丸紅の2025年3月期決算を解説|過去2番目の純利益!好業績で株価はどうなるの?

2025年5月2日、総合商社の丸紅株式会社が2025年3月期の連結決算を発表しました。

当期は、純利益が過去2番目の高水準となる5,030億円を達成し、基礎営業キャッシュ・フローは過去最高を記録しました。
さらに、年間配当金の増額と大規模な自己株式取得枠の拡大を発表しており、株主還元の強化が際立つ内容となっています。

本記事では、開示された決算資料をもとに、同社の業績、財政状態、そして今後の株価に与える影響を詳しく解説します。

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目次

丸紅株式会社の2025年3月期における連結決算の振り返り

丸紅株式会社の2025年3月期の連結決算の主要数値は以下の通りです。

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項目2024年3月期実績2025年3月期実績前期比
収益7兆2,505億円7兆7,902億円+7.4%
売上総利益1兆658億円1兆1,466億円+7.6%
営業利益2,763億円2,723億円▲1.5%
純利益4,714億円5,030億円+6.7%
出典:丸紅株式会社「2025年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)
純利益は「親会社の所有者に帰属する当期利益」を指します。

2025年3月期の収益は前期比7.4%増の7兆7,902億円、純利益は前期比6.7%増の5,030億円となり、過去2番目の高水準を達成しました。

非資源分野が過去最高の3,230億円の実態純利益を達成し、業績を牽引しました。
一方で、資源分野は市況下落の影響を受け減益となりましたが、カタールLNG事業終了に伴う為替換算調整勘定の実現益などが寄与し、エネルギー分野全体では増益を確保しています。

特筆すべきは、基礎営業キャッシュ・フローが過去最高の6,066億円に達したことです。
これは、堅調な事業収益に加え、配当収入などが寄与した結果であり、企業の稼ぐ力の強さを示しています。

丸紅株式会社のセグメント別の業績

丸紅株式会社のセグメント別の当期純利益(親会社の所有者に帰属する当期利益)は以下の通りです。

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セグメント2024年3月期実績2025年3月期実績増減額
ライフスタイル99億円84億円▲15億円
フォレストプロダクツ▲142億円152億円+294億円
情報ソリューション78億円91億円+14億円
食料第一170億円139億円▲31億円
食料第二180億円99億円▲81億円
アグリ事業415億円457億円+42億円
化学品70億円136億円+66億円
金属1,635億円1,235億円▲400億円
エネルギー392億円693億円+301億円
電力473億円660億円+187億円
インフラプロジェクト169億円▲23億円▲193億円
航空・船舶264億円396億円+132億円
金融・リース・不動産439億円591億円+152億円
建機・産機・
モビリティ
271億円161億円▲111億円
次世代事業開発3億円7億円+3億円
次世代コーポレート
ディベロップメント
▲31億円▲22億円+9億円
その他227億円173億円▲55億円
全社合計4,714億円5,030億円+316億円
出典:丸紅株式会社「2025年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)

アグリ事業・化学品・電力・金融などが好調

アグリ事業では、米国肥料卸売事業の増益により42億円の増益となりました。
化学品は、前年度に計上したのれんの減損損失の反動や、豪州塩田事業の資産売却益により66億円の増益を達成しています。

電力セグメントは、電力卸売・小売事業の増益や、前年度に計上した台湾の発電所EPC案件に係る工事損失引当金の反動により、187億円の大幅増益を記録しました。

また、金融・リース・不動産セグメントは、みずほリース社の関連会社化や航空機リース事業の増益が寄与し、152億円の増益となっています。

金属・インフラプロジェクトは減益

一方で、金属セグメントは、豪州の原料炭事業や鉄鉱石事業における商品価格の下落が響き、400億円の大幅な減益となりました。
インフラプロジェクトセグメントも、米国石油・ガス開発関連事業における投資の減損損失を計上したことなどから、193億円の減益となっています。

丸紅株式会社の2025年3月末時点の財務状況について

丸紅株式会社の2025年3月末時点の財務状況は以下の通りです。

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項目2024年3月末2025年3月末増減
総資産8兆9,236億円9兆2,020億円+2,784億円
純資産(資本合計)3兆5,628億円3兆7,686億円+2,058億円
親会社の所有者に
帰属する持分
3兆4,597億円3兆6,292億円+1,696億円
親会社所有者帰属
持分比率
38.8%39.4%+0.6ポイント
ネット有利子負債1兆9,024億円1兆9,655億円+631億円
ネットDEレシオ0.55倍0.54倍▲0.01ポイント
出典:丸紅株式会社「2025年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)

