中外製薬が2025年1月30日に発表した2024年12月期の決算は、売上収益・各利益ともに過去最高を更新する好調な内容となりました。
海外での主力品販売が大きく伸長したほか、円安も業績を後押ししました。
本記事では、中外製薬が公開した決算短信および決算説明会資料をもとに、2024年12月期の業績や財務状況、そして今後の見通しについて詳しく解説します。
中外製薬の2024年12月期における連結決算の振り返り
2024年12月期の連結経営成績(IFRS)は以下の通りです。
項目 | 2024年12月期実績 | 2023年12月期実績 | 前期比増減率 |
---|---|---|---|
売上収益 | 1兆1,706億11百万円 | 1兆1,113億67百万円 | +5.3% |
営業利益 | 5,420億2百万円 | 4,391億74百万円 | +23.4% |
当期利益 | 3,873億17百万円 | 3,254億72百万円 | +19.0% |
基本的1株当たり 当期利益 | 235.39円 | 197.83円 | – |
2024年12月期の業績は、売上収益が前期比5.3%増の1兆1,706億円、営業利益が同23.4%増の5,420億円となり、いずれも過去最高を記録しました。
売上収益は3期連続で1兆円を超え、営業利益は初めて5,000億円の大台を達成しています。
この好業績は、海外向けの主力品輸出が好調に推移したことや、円安が追い風となったことが主な要因です。
国内では薬価改定や新型コロナウイルス感染症治療薬「ロナプリーブ」の売上剥落などの減収要因があったものの、海外での力強い成長がそれを補って余りある結果となりました。
中外製薬の2024年12月期セグメント別の業績
中外製薬は医薬品事業の単一セグメントですが、売上を地域別(国内・海外)および国内の領域別(オンコロジー・スペシャリティ)に分けて公表しています。
区分 | 2024年12月期実績 (億円) | 2023年12月期実績 (億円) | 前年同期比 |
---|---|---|---|
国内製商品売上高 | 4,611 | 5,580 | -17.4% |
オンコロジー領域 | 2,477 | 2,602 | -4.8% |
スペシャリティ領域 | 2,134 | 2,978 | -28.3% |
海外製商品売上高 | 5,368 | 4,165 | +28.9% |
合計 | 9,979 | 9,745 | +2.4% |
国内製商品売上高
国内の売上高は前期比17.4%減の4,611億円でした。これは、前期に計上された新型コロナウイルス感染症治療薬「ロナプリーブ」の政府納入(812億円)がなくなったことや、薬価改定、後発品浸透の影響が主な要因です。
- オンコロジー領域
売上は4.8%減の2,477億円でした。
新製品「フェスゴ」が好調に推移したものの、主力品「アバスチン」などが薬価改定や後発品浸透の影響で減少しました。 - スペシャリティ領域
売上は28.3%減の2,134億円となりました。
「ロナプリーブ」の売上剥落が最大の要因ですが、新製品「バビースモ」や主力品「ヘムライブラ」「アクテムラ」は好調に推移しました。
海外製商品売上高
海外の売上高は、前期比28.9%増の5,368億円と大幅に伸長しました。
特に、血友病A治療薬「ヘムライブラ」のロシュ向け輸出が大きく増加したことが貢献しました。
中外製薬の2024年12月期末財務状況について
2024年12月期末時点の連結財政状態(IFRS)は以下の通りです。
項目 | 2024年12月期末 | 2023年12月期末 |
---|---|---|
資産合計 | 2兆2,083億73百万円 | 1兆9,325億47百万円 |
負債合計 | 3,068億73百万円 | 3,069億67百万円 |
純資産合計 | 1兆9,014億99百万円 | 1兆6,255億80百万円 |
当社株主帰属 持分比率 | 86.1% | 84.1% |
当期末の総資産は前期末比で2,759億円増加し、2兆2,084億円となりました。
純資産も2,759億円増加し、1兆9,015億円に達しました。この結果、自己資本(当社株主帰属持分)比率は86.1%となり、前期末から2.0ポイント上昇し、極めて健全な財務基盤を維持しています。
純営業資産(NOA)は、宇都宮工場や藤枝工場への設備投資により長期純営業資産が増加したことなどから、前期末比467億円増の9,476億円となりました。
キャッシュフローの状況
2024年12月期の連結キャッシュ・フローの状況は以下の通りです。
項目 | 2024年12月期 (百万円) | 2023年12月期 (百万円) |
---|---|---|
