日産自動車の2025年3月期決算を解説|大幅な赤字で株価はどうなる?

日産自動車株式会社が2025年5月13日に発表した2025年3月期(2024年度)の連結決算は、売上高が前期比微減となったものの、営業利益および純利益は大幅な減益となりました。

厳しい事業環境の中、同社は事業構造改革プラン「RE NISSAN」を推進し、収益性の改善に取り組んでいます。

本記事では、発表された決算説明資料および決算短信をもとに、日産の当期決算の内容と今後の見通し、そしてそれが株価に与える影響について解説します。

目次

日産自動車の2025年3月期における連結決算の振り返り

日産自動車の2025年3月期(2024年度)の連結決算の主要数値は以下の通りです。

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勘定科目2025年3月期
(2024年度)実績
前期(2024年3月期)
実績
前期比
売上高12兆6,332億円12兆6,857億円-0.4%
営業利益698億円5,687億円-87.7%
経常利益2,102億円7,022億円-70.1%
親会社株主に帰属する
当期純利益
-6,709億円4,266億円
1株当たり当期純利益-187.08円110.47円
自動車事業
フリーキャッシュフロー
-2,428億円3,230億円
自動車事業
ネットキャッシュ
1兆4,984億円1兆5,460億円-476億円
出典:日産自動車「2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)

2025年3月期(2024年度)の売上高は、12兆6,332億円と前期比でわずかに減少しました。

営業利益は、販売台数の減少、販売奨励金の増加、インフレーションの影響などにより、前期比87.7%減の698億円と大幅な減益となりました。
純利益については、減損損失やリストラクチャリング費用を計上した結果、6,709億円の損失となりました。

なお、グローバル小売台数は前期比2.8%減の334万6千台でした。
中国市場での販売減が響いた一方、北米市場では増加しました。

セグメント別の業績

日産自動車の報告セグメントは、「自動車事業」と「販売金融事業」の2つです。

それぞれの事業内容は以下の通りです。

  • 自動車事業
    主に自動車(乗用車、商用車など)及びその部品の開発、製造、販売を行っています。
    国内外の生産拠点での車両組立やエンジン製造、関連部品の供給などが含まれます。
  • 販売金融事業
    自動車事業における車両の販売活動を金融面からサポートする役割を担っています。
    体的には、顧客への自動車購入資金のローン(割賦販売)の提供や、リースプログラムの運営などを行っています。

各セグメントの2025年3月期業績は以下の通りです。

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セグメント名売上高
(外部顧客)
セグメント利益
(営業利益)
自動車事業11兆4,379億円-2,680億円
販売金融事業1兆1,954億円2,856億円
連結計12兆6,332億円698億円
出典:日産自動車「2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)
※セグメント利益の合計と連結営業利益は、セグメント間取引消去額の関係で一致しません。

自動車事業

自動車事業の売上高は11兆4,379億円、セグメント損失(営業損失)は2,680億円となりました。

販売台数の減少やインフレ影響、原材料価格の高騰などが響きました。

特に販売パフォーマンスにおいては、台数・構成差でマイナス1,118億円、販売費用・価格改定でマイナス1,775億円と、収益を押し下げる要因となりました。

販売金融事業

販売金融事業の売上高は1兆1,954億円、セグメント利益(営業利益)は2,856億円でした。
クレジットロスの増加や資金調達コストの増加があったものの、為替影響がこれを一部相殺しました。

総資産は主に為替影響により減少しましたが、健全なネットキャッシュを維持しています。

日産自動車の2025年3月期末の財務状況は?

日産自動車の2025年3月期末の財務状況は以下の通りです。

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勘定科目2025年3月期末前期末
(2024年3月期末)
増減
総資産19兆241億円19兆8,552億円-8,311億円
純資産5兆4,453億円6兆4,705億円-1兆252億円
自己資本4兆9,582億円5兆9,816億円-1兆234億円
自己資本比率26.1%30.1%-4.0ポイント
1株当たり純資産1,419.78円1,599.28円-179.50円
出典:日産自動車「2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)

総資産は、商品及び製品の減少、販売金融債権の減少などにより、前期末比で4.2%減少しました。
負債合計は、1年内返済予定の長期借入金や1年内償還予定の社債が増加したことなどから、前期末比1.5%増加しました。
純資産は、利益剰余金の減少などにより15.8%減少しました。

この結果、自己資本比率は26.1%と前期末から4.0ポイント低下しました。

キャッシュフローの状況

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勘定科目2025年3月期実績前期(2024年3月期)
実績
増減
営業活動による
キャッシュ・フロー
7,537億円9,609億円-2,072億円
投資活動による
キャッシュ・フロー
-9,712億円-8,127億円-1,585億円
財務活動による
キャッシュ・フロー
2,633億円-1,316億円+3,949億円
現金及び現金同等物期末残高2兆1,975億円2兆1,262億円+713億円
出典:日産自動車「2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)

営業活動によるキャッシュ・フローは、運転資本の改善があったものの、自動車事業の収益減少により前期比で減少しました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、設備投資の増加により支出が増加しました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、短期借入金による資金調達が増加したことなどから収入増となりました。

主要財務指標(ROEなど)

指標2025年3月期
実績
前期(2024年3月期)
実績
自己資本当期純利益率
(ROE)
-12.3%7.7%
総資産経常利益率
(ROA)
1.1%3.7%
売上高営業利益率0.6%4.5%
出典:日産自動車「2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)

親会社株主に帰属する当期純損失を計上したため、ROEはマイナスとなりました。ROAおよび売上高営業利益率も、利益の減少に伴い前期から低下しました。

日産自動車の株主還元(配当)実績と見通しはどう?

