本記事では、三井住友フィナンシャルグループが2025年5月14日に発表した2025年3月期(2024年度)の連結決算について、概要とポイントを解説します。
国内を中心とした本業の好調さが継続し、過去最高益を更新するとともに、株主還元も強化されています。来期の見通しや戦略と合わせて、詳しく見ていきましょう。
三井住友フィナンシャルグループの2025年3月期における連結決算はどうだった?
2025年3月期の連結決算の主要項目は以下の通りです。
項目 | 2025年3月期 (百万円) | 2024年3月期 (百万円) | 前期比 |
---|---|---|---|
経常収益 | 10,174,894 | 9,353,590 | +8.8% |
経常利益 | 1,719,482 | 1,466,128 | +17.3% |
親会社株主に帰属する 当期純利益 | 1,177,996 | 962,946 | +22.3% |
包括利益(※) | 712,549 | 2,629,723 | △72.9% |
1株当たり当期純利益 | 301.55円 | 241.52円 | +60.03円 |
2025年3月期は、国内外の預貸金収益の増加に加え、資産運用・決済ファイナンスビジネスの好調、国内ホールセールビジネスの手数料収入増加などにより、連結業務純益は前期比1,591億円増益の1兆7,193億円となりました。
与信関係費用は、米国の関税政策を端緒とする景気後退リスクに備えてフォワードルッキング引当を計上したこと等から、前期比705億円増加し、3,445億円となりました。
これらに加え、株式等損益が増益となったこと等により、経常利益は前期比2,534億円増益の1兆7,195億円、親会社株主に帰属する当期純利益は前期比2,150億円増益の1兆1,780億円となり、過去最高益を更新しました。
ROE8%も前倒しで達成しています。
コンセンサス予想との比較
2025年3月期の親会社株主に帰属する当期純利益について、会社予想および市場コンセンサス予想と比較しました。
項目 | 実績 (百万円) | 会社予想 (百万円) | コンセンサス予想 (百万円) | コンセンサス予想比 (増減率) |
---|---|---|---|---|
経常利益 | 1,719,482 | – | 1,818,463 | -5.44% |
親会社株主に帰属する 当期純利益 | 1,177,996 | 1,160,000 | 1,239,809 | -4.99% |
会社予想の当期利益1,160,000百万円に対して、実績は上回りました。
コンセンサス予想の経常利益1,818,463百万円および親会社株主に帰属する当期純利益1,239,809百万円に対し、実績はいずれも下回っています。
セグメント別に業績を解説
2025年3月期のセグメント別の業績(連結業務純益)は以下の通りです。
セグメント名 | 連結業務純益 (億円) |
---|---|
ホールセール事業部門 | 7,292 |
リテール事業部門 | 2,738 |
グローバル事業部門 | 5,920 |
市場事業部門 | 4,745 |
本社管理等 | △3,502 |
合計 | 17,193 |
(注) 本社管理等には内部取引として消去すべきものが含まれます。
ホールセール事業部門
ホールセール事業部門の業務粗利益は9,313億円でした。 預貸金収益は貸出金増加と預貸金利回り差改善により大幅に増加し、コーポレートアクションの活発化により証券ビジネスも好調でした。
政策保有株式の売却益もあり、当期純利益は大幅な増益となりました。 連結業務純益は前年比+950億円の7,292億円でした。
リテール事業部門
業務粗利益は1兆3,773億円でした。 金利上昇に伴う預金収益増加と、好調な資産運用・決済ファイナンスビジネスにより業務粗利益・業務純益ともに増加しました。
過払債務の抜本的処理を除いた当期純利益は増益となり、 連結業務純益は前年比+526億円の2,738億円でした。
グローバル事業部門
業務粗利益は1兆3,449億円でした。 高採算アセットの積上げにより預貸金収益は増加しました。
インフレや規制対応コストを主因に経費率が悪化しました。
低採算アセットの売却損(財務会計上▲560億円から為替影響を除いた▲530億円をGB事業部門に賦課)やOTO/SOF連結等による与信関係費用増加がありましたが、当期純利益は貨車リース売却損剥落で増益となりました。
連結業務純益は前年比▲299億円の5,920億円でした。
市場事業部門
業務粗利益は6,366億円でした。 ボラタイルな環境の中でも、機動的なポートフォリオ運営によりリスク量をコントロールして着実にバンキング収益を蓄積しました。
S&Tビジネスも、顧客ニーズを捉えたソリューション提案でフローを捕捉しました。
連結業務純益は前年比+720億円の4,745億円でした。
三井住友フィナンシャルグループの財務状況は?