営業活動による キャッシュ・フロー | 447,600 | 409,925 |
投資活動による キャッシュ・フロー | -227,365 | -37,290 |
財務活動による キャッシュ・フロー | -141,006 | -139,331 |
現金及び現金同等物 期末残高 | 540,202 | 458,674 |
営業活動によるキャッシュ・フローは、営業利益の増加などにより前期比377億円増の4,476億円となりました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、有価証券の取得が増加したことなどから、支出超過額が拡大しました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、主に配当金の支払いによるものです。
これらの結果、現金及び現金同等物の期末残高は前期末から815億円増加し、5,402億円となりました。
主要財務指標
指標 | 2024年12月期 | 2023年12月期 |
---|---|---|
売上収益営業利益率 | 46.3% | 39.5% |
当社株主帰属持分当期利益率 (ROE) | 22.0% | 21.3% |
総資産当期利益率 (ROA) | 18.7% | – |
ROIC | 42.9% | 34.6% |
営業利益率は前期から6.8ポイント改善し46.3%に、ROEは0.7ポイント上昇し22.0%となりました。
また、決算説明資料で重視されている投下資本利益率(ROIC)は、税引後営業利益の増加により前期から8.3ポイント上昇し、42.9%という高い水準を達成しました。
株主還元について
中外製薬は株主還元方針として、「Core EPS対比平均して45%の配当性向を目処に、安定的な配当を行うこと」を目標としています。
配当金の状況
2024年12月期の年間配当金は、好業績を反映し、1株当たり98円(中間41円、期末57円)となる予定です。
これにより、Core配当性向は40.6%となります。
さらに、2025年12月期は創業100周年を迎えることを記念し、1株当たり年間100円の普通配当に加え、150円の記念配当を実施する予定です。
これにより、2025年12月期の年間配当は合計で1株当たり250円となり、予想Core配当性向は100.0%となる見込みです。
第2四半期末 | 期末 | 年間合計 | |
---|---|---|---|
2023年12月期実績 | 40.00円 | 40.00円 | 80.00円 |
2024年12月期実績 | 41.00円 | 57.00円 | 98.00円 |
2025年12月期予想 | 125.00円 | 125.00円 | 250.00円 |
自社株買いの発表はあった?
今回の決算発表において、新たな自己株式取得(自社株買い)に関する発表はありませんでした。
なお、2024年12月期末の自己株式数は33,531,864株で、前期末の33,743,712株からわずかに減少しています。
中外製薬の今期見通しと戦略について
中外製薬の2025年12月期の連結業績は、売上収益が前期比1.7%増の1兆1,900億円、Core営業利益が同2.5%増の5,700億円と、増収増益で再び過去最高を更新する見通しです。
項目(Coreベース) | 2025年12月期予想 | 前期比増減率 |
---|---|---|
売上収益 | 1兆1,900億円 | +1.7% |
Core営業利益 | 5,700億円 | +2.5% |
Core当期利益 | 4,100億円 | +3.2% |
Core EPS | 250.00円 | +3.6% |
海外製商品売上高が引き続き成長を牽引する見込みで、ヘムライブラやアレセンサなどの伸長が期待されます。
国内では薬価改定の影響が続くものの、新製品や主力品の数量増でカバーし、微増を見込んでいます。
成長戦略「TOP I 2030」
中外製薬は、2030年に向けた成長戦略「TOP I 2030」を掲げ、「世界最高水準の創薬の実現」と「先進的事業モデルの構築」を二本柱として推進しています。
この戦略のもと、「R&Dアウトプット倍増」「自社グローバル品毎年上市」という高い目標の達成を目指しています。
戦略実現のため、「創薬」「開発」「製薬」「Value Delivery」「成長基盤」の5つの改革を掲げ、バリューチェーン全体の革新に取り組んでいます。
特に、独自の抗体技術や中分子医薬といった技術ドリブンでの創薬を追求し、アンメットメディカルニーズに応える新薬を継続的に創出する体制を強化しています。
決算内容や今期の見通しで、中外製薬の株価はどうなる?