総資産は前期末比で2,784億円増加し、9兆2,020億円となりました。
純利益の積み上げによる利益剰余金の増加などにより、親会社の所有者に帰属する持分は1,696億円増加し、自己資本の充実が図られました。

これにより、健全性を示す親会社所有者帰属持分比率は39.4%と、前期末から0.6ポイント改善しました。

キャッシュフローの状況

当期のキャッシュフローの状況は以下の通りです。

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項目2024年3月期2025年3月期増減
営業活動によるCF4,425億円5,979億円+1,555億円
投資活動によるCF▲3,344億円▲3,953億円▲609億円
財務活動によるCF▲2,542億円▲1,220億円+1,321億円
フリーキャッシュフロー2,026億円1,080億円
出典:丸紅株式会社「2025年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)

フリーキャッシュフローは本資料では「営業活動によるCF」と「投資活動によるCF」の単純な合算値(1,080億円)ではなく、基礎営業CFから新規投資・CAPEX等を差し引いた2,026億円を記載しています。

営業活動によるキャッシュフローは、営業収入や配当収入の増加により、前期比1,555億円増の5,979億円のプラスとなりました。
投資活動によるキャッシュフローは、持分法適用会社の株式取得や海外事業への支出などにより、3,953億円のマイナスとなっています。

この結果、企業の稼ぐ力を示すフリーキャッシュフローは2,026億円のプラスを確保しました。

主要財務指標(ROEなど)

指標2024年3月期2025年3月期
ROE
(自己資本利益率)
15.2%14.2%
ROA
(総資産利益率)
5.3%5.5%
親会社株主帰属
持分当期利益率
15.2%14.2%
出典:丸紅株式会社「2025年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)
ROAは当期純利益÷期末総資産で算出

株主資本に対する収益性を示すROE(自己資本利益率)は14.2%となり、前期の15.2%から1.0ポイント低下したものの、引き続き高い水準を維持しています。

丸紅株式会社の株主還元(配当・自社株買い)について

丸紅は、中期経営戦略「GC2027」において、株主還元のさらなる強化を打ち出しています。
総還元性向40%程度を目安とし、安定的かつ累進的な配当を継続する方針です。

配当金の状況

2025年3月期の1株当たり年間配当金は、前期から10円増配の95円(中間45円、期末50円)となりました。

さらに、2026年3月期の配当予想は、さらに5円増配し、年間100円(中間50円、期末50円)としています。
これは、GC2027で掲げる「1株当たり年間配当金100円を基点とする累進配当」を実践するものです。

自社株買いの発表はあった?

丸紅は株主還元の強化と資本効率の向上のため、大規模な自己株式取得を発表しています。

2025年2月5日に公表した300億円を上限とする自己株式取得に加え、2025年5月2日の決算発表と同時に新たに400億円の追加取得枠を決定しました。

これにより、自己株式取得の上限金額は合計で700億円となり、取得期間も2026年1月30日まで延長されます。
これは、機動的な資本政策の遂行と株主還元の拡充を図る強い意志の表れと言えます。

丸紅株式会社の今期の見通しと戦略について

丸紅は2026年3月期の業績見通しとして、純利益5,100億円を予想しています。
これは、過去2番目の高水準であった2025年3月期の実績をさらに上回る、過去最高益更新を見据えた野心的な目標です。

この見通しの背景には、以下のような戦略があります。

  • 非資源分野の利益成長
    戦略的プラットフォーム型事業を中心に、食料・アグリ部門やライフスタイル部門などの非資源分野が利益成長を牽引すると見込んでいます。
  • 成長投資の加速
    2025年度には5,700億円の成長投資を計画しており、特に「戦略プラットフォーム型事業」に4,200億円を重点的に配分します。
    これにより、持続的な収益基盤の強化を目指します。
  • ポートフォリオの強化
    2030年度に向けて非資源分野のROIC(投下資本利益率)10%を目指し、既存事業の磨き込みと、成長領域への資本配分を加速させます。

決算内容や今期の見通しで、株価はどうなる?

今回の決算発表と今期の見通しは、丸紅の株価に対して多面的な影響を与えると考えられます。

株価にポジティブな影響を与える要因

株価にポジティブな影響を与える要因として考えられるのは、以下の4つです。

  • 大幅な株主還元の強化
    年間配当金の100円への増配予想と、700億円規模の自己株式取得は、株価に直接的なプラス効果をもたらす強力な材料です。
    総還元性向40%という明確な方針も、投資家に安心感を与えます。
  • 過去最高益を見込む強気な業績見通し
    純利益5,100億円という来期見通しは、会社の成長期待を高め、株価上昇を後押しする要因となります。
  • 非資源分野の安定成長
    市況変動の影響を受けやすい資源分野への依存を下げ、非資源分野で安定的に収益を上げていることは、業績の安定化と企業価値の向上につながります。
  • 過去最高の基礎営業キャッシュ・フロー
    企業の稼ぐ力が過去最高であることは、財務の健全性と将来の投資・株主還元余力を示すものであり、ポジティブに評価されるでしょう。

