スズキ株式会社が2025年5月12日に発表した2025年3月期連結決算は、売上収益、各利益段階ともに過去最高を更新する力強い結果となりました。
為替の追い風や主要市場での販売好調が業績を牽引し、株主還元も強化する方針が示されたため、投資家にとってポジティブな情報は多かったと言えるでしょう。
本記事では、スズキの2025年3月期決算内容を詳細に解説するとともに、今後の見通しや株価への影響について分析します。
スズキ株式会社の2025年3月期における連結決算の振り返り
連結経営成績 | 2025年3月期 (百万円) | 前期比 (%) | 2024年3月期 (百万円) | 備考 |
---|---|---|---|---|
売上収益 | 5,825,161 | +8.7% | 5,357,523 | 4期連続増収 過去最高 |
営業利益 | 642,851 | +30.2% | 493,834 | 3期連続増益 過去最高 |
税引前利益 | 730,220 | +23.4% | 591,713 | 5期連続増益 過去最高 |
親会社の所有者に帰属する 当期利益 | 416,050 | +31.2% | 317,017 | 5期連続増益 過去最高 |
スズキ株式会社の2025年3月期の連結経営成績は、売上収益が前期比8.7%増の5兆8,251億6,100万円と、4期連続の増収で過去最高を達成しました。
営業利益は同30.2%増の6,428億5,100万円、税引前利益は同23.4%増の7,302億2,000万円、親会社の所有者に帰属する当期利益は同31.2%増の4,160億5,000万円です。
各利益項目においても3期から5期連続の増益となり、いずれも過去最高を記録しました。
この好調な業績は、主に為替影響、販売台数の増加、そして1台当たりの収益性改善によるものです。
研究開発費や労務費といった固定費の増加や、取引先基盤強化の取り組みによる影響はあったものの、増収効果や原価低減努力によってこれらをカバーし、大幅な増益に繋がりました。
スズキ株式会社のセグメント別の業績
スズキは「四輪事業」「二輪事業」「マリン事業」「その他事業」の4つの報告セグメントで事業を展開しています。
当期はいずれのセグメントも増収(マリン事業は微減収)となり、特に主力である四輪事業が大幅な増益を達成し、全体の業績向上に大きく貢献しました。
セグメント | 売上収益 (百万円) | 前期比 (%) | 営業利益 (百万円) | 前期比 (%) | 営業利益率 (%) |
---|---|---|---|---|---|
四輪事業 | 5,305,217 | +8.9% | 567,634 | +33.9% | 10.7% |
二輪事業 | 398,131 | +9.1% | 40,822 | +4.4% | 10.3% |
マリン事業 | 109,684 | -1.8% | 30,568 | +11.4% | 27.9% |
その他事業 | 12,128 | +7.9% | 3,825 | +13.5% | 31.5% |
連結計 | 5,825,161 | +8.7% | 642,851 | +30.2% | 11.0% |
四輪事業
売上収益は前期比8.9%増の5兆3,052億円、営業利益は同33.9%増の5,676億円と大幅な増収増益を達成しました。
グローバルでの販売台数は324万台と前期比2.3%増加しました。
特に日本国内では軽自動車販売台数トップシェアを維持し、登録車も過去最高の販売台数を記録しました。
インド市場では、末端販売が好調で健全な在庫水準を維持し、輸出台数も過去最高となりました。
為替影響や売上構成の変化、原価低減などが利益増に貢献しました。
二輪事業
売上収益は前期比9.1%増の3,981億円、営業利益は同4.4%増の408億円となりました。
グローバルでの販売台数は206.4万台と前期比7.9%増加しました。
特にインドでの販売が好調で、市場の伸長率を上回る伸びを見せ、初の100万台超えを達成しました。 これが増収増益の主な要因となっています。
マリン事業
売上収益は前期比1.8%減の1,097億円と微減収でしたが、営業利益は同11.4%増の306億円と増益を確保しました。
主に、為替影響や原価低減が利益増に寄与しました。
その他事業
売上収益は前期比7.9%増の121億円、営業利益は同13.5%増の38億円となりました。
スズキ株式会社の財務状況について
財務状況 | 2025年3月期末 (百万円) | 2024年3月期末 (百万円) | 増減額 (百万円) |
