター事業への強い期待感
日本国内で最大規模となるNVIDIA B200を5,000個導入する計画は、市場の大きな注目を集める可能性があります。
さらに数万個規模の大型案件のパイプラインも示されており、将来の飛躍的な成長への期待を高める材料です。 - 事業実現性の高さ
台湾の大手サプライヤーとの提携によるGPU確保のめど、独自開発のクラウドスタック『TAIZA』の正式ローンチ、データセンター構築・運営パートナーとの提携など、計画が絵に描いた餅ではなく、着実に実行段階に移っていることが示されています。 - 既存事業の成長
新規事業への期待だけでなく、既存事業が前期比32.0%増と力強く成長していることも、事業基盤の安定性を示す上でポジティブな要素です。
株価にネガティブな影響を与える要因
- 継続的な赤字と財務リスク
2期連続の営業損失、経常損失、最終損失を計上しており、財務状況は厳しいと言えます。
決算短信には「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在している」との記載もあり、投資家にとっては懸念材料です。 - 業績の不透明性
2026年3月期の業績予想が非開示であるため、当面の収益性を判断することが困難です。
AIデータセンター案件の受注時期や規模が不透明な点がリスクと見なされる可能性があります。 - 株式の希薄化懸念
事業資金を調達するために発行された第20回新株予約権は、全て行使されると発行済株式総数の約24.85%に相当する株式が新たに発行されることになり、1株当たりの価値の希薄化が懸念されます。
実際、すでに行使が進んでおり、これが株価の上値を抑える要因となる可能性があります。
決算から分かるデータセクションの強みは?
今回の決算資料からは、データセクションの以下の強みが読み取れます。
AIデータセンター事業における先行戦略と実行力
世界的に獲得競争が激化しているNVIDIA製の最先端GPUを、台湾の主要サプライヤー4社とのパートナーシップを通じて確保できる調達力は、同社の大きな強みです。
また、単にインフラを構築するだけでなく、大規模クラスターの運用を最適化するクラウドスタック『TAIZA』を自社開発する技術力も有しており、他社との差別化を図っています。
これらの計画を、具体的なパートナーシップ締結という形で次々と実行に移している点も、同社の強みと言えるでしょう。
グローバルな事業展開とパートナーシップ構築力
同社は日本国内に留まらず、20カ国以上でのプロダクト展開実績があり、グローバルな事業基盤を有しています。
今回のAIデータセンター事業においても、英国のCUDO社との提携や、スペインでのデータセンター建設計画、NATO元事務総長などをアドバイザリーボードに迎えたグローバルファンドの設立準備など、グローバルなネットワークを駆使して事業を推進する能力の高さが伺えます。
まとめ
データセクションの2025年3月期決算は、売上高が順調に拡大する一方で、未来の成長に向けたAIデータセンター事業への大規模な先行投資により、赤字が拡大するという、まさに「先行投資フェーズ」を象徴する内容でした。
財務面では継続企業の前提に関する注記が記載されるなどリスクも抱えていますが、それを上回るほどの大きな成長ポテンシャルを秘めたAIデータセンター事業の具体的な進捗が示されたことも事実です。
特に、NVIDIAの次世代GPU「B200」を国内最大規模で導入する計画は、同社が日本のAIインフラ市場でリーディングカンパニーとなる可能性を秘めています。
2026年3月期は、この壮大な計画が実際に収益として結実し始めるかどうかが問われる、極めて重要な一年となります。
業績予想は非開示ですが、今後発表されるであろう大規模案件の受注に関するニュースが、同社の企業価値を大きく左右することになるでしょう。
投資家にとっては、リスクと大きなリターンが同居する、目が離せない展開が続きそうです。
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