トヨタ自動車株式会社は2025年5月8日、2025年3月期の連結決算を発表しました。
売上高は前期比増となったものの、営業利益、経常利益、当期純利益はいずれも前期比で減少しました。
同社は、未来への投資や足場固めの取り組みを進めつつ、価格改定効果やバリューチェーン収益の拡大など改善努力を積み重ねてきた結果としています。
本記事では、トヨタ自動車の2025年3月期決算の詳細と今後の見通しについて、セグメント別業績、財務状況、株主還元、そして株価への影響といった観点から詳しく解説します。
トヨタ自動車の2025年3月期における連結決算の振り返り
2025年3月期の連結決算(2024年4月1日~2025年3月31日)の概要は以下の通りです。
勘定科目 | 2025年3月期実績 (億円) | 前期比(%) |
---|---|---|
営業収益 | 480,367 | +6.5% |
営業利益 | 47,955 | -10.4% |
税引前利益 | 64,145 | -7.9% |
親会社の所有者に帰属する 当期利益 | 47,650 | -3.6% |
基本的1株当たり 親会社の所有者に帰属する当期利益 | 359.56円 | – |
2025年3月期の連結販売台数は936万2千台となり、前期に比べ8万台(0.9%)の減少となりました。
日本国内では199万1千台(前期比0.1%減)、海外では737万2千台(前期比1.0%減)といずれも微減しています。
営業収益は、前期比6.5%増の48兆367億円となりました。 一方で、営業利益は前期比10.4%減の4兆7,955億円、税引前利益は前期比7.9%減の6兆4,145億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は前期比3.6%減の4兆7,650億円となりました。
営業利益の減益要因としては、為替変動の影響がプラスに寄与したものの、諸経費の増加やその他要因がマイナスに影響したことが挙げられます。
具体的には、未来に繋がる総合投資や足場固めの取り組みを進めたこと、仕入先・販売店を含めたステークホルダーへの感謝などが要因として示されています。
トヨタ自動車のセグメント別の業績は?
トヨタ自動車のセグメント別業績は以下の通りです。
セグメント | 営業収益 (億円) | 前期比 (%) | 営業利益 (億円) | 前期比 (%) |
---|---|---|---|---|
自動車事業 | 431,998 | +4.7% | 39,402 | -14.7% |
金融事業 | 44,811 | +28.6% | 6,835 | +19.9% |
その他事業 | 14,471 | +5.8% | 1,811 | +3.4% |
トヨタ自動車の事業は、主に「自動車事業」、「金融事業」、「その他事業」の3つのセグメントで構成されています。それぞれの事業内容は以下の通りです。
- 自動車事業
セダン、ミニバン、コンパクト、SUV、トラック等の自動車とその関連部品・用品の設計、製造および販売を行っています。
- 金融事業
主にトヨタおよびその関係会社が製造する自動車および他の製品の販売を補完するための金融ならびに車両のリース事業を行っています。 - その他事業
情報通信事業などを行っています。
自動車事業
自動車事業の営業収益は43兆1,998億円と前期比4.7%の増収となりましたが、営業利益は3兆9,402億円と前期比14.7%の減益となりました。
この減益は、主に諸経費の増加によるものです。
金融事業
金融事業の営業収益は4兆4,811億円(前期比28.6%増)、営業利益は6,835億円(前期比19.9%増)と増収増益を達成しました。
この増益は、融資残高の増加や金利スワップ取引などの時価評価による評価損が減少したことなどが要因です。
その他事業
その他事業の営業収益は1兆4,471億円(前期比5.8%増)、営業利益は1,811億円(前期比3.4%増)と、こちらも増収増益となっています。
トヨタ自動車の財務状況はどうなった?