---|---|---|---|
資産合計 | 5,993,657 | 5,757,656 | +236,001 |
負債合計 | 2,305,586 | 2,373,229 | -67,643 |
資本合計 | 3,688,070 | 3,384,427 | +303,643 |
親会社の所有者に帰属する 持分 | 2,970,660 | 2,719,773 | +250,887 |
親会社所有者帰属 持分比率 | 49.6% | 47.2% | +2.4% |
当連結会計年度末の資産合計は、前期末比2,360億円増の5兆9,937億円となりました。
一方、負債合計は前期末比676億円減の2兆3,056億円でした。
資本合計は前期末比3,036億円増の3兆6,881億円となり、この結果、親会社所有者帰属持分比率は前期末の47.2%から49.6%へと改善しました。
キャッシュフローの状況
当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、前期末比27億円増の8,427億円となりました。
- 営業活動によるキャッシュ・フロー
税引前利益の増加などにより、6,698億円の収入(前期は5,018億円の収入)となりました。 - 投資活動によるキャッシュ・フロー
有形固定資産の取得による支出などにより、4,756億円の支出(前期は4,774億円の支出)となりました。 - 財務活動によるキャッシュ・フロー
親会社所有者への配当金の支払いなどにより、1,860億円の支出(前期は929億円の支出)となりました。
主要財務指標(ROEなど)
主要財務指標 | 2025年3月期 | 2024年3月期 |
---|---|---|
親会社所有者帰属持分当期利益率 (ROE) | 14.6% | 12.6% |
総資産税引前利益 (ROA) | 12.4% | 11.1% |
売上収益営業利益率 | 11.0% | 9.2% |
収益性に関しては、売上収益営業利益率が前期の9.2%から11.0%へ改善しました。
また、親会社所有者帰属持分当期利益率(ROE)も前期の12.6%から14.6%へと向上しており、「稼ぐ力」の向上が見られます。
総資産税引前利益率も11.1%から12.4%へ上昇しています。
スズキ株式会社の株主還元(配当・自社株買い)について
スズキは、企業価値の向上と累進配当によって、中長期に保有する株主への還元を行うことを基本方針としています。
2025年3月期の配当については、1株当たりの期末配当金を21円とし、年間配当金は41円となりました。
これは前期実績(株式分割後ベースで30.5円)と比較して10.5円の大幅な増配(34.4%増)であり、5期連続の増配(記念配当を含むと6期連続)で過去最高となります。 配当性向(連結)は19.0%です。
さらに、2026年3月期より累進配当に適した指標としてDOE(株主資本配当率)を新たに採用し、その水準を3.0%へ引き上げ株主還元を強化する方針です。
これに伴い、2026年3月期の1株当たり年間配当金は45円(当期から4円増配、9.8%増)を予想しており、DOEは3.0%となる見込みです。
自己株式の取得については、資本効率(ROE)や株価水準(PBR)などを総合的に検討し判断するとしています。
スズキ株式会社の今期の見通しと戦略について
スズキ株式会社の2026年3月期の連結業績予想については、売上収益は前期比4.7%増の6兆1,000億円と5期連続の増収を見込んでいます。
一方で、営業利益は同22.2%減の5,000億円、税引前利益は同20.6%減の5,800億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は同23.1%減の3,200億円と、4期から6期ぶりの減益を予想しています。
連結業績予想 (2026年3月期) | 金額 (百万円) | 前期比 (%) |
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売上収益 | 6,100,000 | +4.7% |
営業利益 | 500,000 | -22.2% |
税引前利益 | 580,000 | -20.6% |
親会社の所有者に帰属する 当期利益 | 320,000 | -23.1% |
この減益予想の背景には、為替の円高進行や取引先基盤強化の影響など、厳しい経営環境を見込んでいることがあります。
