東京海上ホールディングスの2025年3月期決算を解説|好調な決算で株価はどうなる?

東京海上ホールディングス株式会社は2025年5月20日、2025年3月期(2024年度)の連結決算を発表しました。国内外の保険事業が堅調に推移し、増収増益を達成しました。さらに、株主還元の強化策も打ち出しており、市場の注目を集めています。

本記事では、発表された決算説明資料と決算短信を基に、東京海上ホールディングスの2025年3月期の業績を詳細に解説し、今後の見通しや株価への影響を分析します。

目次

東京海上ホールディングスの2025年3月期における連結決算の振り返り

まずは、東京海上ホールディングスの2025年3月期の連結決算の全体像を見ていきましょう。

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項目2025年3月期2024年3月期前期比
経常収益8兆4,401億円7兆4,246億円+13.7%
経常利益1兆4,600億円8,425億円+73.3%
親会社株主に帰属する
当期純利益
1兆552億円6,958億円+51.7%
修正純利益1兆2,150億円7,116億円+71%
出典:東京海上ホールディングス株式会社「2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)

2025年3月期は、経常収益が前期比13.7%増の8兆4,401億円、経常利益が同73.3%増の1兆4,600億円、親会社株主に帰属する当期純利益(以下、当期純利益)は同51.7%増の1兆552億円となり、大幅な増収増益を達成しました。

特に、政策株式売却益を含む「修正純利益」は1兆2,150億円と、前期比で71%もの高い成長を記録しました。政策株式売却益を除いたベースでも6,089億円(前期比+6%)、一過性の影響を除いたNormalizedベースでは6,790億円(前期比+14%)と、着実な成長を示しています。

この好調な業績は、主に以下の要因によるものです。

  • International事業(海外保険事業の好調
    主要拠点での保険引受やインカム収益が堅調に推移しました。
  • Japan P&C事業(国内損害保険事業の改善
    レートアップ効果や大口事故の減少が寄与しました。
  • 為替のポジティブな影響
    円安が利益を押し上げました。
  • 政策株式売却の加速
    計画を上回るペースで売却を進め、売却益が増加しました。

東京海上ホールディングスの2025年3月期|セグメント別の業績

次に、東京海上ホールディングスの2025年3月期におけるセグメント別の業績を見ていきましょう。

セグメント名経常収益経常利益
国内損害保険事業3兆8,865億円8,933億円
国内生命保険事業6,393億円701億円
海外保険事業4兆3,098億円4,884億円
出典:東京海上ホールディングス株式会社「2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)

国内損害保険事業 (Japan P&C)

国内損害保険事業は、経常収益3兆8,865億円(前期比+6,197億円)、経常利益8,933億円(前期比+5,698億円)と大幅な増収増益となりました。
事業別利益(TMNF)は1,269億円で、前年の円安進行の反動や大口事故の減少、火災保険の商品・料率改定効果などが主な増益要因です。

一方で、北米賠責に係る過年度リザーブの積増しや自動車保険の損害率上昇などが減益要因となりました。
正味収入保険料は、自動車保険や火災保険の商品・料率改定効果、新種保険の販売拡大により、前期比4.9%増の2兆3,281億円となりました。

国内生命保険事業 (Japan Life)

国内生命保険事業は、経常収益6,393億円(前期比▲16億円)、経常利益701億円(前期比+130億円)と、減収増益でした。

事業別利益(AL)は419億円と、ほぼ前期並みでした。既契約の一部をブロック出再したことにより生命保険料は減少しましたが、トップラインの下振れに伴う初年度負担の減少などが増益に寄与しました。

海外保険事業 (International)

海外保険事業は、経常収益4兆3,098億円(前期比+6,590億円)、経常利益4,884億円(前期比+356億円)と増収増益を達成しました。

事業別利益は4,284億円で、主要拠点(PHLY、DFG、TMHCCなど)における好調な保険引受やインカム収益、円安進行がプラスに働いたものの、北米キャピタル損の増加や過年度リザーブ取崩しの減少、アジア生保の減益などが影響し、前期比では若干の減益となりました。

正味収入保険料は、各拠点でのレートアップや引受拡大により、為替影響を除いても+6.6%の増収を確保しました。特に北米市場が成長を牽引しています。

東京海上ホールディングスの財務状況について

次に、東京海上ホールディングスの財務状況を確認します。

項目2025年3月末2024年3月末
総資産31兆2,373億円30兆5,948億円
純資産5兆1,035億円5兆1,833億円
自己資本5兆768億円5兆1,766億円
自己資本比率16.3%16.9%
ESR149%147%
出典:東京海上ホールディングス株式会社「2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)

総資産は前期末比で6,424億円増加し、31兆2,373億円となりました。純資産は若干減少しましたが、経済価値ベースの健全性を示すESR(経済価値ベースのソルベンシー・マージン比率)は149%と、ターゲットレンジ(100%~140%)を上回る高い水準を維持しています。

キャッシュフローの状況

キャッシュフローの状況は以下の通りです。

項目2025年3月期2024年3月期
営業活動によるCF+1兆3,450億円+1兆721億円
投資活動によるCF+1,646億円▲6,276億円
財務活動によるCF▲1兆1,884億円▲4,062億円
現金及び
現金同等物期末残高
1兆4,697億円1兆869億円

営業活動によるキャッシュフローは、主に保険料収入の増加により、前期比で収入が増加しました。

投資活動によるキャッシュフローは、有価証券の売却・償還による収入が増加したことなどから、前期の支出超過から収入超過に転じました。

財務活動によるキャッシュフローは、自己株式の取得や配当金の支払いが増加したことなどにより、支出が増加しました。

主要財務指標(ROEなど)

