三菱重工(三菱重工業株式会社)が2025年5月9日に発表した2025年3月期(2024年度)の連結決算は、売上収益、事業利益、当期利益がいずれも過去最高を更新する好調な内容となりました。
特に、エネルギー分野の旺盛な需要と、日本の安全保障環境の変化を背景とした防衛・宇宙事業の大幅な伸長が業績を牽引しました。
本記事では、同社の2025年3月期の決算内容を振り返るとともに、セグメント別の詳細、財務状況、そして今後の見通しや株価への影響について、決算資料を基に詳しく解説していきます。
三菱重工の2025年3月期における連結決算の振り返り
2025年3月期の連結決算は、受注高、売上収益、事業利益、当期利益の全てにおいて前年度を上回る結果となりました。
項目 | 2025年3月期 (2024年度)実績 | 2024年3月期 (2023年度)実績 | 前期比 |
---|---|---|---|
受注高 | 7兆712億円 | 6兆6,840億円 | +5.8% |
売上収益 | 5兆271億円 | 4兆6,571億円 | +7.9% |
事業利益 | 3,831億円 | 2,825億円 | +35.6% |
親会社の所有者に帰属する 当期利益 | 2,454億円 | 2,220億円 | +10.6% |
決算概要としては、受注高はエナジーセグメントをはじめ、全てのセグメントで前年度を上回りました。
売上収益も、航空・防衛・宇宙セグメントやエナジーセグメントの増加が寄与し、過去最高を記録しました。
事業利益は、売上増加や利益率の改善、為替の円安影響、さらには横浜本牧工場の一部土地売却(譲渡益521億円)などが貢献し、前期比で1,006億円の大幅な増益となりました。
フリー・キャッシュ・フローも過去最高の3,427億円を達成し、財務の健全性が向上していることがうかがえます。
三菱重工の2025年3月期におけるセグメント別の業績
三菱重工のセグメント別の業績は以下の通りです。
セグメント | 受注高 | 売上収益 | 事業利益 |
---|---|---|---|
エナジー | 2兆6,224億円 | 1兆8,157億円 | 2,053億円 |
プラント・インフラ | 1兆2億円 | 8,521億円 | 596億円 |
物流・冷熱・ドライブシステム | 1兆3,305億円 | 1兆3,071億円 | 493億円 |
航空・防衛・宇宙 | 2兆1,001億円 | 1兆306億円 | 999億円 |
エナジー、プラント・インフラ、航空・防衛・宇宙の3セグメントで増益を達成しました。
エナジー
エナジーセグメントは、売上収益が前期比921億円増の1兆8,157億円、事業利益が前期比554億円増の2,053億円と大幅な増収増益を達成しました。
特にガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた発電設備であるGTCC事業が好調で、米州や中東を中心に受注が大幅に増加しました。
売上増に加えて採算が改善したことが増益の主な要因です。
また、航空エンジン事業も、売上増と前年度に計上した一時費用の反動により増益に貢献しました。
プラント・インフラ
プラント・インフラセグメントは、売上収益が前期比188億円増の8,521億円、事業利益が前期比148億円増の596億円となりました。
製鉄機械が売上増と採算改善により増収増益となったほか、機械システムも売上増に伴い増益となり、セグメント全体の業績を牽引しました。
物流・冷熱・ドライブシステム
物流・冷熱・ドライブシステムセグメントは、売上収益が前期比74億円減の1兆3,071億円、事業利益が前期比234億円減の493億円と減収減益でした。
物流機器(フォークリフトなど)が販売台数の減少により減収減益となったほか、ターボチャージャ事業もサプライチェーンの混乱に伴う費用増が響き減益となりました。
一方で、冷熱事業は販売台数の増加により増収増益を確保しています。
航空・防衛・宇宙
航空・防衛・宇宙セグメントは、売上収益が前期比2,390億円増の1兆306億円、事業利益が前期比272億円増の999億円と、大幅な増収増益を達成しました。
艦艇や宇宙関連の受注が伸長し、防衛分野の工事が順調に進捗したことや採算が改善したことが主な要因です。
民間航空機分野でも、為替の円安影響や北米でのアフターサービス事業が伸び、増収に貢献しました。
三菱重工の2025年3月期末時点での財務状況について
2025年3月期末の財務状況は、資産合計が前期末比で4,026億円増加し、6兆6,589億円となりました。
