メガ損保3社の2025年3月期決算が出揃いました。各社とも堅調な業績を示す中、株主還元策にも注目が集まっています。
本記事では、MS&ADインシュアランスグループホールディングス(以下、MS&AD)、SOMPOホールディングス(以下、SOMPO)、東京海上ホールディングス(以下、東京海上)の3社の決算内容を比較し、今後の見通しや株式投資のポイントについて解説します。
メガ損保3社の業績・各指標比較
まずは、各社の主要な業績や財務指標をランキング形式で見ていきましょう。
2025年3月期 業績ランキング
指標 | 1位 | 数値(億円) | 2位 | 数値(億円) | 3位 | 数値(億円) |
---|---|---|---|---|---|---|
経常収益 | 東京海上 | 84,401 | MS&AD | 66,608 | SOMPO | 54,537 |
経常利益 | 東京海上 | 14,600 | MS&AD | 9,289 | SOMPO | 5,529 |
親会社株主に帰属する 当期純利益 | 東京海上 | 10,552 | MS&AD | 6,916 | SOMPO | 4,229 |
業績では東京海上がトップに立っており、MS&AD、SOMPOと続いています。
財務状況のランキング(2025年3月末)
指標 | 1位 | 数値(億円) | 2位 | 数値(億円) | 3位 | 数値(億円) |
---|---|---|---|---|---|---|
総資産 | 東京海上 | 312,373 | MS&AD | 262,412 | SOMPO | 150,300 |
純資産 | 東京海上 | 51,035 | MS&AD | 40,528 | SOMPO | 28,651 |
自己資本比率 | SOMPO | 18.9% | 東京海上 | 16.3% | MS&AD | 15.2% |
※MS&ADの自己資本比率は決算短信記載の数値(4,000,351百万円 / 26,241,298百万円 * 100 = 15.2%)です。
総資産や純資産で見ると東京海上がトップですが、自己資本比率はSOMPOが数%高い結果となりました。
収益性ランキング(2025年3月期)
指標 | 1位 | 数値 | 2位 | 数値 | 3位 | 数値 |
---|---|---|---|---|---|---|
ROE | 東京海上 | 20.6% | MS&AD | 16.3% | SOMPO | 14.8% |
ROA | 東京海上 | 3.38% | SOMPO | 2.81% | MS&AD | 2.63% |
EPS(円) | 東京海上 | 542.16 | MS&AD | 445.52 | SOMPO | 436.45 |
※ROAは当期純利益÷期末総資産で計算しています。
いずれも東京海上がトップであり、資本効率の高さがうかがえます。
株価の割安性(2025年5月28日終値基準)
会社名 | 株価(円) | PER(倍) | PBR(倍) |
---|---|---|---|
MS&AD | 3,288 | 7.38 | 1.24 |
SOMPO | 4,324 | 9.91 | 1.43 |
東京海上 | 5,969 | 11.01 | 2.26 |
※PER = 株価 ÷ EPS (2025年3月期実績EPSを使用)
※PBR = 株価 ÷ BPS (BPS = 2025年3月末の1株当たり純資産)
最も割安と言えるのはMS&ADです。東京海上はこれまでの項目ではトップが多かったものの、株価が高く3社の中では割高な位置付けとなりました。
株主還元ランキング(2025年3月期実績)
指標 | 1位 | 数値(億円) | 2位 | 数値(億円) | 3位 | 数値(億円) |
---|---|---|---|---|---|---|
配当金総額 | 東京海上 | 3,332 | MS&AD | 2,213 | SOMPO | 1,259 |
1株当たり配当金(円) | 東京海上 | 172 | MS&AD | 145 | SOMPO | 132 |
自己株式取得額(今回決議分上限) | 東京海上 | 1,100 | SOMPO | 1,050 | MS&AD | 850 |
※SOMPOの1株当たり配当金は株式分割を考慮した数値です。
※自己株式取得額は各社の発表に基づきます。
すべてにおいて東京海上がトップです。ただし、配当利回りで見るとMS&ADに軍配が上がります。
今期(2026年3月期)業績見通しランキング
指標 | 1位 | 数値(億円) | 2位 | 数値(億円) | 3位 | 数値(億円) |
---|---|---|---|---|---|---|
経常収益/保険収益 (売上高に相当) | MS&AD | 80,600 | SOMPO | 52,000 | 東京海上 | (開示なし) |
経常利益 | 東京海上 | 12,700 | MS&AD | 8,060 | SOMPO | (開示なし) |
親会社株主に帰属する当期純利益 親会社の所有者に帰属する当期利益 | 東京海上 | 9,300 | MS&AD | 5,790 | SOMPO | 3,350 |
※SOMPOの数値はIFRSベースの連結業績予想です(保険収益、親会社の所有者に帰属する当期利益)。経常利益の予想は開示されていません。
※東京海上の数値は日本基準の連結業績予想です。経常収益の予想は開示されていません。
純利益ベースの比較では2025年3月期と同様、業績では東京海上がトップでMS&AD、SOMPOと続いています。