今回の決算内容と今後の見通しには、株価にとってポジティブな要因とネガティブな要因の両方が含まれています。
株価にポジティブな影響を与える要因
- 過去最高の業績達成と予想超え
2024年12月期の売上収益、各利益が過去最高を更新し、修正予想も上回ったことは、市場から高く評価される可能性があります。 - 2025年12月期の力強い業績予想
来期も増収増益で過去最高業績を更新する見通しであり、持続的な成長性を示しています。 - 大幅な株主還元強化
創業100周年記念配当を含め、2025年の年間配当が前期の2.5倍以上となる250円に大幅増配される計画は、株主にとって大きな魅力です。 - 高い収益性と健全な財務
40%を超える高い営業利益率やROIC、86%を超える自己資本比率は、企業の収益力と安定性の高さを証明しており、投資家の安心感につながります。 - 有望な開発パイプライン
血友病治療薬「NXT007」や筋疾患治療薬「GYM329」など、将来の成長を担う大型化が期待される自社創製品が開発後期に進んでおり、中長期的な成長期待を高めます。
株価にネガティブな影響を与える要因
- 国内市場の縮小
薬価改定や後発品浸透により、国内の製商品売上高が前期比で17.4%減少した事実は、国内市場の厳しさを浮き彫りにしています。 - 開発中止プロジェクト
2024年には、頭頸部がんを対象とした「テセントリク」や固形がんを対象とした「ERY974」など、複数の開発プロジェクトが中止となっており、開発リスクも存在します。 - 円高リスク
海外売上高比率が高いため、今後の為替動向が円高に振れた場合、業績の下振れ要因となる可能性があります。
決算から分かる中外製薬の強みは?
決算から分かる中外製薬の強みは、次の3つが考えられます。
独自の創薬力と技術基盤
自社創出のグローバル品である「ヘムライブラ」や「アクテムラ」「アレセンサ」などが世界的な大型製品に成長しており、高い創薬力を証明しています。
また、抗体技術や中分子といった先進的な創薬プラットフォームへの投資を継続しており、将来のイノベーション創出に向けた強固な基盤を築いています。
ロシュとの戦略的アライアンスによる独自のビジネスモデル
親会社であるロシュとの戦略的アライアンスは、中外製薬の大きな強みです。
ロシュの豊富なパイプラインを国内で展開することで安定した収益基盤を確保しつつ、自社で創製した医薬品はロシュのグローバルな販売網を活用して世界展開を図ることができます。
これにより、自社の経営資源を革新的な創薬活動に集中できる、非常に生産性の高いビジネスモデルを確立しています。
高い収益性と強固な財務基盤
40%を超えるCore営業利益率やROICが示す高い収益性に加え、潤沢なキャッシュと86.1%という高い自己資本比率が示す強固な財務基盤も強みです。
これにより、研究開発や設備投資、オープンイノベーションといった成長投資を積極的に行うことが可能となっています。
まとめ
中外製薬の2024年12月期決算は、海外事業の力強い成長を背景に、売上・利益ともに過去最高を更新する素晴らしい内容でした。
2025年12月期も増収増益を見込んでおり、成長の勢いは続く見通しです。創業100周年を記念した大幅な増配は、株主への強力なメッセージとなるでしょう。
薬価改定など国内事業の課題は残るものの、独自の創薬力とロシュとのアライアンスを活かしたビジネスモデルを武器に、今後も「世界のヘルスケア産業におけるトップイノベーター」として持続的な成長が期待されます。
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