2025年3月期の配当金については、中間配当、期末配当ともに0円とし、年間配当金は0円となりました。
2026年3月期(2025年度見通し)の配当予想についても、現時点では0円としています。

株主還元については、事業環境の不確実性を踏まえ、慎重な判断がなされている状況です。

日産自動車の今期(2026年3月期)の見通しと戦略について

日産自動車は、2026年3月期(2025年度)の連結業績予想について、売上高は前期比0.1%増の12兆5,000億円を見込んでいます。

しかし、営業利益、親会社株主に帰属する当期純利益及び1株当たり当期純利益の予想については、米国の関税政策による環境の不確実性を踏まえ、現時点で合理的に算定することが困難であるため未定としています。
合理的な算定が可能となった時点で速やかに公表する方針のようです。

想定為替レート

2026年3月期(2025年度)の想定為替レートは、1米ドル145円、1ユーロ159円としています。

米国関税影響と対策

米国における関税政策の変更は、日産の業績に大きな影響を与える可能性があります。
なぜなら、日産自動車はメキシコから米国への輸出が約30万台、日本からの輸出が約12万台あり、これらが全米販売台数の45%未満を占めているからです。

2025年度のグロス影響額(軽減対策前)は最大で4,500億円と見込まれています。
この対策として、米国内製造モデルの販売強化、米国生産能力の活用(ローグのスマーナ工場2シフト体制維持など)、戦略的な生産アロケーション、関税影響製品の他市場への販売検討、サプライヤーとの協働、更なる現地化などを進める方針です。

第1四半期で見込まれる軽減効果は約30%としています。

経営計画「RE NISSAN」について

日産は、経営再建計画「RE NISSAN」を推進しています。主な柱は以下の3点です。

  1. コスト構造の改善
    変動費と固定費の削減目標を見直し、2026年度までに合計5,000億円のコスト削減を目指します(2024年度実績比)。
    具体的には、変動費革新プログラムの実行、生産体制の再編(2027年度までに車両工場数を17から10へ削減など)、人員と経費の削減、開発の刷新などを進めます。
  2. 市場・商品戦略の再定義
    主要市場のコアセグメントに集中し、パートナーシップを活用してその他地域をカバーします。
    商品戦略としては、「コアモデル」「HEARTBEATモデル」「成長モデル」「パートナーシップモデル」の4つのカテゴリーでポートフォリオを最適化します。
  3. パートナーシップの強化
    ルノーグループ、三菱自動車、ホンダなどとの協業を強化し、電動化、知能化、LCV(小型商用車)開発などで連携を深めます。

決算内容や今期の見通しで、株価はどうなる?

今回の決算内容と今期の見通しを踏まえ、日産の株価に影響を与えうる要因を以下に整理します。

2025年3月期(2024年度)の決算内容について総合的に分析すると、赤字決算や無配当などのネガティブな側面が強く表れたと解釈して問題ないかと考えられるでしょう。

しかし、決算内容から見えるポジティブな要素も存在するため、今後の期待も込めて投資することも選択肢となる可能性があります。

株価にポジティブな影響を与える要因

日産自動車の決算発表で、株価にポジティブな影響を与える要因としては、以下の4点が考えられます。

  • 北米市場の堅調さ
    グローバル販売台数が減少する中で、主要市場である北米では販売台数が増加しており、収益貢献が期待されます。
  • コスト削減努力の進展
    「RE NISSAN」計画における大幅なコスト削減目標(2026年度までに5,000億円)が達成されれば、収益性が大きく改善する可能性があります。
    特に、変動費削減のための迅速対応チームの設置や生産体制の効率化は具体的な取り組みとして注目されます。
  • 潤沢な手元流動性
    自動車事業の手元資金は2兆1,598億円、未使用コミットメントラインも2兆1,125億円と、厳しい事業環境下でも財務的な安定性は維持されています。
  • パートナーシップ戦略の進展
    ルノー、三菱、ホンダとの連携強化により、開発効率の向上や新技術導入の加速が期待されます。

株価にネガティブな影響を与える要因

一方、日産自動車の決算発表で、株価にネガティブな影響を与える要因としては、以下の5点が考えられます。

  • 大幅な減益と赤字転落
    2025年3月期(2024年度)の営業利益の大幅減、最終赤字への転落は、投資家の信頼感を損なう可能性があります。
  • 中国市場の不振
    中国市場での販売台数減少が続いており、グローバル販売全体への影響が懸念されます。
  • 米国関税リスクの不透明性
    米国の関税政策の動向によっては、最大4,500億円規模のマイナス影響が見込まれており、業績予想の大きな不確実要因となっています。これが解消されるまでは、株価の上値を抑える可能性があります。
  • 株主還元の見送り
    2025年3月期が無配となり、2026年3月期の配当予想も現時点では0円であることは、インカムゲインを重視する投資家にとってはマイナス材料です。
  • 競争激化と市場環境の不確実性
    電動化や自動運転技術への対応、原材料価格の変動、地政学的リスクなど、自動車業界を取り巻く環境は依然として不確実性が高く、競争も激化しています。

まとめ

日産自動車の2025年3月期(2024年度)決算は、売上微減ながらも大幅な減益となり、最終赤字を計上するなど厳しい結果となりました。
しかし、経営再建計画「RE NISSAN」のもと、コスト構造の抜本的な改革や市場・商品戦略の再構築を進めており、今後の収益性改善に向けた強い意志が示されています。

今期の業績見通しは、米国の関税政策という大きな不確定要素を抱えているため、利益面での具体的な数値目標は示されていません。

この関税リスクの行方と、進行中のコスト削減策の成果が、今後の日産の業績と株価を左右する重要なポイントとなるでしょう。投資家目線では、これらの進捗を注視していく必要があります。

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