三井物産の2025年3月期決算を分析|累進配当継続と増配を発表で株価は上がる?

総合商社大手の一角、三井物産株式会社が2025年5月1日に2025年3月期の決算を発表しました。
当期は資源価格の下落などの影響を受け、前期比で減益となったものの、依然として高水準の利益を確保し、好調なキャッシュ創出力を示しました。

また、年間配当の増額や累進配当の継続方針を明確にし、株主還元への積極的な姿勢を強調しています。

本記事では、三井物産の2025年3月期決算の内容を紐解き、セグメント別の業績、財務状況、そして今後の見通しや株価への影響について詳しく解説します。

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目次

三井物産の2025年3月期における連結決算の振り返り

三井物産の2025年3月期の連結決算は、収益(売上高)こそ前期を上回ったものの、税引前利益、当期利益ともに前期比で減少する結果となりました。

連結経営成績

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勘定科目2025年3月期実績2024年3月期実績前期比
収益14兆6,626億円13兆3,249億円+10.0%
税引前利益1兆1,352億円1兆3,023億円-12.8%
当期利益9,216億円1兆805億円-14.7%
親会社の所有者に
帰属する当期利益
9,003億円1兆637億円-15.4%
ROE
(自己資本利益率)
11.9%15.3%-3.4pt
出典:三井物産株式会社 2025年3月期 決算短信 [IFRS] (連結)

当期は、金属資源セグメントにおける鉄鉱石や原料炭の価格下落、エネルギーセグメントにおけるLNG関連の減益などが響き、最終利益は前期比で1,634億円の減益となりました。
一方で、基礎営業キャッシュ・フローは1兆275億円と、4期連続で1兆円規模を達成しており、同社の安定したキャッシュ創出力の高さを示しています。

この潤沢なキャッシュが、後述する積極的な株主還元や成長投資の源泉となっています。

三井物産のセグメント別の業績

セグメント別に見ると、資源価格の影響を大きく受けた「金属資源」「エネルギー」が減益となる一方、「化学品」「鉄鋼製品」「次世代・機能推進」が増益となるなど、多角的なポートフォリオが業績を下支えしている様子がうかがえます。

セグメント別の当期利益(親会社の所有者に帰属)は以下の通りです。

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セグメント2025年3月期
実績
2024年3月期
実績
増減額
金属資源2,854億円3,351億円▲497億円
エネルギー1,735億円2,817億円▲1,082億円
機械・インフラ2,329億円2,487億円▲158億円
化学品759億円392億円+367億円
鉄鋼製品132億円112億円+20億円
生活産業537億円941億円▲404億円
次世代・機能推進873億円538億円+335億円
合計9,003億円10,637億円▲1,634億円
出典:三井物産株式会社 2025年3月期 決算短信 [IFRS] (連結)

金属資源

売上総利益は前期比782億円減の2,639億円、当期利益は497億円減の2,854億円でした。
これは主に、豪州の鉄鉱石事業や原料炭事業における市況価格の下落が影響したものです。

一方、持分法投資損益では、チリの銅事業における前期の減損損失の反動増などにより増益となりました。

エネルギー

当期利益は前期比1,082億円の減少となる1,735億円でした。
前期に好調だったLNG(液化天然ガス)の物流やトレーディングが減益となったことや、前期にあった油田事業の売却益や資産除去債務取崩益の反動が主な要因です。

機械・インフラ

当期利益は158億円減の2,329億円となりました。
前期に計上したフィリピンのインフラ事業会社(MPIC)の評価益の反動があったものの、タイの発電事業が順次完工したことや、米国のトラックオークション事業の新規取得などが寄与しました。

化学品

当期利益は367億円増の759億円と大幅な増益を記録しました。米国のメタノール事業が販売価格の上昇や原料価格の下落により好調だったほか、アジアでのヘルスケア事業の買収(Eu Yan Sang)などが利益を押し上げました。

鉄鋼製品

当期利益は20億円増の132億円でした。
中東地域での事業が好調だったことや、自動車部品事業(Gestamp)における前期の減損損失の反動が主な要因です。

生活産業

当期利益は404億円減の537億円となりました。
これは主に、前期に計上した給食サービス事業会社(エームサービス)の公正価値評価益(434億円)の反動によるものです。

次世代・機能推進

当期利益は335億円増の873億円と大きく伸長しました。
国内の賃貸用不動産の一部売却による利益が大きく貢献しました。

三井物産の財務状況について

財務基盤の健全性は維持されています。
ネット有利子負債を株主資本で割ったネットDERは0.44倍と、前期の0.45倍から微減し、低位安定しています。

強固な財務基盤が、事業環境の変化に対する耐性と機動的な投資を可能にしています。

財務状況の概要 (2025年3月末時点)