今期(2026年3月期)配当見通しランキング
指標 | 1位 | 数値(円) | 2位 | 数値(円) | 3位 | 数値(円) |
---|---|---|---|---|---|---|
1株当たり配当金 | 東京海上 | 210 | MS&AD | 155 | SOMPO | 150 |
配当利回り (5/28終値) | MS&AD | 4.71% | 東京海上 | 3.52% | SOMPO | 3.47% |
※配当利回り = 1株当たり配当金予想 ÷ 株価(2025年5月28日終値) × 100
5/28時点の株価で見ると、配当利回りが最も良いのはMS&ADです。他2社と比べて利回りが1%以上高いので、投資先の選択肢になるでしょう。
メガ損保(損保大手3社)の2025年3月期の業績を比較
2025年3月期の決算は、3社とも増収増益となりました。特に東京海上は経常収益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益(以下、当期純利益)の全てでトップとなり、大幅な増益を達成しています。
会社名 | 経常収益 (億円) | 経常利益 (億円) | 当期純利益 (億円) |
---|---|---|---|
MS&AD | 66,608 | 9,289 | 6,916 |
SOMPO | 54,537 | 5,529 | 4,229 |
東京海上 | 84,401 | 14,600 | 10,552 |
MS&ADは、海外保険子会社の増収や国内損保事業の堅調な推移により、経常収益は前期比1.3%増、当期純利益は前期比87.3%増と大幅な増益を達成しました。
SOMPOは、海外保険事業の成長や国内損保事業の回復が寄与し、経常収益は前期比10.5%増、当期純利益は前期比1.7%増となりました。
東京海上は、国内外の保険引受の拡大や資産運用の好調により、経常収益は前期比13.7%増、当期純利益は前期比51.7%増と、3社の中で最も高い成長を見せました。
メガ損保(損保大手3社)の財務状況を比較
次に、各社の財務状況を見ていきましょう。総資産、純資産では東京海上が他社を大きく上回っています。自己資本比率ではSOMPOが最も高い水準となっています。
会社名 | 総資産 (億円) | 純資産 (億円) | 自己資本比率 |
---|---|---|---|
MS&AD | 262,412 | 40,528 | 15.2% |
SOMPO | 150,300 | 28,651 | 18.9% |
東京海上 | 312,373 | 51,035 | 16.3% |
自己資本比率は、企業の財務安定性を示す指標の一つです。一般的に、自己資本比率が高いほど財務の安全性が高いとされます。
SOMPOは18.9%と3社の中で最も高い自己資本比率を維持しており、安定した財務基盤を有していると言えます。 MS&ADの自己資本比率は15.2%、東京海上は16.3%です。
メガ損保(損保大手3社)の収益性(ROE,ROA,EPS)を比較
メガ損保の収益性に関しては、ROE(自己資本利益率)、ROA(総資産利益率)、EPS(1株当たり利益)を比較します。
会社名 | ROE(%) | ROA(%) | EPS(円) |
---|---|---|---|
MS&AD | 16.3 | 2.63 | 445.52 |
SOMPO | 14.8 | 2.81 | 436.45 |
東京海上 | 20.6 | 3.38 | 542.16 |
ROEは、自己資本に対してどれだけの利益を生み出しているかを示す指標で、数値が高いほど資本効率が良いとされます。東京海上が20.6%と最も高く、効率的な経営が行われていることがうかがえます。 MS&ADは16.3%、SOMPOは14.8%でした。
ROAは、総資産に対してどれだけの利益を上げているかを示します。こちらも東京海上が3.38%と最も高い数値です。
EPSは、1株当たりの利益額を示し、企業の収益力を測る指標の一つです。東京海上が542.16円と最も高く、MS&ADが445.52円、SOMPOが436.45円と続きます。
メガ損保(損保大手3社)の株価の割安性を比較
株価の割安性を見る指標として、PER(株価収益率)とPBR(株価純資産倍率)を比較します。なお、株価は2025年5月28日の終値を使用します。
会社名 | 株価(円) | PER(倍) | PBR(倍) |
---|---|---|---|
MS&AD | 3,288.0 | 7.38 | 1.24 |
SOMPO | 4,324 | 9.91 | 1.43 |
東京海上 | 5,969 | 11.01 | 2.26 |
PERは株価が1株当たり利益の何倍かを示し、低いほど割安とされます。MS&ADが7.38倍と最も低く、市場平均と比較しても割安感があると言えるでしょう。
PBRは株価が1株当たり純資産の何倍かを示し、一般的に1倍割れは割安とされます。3社とも1倍を超えていますが、MS&ADが1.24倍と最も低く、比較的割安と評価できます。
メガ損保(損保大手3社)の株主還元について比較
各社とも株主還元には積極的です。2025年3月期は増配に加え、3社とも大規模な自社株買いも発表しています。
配当金の比較
2025年3月期の実績配当金では、東京海上が1株当たり172円と最も高く、MS&ADが145円、SOMPOが132円(株式分割を考慮した数値)となっています。
会社名 | 2025年3月期 配当金(円) | 配当金総額(億円) |
---|---|---|
MS&AD | 145 | 2,213 |