事業規模の拡大に伴う売上債権や棚卸資産の増加、そして現金及び現金同等物が増加したことが主な要因です。
項目 | 2025年3月期末 | 2024年3月期末 | 増減 |
---|---|---|---|
資産合計 | 6兆6,589億円 | 6兆2,562億円 | +4,026億円 |
負債合計 | 4兆1,891億円 | 3兆8,956億円 | +2,934億円 |
資本合計 | 2兆4,698億円 | 2兆3,607億円 | +1,091億円 |
有利子負債残高 | 6,513億円 | 7,289億円 | △775億円 |
自己資本比率 | 35.2% | 35.9% | △0.7pt |
D/Eレシオ | 0.26倍 | 0.31倍 | △0.05 |
有利子負債は前期末から775億円減少し6,513億円となり、健全性を示すD/Eレシオ(負債資本倍率)は0.26倍まで低下しました。
キャッシュフローの状況
キャッシュフロー(CF)の状況は以下の通りです。
項目 | 2025年3月期 (2024年度) | 2024年3月期 (2023年度) | 増減 |
---|---|---|---|
営業活動によるCF | 5,304億円 | 3,311億円 | +1,992億円 |
投資活動によるCF | △1,877億円 | △1,310億円 | △566億円 |
フリー・ キャッシュ・フロー | 3,427億円 | 2,001億円 | +1,426億円 |
財務活動によるCF | △1,141億円 | △1,589億円 | +447億円 |
現金及び現金同等物 期末残高 | 6,578億円 | 4,312億円 | +2,265億円 |
営業キャッシュ・フローは、税引前利益の増加に加え、大型案件の受注に伴う多額の前受金を獲得したことなどから、前期比1,992億円増の5,304億円となりました。
投資キャッシュ・フローは、不動産取得(田町タワー)や発電事業会社への追加出資などにより、マイナス幅が拡大しました。
この結果、フリー・キャッシュ・フローは前期比1,426億円増の3,427億円と、過去最高を更新しています。
主要財務指標(ROEなど)
収益性や効率性を示す主要な財務指標は以下の通りです。
- ROE(自己資本利益率): 10.7%
- ROA(総資産利益率、資産合計税引前利益率): 5.8%
- 売上収益事業利益率: 7.6%
- EBITDAマージン: 10.8%
ROEは10.7%と、概ね前年度と同水準を維持しました。
また、有利子負債の縮減とEBITDAの改善が寄与し、Debt/EBITDA倍率(有利子負債がEBITDAの何倍かを示す指標)は過去最低水準の1.2倍まで低下しており、財務の健全性が高まっていることを示しています。
三菱重工の株主還元について
三菱重工は、株主への利益還元を重要な経営課題の一つと位置づけています。
2025年3月期の配当は増配となり、安定的な株主還元姿勢がうかがえます。
配当金の状況
2025年3月期の年間配当金は、1株当たり23円(株式分割後換算)となり、前期の20円から3円の増配となりました。
当初の公表予定だった22円からさらに1円上乗せされています。
さらに、2026年3月期(今期)の配当予想は、1円増配の年間24円(中間12円、期末12円)とされており、増配基調が続く見通しです。
自社株買いの発表はあった?
今回の決算発表時点では、新たな自己株式取得の発表はありませんでした。
なお、2025年3月期中には、約121億円の自己株式取得を実施しています。
三菱重工の今期の見通しと戦略について
2026年3月期(2025年度)の連結業績は、売上収益が5兆4,000億円(前期比7.4%増)、事業利益が4,200億円(同9.6%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益が2,600億円(同5.9%増)と、増収増益を見込んでいます。
セグメント別では、引き続き「エナジー」と「航空・防衛・宇宙」が業績を牽引する見込みです。
特に「航空・防衛・宇宙」セグメントは、好調な受注を背景に売上が前期比30%以上増加する計画となっており、大きな成長ドライバーとなることが期待されます。
「エナジー」セグメントも、GTCCや航空エンジンを中心に増収増益を見込んでいます。
戦略としては、脱炭素化の流れを捉えたGTCC事業や、安全保障への関心の高まりを背景とした防衛事業といった、社会的な要請が強い分野での事業拡大を引き続き推進していくものと考えられます。
三菱重工の決算内容や今期の見通しで、株価はどうなる?