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項目2025年3月期2024年3月期増減
総資産16兆8,115億円16兆8,995億円▲880億円
流動資産5兆6,869億円5兆7,681億円▲812億円
非流動資産11兆1,246億円11兆1,314億円▲68億円
負債合計9兆489億円9兆1,296億円▲807億円
株主資本
(親会社所有者帰属持分)
7兆5,466億円7兆5,418億円+48億円
親会社所有者帰属
持分比率
44.9%44.6%+0.3pt
ネットDER0.44倍0.45倍▲0.01倍
出典:三井物産株式会社 2025年3月期 決算短信 [IFRS] (連結)

キャッシュフローの状況

2025年3月期のキャッシュフローは、営業活動によるキャッシュ・フローが前期から増加した一方、投資活動によるキャッシュ・フローの支出が減少し、フリー・キャッシュ・フローは前期の2倍近い8,555億円となりました。

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項目2025年3月期2024年3月期増減
営業活動による
キャッシュ・フロー
1兆175億円8,644億円+1,531億円
投資活動による
キャッシュ・フロー
▲1,620億円▲4,275億円+2,655億円
財務活動による
キャッシュ・フロー
▲7,496億円▲1兆131億円+2,635億円
フリー・
キャッシュ・フロー
8,555億円4,369億円+4,186億円
出典:三井物産株式会社 2025年3月期 決算短信 [IFRS] (連結)

各項目の要因については以下の通りです。

  • 営業CF
    持分法適用会社からの配当金受取額の増加などが寄与し、前期比で1,531億円のプラスとなりました。
  • 投資CF
    前期にあった大型の持分法適用会社への投資がなくなったことや、当期の不動産売却収入などにより、支出が大幅に減少しました。
  • 財務CF
    自己株式取得(4,000億円)や配当金支払い(2,742億円)があったものの、前期よりも長期借入金の返済が減少したことなどから、支出額は縮小しました。

主要財務指標(ROEなど)

  • ROE(自己資本当期利益率): 11.9%
  • ROA(総資産税引前利益率): 6.7%
  • ネットDER(ネット有利子負債/自己資本): 0.44倍

当期利益の減少に伴い、収益性を示すROEやROAは前期から低下しました。
しかし、ROEは株主資本コストを上回る水準を維持しており、資本効率性の高い経営が継続されています。

三井物産の株主還元について

三井物産は株主還元に積極的な姿勢を示しており、今回の決算でもその方針が再確認されました。

配当金の状況

2025年3月期の年間配当は、株式分割後ベースで1株あたり100円(前期比15円増)となりました。
さらに、2026年3月期の配当予想は1株あたり115円と、15円のさらなる増配を見込んでいます。

同社は「配当維持または増配を行う」累進配当を中期経営計画期間中(〜2026年3月期)の方針としており、今回、その方針を中経期間後も継続することを明らかにしました。
これは、安定的な配当を期待する株主にとって非常に心強いメッセージと言えます。

1株あたり配当金の推移と予想

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中間配当期末配当年間配当
2024年3月期(実績)42.5円42.5円85円
2025年3月期(実績)50円50円100円
2026年3月期(予想)55円60円115円
出典:三井物産株式会社 2025年3月期 決算短信 [IFRS] (連結)

自社株買いの発表はあった?

今回の決算発表時点では、新たな自己株式取得の発表はありませんでした
ただし、2025年3月期においては、総額4,000億円の自己株式取得を完了し、取得した全株式を消却しています。

中期経営計画では、3年累計の基礎営業キャッシュ・フローに対する株主還元(配当+自己株式取得)の割合を49%超とする見通しを示しており、今後も経営環境や株価水準などを総合的に勘案し、機動的な自己株式取得が実施される可能性は十分に考えられます。

三井物産の今期の見通しと戦略について

決算発表では、三井物産の今期(2026年3月期)見通しについても説明されていました。

2026年3月期の業績見通し

2026年3月期の業績は、当期利益(親会社所有者に帰属)で7,700億円と、2025年3月期実績(9,003億円)から約14.5%の減益を見込んでいます。

2026年3月期 連結業績予想

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勘定科目2026年3月期予想2025年3月期実績比
親会社の所有者に
帰属する当期利益
7,700億円-14.5%
基礎営業
キャッシュ・フロー
8,200億円-2,075億円
出典:三井物産株式会社 2025年3月期 決算短信 [IFRS] (連結)

減益の主な要因は、鉄鉱石・原料炭価格や原油価格の下落を見込んでいること、また前期に計上した資産リサイクル益の反動などです。
世界経済の先行き不透明感もリスク要因として挙げられています。

中期経営計画の戦略と進捗

現在進行中の中期経営計画2026は、アクションプランが前倒しで進捗しており、順調であることをアピールしています。
最終年度にあたり、以下の3つの柱で企業価値向上を目指す方針です。