具体的な為替レートの想定は、米ドル140円、ユーロ160円、インドルピー1.68円としています(前期実績は米ドル153円、ユーロ164円、インドルピー1.82円)。
この為替変動だけでも営業利益に対して約800億円のマイナス影響が見込まれています。
このような環境下においても、スズキは中期経営計画の実現に向け、成長投資を積極的に継続する方針です。 具体的には、以下のような戦略を推進します。
- 人的資本投資と業務効率化
従業員の成長を促す人的資本投資や、AI活用による業務効率化を推進し、個々の能力向上を図ります。 - 収益基盤強化
製品の価値を伝える活動や、研究開発・設備投資を積極的に行い、スズキ全体の「稼ぐ力」を向上させます。 - 成長投資の継続
インドでの生産能力増強(カルコダ第2ライン、グジャラート第4ラインなど)や、電動化・SDV(Software Defined Vehicle)ライトといったエネルギー極小化に向けた技術開発に注力します。
2026年3月期の設備投資は約3,800億円、研究開発費は約3,000億円を計画しています。 - グローバル戦略
インドをBEVのグローバル生産・輸出拠点と位置づけ、インド国内需要への対応とグローバルへの輸出拡大を推進します。
新型EV「e VITARA」は2025年夏頃からインド、欧州、日本などで順次販売を開始する予定です。
なお、トランプ関税の影響について、今回の決算資料からは具体的な織り込み状況は確認できませんでした。
スズキ株式会社の決算内容や今期の見通しで、株価はどうなる?
今回の決算発表と今期見通しが株価に与える影響について、ポジティブな側面とネガティブな側面から考察します。
株価にポジティブな影響を与える要因
スズキ株式会社の決算から、株価にポジティブな影響を与える要因としては以下の5つが考えられます。
- 過去最高益の達成
2025年3月期に売上収益、各利益段階で過去最高益を更新したことは、企業の成長性と収益力を示すものであり、株価には好材料です。 - 大幅な増配と株主還元強化
前期比で大幅な増配を実施し、さらにDOE3.0%を新たな目標として設定し、累進配当を継続する方針は、株主への利益還元を重視する姿勢として評価されるでしょう。 - ROEの改善
ROEが14.6%と前期から改善しており、資本効率の向上が見られます。 - 積極的な成長投資
EV開発やインド市場への投資など、将来の成長に向けた具体的な戦略と投資計画が示されている点は、中長期的な成長期待を高める可能性があります。 - 好調な主力事業
四輪事業、特にインド市場での強固な事業基盤は引き続き収益の柱となることが期待されます。
株価にネガティブな影響を与える要因
スズキ株式会社の決算から、株価にネガティブな影響を与える要因としては以下の5つが考えられます。
- 次期業績予想の減益
2026年3月期は、売上収益こそ増収を見込むものの、営業利益以下各利益段階で減益を予想している点は、短期的な株価の重しとなる可能性があります。 - 為替リスク
想定為替レートが前期実績より円高方向で見込まれており、これが減益要因の大きな部分を占めています。 さらなる円高進行は業績下振れリスクとなります。 - 原材料価格変動リスク
資料内でも営業利益の増減要因として原材料価格変動が挙げられており、今後の動向が注視されます。 - 固定費の増加
成長投資に伴う研究開発費や設備投資の償却負担増、労務費の上昇などが固定費を押し上げる要因となります。 - 外部環境の不確実性
世界的な経済情勢や地政学的リスクなど、外部環境の変化が業績に影響を与える可能性は常に存在します。
まとめ
スズキの2025年3月期決算は、為替の追い風と堅調な販売に支えられ、過去最高益を更新する素晴らしい内容でした。株主還元も強化され、投資家にとっては喜ばしい結果と言えるでしょう。
一方で、2026年3月期は為替影響などから減益を見込んでおり、楽観視できない状況です。
しかし、中期経営計画に基づき、EV開発やインド市場への投資といった成長戦略を着実に実行していく姿勢は明確であり、中長期的な成長への期待は依然として高いと考えられます。
今後の株価は、短期的な業績見通しと為替動向に左右される場面もありそうですが、成長戦略の進捗や株主還元策の着実な実行が確認されれば、再び上昇トレンドを描く可能性も秘めていると言えるでしょう。
投資家目線では、スズキの戦略遂行能力と外部環境の変化を注視していく必要があります。
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