三菱商事の2025年3月期決算が発表されました。
9,507億円の純利益という堅実な数字の裏で、かつてない規模の株主還元策が発表されています。
しかし、来期は減益見通しとなるようで、今後どうなるのか気になる投資家も多いでしょう。
本記事では、2025年3月期の連結業績の振り返りからセグメント別の詳細、財務状況、そして今後の株価に与える影響まで、多角的に解説していきます。
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三菱商事の2025年3月期における連結決算の振り返り
三菱商事の2025年3月期(2024年度)の連結決算は、収益こそ前期比で減少したものの、純利益は高水準を維持し、中期経営戦略2024で掲げた定量目標を達成する堅調な結果となりました。
項目 | 2024年度実績 (2025年3月期) | 2023年度実績 (2024年3月期) | 前期比 |
---|---|---|---|
収益 | 18兆6,176億円 | 19兆5,676億円 | ▲4.9% |
税引前利益 | 1兆3,934億円 | 1兆3,626億円 | +2.3% |
親会社の所有者に帰属する 当期純利益 | 9,507億円 | 9,640億円 | ▲1.4% |
営業収益キャッシュフロー | 9,837億円 | 1兆1,785億円 | ▲16.5% |
2024年度は、豪州原料炭事業やアセアン自動車事業における数量減少や市況悪化が減益要因なりました。
一方で、大口の資産・事業リサイクル関連損益を計上したことなどにより、連結純利益は前期比でほぼ横ばいの9,507億円を確保しました。
営業収益キャッシュフローは9,837億円となり、中期経営戦略2024で掲げた定量目標をいずれも達成しています。
三菱商事のセグメント別の業績
三菱商事のセグメント別の連結純利益は以下の通りです。
S.L.C.セグメント(※)や食品産業が大きく利益を伸ばした一方で、金属資源や地球環境エネルギーは減益となりました。
セグメント名 | 2024年度 連結純利益 | 2023年度 連結純利益 | 増減 |
---|---|---|---|
地球環境エネルギー | 1,986億円 | 2,388億円 | ▲402億円 |
マテリアルソリューション | 683億円 | 739億円 | ▲56億円 |
金属資源 | 2,278億円 | 2,955億円 | ▲677億円 |
社会インフラ | 398億円 | 509億円 | ▲111億円 |
モビリティ | 1,124億円 | 1,414億円 | ▲290億円 |
食品産業 | 924億円 | ▲253億円 | +1,177億円 |
S.L.C. | 1,850億円 | 1,027億円 | +823億円 |
電力ソリューション | ▲156億円 | 979億円 | ▲1,135億円 |
合計 | 9,507億円 | 9,640億円 | ▲133億円 |
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地球環境エネルギー
連結純利益は1,986億円(前期比402億円減)となりました。
これは主に、前年度に計上したマレーシアLNG事業の事業投資先清算益の反動や、シェールガス事業の市況下落が要因です。
マテリアルソリューション
連結純利益は683億円(前期比56億円減)となりました。
前年度の減損の反動として化学品製造事業で増益があったものの、北米樹脂建材事業の市況要因や鉄鋼製品事業の数量減少が影響し、全体では減益となりました。
金属資源
連結純利益は2,278億円(前期比677億円減)でした。
豪州原料炭事業における炭鉱売却益があった一方で、同事業での数量減少や市況下落が大きく影響し、減益となりました。
社会インフラ
連結純利益は398億円(前期比111億円減)となりました。
海外不動産運用事業での評価損の反動や税効果計上などによる増益要因がありましたが、北米不動産開発事業における減損・売却損や、千代田化工建設の米国プロジェクト関連の引当繰入などが減益要因となりました。
モビリティ
連結純利益は1,124億円(前期比290億円減)でした。
インドの自動車関連事業再編に伴う既存株式の再評価益という増益要因があったものの、三菱自動車工業およびアセアン自動車事業の市況低迷が響き、減益となりました。
食品産業
連結純利益は924億円となり、前期の▲253億円から大幅に改善(1,177億円増)しました。
これは、前年度の海外食品事業における減損の反動や、日本KFCホールディングス株式およびPRINCES株式の売却などが主な要因です。
S.L.C.