株価にネガティブな影響を与える要因

一方で、株価にポジティブな影響を与える要因として考えられるのは、以下の3つです。

  • 資源市況の不確実性
    金属セグメントやエネルギー・化学品セグメントの来期見通しは、原料炭市況の下落などを織り込み減益予想となっています。
    世界経済の動向によっては、資源価格が下振れし、業績の重しとなるリスクがあります。
  • 為替変動リスク
    来期の想定為替レートは1ドル140円と、足元の水準より円高に設定されています。
    想定以上の円高が進んだ場合、利益が圧迫される可能性があります。
  • 地政学リスクと世界経済の減速懸念
    決算短信では、世界経済が保護主義的な通商政策の拡大により大幅な成長鈍化が見込まれると言及されており、これが現実となれば、グローバルに事業を展開する丸紅の業績に影響を与える可能性があります。

決算から分かる丸紅の「強み」とは?

最後に、今後丸紅に投資を検討するうえで重要となる「強み」について分析していきましょう。

1. 穀物・食料分野における歴史と実績

丸紅は伝統的に穀物分野に強みを持っており、これは総合商社の中でも際立った特徴の一つです。
決算資料においても「食料・アグリ部門」は重要な収益源として位置づけられています。

  • アグリ事業の利益貢献
    アグリ事業セグメントは2025年3月期に457億円の純利益を計上しており、全社の中でも大きな利益貢献を果たしています。
  • グローバルな事業展開
    米国の農業資材販売事業(Helena社)やブラジルの農業資材販売事業(Adubos Real社)など、世界各地で事業を展開し、食料の安定供給に貢献しています。
    この分野での長年の経験とグローバルネットワークが大きな強みです。

2. 電力事業(IPP)における強力なプレゼンス

丸紅は、IPP(独立系発電事業者)のパイオニアとして、世界中で発電所の開発・運営を手掛けてきました。
これも同社の大きな強みです。

  • 安定した収益基盤
    電力事業は長期契約に基づくものが多く、市況の変動を受けにくい安定した収益を生み出すビジネスモデルです。
    2025年3月期においても、電力セグメントは660億円という高い純利益を上げています。
  • エネルギー・トランジションへの対応
    近年は再生可能エネルギー発電事業にも注力しており、エネルギートランジションという時代の要請にも応えながら、収益基盤を強化しています。

3. 安定収益源としての非資源分野の強化

総合商社は資源分野と非資源分野のバランスが経営の安定性に影響しますが、丸紅は特に非資源分野の利益成長を重視し、実績を上げています

  • 過去最高の利益達成
    2025年3月期において、非資源分野の実態純利益は3,230億円と過去最高を達成しました。
  • 利益成長の牽引役
    会社全体の増益は、戦略的プラットフォーム型事業を中心とした非資源分野の利益成長が牽引したと分析されています。
    市況変動の影響を受けやすい資源ビジネスへの依存度を低減させ、安定した収益構造を構築している点が強みです。

4. 「戦略プラットフォーム型事業」への注力

丸紅は、今後の成長戦略の中核として「戦略プラットフォーム型事業」を明確に掲げ、経営資源を集中投下しています。

  • 明確な成長戦略
    「成長領域×高付加価値×拡張性」を有する事業を「戦略プラットフォーム型事業」と定義し、農業資材、北米モビリティ事業、食品マーケティング・製造事業などに重点的に資本を配分しています。
  • 具体的な投資計画
    2025年度の成長投資5,700億円のうち、4,200億円をこの戦略プラットフォーム型事業に充てる計画です。
    このような明確な戦略と具体的な投資計画は、持続的な成長への強い意志を示すものです。

まとめ

丸紅の2025年3月期決算は、純利益が過去2番目の高水準となり、基礎営業キャッシュ・フローは過去最高を記録するなど、非常に力強い内容でした。
特に、年間配当金の増額と大規模な自己株式取得の発表は、株主還元への強いコミットメントを示すものであり、市場から高く評価されることが期待されます。

来期は過去最高益の更新を目指す強気な見通しを掲げており、非資源分野の成長を軸とした中期経営戦略「GC2027」の進捗が、目標達成の鍵を握るでしょう。
資源市況や世界経済の動向といった不確定要素は残るものの、強固な財務基盤と積極的な株主還元策を背景に、今後の株価展開にも期待が持てる決算発表であったと言えます。

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