  1. 基礎収益力の拡大
    既存事業の強化やトレーディング収益の拡大
  2. ポートフォリオマネジメント
    資産効率を重視した案件の厳選と戦略的な資産入替
  3. バランスシートマネジメント
    強固な財務基盤を維持しつつ、成長投資と株主還元へ資金を配分

特に、成長領域として「Global Energy Transition」「Wellness Ecosystem Creation」「Industrial Business Solutions」の3つを定め、積極的な投資を進めています。

  • Global Energy Transition (グローバル・エナジー・トランジション)
    低炭素・脱炭素社会の実現に向けた、エネルギーの安定供給と気候変動対策の両立を目指す事業領域
  • Wellness Ecosystem Creation (ウェルネス・エコシステム・クリエーション)
    人々の健康で豊かな暮らしに貢献するため、食、医療、ヘルスケア分野などを中心とした事業領域
  • Industrial Business Solutions (インダストリアル・ビジネス・ソリューションズ)
    産業界のサプライチェーンの変化を捉え、既存のビジネスモデルの変革や新たなソリューションの提供を目指す事業領域

具体的には、低炭素アンモニア事業(米国Blue Point)や次世代燃料事業、ヘルスケア事業などがこれに該当します。

決算内容や今期の見通しで、三井物産の株価はどうなる?

今回の決算内容と今後の見通しを踏まえ、株価に与える影響をポジティブな要因とネガティブな要因に分けて分析します。

株価にポジティブな影響を与える要因

株価にポジティブな影響を与える要因として考えられるのは、以下の4点です。

  • 積極的な株主還元
    15円の増配予想と累進配当の継続方針は、株価の下支えおよび向上に大きく寄与すると考えられます。
  • 安定したキャッシュ創出力
    4期連続で1兆円超の基礎営業キャッシュ・フローは、事業の安定性と将来の株主還元・成長投資への期待を高めます。
  • 中計の順調な進捗
    計画が前倒しで進捗していることは、経営陣の実行能力の高さを示し、投資家に安心感を与えます。
  • 多角的なポートフォリオ
    資源価格の変動という逆風下でも、非資源分野が下支えする収益構造は、業績の安定性につながります。

株価にネガティブな影響を与える要因

一方で、株価にネガティブな影響を与える要因として考えられるのは、以下の3点です。

  • 来期の減益予想
    当期利益7,700億円という見通しは、市場の期待値を下回る場合、株価の重しとなる可能性があります。
  • 資源市況の不透明感
    同社の利益は依然として資源価格の影響を大きく受けます。世界経済の減速懸念などによる市況のさらなる下落はリスクとなります。
  • 新たな自社株買いの発表なし
    4,000億円という大規模な自社株買いを終えた後、新たな発表がなかったことに対し、失望売りが出る可能性も否定できません。

決算から分かる三井物産の強みは?

今回の決算からは、三井物産の以下のような強みが改めて浮き彫りになりました。

多軸でのポートフォリオによるリスク分散

金属資源、エネルギーといった資源分野から、機械、化学、生活、次世代分野まで、非常に幅広い事業領域と地域でビジネスを展開しています。
これにより、特定の市場や地域の変動が全社業績に与える影響を緩和し、安定した収益基盤を構築しています。

強固なキャッシュ創出力と財務基盤

基礎営業キャッシュ・フローが4期連続で1兆円を超えるなど、景気変動に左右されにくい安定したキャッシュを生み出す力は同社の最大の強みの一つです。
また、ネットDERを0.4〜0.5倍程度でコントロールしており、この強固な財務基盤が積極的な投資と株主還元を両立させています。

グローバルなネットワークと案件組成能力

世界中の優良企業との長年にわたるパートナーシップを基盤に、大型のM&Aや新規事業を次々と実現しています。
LNG(Ruwais LNG)や鉄鉱石(Rhodes Ridge)といった大型プロジェクトから、ヘルスケアや次世代燃料といった新たな領域まで、その事業機会創出力は他社の追随を許しません。

まとめ

三井物産の2025年3月期決算は、資源価格の下落を主因とする減益決算となりました。
しかし、その内容は決して悲観的なものではなく、高水準の利益とキャッシュフローを維持し、強固な財務基盤と事業ポートフォリオの強靭さを示すものでした。

特に、年間配当の大幅な増額と累進配当の継続という明確な株主還元方針は、多くの投資家から好意的に受け止められるでしょう。

2026年3月期は減益予想と厳しいスタートになりますが、中期経営計画の着実な実行による長期的な成長と、それに伴う株主還元のさらなる拡充が期待されます。
投資家目線では、今後の資源市況の動向とともに、同社が掲げる成長戦略の進捗を引き続き注視していく必要があります。

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