2025年3月期末の財務状況は以下の通りです。
項目 | 2025年3月31日現在 (百万円) | 2024年3月31日現在 (百万円) |
---|---|---|
総資産 | 306,282,015 | 295,236,701 |
純資産 | 14,841,509 | 14,799,967 |
自己資本 | 14,703,435 | 14,660,110 |
自己資本比率 | 4.8% | 5.0% |
1株当たり純資産 | 3,795.62円 | 3,719.12円 |
キャッシュフローの状況
2025年3月期の連結キャッシュ・フローの状況は以下の通りです。
項目 | 2025年3月期 (百万円) | 2024年3月期 (百万円) |
---|---|---|
営業活動による キャッシュ・フロー | 4,969,423 | 642,862 |
投資活動による キャッシュ・フロー | △4,512,943 | △918,904 |
財務活動による キャッシュ・フロー | △480,149 | 280,693 |
現金及び 現金同等物期末残高 | 66,187,674 | 66,380,330 |
それぞれの要因は以下の通りです。
- 営業活動によるキャッシュ・フロー
資金の運用・調達や貸出金・預金の増減等の結果、前連結会計年度比4兆3,266億円増加の4兆9,694億円となりました。 - 投資活動によるキャッシュ・フロー
有価証券の取得・売却や有形固定資産の取得・売却等の結果、同3兆5,940億円減少の△4兆5,129億円となりました。 - 財務活動によるキャッシュ・フロー
配当金の支払等の結果、同7,608億円減少の△4,801億円となりました。
これらの結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は前連結会計年度末比1,927億円減少の66兆1,877億円となりました。
主要財務指標(ROEなど)
項目 | 2025年3月期 | 2024年3月期 |
---|---|---|
自己資本当期純利益率 (ROE) | 8.0% | 7.0% |
総資産経常利益率 (ROA) | 0.6% | 0.5% |
ROEについては、当初の目標を前倒しで達成した形となります。
三井住友フィナンシャルグループの株主還元(配当・自社株買い)は?
SMFGは株主還元の充実を経営の重要課題と位置付けています。
- 配当
- 2025年3月期(2024年度)の1株当たり年間配当金は、株式分割を考慮しない場合366円00銭(中間180円00銭、期末186円00銭)です。 株式分割(2024年10月1日効力発生、1株につき3株)を考慮した場合、期末配当金は62円00銭となります。 これは予想比+2円の引き上げとなります。
- 2026年3月期(2025年度)の1株当たり年間配当金予想は、136円00銭(中間68円00銭、期末68円00銭)で、配当性向40%を目指す方針です。 これは前期比+14円の増配となります。
- 配当性向(連結)は2025年3月期で40.3%でした。
- 自己株式取得(自社株買い)
- 株主還元の充実、資本効率向上のため、機動的な自己株式の取得を行う方針です。
- 2025年5月14日開催の取締役会において、取得し得る株式の総数40,000,000株(上限)、取得価額の総額1,000億円(上限)とする自己株式の取得を決議しました。取得期間は2025年5月15日から2025年7月31日までです。
- 期中の追加実施も機動的に検討するとしています。
三井住友フィナンシャルグループの来期の見通しと戦略はどう?
三井住友フィナンシャルグループは、2026年3月期(2025年度)の連結業績予想として、親会社株主に帰属する当期純利益1兆3,000億円(前期比+10.4%)を見込んでいます。
これは、足元の環境変化や景気後退リスクを踏まえた計画であり、厳しい環境下でも前年比10%超の増益を目指すものです。
米国の関税措置を端緒とした事業環境の変化を踏まえ、経済前提を見直し、2025年度の業務純益・ボトムライン利益ともに、約1,000億円程度のマイナス影響を織り込んで目標を設定しています。
中期的な財務的成果としては、当期純利益を2028年度に10%程度、2030年ごろには11%程度のROEを伴い2兆円規模に成長させることを目指しています。
アナリスト予想との比較
IBESがまとめたアナリスト12人のコンセンサス予想では、純利益の平均値は1兆3460億円だったとのことです。
三井住友フィナンシャルグループの来期(2026年3月期)の親会社株主に帰属する当期純利益の会社予想は1兆3,000億円であり、アナリストのコンセンサス予想と比較すると約3.42%下回る水準となっています。
三井住友フィナンシャルグループの2025年3月期決算で株価はどうなる?良い点と悪い点を分析
三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)の2025年3月期決算が株価に与える影響について、投資家目線でポジティブな点とネガティブな点を分析します。