トヨタ自動車の2025年3月期末の財務状況は以下の通りです。
勘定科目 | 2025年3月期末 (億円) | 2024年3月期末 (億円) | 増減 (億円) |
---|---|---|---|
資産合計 | 936,013 | 901,142 | +34,870 |
負債合計 | 567,224 | 548,749 | +18,474 |
資本合計 | 368,789 | 352,393 | +16,395 |
親会社所有者帰属持分比率 (%) (いわゆる「自己資本比率」) | 38.4% | 38.0% | +0.4pt |
総資産は前期末比3兆4,870億円増の93兆6,013億円となりました。 負債は1兆8,474億円増の56兆7,224億円、資本は1兆6,395億円増の36兆8,789億円となっています。
この結果、親会社所有者帰属持分比率は38.4%と、前期末から0.4ポイント上昇しました。
キャッシュフローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は8兆9,824億円と、前期末に比べ4,296億円(4.6%)の減少となりました。 各キャッシュフローの状況は以下の通りです。
キャッシュフロー項目 | 2025年3月期 (億円) | 2024年3月期 (億円) | 増減 (億円) |
---|---|---|---|
営業活動による キャッシュ・フロー | 36,969 | 42,063 | -5,094 |
投資活動による キャッシュ・フロー | -41,897 | -49,987 | +8,090 |
財務活動による キャッシュ・フロー | 1,972 | 24,975 | -23,003 |
現金及び 現金同等物期末残高 | 89,824 | 94,120 | -4,296 |
営業活動によるキャッシュ・フローは3兆6,969億円の収入となり、前期から5,094億円減少しました。
投資活動によるキャッシュ・フローは4兆1,897億円の支出となり、前期から支出幅が8,090億円縮小しました。
財務活動によるキャッシュ・フローは1,972億円の収入となり、前期から2兆3,003億円減少しました。
主要財務指標(ROEなど)
指標 | 2025年3月期 | 2024年3月期 |
---|---|---|
親会社所有者帰属持分 当期利益率 (ROE) (%) | 13.6% | 15.8% |
資産合計税引前利益率 (ROAに類似する指標) (%) | 7.0% | 8.5% |
営業収益営業利益率 (%) | 10.0% | 11.9% |
2025年3月期のROE(親会社所有者帰属持分当期利益率)は13.6%となり、前期の15.8%から低下しました。
資産合計税引前利益率(ROAに類似する指標)も7.0%と、前期の8.5%から低下しています。
トヨタ自動車の株主還元(配当・自社株買い)はどうなる?
トヨタ自動車は、長期に株式を保有する株主への安定的な増配を基本方針としています。
2025年3月期の年間配当金は、前期比15円増の1株当たり90円(中間40円、期末50円)となりました。
2026年3月期の年間配当金予想は、さらに5円増配の年間95円(中間45円、期末50円)としています。 業績が見通しにくい状況ではあるものの、増配を継続する方針です。
今期の見通しと戦略について
トランプ関税が発表されてからの決算発表ということもあり、トヨタ自動車の今後の見通しについて気になる人も多いでしょう。
トヨタ自動車の2026年3月期(2025年4月1日~2026年3月31日)の連結業績見通しは以下の通りです。
勘定科目 | 2026年3月期見通し (億円) | 前期実績比 (%) |
---|---|---|
営業収益 | 485,000 | +1.0% |
営業利益 | 38,000 | -20.8% |
税引前利益 | 44,100 | -31.2% |
親会社の所有者に帰属する当期利益 | 31,000 | -34.9% |
基本的1株当たり 親会社の所有者に帰属する当期利益 | 237.57円 | – |
2026年3月期は、営業収益こそ前期比1.0%増の48兆5,000億円を見込むものの、営業利益は前期比20.8%減の3兆8,000億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は前期比34.9%減の3兆1,000億円と、減益を見込んでいます。
この見通しの前提となる為替レートは、1米ドル145円、1ユーロ160円と想定しています。
また、米国における関税政策の営業利益への影響については、4・5月分の減益影響見込みとして1,800億円を暫定的に織り込んでいます。
今期の戦略としては、足場固めの成果を取り込みつつ、中長期視点での総合投資を継続し、経営基盤の強化と将来の収益の柱を育成する方針です。
モビリティカンパニーへの変革を目指し、「カーボンニュートラル」と「移動価値の拡張」を重点テーマに挑戦を続けるとしています。
具体的には、保有1.5億台の強みを活かし、SDV(Software Defined Vehicle)の活用、Woven City、メンテナンスサービスの拡充、コネクテッド技術の活用、中古車・用品事業の拡大などを通じて、より安定的な収益構造への転換を目指します。
決算内容や今期の見通しで、株価はどうなる?
