2025年5月1日に発表された住友商事の2025年3月期(2024年度)の連結決算は、売上にあたる収益が前期比5.5%増の7兆2,920億円、最終的な利益である「親会社の所有者に帰属する当期利益」は前期比45.4%増の5,619億円となり、過去最高益を更新しました。
非資源ビジネスが全体を牽引し、資源ビジネスも市況下落局面において底堅く推移したことが増益に繋がりました。
また、年間配当の増配や800億円規模の自己株式取得を発表するなど、積極的な株主還元姿勢も示しています。
本記事では、住友商事の2025年3月期決算の内容を、セグメント別の業績や財務状況、今後の戦略などを交えながら詳しく解説します。
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住友商事の2025年3月期における連結決算の振り返り
住友商事の2025年3月期(2024年度)の連結決算は、収益、各段階の利益ともに前期を上回る結果となりました。
項目 | 2025年3月期 (2024年度) 実績 | 2024年3月期 (2023年度) 実績 | 前期比 |
---|---|---|---|
収益 | 7兆2,920億円 | 6兆9,103億円 | +5.5% |
税引前利益 | 6,956億円 | 5,276億円 | +31.8% |
当期利益 | 6,090億円 | 4,261億円 | +42.9% |
親会社の所有者に帰属する 当期利益 | 5,619億円 | 3,864億円 | +45.4% |
当期利益は、前期比1,755億円増の5,619億円となりました。
この増益の背景には、非資源ビジネスが510億円の増益と好調だったことに加え、資源ビジネスも市況が下落する中で60億円の増益を確保し、底堅さを見せたことがあります。
また、資産入替も順調に進捗し、事業ポートフォリオの変革を進めたことも増益に貢献しました。
具体的には、ティーガイア株式の売却益や、航空機リース事業における保険和解金の受領などがありました。
住友商事の2025年3月期(2024年度)セグメント別の業績
住友商事の2025年3月期(2024年度)セグメント別の当期利益は以下の通りです。
都市総合開発、メディア・デジタル、資源などのセグメントが大幅な増益を達成しました。
セグメント | 2025年3月期 (2024年度) 実績 | 2024年3月期 (2023年度) 実績 | 増減額 |
---|---|---|---|
鉄鋼 | 684億円 | 692億円 | △8億円 |
自動車 | 512億円 | 518億円 | △7億円 |
輸送機・建機 | 1,015億円 | 962億円 | +53億円 |
都市総合開発 | 771億円 | 465億円 | +306億円 |
メディア・デジタル | 452億円 | △10億円 | +463億円 |
ライフスタイル | 141億円 | △37億円 | +178億円 |
資源 | 911億円 | △95億円 | +1,006億円 |
化学品・ エレクトロニクス・農業 | 214億円 | 164億円 | +50億円 |
エネルギートランス フォーメーション | 964億円 | 843億円 | +121億円 |
消去又は全社 | △45億円 | 363億円 | △408億円 |
鉄鋼
当期利益は684億円(前期比△8億円)となりました。
北米での鋼管市況の軟化や、中国などでの需要低迷が影響しましたが、他地域が好調に推移したことでカバーしました。
自動車
当期利益は512億円(前期比△7億円)でした。
自動車の流通販売や国内オートリース事業は堅調に推移したものの、生産体制の最適化の進捗遅れなどが影響し、微減益となりました。
輸送機・建機
当期利益は1,015億円(前期比+53億円)と増益を確保しました。
リース事業や船舶事業が堅調に推移した一方、建設機械は需要の伸びの鈍化やコスト増により減益となりました。
都市総合開発
当期利益は771億円(前期比+306億円)と大幅な増益を達成しました。
国内外での不動産案件の資産入替(仕入・売却)を促進したことが主な要因です。
メディア・デジタル
当期利益は452億円(前期は△10億円の損失)と黒字転換しました。
これは主に、携帯電話販売代理店「ティーガイア」の売却関連益が寄与したほか、前期に計上したミャンマー通信事業における貸倒引当金の反動増によるものです。
ライフスタイル
当期利益は141億円(前期は△37億円の損失)と黒字転換しました。
欧米の青果事業(バナナ・パイナップル)が好調だったことに加え、前期にあった固定資産減損損失がなくなったことが要因です。
資源
当期利益は911億円(前期は△95億円の損失)と大幅な黒字転換を遂げました。
銅・アルミ価格の上昇に加え、前期にマダガスカルのニッケル事業で計上した減損損失の反動増が大きく影響しました。
化学品・エレクトロニクス・農業
当期利益は214億円(前期比+50億円)となりました。
