川崎重工(川崎重工業株式会社)が2025年5月9日に発表した2025年3月期(2024年度)の連結決算は、売上収益、各利益項目ともに前期を大幅に上回り、事業利益は過去最高を更新する好調な内容となりました。
航空宇宙システム事業の回復やエネルギーソリューション&マリン事業の収益性向上が全体を牽引しました。
本記事では、決算説明資料と決算短信をもとに、川崎重工の2025年3月期の決算内容や今後の見通し、株価に与える影響などを詳しく解説します。
川崎重工の2025年3月期における連結決算の振り返り
2025年3月期の連結決算は、受注高、売上収益、各利益項目の全てで前期を上回る増収増益を達成しました。
特に事業利益は前期比969億円増の1,431億円となり、過去最高を大幅に更新しています。
項目 | 2025年3月期 実績 | 2024年3月期 実績 | 前期比 増減 |
---|---|---|---|
受注高 | 2兆6,307億円 | 2兆834億円 | +5,472億円 |
売上収益 | 2兆1,293億円 | 1兆8,492億円 | +2,800億円 |
事業利益 | 1,431億円 | 462億円 | +969億円 |
税引前当期利益 | 1,075億円 | 319億円 | +755億円 |
親会社の所有者に帰属する 当期利益 | 880億円 | 253億円 | +626億円 |
好決算の背景には、航空宇宙システム事業が前期の損失計上から大幅に改善したことに加え、エネルギーソリューション&マリン事業や精密機械・ロボット事業など、多くのセグメントで収益性が向上したことがあります。
航空旅客需要の回復や防衛関連需要の増加といった外部環境も追い風となりました。
川崎重工の川崎重工の2025年3月期におけるセグメント別の業績
セグメント別に見ると、航空宇宙システム事業の大幅な増益が全体を牽引したほか、エネルギーソリューション&マリン事業も堅調に利益を伸ばしました。
セグメント | 売上収益 | 事業損益 |
---|---|---|
航空宇宙システム | 5,678億円 | 558億円 |
車両 | 2,223億円 | 84億円 |
エネルギーソリューション&マリン | 3,981億円 | 442億円 |
精密機械・ロボット | 2,415億円 | 70億円 |
パワースポーツ&エンジン | 6,093億円 | 478億円 |
その他 | 901億円 | 52億円 |
合計 | 2兆1,293億円 | 1,431億円 |
航空宇宙システム
売上収益は前期比1,716億円増の5,678億円、事業損益は前期の150億円の損失から708億円改善し、558億円の利益となりました。
前期に計上した民間航空エンジン「PW1100G-JM」の運航上の問題に係る損失の反動に加え、防衛省向け案件や民間航空エンジンの分担製造品が増加したことが主な要因です。
車両
売上収益は前期比263億円増の2,223億円、事業利益は46億円増益の84億円でした。
国内・アジア向けは減少したものの、ニューヨーク市交通局向け新型地下鉄電車など米国向け案件が増加し、増収増益に貢献しました。
エネルギーソリューション&マリン
売上収益は前期比448億円増の3,981億円、事業利益は123億円増益の442億円と好調でした。
国内向けごみ処理施設や防衛省向け艦艇用機器の売上増加に加え、持分法適用会社である中国の合弁造船事業の採算性が向上したことも利益を押し上げました。
精密機械・ロボット
売上収益は前期比135億円増の2,415億円、事業損益は前期の19億円の損失から89億円改善し、70億円の利益に転じました。
半導体製造装置向けロボットや船舶用の油圧機器の販売が増加したことや、価格転嫁などの収益改善活動が奏功しました。
パワースポーツ&エンジン
売上収益は前期比169億円増の6,093億円、事業利益は前期並みの478億円でした。
北米向け四輪車のリコールや生産遅延による一時的な減少があったものの、二輪車の販売増加や円安効果で増収を確保しました。
利益面では、増収効果があった一方で、増産投資に伴う固定費の増加などにより前期並みとなりました。
川崎重工の2025年3月期末の財務状況について
総資産は前期末比で3,367億円増加し、3兆円を超えました。自己資本比率は23.3%となっています。
項目 | 2025年3月末 | 2024年3月末 | 増減 |
---|---|---|---|
総資産 | 3兆169億円 | 2兆6,801億円 | +3,367億円 |
