マツダ株式会社が2025年5月12日に発表した2025年3月期(2024年4月1日から2025年3月31日まで)の連結決算は、売上高が過去最高を更新した一方で、営業利益は前期比で減少しました。
北米市場での販売好調が売上を牽引しましたが、販売費及び一般管理費の増加などが利益を圧迫した形です。
本記事では、マツダの2025年3月期決算内容を詳細に解説するとともに、セグメント別の業績、財務状況、株主還元、そして今後の見通しや株価への影響について分析します。
マツダの2025年3月期における連結決算の振り返り
マツダの2025年3月期の連結決算の主要項目は以下の通りです。
勘定科目 | 2025年3月期 | 2024年3月期 | 前期比 |
---|---|---|---|
売上高 | 5兆189億円 | 4兆8277億円 | +4.0% |
営業利益 | 1861億円 | 2505億円 | △25.7% |
経常利益 | 1890億円 | 3201億円 | △41.0% |
親会社株主に帰属する 当期純利益 | 1141億円 | 2077億円 | △45.1% |
当連結会計年度は、グローバル販売台数が130万3千台(前期比5%増)となり、特に北米市場では過去最高の販売台数を達成しました。
これにより売上高は過去最高の5兆189億円となりました。
しかしながら、営業利益は1861億円(前期比26%減)となりました。
これは、販売費及び一般管理費の増加(8921億円、前期比1039億円増)などが主な要因です。
具体的には、台数・構成差で628億円の増益効果があったものの、販売奨励金の増加で1249億円、原材料・物流費等で462億円、固定費他で250億円の減益要因がありました。
為替変動は439億円の増益要因となりました。
マツダのセグメント別業績は?
マツダのセグメント別の業績は以下の通りです。
セグメント | 売上高 | 前期比 | 営業利益 | 前期比 |
---|---|---|---|---|
日本 | 3732億円 | △3.5% | 48億円 | △68.2% |
北米 | 3兆2933億円 | +10.4% | 670億円 | △23.6% |
欧州 | 7666億円 | △17.3% | 192億円 | △5.5% |
その他の地域 | 6476億円 | △11.6% | 231億円 | △14.2% |
連結調整後 | 5兆189億円 | +4.0% | 1861億円 | △25.7% |
日本
- 売上高:3732億円(前期比3.5%減)
- 営業利益:48億円(前期比68.2%減)
- 販売台数:15万2千台(前期比5%減)
「MAZDA CX-8」の販売終了影響などにより減収減益となりました。
ただし、第4四半期は新型「CX-80」や商品改良モデルの貢献で前年同期比25%増の4万9千台を販売しました。
北米
- 売上高:3兆2933億円(前期比10.4%増)
- 営業利益:670億円(前期比23.6%減)
- 販売台数:61万7千台(前期比20%増)
米国市場で「CX-50」ハイブリッドモデル導入やラージ商品群が販売を牽引し、過去最高の43万5千台(前期比16%増)を達成しました。
メキシコでも過去最高の販売台数・シェアを達成しました。 北米全体でも過去最高の販売台数です。
欧州
- 売上高:7666億円(前期比17.3%減)
- 営業利益:192億円(前期比5.5%減)
- 販売台数:17万4千台(前期比3%減)
「MAZDA CX-30」や「MAZDA2 Hybrid」の販売は増加したものの、「CX-60」や「CX-5」などの販売減少により減収減益となりました。
中国
- 販売台数:7万4千台(前期比23%減)
内燃機関車需要の縮小や価格競争激化の影響により販売台数が減少しました。
2024年10月より電動専用モデル「MAZDA EZ-6」の販売を開始しています。
その他の市場
- 売上高:6476億円(前期比11.6%減)
- 営業利益:231億円(前期比14.2%減)
- 販売台数:28万5千台(前期比1%減)
主要市場のオーストラリアでは、「MAZDA CX-9」及び「CX-8」の販売終了の影響があったものの、ラージ商品群や「CX-3」「CX-5」の販売増加により、販売台数は9万7千台(前期比1%減)とほぼ横ばいでした。