医薬品関連取引などのライフサイエンス事業が好調だった一方、アグリ事業は天候不順や市況下落の影響で需要が減少しました。
エネルギートランスフォーメーション
当期利益は964億円(前期比+121億円)と好調でした。
主に海外の発電事業が堅調に推移したことが増益に繋がりました。
住友商事の2025年3月期末財務状況について
住友商事の2025年3月期末の財務状況は、総資産が前期末比で約6,000億円増加し、11.6兆円となりました。
自己資本比率(親会社所有者帰属持分比率)は40.0%と、健全な水準を維持しています。
項目 | 2025年3月期末 (2024年度末) | 2024年3月期末 (2023年度末) | 増減 |
---|---|---|---|
資産合計 | 11兆6,312億円 | 11兆326億円 | +5,986億円 |
負債合計 | 6兆7,456億円 | 6兆3,603億円 | +3,853億円 |
株主資本 | 4兆6,485億円 | 4兆4,455億円 | +2,030億円 |
D/E Ratio (Net) | 0.6倍 | 0.6倍 | ±0.0pt |
自己資本比率 | 40.0% | 40.3% | -0.3pt |
総資産の増加は、営業資産の増加や、SCSKにおけるネットワンシステムズの新規連結が主な要因です。
また、株主資本は当期利益の計上により増加した一方で、配当金の支払いや自己株式の取得により減少しました。
キャッシュフローの状況
2025年3月期(2024年度)のキャッシュフローの状況は以下の通りです。
項目 | 2025年3月期 (2024年度) 実績 | 2024年3月期 (2023年度) 実績 |
---|---|---|
営業活動による キャッシュ・フロー | 6,123億円 | 6,089億円 |
投資活動による キャッシュ・フロー | △4,614億円 | △2,192億円 |
財務活動による キャッシュ・フロー | △2,474億円 | △4,155億円 |
- 営業活動によるキャッシュ・フロー
コアビジネスが着実にキャッシュを創出したことにより、6,123億円のプラスとなりました。 - 投資活動によるキャッシュ・フロー
△4,614億円のマイナスでした。
これは、洋上風力発電用の基礎構造物製造事業や、SCSKによるネットワンシステムズの取得、インドの都市ガス事業への出資など、注力事業への成長投資を積極的に行った結果です。 - 財務活動によるキャッシュ・フロー
配当金の支払いや自己株式の取得を進めたため、△2,474億円のマイナスとなりました。
主要財務指標(ROEなど)
- ROE (自己資本利益率)は、前期の9.4%から3.0ポイント改善し、12.4%となりました。
- ROA (総資産利益率)に相当する「資産合計税引前利益率」は、前期の5.0%から1.1ポイント改善し、6.1%でした。
住友商事の株主還元(配当金・自社株買い)について
住友商事は、中期経営計画2026において「総還元性向40%以上+累進配当」を株主還元方針として掲げています。
2025年3月期もこの方針に基づき、増配と大規模な自己株式取得を決定しました。
配当金の状況
2025年3月期(2024年度)の年間配当金は、前期比5円増の1株当たり130円(中間65円、期末65円)となりました。
さらに、2026年3月期(2025年度)の年間配当金予想は、前期比10円増配の1株当たり140円(中間70円、期末70円)としており、累進配当を継続する方針です。
自社株買いの発表はあった?
2025年5月1日に、総額800億円を上限とする自己株式の取得を決定しました。
この800億円のうち、200億円は2024年度実績に対する追加還元、600億円は2025年度の株主還元として位置づけられています。
自己株式取得の詳細は以下の通りです。
- 取得する株式の種類: 当社普通株式
- 取得する株式の総数: 3,500万株(上限)
- 取得価額の総額: 800億円(上限)
- 取得期間: 2025年5月2日~2026年3月31日
- 発行済株式総数に対する割合: 約2.9%
住友商事の今期見通しと戦略について
住友商事の2026年3月期(2025年度)の通期利益予想は5,700億円と、今期に更新した過去最高益をさらに上回る見込みです。
これは、非資源ビジネスにおける着実な利益成長を見込む一方で、事業環境の不確実性を踏まえ、400億円のバッファーを織り込んだ計画です。
セグメント別では、資源ビジネスは資源価格の下落により減益が見込まれるものの、自動車セグメント(米国タイヤ販売事業の売却益)や化学品・エレクトロニクス・農業セグメントなどが利益を伸ばし、全体を牽引する計画です。
今後の戦略としては、中期経営計画2026に基づき、引き続き事業ポートフォリオ変革を推進します。
成長分野(鉄鋼、建機、リース、都市総合開発、デジタル、ヘルスケア、アグリ、エネルギートランスフォーメーション)を中心とした利益成長と、足元で不調なビジネスの業績改善を進めていく方針です。
決算内容や今期の見通しで、住友商事の株価はどうなる?