負債合計 | 2兆2,918億円 | 2兆256億円 | +2,662億円 |
資本合計 | 7,250億円 | 6,545億円 | +705億円 |
親会社所有者帰属 持分比率 | 23.3% | 23.7% | -0.4 pt |
資産の増加は、主にパワースポーツ&エンジン事業や航空宇宙事業における売掛債権や棚卸資産の増加によるものです。
負債については、同じく航空宇宙システム事業や車両事業での買掛債務や、工事の前受金にあたる契約負債の増加が主な要因です。
キャッシュフローの状況
営業活動によるキャッシュ・フローは、過去最高の税引前利益を達成したことに加え、契約負債の増加などにより、前期から大幅に改善し1,489億円のプラスとなりました。
これにより、フリー・キャッシュ・フローは3年ぶりに黒字化しています。
項目 | 2025年3月期 実績 | 2024年3月期 実績 | 増減 |
---|---|---|---|
営業活動による キャッシュ・フロー | 1,489億円 | 316億円 | +1,172億円 |
投資活動による キャッシュ・フロー | △1,112億円 | △898億円 | △213億円 |
財務活動による キャッシュ・フロー | 96億円 | 129億円 | △33億円 |
現金及び 現金同等物期末残高 | 1,327億円 | 841億円 | +486億円 |
営業キャッシュ・フローは、好調な業績を背景に税引前利益が大幅に増加したほか、航空宇宙システム事業を中心に契約負債(前受金)や仕入債務が増加したことで、高水準の資金流入となりました。
投資キャッシュ・フローのマイナスは、主に有形固定資産の取得による支出増が要因です。
主要財務指標(ROEなど)
収益性や効率性を示す主要な経営指標は以下の通りです。
- ROE(自己資本利益率): 13.2% (前期 4.2%)
- 税後ROIC(投下資本利益率): 8.0% (前期 2.8%)
- 事業利益率: 6.7% (前期 2.5%)
事業利益の増加に伴い、各指標とも前期から大きく改善しました。
川崎重工の株主還元について
川崎重工は、株主への利益還元を経営の重要課題と位置づけ、中長期的な連結配当性向30%を目安とした安定的な配当を基本方針としています。
配当金の状況
2025年3月期の年間配当金は、当初の予想から期末配当を10円増額し、1株あたり150円(中間配当70円、期末配当80円)となる予定です。
これにより、配当性向は28.5%となります。
また、2026年3月期の配当予想も、同額の年間150円(中間75円、期末75円)とされており、安定配当を継続する方針が示されています。
自社株買いの発表はあった?
今回の決算発表において、新たな自己株式取得(自社株買い)に関する発表はありませんでした。
川崎重工の今期の見通しと戦略について
2026年3月期(2025年度)の連結業績は、売上収益2兆3,100億円(前期比8.5%増)、事業利益1,450億円(同1.3%増)と、増収および2期連続での過去最高益更新を見込んでいます。
一方で、親会社の所有者に帰属する当期利益は820億円(同6.8%減)の減益予想となっています。
項目 | 2026年3月期 予想 | 2025年3月期 実績 | 前期比 増減率 |
---|---|---|---|
売上収益 | 2兆3,100億円 | 2兆1,293億円 | +8.5% |
事業利益 | 1,450億円 | 1,431億円 | +1.3% |
親会社の所有者に帰属する 当期利益 | 820億円 | 880億円 | -6.8% |
この業績予想は、為替レートを1ドル=140円、1ユーロ=155円という前期実績(1ドル=150.81円)よりも円高の前提で設定されています。
この円高影響がありながらも、航空宇宙システム事業やパワースポーツ&エンジン事業での増収、エネルギーソリューション&マリン事業や精密機械・ロボット事業の収益性改善により、最高益を更新する計画です。
戦略面では、長期ビジョン「グループビジョン2030」に基づき、「安全安心リモート社会」「近未来モビリティ」「エネルギー・環境ソリューション」の3つのフィールドに注力しています。
特に、将来の成長ドライバーとして期待される水素関連事業やCO2分離・回収事業、各種製品の電動化などを積極的に推進していく方針です。
これらの取り組みを通じて、2030年度までに事業利益率10%超の達成を目指しています。
川崎重工の決算内容や今期の見通しで、株価はどうなる?
