2025年5月、総合商社の伊藤忠商事(8001)が2025年3月期の決算を発表しました。本記事では、発表された決算説明資料と決算短信をもとに、同社の業績、財務状況、そして今後の戦略を詳しく解説します。
連結純利益は過去最高を更新し、積極的な株主還元策も打ち出されるなど、投資家にとって注目の内容となっています。セグメント別の詳細な業績から、キャッシュフローの状況、そしてこれらの情報が株価に与える影響まで、多角的に分析していきます。
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伊藤忠商事の2025年3月期における連結決算の振り返り
連結経営成績 | 2025年3月期実績 | 2024年3月期実績 | 前期比 |
---|---|---|---|
収益 | 14兆7,242億円 | 14兆299億円 | +4.9% |
営業利益 | 6,839億円 | 7,029億円 | △2.7% |
税引前利益 | 1兆1,551億円 | 1兆957億円 | +5.4% |
当期純利益 (親会社株主帰属) | 8,803億円 | 8,018億円 | +9.8% |
EPS (1株当たり当期純利益) | 615.65円 | 553.00円 | +62.65円 |
伊藤忠商事の2025年3月期(2024年度)の連結決算では、当期純利益が前期比9.8%増の8,803億円となり、過去最高益を更新しました。
為替が想定より円安で推移したことや、一過性利益1,100億円の計上が業績を後押ししました。
一方で、基礎収益(一時的な要因を除いた経常的な収益力)は、資源価格の下落や一部事業の回復の遅れなどが影響し、前期比で減益となりました。
しかし、非資源分野は情報通信・金融(CTC)や大建工業などの堅調なPMI(買収後の経営統合)の進捗により増益を確保しています。
伊藤忠商事のセグメント別の業績
セグメント別業績 (当社株主に帰属する当期純利益) | 2025年3月期 実績 | 2024年3月期 実績 | 前期比 増減額 |
---|---|---|---|
繊維 | 738億円 | 270億円 | +468億円 |
機械 | 1,365億円 | 1,316億円 | +49億円 |
金属 | 1,784億円 | 2,261億円 | △477億円 |
エネルギー 化学品 | 786億円 | 917億円 | △131億円 |
食料 | 851億円 | 663億円 | +188億円 |
住生活 | 697億円 | 662億円 | +35億円 |
情報・金融 | 832億円 | 678億円 | +154億円 |
第8 | 651億円 | 358億円 | +293億円 |
伊藤忠商事の業績をセグメント別に見ると、機械、食料、情報・金融、第8、その他セグメントが基礎収益で過去最高を達成しました。
一方で、資源価格下落の影響を受けた金属セグメントや、原料炭事業での事故・操業不振があったエネルギー・化学品セグメントが減益の主な要因となりました。
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各セグメントの概況
各セグメントの概況について、簡単にまとめました。
- 繊維
デサントの連結子会社化に伴う再評価益が大きく貢献し、大幅な増益となりました。 - 機械
持分法による投資損益は減少したものの、堅調な事業により増益を確保しました。 - 金属
前期に計上したリチウムイオン電池事業の再評価に係る利益の反動減や、金属価格の下落などが影響し、減益となりました。 - エネルギー・化学品
資源関連セグメントの減益が響きました。 - 食料
海外事業の一部売却に伴う利益などが寄与し、増益となりました。 - 住生活
住生活分野は堅調に推移し、増益に貢献しました。 - 情報・金融
CTCが好調を維持し、情報・金融セグメントの増益を牽引しました。 - 第8
持分法による投資損益の増加が寄与しました。
伊藤忠商事の2025年3月末財務状況について
財務状況 | 2025年3月末 | 2024年3月末 |
---|---|---|
総資産 | 15兆1,343億円 | 14兆4,897億円 |
有利子負債 | 3兆5,508億円 | 3兆3,576億円 |
株主資本 | 5兆7,551億円 | 5兆4,270億円 |
株主資本比率 | 38.0% | 37.5% |
NET DER | 0.51倍 | 0.51倍 |
成長投資を実行し有利子負債は増加しましたが、それを上回る株主資本の増加により、財務基盤の健全性は維持されています。
純有利子負債を株主資本で割ったNET DERは前期比横ばいの0.51倍と、低位で安定しています。
キャッシュフローの状況
キャッシュフロー | 2025年3月期 実績 | 2024年3月期 実績 |
---|---|---|
営業活動によるCF | 9,973億円 | 9,781億円 |
投資活動によるCF | △5,163億円 | △2,060億円 |
財務活動によるCF | △5,250億円 | △8,012億円 |
現金及び現金同等物 期末残高 | 5,496億円 | 6,004億円 |
営業活動によるキャッシュ・フローは、堅調な営業取引収入などにより、前期比で192億円増加し9,973億円となりました。
一方で、投資活動によるキャッシュ・フローは、CSN Mineração S.A.への追加投資やデサントの連結子会社化による支出があり、マイナス幅が拡大しました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、配当金の支払いや自己株式の取得などにより、5,250億円のマイナスとなっています。
主要財務指標(ROEなど)
- ROE(自己資本利益率): 15.7%
- ROA(総資産利益率): 5.9%
- 営業利益率: 4.6% (6,839億円 / 14兆7,242億円)
株主資本利益率(ROE)は前期と同水準の16%となり、高水準を継続しています。
総資産当期純利益率(ROA)も前期から微増の5.9%となりました。
伊藤忠商事の株主還元(配当金・自社株買い)について
伊藤忠商事は株主還元に積極的な姿勢を示しており、2024年度の総還元性向は約50%となりました。
これは、1株当たり200円の配当と1,500億円の自己株式取得によって実行されます。
配当金の状況
配当金 | 2026年3月期 (予想) | 2025年3月期 (実績) | 2024年3月期 (実績) |
---|---|---|---|
年間配当金 | 200円 | 200.00円 | 160.00円 |
配当性向 | 31.3% | 32.5% | 28.9% |
2025年3月期の1株当たり年間配当金は、前期から40円増配の200円でした。
2026年3月期(2025年度)の配当予想も同額の200円を維持する計画です。
自社株買いの発表はあった?