今回の決算発表と今後の見通しが株価に与える影響について、資料から読み取れるポジティブな要因とネガティブな要因をまとめます。
株価にポジティブな影響を与える要因
株価にポジティブな影響を与える要因としては、以下の4点が考えられます。
- 過去最高益の更新と来期予想
2025年3月期に過去最高益を達成し、2026年3月期も更なる最高益更新を見込んでいる点は、企業の成長性を示す上で非常にポジティブです。 - 積極的な株主還元
前期比10円の増配予想と800億円という大規模な自己株式取得は、株主への還元意欲の高さを示しており、株価の下支えや上昇に繋がりやすい要因です。 - PBR1倍回復への強い意志
中期経営計画の着実な実行により、PBR1倍以上の回復を早期に実現するとの目標を掲げており、資本効率への意識の高さがうかがえます。 - 成長戦略の進捗
成長分野への投資を着実に実行し(2024年度に過去最高レベルの7,300億円を投資)、資産入替も進捗していることから、将来の収益拡大への期待が高まります。
株価にネガティブな影響を与える要因
一方で、株価にネガティブな影響を与える要因としては、以下の3点が考えられます。
- 事業環境の不確実性
政治的混乱や地政学的緊張の高まり、主要先進国の成長鈍化といった外部環境の不確実性が継続している点は、事業運営上のリスク要因です。 - 資源価格の変動リスク
2026年3月期の見通しでは資源ビジネスが資源価格の下落により減益となる予想であり、今後の市況次第では業績の下振れリスクとなり得ます。 - 米国の関税措置
米国の関税措置がサプライチェーンに与える間接的な影響は依然として不透明であり、リスク要因として認識されています。
決算から分かる住友商事の強みは?
住友商事に投資を検討している人の中には、割安性や高配当などの魅力から、長期投資を考えている人も多いでしょう。
長期投資をする上では、直近の決算や今期見通しだけでなく、企業の強みを理解しておくことが重要です。
今回の決算からは、住友商事の以下の強みが読み取れます。
- 多様で強固な事業ポートフォリオ
資源ビジネスと非資源ビジネスのバランスが取れており、特定の市況変動に対する耐性が高いことが示されました。
非資源ビジネスが好調に推移し、全体の利益を押し上げたのがその証左です。 - ダイナミックな事業ポートフォリオ変革力
成長分野への積極的な投資と、それに伴う資産入替(売却)をスピーディに実行する能力は、環境変化に柔軟に対応し、持続的に成長していくための大きな強みです。 - 各事業分野での競争優位性
鉄鋼事業におけるグローバルな顧客ネットワークや、建設機械事業における代理店網の拡大、デジタル事業におけるSCSKを中心としたプラットフォーム構築など、各分野で確立された競争優位性が安定した収益基盤を支えています。 - 健全な財務基盤
D/Eレシオを0.6倍という低位な水準で安定的に維持しており、財務健全性が高いことも強みの一つです。これにより、大規模な成長投資や株主還元を機動的に行うことが可能となっています。
まとめ
住友商事の2025年3月期決算は、親会社株主利益が過去最高を記録し、好調な結果となりました。
非資源ビジネスが収益を牽引し、多様な事業ポートフォリオの強みを発揮した形です。
2026年3月期も増益・最高益更新を見込んでおり、増配や大規模な自己株式取得といった積極的な株主還元策も発表されるなど、今後の成長と株主価値向上への強い意志が示されました。
事業環境には不透明な要素もありますが、中期経営計画に基づいた成長戦略を着実に実行していくことで、更なる企業価値の向上が期待されるでしょう。
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