今回の決算発表と今期の見通しが、トヨタ自動車の株価に与える影響について、ポジティブな要因とネガティブな要因に分けて考察します。なお、これはあくまで資料に基づく分析であり、実際の株価変動を保証するものではありません。
株価にポジティブな影響を与える要因
株価にポジティブな影響を与える要因としては、以下の4点が挙げられます。
- 安定的な増配方針の継続
2025年3月期実績の増配に加え、2026年3月期も見通しにくい状況下での増配予想は、株主還元への積極的な姿勢を示しており、投資家心理にプラスに働く可能性があります。 - 中長期的な成長戦略への期待
モビリティカンパニーへの変革に向けたSDV、Woven Cityといった未来への投資や、バリューチェーン全体の収益拡大戦略は、中長期的な成長期待を高める要因となり得ます。 - 強固な財務基盤
高水準の自己資本比率や手元資金は、経営の安定性を示しており、不透明な経済環境下での安心材料となります。 - 為替レートの前提
今期見通しの前提為替レート(1ドル145円)は、足元の実勢レートと比較して円高方向に設定されており、今後の円安進行によっては業績の上振れ期待に繋がる可能性があります。
株価にネガティブな影響を与える要因
株価にネガティブな影響を与える要因としては、以下の5点が挙げられます。
- 2025年3月期実績の減益
売上高は増加したものの、営業利益以下の各利益項目で減益となったことは、短期的な収益力に対する懸念を生む可能性があります。 - 2026年3月期見通しの減益予想
増収ながらも大幅な営業減益を見込んでいる点は、株価にとってマイナス材料となる可能性があります。特に、総合投資の継続や資材価格・関税影響が利益を圧迫する見込みです。 - 関税影響の不透明性
米国における関税影響を一部織り込んでいるものの、今後の政策変更によってはさらなる影響が出る可能性があり、リスク要因として意識されるでしょう。
今回の決算発表では4・5月分のみ織り込んでいるため、関税が長引けば今期はさらに減益となる可能性があります。 - 競争環境の激化
世界的な電動化シフトや異業種からの参入など、自動車業界の競争環境は依然として厳しく、先行投資の負担や収益性の確保が課題となります。 - 各種リスク要因
為替相場の変動、原材料価格の上昇、地政学的リスクなど、事業を取り巻く様々な不確定要素が株価に影響を与える可能性があります。
1ドル145円のレートで想定されていますが、さらに下がってしまうと業績への影響は大きく、株価が下がる原因にもなります。
まとめ
トヨタ自動車の2025年3月期決算は、売上こそ堅調だったものの、未来への積極的な投資や外部環境の変化を受け、利益面では踊り場を迎えた格好となりました。
続く2026年3月期も、引き続き投資を優先し、短期的な利益成長よりも中長期的な基盤強化に注力する姿勢が鮮明となっています。
株主還元については安定的な増配を継続する方針であり、株主にとっては安心材料と言えるでしょう。
一方で、今期の減益見通しや関税問題などの不透明要因は、株価の上値を抑える可能性も否定できません。
「もっといいクルマづくり」と「モビリティカンパニーへの変革」という二つの大きなテーマを掲げ、変化の激しい自動車業界をリードし続けるトヨタ自動車の今後の動向に、引き続き注目が集まります。
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