SOMPO | 132 | 1,259 |
東京海上 | 172 | 3,332 |
自社株買いの比較
2025年5月20日の各社取締役会で決議された自己株式取得(上限)は以下の通りです。
会社名 | 自己株式取得金額 (億円) | 発行済株式総数に対する割合 (%) | 取得期間 |
---|---|---|---|
MS&AD | 850 | 3.3% (2025年3月末時点) | 2025年5月21日~ 2025年12月23日 |
SOMPO | 1,050 | 3.53% (2025年4月30日時点) | 2025年6月2日~ 2025年11月18日 |
東京海上 | 1,100 | 3.6% (2025年3月末時点) | 2025年5月21日~ 2025年10月31日 |
MS&ADは、2025年度に2,000億円の自己株式取得を計画しており、その一部として850億円の取得を決議しました。SOMPOは1,050億円、東京海上は年間2,200億円の方針のうち1,100億円の取得を決議し、株主還元への積極的な姿勢がうかがえます。
メガ損保(損保大手3社)の今期(2026年3月期)見通しについて比較
各社とも今期(2026年3月期)の業績について強気の見通しを示しています。ただし、SOMPOと東京海上はIFRS(国際財務報告基準)へ移行するため、MS&AD(日本基準)とは単純比較が難しい点に注意が必要です。
業績の比較
会社名 | 収益見通し(億円) | 前期比増減率(%) | 純利益見通し(億円) | 前期比増減率(%) |
---|---|---|---|---|
MS&AD | 経常利益 8,060 | △13.2 | 5,790 | △16.3 |
SOMPO | 保険収益 52,000 | +2.7 | 3,350 (親会社の所有者に帰属する当期利益) | – |
東京海上 | 経常利益 12,700 | △13.0 | 9,300 | △11.9 |
※SOMPOはIFRSベースの連結業績予想です。前期は日本基準のため純利益の増減率は記載していません。
※東京海上は日本基準の連結業績予想です。
MS&ADは、前期の大幅な増益の反動もあり、経常利益で前期比13.2%減、当期純利益で16.3%減を見込んでいます。
SOMPOは、IFRS移行の影響もあり単純比較はできませんが、保険収益は5兆2,000億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は3,350億円を予想しています。
東京海上は、経常利益で前期比13.0%減の1兆2,700億円、当期純利益で11.9%減の9,300億円を見込んでいます。
配当見通しの比較
今期の配当見通しでは、3社とも増配を予定しており、株主還元への意識の高さがうかがえます。
会社名 | 今期1株当たり 配当見通し(円) | 配当利回り (5/28終値) |
---|---|---|
MS&AD | 155 | 4.71% |
SOMPO | 150 | 3.47% |
東京海上 | 210 | 3.52% |
配当利回り(2025年5月28日終値で計算)では、MS&ADが4.71%と最も高く、魅力的な水準となっています。東京海上は3.52%、SOMPOは3.47%と、こちらも高配当な銘柄と言えるでしょう。
メガ損保(損保大手3社)の株式に投資をする上でのポイントは?
これまで解説したメガ損保3社の決算と今後の見通しを踏まえ、投資判断のポイントを整理します。
- 業績が良い企業に投資するなら?
2025年3月期の業績では、経常収益、経常利益、当期純利益の全てで東京海上がトップでした。
今期(2026年3月期)見通しにおいても、純利益額では東京海上が最も高い予想となっています。成長性を重視するならば、東京海上が有力な選択肢となるでしょう。 - 配当利回りで選ぶなら?
2026年3月期の配当見通しに基づく配当利回り(5月28日終値)では、MS&ADが4.71%と最も高くなっています。
安定したインカムゲインを期待する投資家にとっては魅力的な選択肢です。 - 株価の割安感を重視するなら?
PER、PBRともにMS&ADが3社の中で最も低い数値となっており、株価の割安感があります。
今後の業績次第では株価の上昇も期待できるかもしれません。 - 資本効率を重視するなら?
ROE(自己資本利益率)では東京海上が20.6%と最も高く、効率的な経営を行っていると言えます。
上記の項目で見ると、SOMPOホールディングスがありません。とはいえ、SOMPOホールディングスが優位と言える項目もいくつかあります。
SOMPOホールディングスに投資する際のポイントとしては、以下の点が挙げられます。
- メガ損保3社の中では2025年3月末時点の自己資本比率が18.9%と最も高く、財務の安定性が高いこと
- 介護事業にも参入しており、保険以外での収益基盤があること
これらのポイントを踏まえて、どの企業に投資するか分析してみましょう。
まとめ
メガ損保3社は、2025年3月期に堅調な業績を記録し、今期も概ね強気の見通しを示しています。各社とも株主還元にも積極的で、増配や自社株買いの動きが見られました。
投資を検討する際には、各社の業績動向、財務状況、収益性、株価の割安感、そして株主還元策などを総合的に比較し、ご自身の投資スタイルに合った企業を選ぶことが重要です。特に今期からはSOMPOと東京海上がIFRSに移行するため、業績比較の際には会計基準の違いにも留意が必要です。
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