創薬ベンチャーの株式会社レナサイエンス(東証グロース:4889)が2025年5月14日に発表した2025年3月期決算は、同社の研究開発の進捗と今後の戦略を読み解く上で重要な内容を含んでいます。
本記事では、決算短信や有価証券報告書などのIR資料を基に、レナサイエンスの業績、財務状況、そして今後の株価を左右する要因について詳しく解説します。
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レナサイエンスの2025年3月期における業績の振り返り
レナサイエンスの2025年3月期の業績は、医薬品開発の進捗に応じたマイルストーン収入の計上時期により減収となりましたが、特別利益の計上により当期純利益は黒字を達成しました。
なお、同社は子会社を持たないため、連結財務諸表は作成しておらず、以下の数値はすべて非連結のものです。
勘定科目 | 2025年3月期 実績 | 2024年3月期 実績 | 前期比 |
---|---|---|---|
事業収益 | 1億3,269万円 | 1億9,416万円 | -31.7% |
営業利益 | ▲1億7,882万円 | ▲2億5,233万円 | – |
経常利益 | ▲1億7,898万円 | ▲2億5,187万円 | – |
当期純利益 | 1億1,342万円 | ▲2億5,833万円 | – |
事業収益は、ライセンス契約先からのマイルストーン収入やAMED(日本医療研究開発機構)からの受託研究収入で構成されており、計上タイミングによって年度ごとに変動します。
当期は、米国Eirion社からの脱毛症治療薬のマイルストーン収入や、ニプロ株式会社、東レ・メディカル株式会社との共同開発契約に伴う収入などがありました。
当期純利益が黒字に転換した最大の要因は、AMEDの事業終了に伴う債務免除益(3億391万円)と、Baxter社との契約解約に伴う解約金収入(2,000万円)を特別利益として計上したためです。
レナサイエンスの事業収益の内訳
レナサイエンスの事業は単一セグメントですが、事業収益はその性質によって分類されています。
2025年3月期の収益は、主に契約に基づく一時金・マイルストーン収入と、公的機関からの受託研究収入の2つで構成されています。
収益の種類 | 2025年3月期 金額 |
---|---|
アップフロント収入及び マイルストーン収入 | 7,074万円 |
受託研究収入 | 6,194万円 |
顧客との契約から 生じる収益 合計 | 1億3,269万円 |
「アップフロント収入及びマイルストーン収入」は、ライセンス契約締結時の一時金や、開発の進捗段階(マイルストーン)達成時に受け取る成功報酬型の収入です。
一方、「受託研究収入」は、AMEDなどの公的プロジェクトの研究開発業務を請け負うことによる対価です。
レナサイエンスの2025年3月期末財務状況について
レナサイエンスは研究開発投資が続く中でも、財務基盤の健全性は維持されています。
財務指標 | 2025年3月31日時点 | 2024年3月31日時点 |
---|---|---|
総資産 | 18億7,136万円 | 20億8,883万円 |
純資産 | 17億2,015万円 | 16億672万円 |
自己資本比率 | 91.9% | 76.9% |
現金及び現金同等物 | 17億9,981万円 | 16億4,619万円 |
総資産は、研究開発費の支払いなどによる現預金の減少に伴い、前期末から減少しました。
一方で、当期純利益の計上により純資産は増加し、自己資本比率は91.9%と非常に高い水準を維持しています。
約18億円の潤沢な手元資金を確保しており、当面の研究開発活動を支える財務基盤は安定的と言えます。
キャッシュフローの状況
当期のキャッシュフローの状況は以下の通りです。
キャッシュフロー | 2025年3月期 | 2024年3月期 |
---|---|---|
営業活動によるCF | ▲1億7,634万円 | ▲2億3,051万円 |
投資活動によるCF | 3億8,214万円 | ▲156万円 |
財務活動によるCF | ▲5,218万円 | 4,650万円 |
営業活動によるキャッシュフローは、研究開発費等の支出によりマイナスですが、債務免除益の計上などにより前期よりマイナス幅は縮小しました。
投資活動によるキャッシュフローは、主に定期預金の払戻しによる収入(3億8,069万円)があったため、大幅なプラスとなっています。
財務活動によるキャッシュフローは、長期借入金の返済による支出(6,165万円)があったことなどからマイナスとなりました。
収益性に関する指標
経営指標 | 2025年3月期 | 2024年3月期 |
---|---|---|
ROE(自己資本当期純利益率) | 6.8% | -14.9% |
ROA(総資産経常利益率) | -9.0% | -11.5% |
売上高営業利益率 | -134.8% | -130.0% |
当期純利益が黒字化したことでROEはプラスに転じました。
レナサイエンスの株主還元について
レナサイエンスは、事業の成長に向けた研究開発投資を優先する方針から、創業以来、配当を実施していません。
2025年3月期も配当は0円であり、2026年3月期の配当予想も0円としています。
自社株買いの発表はあった?