今回の決算内容と今期の見通しが株価に与える影響について、ポジティブな要因とネガティブな要因に分けて整理します。
株価にポジティブな影響を与える要因
株価にポジティブな影響を与える要因として分析できるのは、以下の4つです。
- 好調な業績と今後の見通し
2025年3月期の事業利益が過去最高を更新し、2026年3月期も円高前提にもかかわらず最高益の更新を計画している点は、企業の収益力を示す上で非常にポジティブです。 - 潤沢な受注残高
受注残高は前期末から4,597億円増加し2兆7,827億円に達しており、将来の安定した収益基盤が確保されています。 - 事業環境の好転
航空旅客需要の回復や世界的な防衛費増額の流れは、同社の主力事業である航空宇宙システム事業にとって追い風です。 - 安定した株主還元
年間150円の安定配当を継続する方針は、株主にとって魅力的です。
株価にネガティブな影響を与える要因
一方で、株価にネガティブな影響を与える要因として分析できるのは、以下の4つです。
- 外部環境の不確実性
米国の関税政策の動向や、それに伴う市場への影響は、特にパワースポーツ&エンジン事業にとってリスク要因です。
業績見通しには関税負担のコストアップ分が織り込まれておらず、今後の動向が注視されます。 - 為替変動リスク
今期は円高を前提としており、これが航空宇宙システム事業などの減益要因となっています。
想定以上の円高が進んだ場合、さらなる業績下振れのリスクがあります。 - 当期利益の減益予想
事業利益は増益予想ですが、親会社の所有者に帰属する当期利益は減益を見込んでおり、この点が市場でネガティブに評価される可能性があります。 - コンプライアンス問題
潜水艦の修繕や舶用エンジンに関する不適切事案の調査が継続中であり、今後の調査結果によっては業績への影響が発生する可能性があります。
川崎重工の決算から分かる強みは?
今回の決算からは、川崎重工の持ついくつかの強みが改めて浮き彫りになりました。
多角的な事業ポートフォリオ
航空機から鉄道車両、船舶、エネルギープラント、産業用ロボット、モーターサイクルまで、非常に幅広い事業領域を持っていることが最大の強みです。
特定の市場が落ち込んでも、他の好調な事業がカバーすることで、グループ全体として安定した収益を確保するリスク分散体制が構築されています。
防衛・社会インフラという安定した収益基盤
防衛省向けの航空機や潜水艦、国内外の鉄道車両、ごみ処理施設といった社会インフラ関連の事業は、景気変動の影響を受けにくく、長期的に安定した需要が見込めます。
近年の防衛力強化の流れは、同社にとって大きな追い風となっています。
未来を見据えた技術開発力
カーボンニュートラル社会の実現に向けて、世界に先駆けて水素の製造・輸送・利用に至るサプライチェーン技術を開発している点は、将来の大きな成長ポテンシャルを感じさせます。
また、CO2分離・回収技術も保有しており、脱炭素という世界的な潮流をビジネスチャンスに変える先進的な取り組みが強みと言えるでしょう。
まとめ
川崎重工の2025年3月期決算は、事業利益が過去最高を更新するなど、力強い内容でした。
2026年3月期も円高という逆風の中で最高益更新を目指す強気の計画を掲げており、その収益力の高さを示しています。
一方で、米国の関税政策や為替変動といった外部リスクも抱えており、予断を許さない状況です。
同社が持つ多角的な事業ポートフォリオと、防衛や脱炭素といった分野での技術的な強みを活かし、いかにしてリスクを乗り越えて持続的な成長を実現していくのか、今後の展開が注目されるでしょう。
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