収益性を示す主要な財務指標は以下の通りです。

  • ROE(自己資本当期純利益率): 20.6%(前期 15.9%)
  • ROA(総資産経常利益率): 4.7%(前期 2.9%)
  • 修正ROE: 22.7%

ROEは前期から4.7ポイント上昇し、20%を超える高い水準となりました。修正ROEも22.7%と高く、資本効率の良さを示しています。

東京海上ホールディングスの株主還元(配当・自社株買い)について

東京海上ホールディングスは、株主還元の強化にも積極的に取り組んでいます。

  • 配当
    2025年3月期の年間配当金は、前期比49円増の172円となりました。これは11月公表予想から10円の増配であり、40%の高い増配率です。
    さらに、2026年3月期の配当予想は210円とし、14期連続の増配を目指します。配当性向は50%を目安としており、利益成長と整合的な配当成長を実現する方針です。
  • 自己株式取得
    2025年度には年間で2,200億円の自己株式取得を計画しており、まずは1,100億円の実行を決定しました。
    これはEPS(1株当たり利益)成長を+2%分押し上げる水準であり、資本効率の向上と株主価値向上を目指す姿勢を示しています。
    発行済株式総数(自己株式を除く)に対する割合3.6%を上限としています。取得期間は2025年5月21日~2025年10月31日です。

東京海上ホールディングスの今期の見通しと戦略について

東京海上ホールディングスの2026年3月期(2025年度)の連結業績予想は以下の通りです。

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項目2026年3月期(予想)2025年3月期(実績)前期比
経常利益1兆2,700億円1兆4,600億円▲13.0%
親会社株主に帰属する
当期純利益
9,300億円1兆552億円▲11.9%
修正純利益1兆1,000億円1兆2,150億円▲9.5%(推計)

経常利益、当期純利益ともに前期比で減少を見込んでいますが、これは前期の政策株式売却益が大きかった反動などが主な要因です。
政策株式売却益を除いた修正純利益予想は7,000億円で、これは2025年3月期のNormalizedベース(6,790億円)と比較すると+3%の成長(為替影響除き+7%)となります。

今期の主な戦略としては、以下が挙げられます。

  • International事業の継続的な成長
    主要拠点での好調を維持し、為替影響を除けば+5%の増益を目指します。特に北米では、保険引受の好調やキャピタル損の減少を見込んでいます。
  • Japan P&C事業の収益力強化
    自動車保険のレートアップや、前期の北米賠責リザーブ積増しの反動により、増益を目指します。コンバインド・レシオは93.5%への改善を見込んでいます。
  • 政策株式の削減
    2029年度末までの「ゼロ」を目指し、2025年度も6,000億円の売却を計画しています。
  • 資本効率の向上と株主還元
    ESRのターゲットレンジを意識しつつ、自己株式取得などを通じて株主価値の向上を図ります。

東京海上ホールディングスの決算内容や今期の見通しで、株価はどうなる?

今回の決算発表と今期の見通しは、株価にどのような影響を与えるでしょうか。ポジティブな要因とネガティブな要因に分けて分析します。

株価にポジティブな影響を与える要因

株価にポジティブな影響を与える要因として、以下の4点が挙げられます。

  • 好調な実績と堅調な見通し
    2025年3月期の大幅な増収増益と、Normalizedベースでの着実な利益成長見通しは、企業の成長性を評価する上でプラス材料です。
  • 積極的な株主還元
    大幅な増配と大規模な自己株式取得は、株主への利益還元姿勢を強くアピールしており、株価を支える要因となります。
  • 政策株式削減の進展
    資本効率を改善し、将来の成長投資や株主還元への期待を高めます。
  • 良好な事業環境
    国内外での保険料率の引き上げ(レートアップ)が進んでおり、収益性の向上が期待されます。

株価にネガティブな影響を与える要因

株価にネガティブな影響を与える要因として、以下の5点が挙げられます。

  • 自然災害リスク
    近年、自然災害は激甚化しており、予想を上回る災害が発生した場合、収益を圧迫する可能性があります。
  • 金利・為替変動リスク
    金利の変動は資産運用収益に影響を与え、円高の進行は海外事業の円建て利益を減少させる可能性があります。
  • CREローンリスク
    米国の商業用不動産(CRE)市場の動向によっては、追加の引当金が必要となる可能性がありますが、2025年度はキャピタルロスが減少する見込みです。
  • 金融市場の不安定化
    地政学リスクの高まりや世界経済の減速懸念は、資産運用環境の悪化や保険需要の停滞につながる可能性があります。
  • 業績予想の減益
    見かけ上の減益予想は、短期的にネガティブに捉えられる可能性があります。

まとめ

東京海上ホールディングスの2025年3月期決算は、堅調な事業運営と政策株式売却により、過去最高益に迫る好決算となりました。株主還元も大幅に強化され、市場の期待に応える内容と言えるでしょう。

2026年3月期は、政策株式売却益の反動減を見込むものの、本業ベースでは着実な成長を目指す計画です。自然災害や市場変動などのリスク要因は存在するものの、グローバルな事業基盤と規律ある資本政策を背景に、持続的な成長と株主価値の向上が期待されます。

株価については、好調な業績と積極的な株主還元がポジティブに評価される一方、市場環境やリスク要因の動向にも注意が必要です。中長期的には、同社の成長戦略の進捗と資本効率の改善が株価を左右する重要なポイントとなるでしょう。

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