連結純利益は1,850億円(前期比823億円増)と大幅な増益を記録しました。
最大の要因は、ローソンが持分法適用会社へ移行したことに伴う再評価益の計上です。
電力ソリューション
連結純利益は▲156億円となり、前期の979億円から大幅に減少(1,135億円減)しました。
米州太陽光発電事業における損益改善というプラス要因はあったものの、前年度に計上した海外電力事業の資産売却益の反動や、国内の洋上風力発電事業における減損損失などが響きました。
三菱商事の2025年3月期末財務状況について
三菱商事の2025年3月期末の財務状況は、総資産が減少し、自己資本比率(親会社所有者帰属持分比率)が改善するなど、財務健全性が向上しました。
項目 | 2025年3月期末 | 2024年3月期末 | 増減 |
---|---|---|---|
総資産 | 21兆4,961億円 | 23兆4,596億円 | ▲1兆9,635億円 |
負債 | 11兆3,418億円 | 13兆3,647億円 | ▲2兆229億円 |
資本 | 10兆1,543億円 | 10兆948億円 | +595億円 |
親会社所有者帰属 持分比率 | 43.6% | 38.6% | +5.0ポイント |
ネット有利子負債 (リース負債除く) | 3兆472億円 | 3兆7,823億円 | ▲7,351億円 |
総資産が減少した主な要因は、ローソンが持分法適用会社になったことに伴い、同社の資産が「売却目的保有資産」から減少したためです。
同様に負債も、ローソン関連の負債が減少したことで大幅に圧縮されました。
資本については、当期純利益の積み上がりにより利益剰余金が増加したことなどから、前期末に比べて増加しています。
結果として、親会社所有者帰属持分比率は43.6%へと改善しました。
キャッシュフローの状況
2024年度のキャッシュフローは、営業CFが増加し、フリー・キャッシュ・フローも高水準を維持しました。
項目 | 2024年度実績 | 2023年度実績 | 増減 |
---|---|---|---|
営業活動によるCF | 1兆6,583億円 | 1兆3,474億円 | +3,109億円 |
投資活動によるCF | ▲2,739億円 | ▲2,058億円 | ▲681億円 |
財務活動によるCF | ▲1兆5,307億円 | ▲1兆862億円 | +4,445億円 |
フリー・ キャッシュ・フロー | 1兆3,844億円 | 1兆1,416億円 | +2,428億円 |
営業CFは、主に法人税の支払額の減少や配当金収入の増加により、前期比で3,109億円の増加となりました。
投資CFは、豪州原料炭事業の一部売却による収入があった一方で、ローソンの持分法化に伴う現預金の減少やその他の投資を実行したため、2,739億円の支出超となりました。
財務CFは、自己株式の取得や借入金の返済、配当金の支払いなどにより、1兆5,307億円の支出超となっています。
主要財務指標(ROEなど)
経営の効率性を示す主要な指標は以下の通りです。
指標 | 2024年度実績 | 2023年度実績 |
---|---|---|
ROE (自己資本利益率) | 10.3% | 11.3% |
ROA (総資産利益率) | 4.2% | 4.2% |
ROE(自己資本利益率)は、株主が出資したお金(自己資本)に対して、企業がどれだけの利益を上げたかを示す指標です。
2024年度は10.3%となり、一般的な目標とされる10%前後の水準を維持しています。
ROA(総資産利益率)は、企業の総資産に対してどれだけの利益を上げたかを示す指標で、資産全体の効率性を示します。
2024年度は4.2%と、前期並みの水準でした。
三菱商事の株主還元(配当・自社株買い)について
三菱商事は、持続的な利益成長に合わせた増配を行う「累進配当」を基本方針として掲げています。
2024年度は、この方針に基づき増配を実施するとともに、大規模な自己株式取得を発表しました。
配当金の状況
2024年3月期 (実績) | 2025年3月期 (実績) | 2026年3月期 (予想) | |
---|---|---|---|
1株当たり年間配当金 | 70.00円 | 100.00円 | 110.00円 |
2024年度(2025年3月期)の1株当たり配当金は、前期の70円(株式分割考慮後)から30円増配の100円となりました。
さらに、2025年度(2026年3月期)の配当予想は、10円増配した110円としており、株主還元への積極的な姿勢がうかがえます。
自社株買いの発表はあった?