株価へのポジティブな影響
株価へのポジティブな影響として、以下の5つが考えられます。
- 過去最高益の更新と堅調な本業
親会社株主に帰属する当期純利益が前期比22.3%増の1兆1,780億円となり、過去最高益を更新しました。
国内を中心とした預貸金収益の増加、資産運用・決済ファイナンスビジネスの好調などが要因です。
本業の力強い成長は、企業の収益性と安定性を示すため、株価にはポジティブな材料となります。
- ROE(自己資本当期純利益率)の改善
ROEは8.0%と前期の7.0%から1.0ポイント改善し、目標を前倒しで達成しました。
ROEの向上は資本効率の改善を意味し、投資家からの評価を高め、株価上昇につながる可能性があります。
- 積極的な株主還元策
増配: 2025年3月期の年間配当金は株式分割考慮前で366円(予想比+2円の引き上げ)、2026年3月期は前期比+14円増配の136円(株式分割考慮後)を予想しており、配当性向40%を目指す方針です。安定的な増配は、インカムゲインを期待する投資家にとって魅力的です。
自己株式取得: 1,000億円を上限とする自己株式取得を決議し 、株主還元の充実と資本効率向上を目指しています。自己株式取得は1株当たり利益(EPS)を向上させ、株価には一般的にプラスに作用します。
- 来期(2026年3月期)の増益見通し
来期の親会社株主に帰属する当期純利益は1兆3,000億円(前期比10.4%増)と、10%を超える成長を見込んでいます。将来の成長期待は株価を押し上げる要因となります。 - 健全な財務基盤と事業ポートフォリオ
各事業セグメント、特にホールセール事業部門や市場事業部門が堅調な利益成長を示しています。また、バーゼルIII最終化基準に基づくCET1比率は10%台後半を維持しており 、財務の健全性も評価されるポイントです。
株価へのネガティブな影響
株価へのネガティブな影響として、以下の5つが考えられます。
- 与信関係費用の増加と将来リスクへの備え
与信関係費用は前期比で増加し3,445億円となりました。これは主に、米国の関税政策を端緒とする景気後退リスク等に備えたフォワードルッキングな引当(900億円)によるものです。
将来のリスクに備える動きは健全とも言えますが、短期的には利益を圧迫する要因として捉えられる可能性があります。
- 市場コンセンサスとの比較
2025年3月期の実績は、一部の市場コンセンサス予想(経常利益で約5.4%、当期純利益で約5.0%下回る)を下回りました。市場の期待値に届かなかった場合、短期的に株価が調整する可能性があります。
来期(2026年3月期)の会社計画1兆3,000億円は、一部アナリストのコンセンサス予想(IBES、1兆3460億円)を若干(約3.42%)下回っています。これも市場の期待とのギャップを生む可能性があります。 - 外部環境の不確実性と金利変動リスク
会社自身も来期見通しにおいて、米国の関税措置を端緒とする事業環境の変化や景気後退リスクを織り込んでおり 、これらの外部環境の不確実性は株価の重しとなる可能性があります。
また、金利の変動は銀行の収益に大きな影響を与えるため、今後の金融政策の動向は注視が必要です。
- グローバル事業部門の業務純益減益
グローバル事業部門の連結業務純益は、低採算アセットの売却損や経費増により前期比で減益となりました。
今後の海外事業の収益性改善が課題となる可能性があります。
- 自己資本比率の微減
連結ベースの自己資本比率(決算短信記載基準)は前期末の5.0%から4.8%へ若干低下しました。
大幅な低下ではありませんが、財務健全性を示す指標の一つとして注目されます。
総合的に見て、株価はどうなる?
三井住友フィナンシャルグループの2025年3月期決算は、過去最高益更新や積極的な株主還元など多くのポジティブな要素を含んでおり、これらは中長期的な株価形成には好影響を与えると考えられます。
一方で、与信費用の増加や一部市場コンセンサス未達、外部環境の不確実性といったネガティブな側面も存在します。
今後の株価は、これらのポジティブ・ネガティブ要因を市場がどう評価するか、そして何よりも今後の金利環境、世界経済の動向、会社が示す中期的な成長戦略の進捗によって左右されるでしょう。これらの情報を総合的に勘案し、投資判断を行う必要があります。
まとめ
三井住友フィナンシャルグループの2025年3月期決算は、本業の堅調な推移を背景に過去最高益を達成し、ROEも改善しました株主還元についても増配と機動的な自己株式取得の方針が示されており、株主重視の姿勢がうかがえます。来期は外部環境の不透明感を織り込みつつも、更なる増益を目指す計画となっており、中期的な成長戦略の進捗とともに、今後の展開が注目されます。
※本記事は、提供された資料に基づき作成されたものであり、特定の金融商品の推奨を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任において行うようにしてください。
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