ASEAN市場ではタイやマレーシアでの販売減少が影響しました。
マツダの2025年3月期末の財務状況について
マツダの2025年3月期末の財務状況は以下の通りです。
勘定科目 | 2025年3月末 | 2024年3月末 | 増減 |
---|---|---|---|
総資産 | 4兆901億円 | 3兆7918億円 | +2983億円 |
純資産 | 1兆8100億円 | 1兆7574億円 | +527億円 |
自己資本 | 1兆7923億円 | 1兆7376億円 | +547億円 |
自己資本比率 | 43.8% | 45.8% | △2.0 pts |
有利子負債 | 7052億円 | 5678億円 | +1374億円 |
ネットキャッシュ | 4003億円 | 3515億円 | +488億円 |
総資産は前期末比2983億円増の4兆901億円となりました。
純資産は親会社株主に帰属する当期純利益1141億円などにより、前期末比527億円増の1兆8100億円となりました。
この結果、自己資本比率は43.8%と前期末から2.0ポイント低下しました。
キャッシュフローの状況
勘定科目 | 2025年3月期 | 2024年3月期 | 増減 |
---|---|---|---|
営業活動による キャッシュ・フロー | 3056億円 | 4189億円 | △1133億円 |
投資活動による キャッシュ・フロー | △2000億円 | △1799億円 | △201億円 |
フリー・キャッシュ・フロー | 1057億円 | 2390億円 | △1333億円 |
財務活動による キャッシュ・フロー | 901億円 | △847億円 | +1748億円 |
現金及び現金同等物 期末残高 | 1兆1056億円 | 9193億円 | +1863億円 |
営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益の減少などにより、前期比1133億円減の3056億円の収入となりました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産の取得による支出増などにより、前期比201億円増の2000億円の支出となりました。
この結果、フリー・キャッシュ・フローは1057億円の収入(前期比1333億円減)となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、社債及び長期借入金による資金調達に対し、配当金の支払いや長期借入金の返済等により、901億円の収入(前期は847億円の支出)となりました。
これらの結果、現金及び現金同等物の期末残高は、前期末比1863億円増の1兆1056億円となりました。
主要財務指標
指標 | 2025年3月期 | 2024年3月期 | 増減 |
---|---|---|---|
自己資本当期純利益率 (ROE) | 6.5% | 13.1% | △6.6 pts |
総資産経常利益率 (ROA) | 4.8% | 9.1% | △4.3 pts |
売上高営業利益率 | 3.7% | 5.2% | △1.5 pts |
EPS (1株当たり当期純利益) | 181.00円 | 329.65円 | △148.65円 |
各利益率及びEPSは、主に当期純利益の減少に伴い前期を下回りました。
マツダの株主還元(配当金・自社株買い)はどうなる?
マツダは、安定的な配当の実現と着実な向上に努めることを基本方針としています。
配当金や自社株買いの見通しについて、確認していきましょう。
配当金の状況
- 2025年3月期配当:年間55円(中間25円、期末30円)
- 2025年3月期配当性向:30.4%
- 2026年3月期配当予想:未定
2025年3月期の年間配当金は、1株当たり55円(前期比5円減)となりました。 期末配当は30円です。
2026年3月期の配当予想については、米国関税政策の動向など事業環境の不透明さから未定としていますが、関税影響の最小化に向けてあらゆる対策を講じ、安定配当を目指す方針です。
自社株買いの発表はあった?
今回の決算発表において、新たな自己株式取得に関する発表はありませんでした。
なお、2025年3月期においては、自己株式の取得及び処分が行われています。
マツダの2026年3月期の見通しと戦略は?