2025年4月3日の取締役会にて、大規模な自己株式の取得を決議しています。
- 取得する株式の種類: 普通株式
- 取得する株式の総数: 6億8,900万株(上限)
- 発行済株式総数に対する割合: 約17%
- 株式の取得価額の総額: 1兆円(上限)
- 取得期間: 2025年4月4日~2026年3月31日
1兆円という巨額の自社株買いは、株主還元の強化と資本効率の向上に対する経営陣の強い意志の表れと言えます。
取得した自己株式は、2026年4月30日に全数消却する予定です。
三菱商事の今期の見通しと戦略について
三菱商事の2025年度(2026年3月期)の業績見通しは減益となるものの、キャッシュ創出力は引き続き高く維持する計画です。
- 連結純利益: 7,000億円(2024年度比 ▲2,507億円)
- 営業収益キャッシュ・フロー: 9,000億円(2024年度比 ▲837億円)
減益の主な要因は、2024年度に計上した資産・事業リサイクル関連損益(豪州原料炭事業の売却益など)の反動減です。
一方で、非資源事業の底堅さにより、営業キャッシュ・フローは引き続き9,000億円規模を創出する見込みです。
戦略面では、中期経営戦略2024の総括を行い、新たに「経営戦略2027」をスタートさせます。
これまでの「磨く1.0」では、要求利回り未達などの160社を対象に選択と集中を進めてきました。
次の「磨く2.0」では、対象を全事業(244社)に広げ、全社的なバリューアップによる収益基盤の強化を目指す方針です。
決算内容や今期の見通しで、三菱商事の株価はどうなる?
今回の決算発表とそれに伴う各種発表は、三菱商事の株価に対してポジティブな要因とネガティブな要因の両方を含んでいます。
株価にポジティブな影響を与える要因
株価にポジティブな影響を与える要因として考えられるのは、以下の4つです。
- 超大規模な株主還元
1兆円の自己株式取得と10円の増配は、1株当たり利益(EPS)と株主資本利益率(ROE)を向上させるため、株価にとって非常に強力な支援材料となります。 - 中経目標の達成
中期経営戦略2024で掲げた連結純利益8,000億円、ROE二桁水準といった定量目標を達成したことは、経営の実行力を証明し、市場からの信頼を高める要因となります。 - 強固なキャッシュ創出力
来期も9,000億円規模の営業CFを見込んでいることは、事業の安定性と将来の投資や株主還元の原資が確保されていることを示し、安心感につながります。 - 非資源分野の安定性
資源価格の変動による影響を受けやすい中で、非資源事業の底堅さが来期の利益を下支えする見通しであることは、事業ポートフォリオのバランスの良さを示しています。
株価にネガティブな影響を与える要因
一方で、株価にネガティブな影響を与える要因として考えられるのは、以下の3つです。
- 来期の減益見通し
2024年度の純利益9,507億円から2025年度は7,000億円へと減少する見通しは、短期的な業績のピークアウトと捉えられ、株価の上値を抑える要因となる可能性があります。 - 資源価格の不確実性
主力である金属資源セグメントの業績は、原料炭や銅の市況に大きく左右されます。
決算短信でも商品市況リスクが指摘されており、世界経済、特に中国経済の動向次第では、想定以上の利益の落ち込みも懸念されます。 - 地政学リスク
世界中で事業を展開しているため、ロシア・ウクライナ情勢や中東情勢などの地政学リスクは常に経営の不確実性要因となります。
決算から分かる三菱商事の強みは?
今回の決算からは、三菱商事のいくつかの強みが改めて浮き彫りになりました。
多様な事業ポートフォリオによる安定性
地球環境エネルギーから食品、電力まで、非常に幅広い事業セグメントを有しており、それぞれが大きな収益基盤を形成しています。
あるセグメントが市況悪化などで不振に陥っても、他のセグメントが補うことで、会社全体の業績の安定性を保っています。
2024年度も、資源分野の減益をS.L.C.や食品産業の増益でカバーする形となりました。
圧倒的なキャッシュ創出力
継続的に1兆円に近い営業キャッシュ・フローを生み出す力は、同社の最大の強みの一つです。
この潤沢なキャッシュが、大規模な事業投資、財務体質の強化、そして今回発表されたような巨額の株主還元を可能にしています。
ダイナミックな事業ポートフォリオ改革
「中期経営戦略2024」の下で進められた「磨く1.0」に見られるように、収益性の低い事業からの撤退や、ローソンの共同経営化、豪州原料炭事業の一部売却など、常に事業ポートフォリオの見直しと入れ替えをダイナミックに行う経営判断力も強みです。
これにより、資本効率を高め、持続的な成長を目指す姿勢が明確です。
まとめ
三菱商事の2025年3月期決算は、中期経営戦略の目標を達成する好調な内容でした。
来期は資産売却益の反動で減益を見込むものの、1兆円という大規模な自社株買いと増配を発表し、株主への還元姿勢を強く打ち出しました。
資源・非資源のバランスが取れた多様な事業ポートフォリオと、そこから生まれる圧倒的なキャッシュ創出力を武器に、新たな経営戦略「磨く2.0」の下で全事業の価値向上を目指します。
世界経済の不確実性という課題はありますが、強固な財務基盤と経営の実行力を背景に、今後も持続的な成長が期待される決算内容であったと言えるでしょう。
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