今回の決算内容と今期の見通しが、今後の株価に与える影響について、ポジティブ・ネガティブ両面から分析します。
株価にポジティブな影響を与える要因
株価にポジティブな影響を与える要因として、以下の5点が考えられます。
- 過去最高の業績達成
売上収益、事業利益、当期利益が過去最高を更新したことは、企業の成長性を示す上で非常にポジティブな材料です。 - 好調な今期見通し
今期も増収増益を見込んでおり、特に利益成長が続く見通しである点は投資家から評価されやすいです。 - 防衛・宇宙事業の急成長
今期30%以上の売上増を見込むなど、日本の防衛費増額の恩恵を直接受ける形で急成長しており、今後の持続的な成長期待が高まります。 - 堅調なエナジー事業
世界的な電力需要の増加や脱炭素化への移行を背景に、GTCC事業の好調で、安定した収益基盤となっています。 - 株主還元の強化
増配が継続しており、株主を重視する姿勢が好感される可能性があります。 - 財務健全性の向上
有利子負債の削減とフリー・キャッシュ・フローの増加により、財務リスクが低下している点は安心材料です。
株価にネガティブな影響を与える要因
一方で、株価にネガティブな影響を与える要因として、以下の3点が考えられます。
- 受注高見通しの大幅減
今期の受注高見通しが前期比16.6%減となっており、将来の売上の先行指標が減少することは、短期的に警戒される可能性があります。
ただし、これは前期の大型案件の反動という側面が強いです。 - 為替レートの変動リスク
同社は海外売上比率が高いため、想定為替レート(1ドル145円)からの円高進行は、業績の下振れリスクとなります。 - 地政学リスク
米国の保護主義政策や国際情勢の不安定化は、グローバルに事業を展開する同社にとって潜在的なリスク要因です。
決算から分かる三菱重工の強みは?
今回の決算から、三菱重工の以下の強みが浮き彫りになりました。
多角的で強固な事業ポートフォリオ
エナジー、プラント・インフラ、物流、航空・防衛・宇宙と、社会インフラを支える幅広い事業を展開しています。
特定の市場環境の変化に左右されにくい、安定した収益構造が強みです。
今回の決算も、物流セグメントの不調をエナジーや防衛・宇宙がカバーする形となりました。
時代の潮流を捉える高い技術力と事業展開
脱炭素化(GX)という世界的な潮流において中核的な役割を果たすGTCCや原子力事業、そして安全保障という国家的な課題に対応する防衛・宇宙事業など、高い技術力が求められ、かつ将来性のある事業領域で確固たる地位を築いています。
旺盛な需要を背景とした潤沢な受注残高(10.2兆円)が、その強さを裏付けています。
健全な財務基盤とキャッシュ創出力
過去最高のフリー・キャッシュ・フローを達成し、有利子負債を削減するなど、財務体質が着実に強化されています。
この強固な財務基盤は、将来の成長に向けた研究開発や設備投資を支える源泉となります。
まとめ
三菱重工の2025年3月期決算は、売上・利益ともに過去最高を更新する力強い内容でした。
特に、世界的なエネルギー需要と日本の安全保障環境の変化という二つの大きな潮流を的確に捉え、エナジー事業と防衛・宇宙事業を大きく成長させたことが成功の要因です。
今期も増収増益を見込んでおり、好調な受注残を背景に持続的な成長が期待されます。
一方で、大型案件の反動による受注高の減少見込みや為替リスクなど、留意すべき点もあります。
社会インフラを支えるリーディングカンパニーとして、同社が今後どのように時代の変化に対応し、成長を続けていくのか、引き続き注目が集まるでしょう。
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