2026年3月期の連結業績予想については、米国政府の関税政策の動向や市場の需要、販売価格の変動など、事業環境の先行き不透明感が強いことから未定としています。
このことから、第1四半期決算時に政策動向や影響を精査の上、状況をアップデートする予定です。
米国関税政策への対応方針
- 影響を最小限に抑えることを最優先とし、グローバル販売台数は前年並みを目指す。
- 原価低減、固定費削減など緊急対応を含めたあらゆる対策を講じ、経営のレジリエンシー強化に全力で取り組む。
- 日本製車両には現行の最恵国待遇(MFN)関税2.5%に25%の自動車関税が上乗せされる可能性。
- メキシコ製車両はUSMCA適合。
- その他、米国製車両については、米国外からの調達部品に関税適用の可能性。
- 部門横断の対応チームを立ち上げ、モデルミックス等の改善による収益最大化、工場の安定操業に向けた販売機会の検討・最適化、コスト低減活動の加速を進める。
2030年に向けた経営方針の進捗
- PHASE1:成長投資の原資獲得
- 北米ビジネスがトップラインの成長を牽引し、利益、ネットキャッシュは想定通り積み上がり。
- 北米市場の販売台数はFY25/3に61万7千台と過去最高を達成。
- ネットキャッシュはFY25/3末で4003億円。
- PHASE2:企業価値向上に向けたライトアセット戦略
- 技術戦略としてマルチソリューション戦略を推進。BEVは意志あるフォロワーとして協業も活用。
- 財務アプローチとしてキャッシュフロー重視、資本コストを意識した投資規律、財務健全性維持。
- アジア地域で米国事業改革の成功を再現し、ビジネス反転に取り組む。
- 次期CX-5や自社製BEVなどの開発を進める。
- 中国ではNEV車を軸にビジネスを反転(MAZDA EZ-6、MAZDA EZ-60など)。
- タイでは2027年より新型小型SUVを生産開始予定。
- 人材活躍最大化に向けた組織風土改革や働く環境の整備を推進。
為替レートの想定については、2026年3月期の具体的な数値は示されていません。
参考として、2025年3月期の通期平均レートは、USドル153円、ユーロ164円でした。
マツダの決算内容や今期の見通しで、株価はどうなる?
今回の決算内容と今後の見通しを踏まえ、株価に影響を与えうる要因を分析します。
株価にポジティブな影響を与える要因
マツダの決算内容で、株価にポジティブな影響を与える要因としては、以下の5点が挙げられます。
- 北米市場の継続的な好調さ
過去最高の販売台数を記録した北米市場が引き続き成長ドライバーとなる期待。 - 大型商品群(ラージ商品)の貢献
CX-50、CX-70、CX-80、CX-90といった新型SUVの販売拡大による収益性向上への期待。 - 財務健全性の維持
ネットキャッシュを維持し、安定的な財務基盤を確保している点。 - 2030年に向けた経営戦略の進展
電動化への対応やライトアセット戦略による企業価値向上への期待。 - 安定配当への意識
業績予想は未定ながらも、安定配当を目指す方針が示されている点。
株価にネガティブな影響を与える要因
マツダの決算内容で、株価にネガティブな影響を与える要因としては、以下の5点が挙げられます。
- 営業利益の大幅な減少
売上は過去最高ながら、コスト増により営業利益が大幅に減少した点。 - 主要市場(日本・欧州・中国)の販売不振
北米以外の主要市場での販売台数減少やシェア低下。 - 米国関税政策の不透明性
最大25%の追加関税リスクは依然として大きく、業績への影響が懸念される点。 - 2026年3月期の業績予想が未定
先行き不透明感から具体的な業績見通しが示されなかった点。 - 為替変動リスク
今後の為替動向によっては、収益に大きな影響を与える可能性。 - 競争激化
電動化シフトや価格競争の激化など、自動車業界全体の厳しい事業環境。
まとめ
マツダの2025年3月期決算は、北米市場の力強い成長に支えられ売上高は過去最高を記録したものの、各種コストの増加が響き営業減益という結果になりました。
長期的には2030年に向けた経営方針を着実に進めており、マルチソリューション戦略による電動化への対応や、ライトアセット戦略による企業価値向上を目指しています。
しかし、短期的には米国関税政策という大きな不透明要因を抱えており、2026年3月期の業績予想も未定となっています。
この関税問題の行方と、各市場での販売回復、そしてコストコントロールが今後のマツダの業績と株価を左右する重要なポイントとなるでしょう。
投資家目線で考えると、今後の政策動向やマツダの対応策、そして第1四半期決算で示されるであろう最新情報に注目していく必要があります。
関連:自動車メーカーの2025年3月期決算まとめ
















コメント