2025年3月期の決算短信および有価証券報告書において、自社株買いの実施や計画に関する発表はありませんでした。
レナサイエンスの今期見通しと戦略について
レナサイエンスの2026年3月期の業績は、事業収益1億1,300万円、当期純損失3億6,200万円を見込んでいます。
損失が拡大する見通しですが、これは複数のパイプラインが開発の重要な局面を迎えることに伴い、研究開発投資を積極的に行うためです。
具体的には、以下の戦略を推進します。
- 後期臨床試験の推進
慢性骨髄性白血病(CML)および悪性黒色腫を対象とする第Ⅲ相(最終段階)の医師主導治験費用に資金を充当します。 - 新規パイプラインの開発
皮膚血管肉腫、非小細胞肺がん、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患の第Ⅱ相試験や、抗加齢作用を評価する臨床研究などを進めます。 - AI・新規モダリティへの投資
AIを活用したプログラム医療機器の臨床性能試験や、核酸医薬などの新たなシーズ開発にも投資を継続します。
この業績見通しには、将来締結される可能性のある新規の大型ライセンス契約に伴う一時金等は含まれておらず、今後の導出交渉の進捗次第では、収益が大きく上乗せされる可能性があります。
決算内容や今期の見通しで、レナサイエンスの株価はどうなる?
決算から分かる、レナサイエンスの強みを分析していきます。
株価にポジティブな影響を与える要因
- 後期臨床試験の結果発表
今後発表される第Ⅲ相試験(CML、悪性黒色腫)や第Ⅱ相試験(非小細胞肺がん等)で良好な結果が示されれば、承認への期待が大きく高まり、株価の強力な上昇要因となります。 - 大型ライセンス契約の締結
特に悪性黒色腫のようにPOC(創薬コンセプトの証明)を取得済みのパイプラインについて、大手製薬企業との導出契約が成立すれば、多額の契約一時金が計上され、業績と株価に極めて大きなインパクトを与えます。 - AI医療機器の承認申請
開発が進んでいる糖尿病治療支援AIなどが薬事承認申請に至れば、収益化への道筋が明確になり、ポジティブに評価されるでしょう。 - 「抗加齢」領域への期待
XPRIZE Healthspanへの参加をきっかけに、「抗加齢」という新たな巨大市場への展開期待が高まることも、株価を刺激する要因となり得ます。
株価にネガティブな影響を与える要因
- 臨床試験の失敗
最も大きなリスクです。
後期臨床試験で期待された有効性・安全性を示せなかった場合、そのパイプラインの価値は失われ、株価は深刻な下落に見舞われます。 - 承認の遅延・非承認
規制当局から承認が得られなかったり、承認プロセスが大幅に遅延したりした場合も、将来の収益期待が剥落し、株価の強い下押し圧力となります。 - 資金繰りの懸念
開発の長期化で研究開発費が想定を上回り、追加の資金調達(増資など)が必要になれば、1株あたりの価値の希薄化が懸念され、株価にはネガティブです。 - 競合品の登場
開発競争は熾烈であり、より優れた競合品が先に市場に登場すれば、開発品の市場価値が低下するリスクがあります。
決算から分かるレナサイエンスの強みは?
決算から分かるレナサイエンスの強みとして、以下の4つが挙げられます。
- 効率的な研究開発体制
大学やAMEDなどの外部機関と連携する「オープンイノベーション」モデルにより、自社のリソースを抑えながら、多数のパイプラインを効率的に推進できる点が最大の強みです。 - 豊富な後期開発パイプライン
承認申請を目前にした第Ⅲ相試験が2本、第Ⅱ相試験も複数進行しており、将来の収益源となる可能性のある候補が豊富に存在します。 - 多様な事業ポートフォリオ
医薬品だけでなく、AI医療機器や内視鏡など、リスクと収益化のタイミングが異なる事業を複数展開しており、リスク分散が図られています。 - 安定した財務基盤
潤沢な自己資金を確保しており、当面の積極的な研究開発投資を支える財務的な体力があることも強みです。
まとめ
レナサイエンスの2025年3月期決算は、特別利益により最終黒字を達成したものの、本質的には複数の重要な臨床試験を抱え、研究開発投資が先行する局面にあることを示しています。
同社の株価は、今後の第Ⅲ相試験の結果や大型ライセンス契約の成否といった、企業価値を大きく左右するイベントへの期待に支えられています。
オープンイノベーションという独自の強みを活かし、豊富なパイプラインをどこまで着実に製品化へと繋げていけるか。
大きなポテンシャルと、それに伴う開発リスクの両面を理解し、今後のIR情報を注視していくことが重要です。
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