ホンダ(本田技研工業)の2025年3月期決算を解説|増収減益で株価はどうなる?

本田技研工業(以下、ホンダ)が2025年5月13日に2025年3月期(2024年4月1日~2025年3月31日)の連結決算を発表しました。

二輪事業が過去最高の販売台数と利益を達成した一方で、四輪事業が中国市場の減速やEV(電気自動車)関連費用の増加に直面し、減益となりました。

当記事では、ホンダの2025年3月期決算の内容を振り返りつつ、セグメント別の業績、財務状況、株主還元、そして2026年3月期の見通しについて詳しく解説します。

目次

本田技研工業の2025年3月期における連結決算の振り返り

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勘定科目2025年3月期
(億円)
前期比
売上収益216,887+6.2%
営業利益12,134-12.2%
税引前利益13,176-19.8%
親会社の所有者に帰属する
当期利益
8,358-24.5%
出典:本田技研工業株式会社「2025年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)

本田技研工業の2025年3月期の連結売上収益は前期比6.2%増の21兆6,887億円となりました。
二輪事業における販売台数の増加や為替換算による増加影響が主な要因です。

一方、営業利益は前期比12.2%減の1兆2,134億円、税引前利益は前期比19.8%減の1兆3,176億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は前期比24.5%減の8,358億円と、増収減益の結果となりました。

この背景には、四輪製品保証引当金の見積り方法変更に伴う影響(1,276億円の減益影響)や、研究開発費の増加などがあります。
製品保証引当金の影響を除くと、営業利益は1兆3,410億円(前期比3.0%減)となります。

事業別に見ると、二輪事業は過去最高の販売台数(2,057.2万台) および営業利益(6,634億円)、営業利益率(18.3%)を達成し、好調を維持しました。
しかし、四輪事業は中国・ASEAN地域での販売台数減少や、北米でのEV販売に向けたインセンティブ強化の影響を受けました。 ただし、HEV(ハイブリッド車)の販売はグローバルで拡大しています。

本田技研工業のセグメント別業績

ホンダのセグメント別の業績については以下の通りです。

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事業セグメント売上収益 (億円)営業利益 (億円)営業利益率 (%)
二輪事業36,2666,63418.3%
四輪事業144,6782,4381.7%
金融サービス事業35,1223,1569.0%
パワープロダクツ事業
及びその他の事業
4,146-94-2.3%
合計216,88712,1345.6%
出典:本田技研工業株式会社「2025年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)
四輪事業の営業利益には、製品保証見積変更影響が含まれています。

ホンダの事業セグメントは、主に以下の4つに区分されています。それぞれの事業内容は次の通りです。

  • 二輪事業
    二輪車、ATV(四輪バギー車)、Side-by-Side(多用途オフロード四輪車)およびそれらの関連部品の研究開発、生産、販売などを行っています。
  • 四輪事業
    四輪車およびその関連部品の研究開発、生産、販売などを行っています。
  • 金融サービス事業
    ホンダ製品に関わる販売金融やリース業などを行っています。
  • パワープロダクツ事業及びその他の事業
    パワープロダクツ(汎用エンジン、発電機、耕うん機、芝刈機、除雪機、船外機など)およびその関連部品の研究開発、生産、販売などを行っています。
    また、このセグメントには航空機および航空エンジン事業も含まれます。

二輪事業

売上収益は3兆6,266億円(前期比12.6%増)、営業利益は6,634億円(前期比19.3%増)と大幅な増収増益を達成しました。
グループ販売台数は前期比9.3%増の2,057.2万台と過去最高を記録。 特にアジア地域での販売が好調でした。

為替影響などはあったものの、売価/コスト影響(+1,753億円)および販売影響(+481億円)による利益増加が寄与しました。

四輪事業

売上収益は14兆4,678億円(前期比4.9%増)でしたが、営業利益は2,438億円(前期比56.5%減)と大幅な減益となりました。
グループ販売台数は前期比9.6%減の371.6万台。 中国での販売台数減少(-39.9万台)が大きく影響しています。

営業利益の主な減益要因は、販売台数の減少とインセンティブ増加による販売影響(-3,337億円)、そして前述の四輪製品保証見積変更影響(-1,276億円) です。
ただし、これを除いた場合でも、営業利益は1,891億円の減益となります。

一方で、売価/コスト影響(+3,365億円)による利益増加もありました。
HEVの販売台数はグローバルで89.8万台と好調でした。

金融サービス事業

金融サービス事業は、主に四輪車の販売に関連するローンやリースなどを提供しています。

売上収益は3兆5,122億円(前期比8.0%増)、営業利益は3,156億円(前期比15.2%増)と増収増益でした。

パワープロダクツ事業及びその他の事業

売上収益は4,146億円(前期比1.8%減)、営業損失は94億円(前期は88億円の損失)となりました。

グループ販売台数は前期比2.9%減の370.0万台でした。
航空機および航空エンジン事業の営業損失は388億円(前期は329億円の損失)です。

本田技研工業の2025年3月末時点での財務状況は?