2025年5月2日の取締役会で、新たな自己株式取得を決議しました。詳細は以下の通りです。
- 取得対象株式の種類: 当社普通株式
- 取得し得る株式の総数: 2,800万株(上限)
これは発行済株式総数(自己株式を除く)に対する割合約2.0%に相当します。 - 取得し得る株式の総額: 1,500億円(上限)
- 取得期間: 2025年5月7日~2025年12月31日
これは、2024年度に実行した1,500億円の自社株買いに続くもので、2025年度計画では前年度を上回る約1,700億円の自己株式取得を予定しています。
今期の見通しと戦略について
2026年3月期(2025年度)の連結純利益は、2年連続で過去最高を更新する9,000億円を計画しています。
この計画には、C.P. Pokphand Co. Ltd.株式の売却益約880億円が含まれています。
基礎収益は、2024年度実績の7,700億円を下限とし、8,500億円程度を見込んでいるようです。
米国のインフレ継続や中国の不況など、不透明な経営環境を踏まえ、振れ幅を持たせた計画となっています。
戦略としては、「投資なくして成長なし」の方針のもと、2024年度に引き続き1兆円を上限とする成長投資を継続します。
また、財務・資本戦略では、グローバル水準を意識した高効率経営を継続し、「成長投資」「株主還元」「有利子負債コントロール」の3つのバランスを重視する方針です。
株主還元については、総還元性向50%を継続する方針を掲げています。
決算内容や今期の見通しで、株価はどうなる?
今回の決算発表と今期の見通しは、株価に対してプラスとマイナスの両側面から影響を与える可能性があります。
株価にポジティブな影響を与える要因
株価にポジティブな影響を与える要因としては、以下の4つが考えられます。
- 2期連続の過去最高益更新計画
9,000億円という高い利益目標は、企業の成長期待を高めます。 - 積極的な株主還元
年間配当200円の維持と、大規模な自社株買い(約1,700億円予定)の継続は、株主への利益還元姿勢が評価され、株価の下支えや上昇要因となります。 - 高水準のROE維持
ROE約15%を目標としており、資本効率の高さは投資家にとって魅力的です。 - 強固な財務基盤
NET DERを0.6倍未満に抑える計画であり、財務の安定性が評価されます。
株価にネガティブな影響を与える要因
株価にポジティブな影響を与える要因としては、以下の3つが考えられます。
- 不透明な世界経済
米中関係や世界的なインフレ動向、金融政策など、外部環境の不確実性がリスクとして認識されています。
特に、世界経済を翻弄する可能性のある政治動向は大きな懸念材料です。 - 資源価格の変動リスク
2024年度に経験したように、資源価格の下落は基礎収益を押し下げる要因となります。
市況に左右される事業のリスクは常に存在します。 - 一過性利益への依存
今期の9,000億円という利益計画には、株式売却益という一過性の利益が含まれており、これを除いた実質的な成長力を見極めようとする動きも出る可能性があります。
決算から分かる同社の強みは?
今回の決算からは、伊藤忠商事のいくつかの強みが浮き彫りになりました。
- 景気変動に強い収益構造
資源価格が下落し資源分野が苦戦する中でも、非資源分野がしっかりと利益を確保し、全体を支えています。
この多様な事業ポートフォリオが、景気変動に対する耐性を高めています。 - ハンズオン経営による事業価値向上
CTCや大建工業のPMIの成功事例に見られるように、投資先の経営に深く関与し、企業価値を高める「ハンズオン経営」が着実に成果を上げています。 - 規律ある財務運営
積極的な投資や株主還元を行いながらも、NET DERを低位に保つなど、財務規律を維持した経営が実践されています。
まとめ
伊藤忠商事の2025年3月期決算は、純利益で過去最高を更新する力強い結果となりました。
2026年3月期も更なる最高益更新を目指す計画であり、大規模な株主還元策も継続されることから、市場の期待は高いと言えるでしょう。
一方で、世界経済の不透明感というリスクも抱えており、今後は非資源分野の更なる強化と、計画された成長投資がいかに収益に結びついていくかが、持続的な成長と株価上昇の鍵を握ることになりそうです。
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