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財務項目2024年3月期末
(億円)
2025年3月期末
(億円)
増減
(億円)
資産合計297,741307,758+10,017
負債合計167,682181,480+13,797
資本合計130,058126,278-3,780
親会社の所有者に
帰属する持分
126,969123,265-3,704
親会社所有者帰属
持分比率
42.6%40.1%-2.5pt
出典:本田技研工業株式会社「2025年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)

本田技研工業の2025年3月期末の総資産は、前期末比1兆17億円増の30兆7,758億円となりました。
主な増加要因は、金融サービスに係る債権やオペレーティング・リース資産の増加です。
一方、負債合計は前期末比1兆3,797億円増の18兆1,480億円で、主に資金調達に係る債務が増加しました。

資本合計は、当期利益による増加があったものの、自己株式の取得や配配当金の支払いにより、前期末比3,780億円減の12兆6,278億円となりました。
この結果、親会社所有者帰属持分比率は40.1%と、前期末から2.5ポイント低下しました。

キャッシュフローの状況

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キャッシュフロー項目2024年3月期
(億円)
2025年3月期
(億円)
増減
(億円)
営業活動による
キャッシュ・フロー
7,4722,921-4,551
投資活動による
キャッシュ・フロー
△8,672△9,419-746
財務活動による
キャッシュ・フロー
9,1862,804-6,381
現金及び
現金同等物の期末残高
49,54545,287-4,257
出典:本田技研工業株式会社「2025年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)

2025年3月期末の現金及び現金同等物は、前期末比4,257億円減の4兆5,287億円となりました。

営業活動によるキャッシュ・フローは、2,921億円の収入(前期比4,551億円減)となりました。
顧客からの現金回収は増加したものの、部品や原材料の支払いやオペレーティング・リース資産購入の支払いが増加したことが主な要因です。

投資活動によるキャッシュ・フローは、9,419億円の支出(前期比746億円支出増)となりました。
有形固定資産の取得による支出やその他の金融資産の取得による支出が増加しました。

財務活動によるキャッシュ・フローは、2,804億円の収入(前期比6,381億円減)となりました。
自己株式の取得や配当金の支払いが増加したことが影響しました。
なお、金融サービス事業を除く事業会社のR&D調整後営業キャッシュフローは2兆8,066億円でした。

主要財務指標は?

指標2024年3月期2025年3月期
ROE
(親会社所有者帰属持分利益率)
9.3%6.7%
ROA
(資産合計税引前利益率)
6.0%4.4%
売上収益営業利益率6.8%5.6%
出典:本田技研工業株式会社「2025年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)

2025年3月期のROEは6.7%(前期9.3%)、売上収益営業利益率は5.6%(前期6.8%)と、いずれも前期を下回りました。

本田技研工業の株主還元(配当・自社株買い)について

ホンダは株主還元の強化を打ち出しています。

  • 配当方針の変更
    資本効率向上と不透明な環境下においても安定的な配当を実現するため、2026年3月期以降、DOE(調整後親会社所有者帰属持分配当率)3.0%を目安とする方針を導入しました。
  • 配当金
    2025年3月期の年間配当金は、前期予想通り1株当たり68円(中間34円、期末34円)となりました。
    2026年3月期の年間配当金予想は、前期比2円増配の1株あたり70円(中間35円、期末35円予想)としています。
  • 自己株式の取得(自社株買い)
    2024年12月23日決議に基づき、上限1兆1,000億円/11億株の自己株式取得を進めており、2025年4月30日時点で5,895億円/4億1,175万株(進捗率53.6%)を取得済みです。
    取得期間は2025年12月23日までを予定しています。

本田技研工業の今期の見通しと戦略について

ホンダは2026年3月期の連結業績について、減収減益を見込んでいます。

売上収益は前期比6.4%減の20兆3,000億円、営業利益は前期比58.8%減の5,000億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は前期比70.1%減の2,500億円を予想しています。

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勘定科目2026年3月期見通し
(億円)
前期実績比
売上収益203,000-6.4%
営業利益5,000-58.8%
税引前利益4,900-62.8%
親会社の所有者に帰属する
当期利益
2,500-70.1%
出典:本田技研工業株式会社「2025年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)
* 為替レートの前提:1米ドル = 135円

営業利益の大幅な減益見通しには、為替影響(4,520億円の減益要因) や、関税影響およびその挽回努力を織り込んだ影響(4,500億円の減益要因) が大きく影響しています。

四輪製品保証見積変更影響の戻し(1,276億円の増益要因) があるものの、上記の影響を吸収するには至らない見込みです。

事業別の販売台数見通し

事業別の販売台数見通しについては以下の通りです。

  • 二輪事業
    2025年3月期を上回る2,130万台の販売を計画しています。
  • 四輪事業
    中国を中心とした厳しい販売環境は継続するものの、北米を中心にHEV販売を強化し、362万台(前期比9.6万台減)を見込んでいます。

戦略の方向性

不透明な事業環境下においても、レジリエンスの高い事業ポートフォリオでの安定経営を目指します。

課題として、「積極的な株主還元による資本の適正化」「収益基盤の確立と継続」「電動化戦略の解像度UP」を挙げています。

課題への対応としては、自己株式取得の継続、北米を中心としたHEV台数の増加や二輪・金融事業の強固な事業基盤による安定収益確保、そして電動化戦略の見直しを進める方針です。
具体的には、カナダでの大型投資を含めた投入資源の適正化や、次世代プラットフォームを活用したHEV競争力の最大化などが挙げられています。

為替レートと関税影響

決算資料では、今期見通しについて以下の為替レートと関税影響を織り込んでいます。

  • 為替レート
    2026年3月期の見通しにおける為替レートは、1米ドル=135円を前提としています。
    2025年3月期実績は1米ドル=153円でしたので、大幅な円高を見込んでいることになります。
  • 関税影響
    米国における関税政策変更の影響を織り込んでおり、2026年3月期の営業利益に対して6,500億円のマイナス影響を見込んでいます。
    これに対し、2,000億円の挽回策を反映した計画となっています。
    具体的な影響額の試算前提としては、カナダ・メキシコからの完成車輸入に対する追加関税(25%) や、四輪部品・原材料への追加関税(25%) などが挙げられています。

本田技研工業の決算内容や今期の見通しで、株価はどうなる?

本田技研工業の今回の決算内容と今期の見通しには、株価にとってポジティブな側面とネガティブな側面の両方が含まれていると考えられます。

それぞれの要因について、詳しく解説していきます。

株価にポジティブな影響を与える要因

本田技研工業の株価にポジティブな影響を与える要因としては、以下の4点が挙げられます。

  • 好調な二輪事業
    過去最高の販売台数と利益を更新し続けており、安定した収益源となっています。
  • HEV販売の拡大
    四輪事業全体が厳しい中でも、HEVの販売はグローバルで好調を維持しており、収益性改善にも貢献しています。
  • 積極的な株主還元
    DOE導入による安定配当へのコミットメント、2026年3月期の増配予想、大規模な自己株式取得の継続 は、株主にとって魅力的な材料と言えます。
  • 電動化戦略の見直し
    EV市場の成長鈍化といった市場環境の変化に対応し、HEVへの注力を再強化する戦略は、現実的かつ収益性を重視した判断と評価される可能性があります。

株価にネガティブな影響を与える要因

本田技研工業の株価にポジティブな影響を与える要因としては、以下の5点が挙げられます。

  • 大幅な減益見通し
    2026年3月期の営業利益が約6割減、当期純利益が約7割減という見通しは、短期的な収益悪化を懸念させるものです。
  • 四輪事業の不透明感
    主力の四輪事業において、中国市場の競争激化やEV関連の費用増といった課題が継続しており、収益回復の道筋が明確に見えにくい状況です。
  • 大規模な関税影響
    米国の関税政策による影響が非常に大きく、利益を大きく圧迫する要因となっています。 挽回策を講じるものの、不確定要素も残ります。
  • 為替変動リスク
    会社見通しが大幅な円高(1ドル135円)を前提としているため、想定よりも円安に振れた場合は業績上振れの要因となり得ますが、逆にさらなる円高は下振れリスクとなります。
  • EV戦略の再構築
    長期的な成長戦略としてのEV化の方向性は不変としつつも、足元での戦略見直しは、EV市場における競争力や将来性に対する投資家の評価に影響を与える可能性があります。

まとめ

ホンダの2025年3月期決算は、二輪事業の力強い成長が確認できた一方で、四輪事業が外部環境の変化や構造的な課題に直面していることを示しました。
2026年3月期は、為替や関税といった外部要因の影響を大きく受ける厳しい業績見通しとなっていますが、HEVを中心とした足元の収益基盤強化と、将来に向けた電動化戦略の再構築、積極的な株主還元策を通じて、企業価値の向上を目指す姿勢が示されています。

投資家にとっては、短期的な業績の落ち込みと、中長期的な戦略転換の有効性、そして株主還元の魅力を総合的に評価する必要があるでしょう。
今後の事業環境の変化や、ホンダが打ち出す具体的な戦略の進捗を注視していく必要があります。

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